社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】龍神タクシー事件(大阪高判平成3.1.16労判581号36頁)

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龍神タクシー事件(大阪高判平成3.1.16労判581号36頁)

 

参照法条 : 労働基準法2章、労働基準法21条
裁判年月日 : 1991年1月16日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成2年 (ウ) 822 
裁判結果 : 認可 

 

1.事件の概要

 

Xは、平成元年1月22日、タクシー会社であるY社に臨時運転手として雇用され、タクシー運転手として勤務していた。Y社とXが締結した雇用契約書には、契約期間を平成元年1月22日から平成2年1月21日までとする旨の記載がある。Y社は、契約期間が満了する平成2年1月20日、Xに対し、解雇予告手当を支払うことにより、同日をもって解雇する旨の意思表示をした。
そこで、Xは従業員としての地位保全等の仮処分を申請したところ、第一審は雇用期間の満了を理由にこれを却下したが、第二審決定ではこれを容認した。これに対する意義事件判決でも第二審決定を維持したので、これに対してした抗告審の判決が本判決である。

2.判決の概要

 

臨時雇用運転手の雇用期間については、雇用契約上は1年間の期間が定められているものの、昭和54年の臨時運転手制度の導入以降、自己都合による退職者を除いては、例外なく雇用契約が更新(再雇用)されてきており、Y社において契約の更新を拒絶した事例はない。また、Y社は、臨時雇用運転手制度の導入以降においては、本雇用運転手に欠員が生じたときは、臨時雇用運転手で希望する者の中から適宜(50歳未満の者で、勤務成績が良好な者等)、本雇用運転手に登用してこれを補充してきており、昭和54年の制度の導入後において、直接、本雇用運転手としてY社に雇用された運転手はない。
Y社における臨時雇用運転手にかかる雇用契約の実態に関する諸般の事情に照らせば、その雇用期間についての実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものであって、Xにおいて、契約期間満了後もY社が雇用を継続するものと期待することに合理性を是認することができるものというべきであり、このような本件雇用契約の実態に鑑みれば、契約の更新を拒絶することが相当と認められるような特段の事情が存しないかぎり、Y社において、期間満了を理由として本件雇用契約の更新を拒絶することは、信義則に照らし許されないものと解するのが相当である。
そこで、本件更新拒絶の効力について判断するに、本件雇用契約の更新を拒絶することが相当と認められるほどY社において経営不振に陥り、人員削減の必要に迫られていたものと一応認めるには足りない。また、本件雇用契約の更新を拒絶することが相当と認められるほどXの勤務成績が不良であったと一応認めることはできない。その他、本件において、Y社において従前の取扱いを変更して本件雇用契約の更新を拒絶することが相当と認められるような特段の事情を一応認めるに足りる疎明はない。したがって、Xは、本件雇用契約の更新を受け、その結果、従前と同一の条件により、平成3年1月20日までの間、Y社の臨時雇用運転手の地位にあるべきということができる。

3.解説

 有期契約が期間の定めのない契約と実質的に同視できない場合でも,作業内容・更新回数などから雇用継続が期待されていた場合には,解雇権濫用法理の類推があり得ることが日立メディコ事件(最一小判昭和61.12.4労判486号6頁) の最高裁判決で示されたが、このような期待は更新の回数で決まるわけではなく、1回も更新されていないのに、雇用継続の期待を認めた判例
Y社おいて、臨時雇用運転手が例外なく再雇用されていること、臨時雇用運転手制度の導入以降において本雇用運転手を直接採用した実績がないこと等から、臨時雇用の実態は期間の定めのない雇用契約に類似しており、Xが雇用継続を期待することの合理性が認められた。

 

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