社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



シンガー・ソーイング・メシーン事件(最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁)

バナー
Kindle版 職場の出産・育児関係手続ガイドブック~令和の常識~
定価:800円で好評発売中!!


にほんブログ村
続き

シンガー・ソーイング・メシーン事件(最二小判昭48.1.19民集27巻1号27頁) 

 

1.事件の概要

 

Xは、A大学英文科とB大学法科を出ており、昭和26年2月にY社に雇用され、昭和41年8月29日に雇用契約を合意解約して退職した。退職当時、XはY社の西日本総責任者という地位にあり、外国人の上司やY社の代表者Cとの応接もすべて英語で遂行する語学力を有していた。調査の結果、Y社に在職中、Xとその部下との旅費等の経費面で書類上つじつまの合わないことが多く、幾多の疑問がもたれていた。そのため、Xの退職に際して、旅費、電話設置代金等の清算を終えた後、CはXとの間で、「同日までY社に勤務したが、これに関する一切の支払いを受領した。なお、XはY社に対し、いかなる性質の請求権をも有しないことを確認する。」という趣旨の英文の念書に署名を求め、Xはこれに応じた。Y社の就業規則に基づき計算すれば、Xの退職金は408万2000円であったが、Y社は、右念書を退職金債権の放棄をする意思表示とみなして退職金を支給しなかった。そこで、Xが退職金の支払いを求めて提訴した。

2.判決の概要

 

労働者たるXが退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払いの原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。もっとも、右全額払いの原則の趣旨するところに鑑みれば、右意思表示の効力を肯定するには、それがXの自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきである。右事実関係に表れた諸事情に照らすと、右意思表示がXの自由な意思に基づくものであると認められるに足る合理的な理由が客観的に存在していたものということができる。

3.解説

 

労働者が既発生の賃金債権を放棄した場合、使用者は当該賃金を支払わなくても、賃金全額払いの原則に違反しないことを最高裁が示した判決。ただし、賃金債権の放棄は、労働者にとっては消滅させるべき自己の債務がなく、失うのみで得るところがないことから、こうした労働者の意思の存在については自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないとされた。

労働基準法第4条  

  1. 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

 

【送料無料】 労働判例百選 第9版 別冊ジュリスト / 村中孝史 【ムック】

価格:2,592円
(2019/5/29 21:53時点)
感想(0件)