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【同一労働同一賃金】リクルートスタッフィング事件(労経速2451号第5頁)

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同一労働同一賃金リクルートスタッフィング事件(労経速2451号第5頁)

1.事件の概要

人材派遣事業を業とするY社において、派遣スタッフ、アウトソーシング事業の受託業務スタッフ(OSスタッフ)等として平成15年6月に登録を行った✕は、派遣業務又はアウトソーシングの受託業務に従事する都度、Y社との間で同16年6月から同29年6月までの間、断続的に、期間の定めのある契約を締結し、派遣先又は委託先事業所等において業務に従事していた。
Y社では、雇用形態等の相違によって有期・無期それぞれ8つの職種区分があり、職種ごとに異なる就業規則、給与規程等が定められていた。
無期は全職種に通勤手当が支給され、有期のうち配転命令の対象となる6職種にも通勤手当が支給されていたが、✕が締結していた契約形態である派遣・OSスタッフ職には一部を除き、原則として通勤手当が支給されていなかった。
✕は、無期労働契約を締結している従業員と有期労働契約を締結している従業員の間※には、通勤手当支給の有無という労働条件の相違が存在し、同相違は、労働契約法20条に反し違反であり、同相違に基づく通勤手当の不支が不法行為に該当するとして、上記相違に係る通勤手当相当額等の支払いと求めて、✕がY社を提訴したのが本件である。

※本件、派遣先の従業員と派遣社員との間ではなく、派遣元の通常の従業員と派遣社員との間の労働条件の相違が問題となっています。この関係においても、労働契約法20条(現パート有期雇用労働法8条)の適用はあるのでしょうか?そもそも、派遣労働者も同法の適用はあるのでしょうか?

2.判決の概要

争点1 本件相違に関し労働契約法20条が適用されるか否か

ア 労働契約法20条の意義及び趣旨
労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨定めている。同条は、有期契約労働者については、無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。そして、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される(最高裁平成28年(受)第2099号、第2100号同30年6月1日判決・民集72巻2号88頁参照)。

イ 派遣労働者の保護に関する規定
派遣労働者は、派遣元事業主と締結した労働契約に基づき、派遣先において指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事する者であり、労働契約を締結した使用者の指揮命令の下、同使用者のために労務提供を行う雇用形態とは異なる特徴がある。
しかるところ、派遣労働者の保護等を図り派遣労働者の雇用の安定その他の福祉の増進に資することを目的とする労働者派遣法は、派遣先労働者との均衡待遇を図る諸規定(例えば、派遣元に対して、派遣先労働者との均衡を考慮しつつ賃金を決定する配慮義務を定める改正前の同法30条の3第1項や派遣先に対して、派遣元の求めに応じ、派遣労働者が従事する業務と同種業務に従事する直接雇用の労働者の賃金水準に関する情報提供等の措置を講じるべき配慮義務を定める同法40条5項)を置く一方、派遣元の直接雇用労働者との待遇の均衡については、改正後においても、派遣元の労働組合等との労使協定について定める同法30条の4第1項4号を置くにとどまる(なお、改正後の同法30条の4第1項は、派遣労働者通勤手当を含む待遇について、派遣元の従業員で構成する労働組合等との書面による協定により規律する場合の規定であるが、同項2号イに関する同法施行規則25条の9は、派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者を比較対象としている。)。
また、労働者待遇確保法は、派遣労働者について、派遣先に雇用される労働者との間においてその業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図るための措置を講ずることを規定しており、派遣元の直接雇用労働者との均衡待遇についての規定を置いていない。
さらに、労働者待遇確保法に関する附帯決議において、派遣労働者の待遇については、派遣先に雇用される労働者との均等ないし均衡待遇を図ることとしており、労働者派遣法の一部を改正する法律案に関する附帯決議においても派遣先との派遣料金の交渉が派遣労働者の待遇改善にとって極めて重要とされていること などを踏まえると、派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は、派遣先の労働者との均衡等を考慮した待遇について規律する労働者派遣法による不合理な待遇ないし格差の是正が中心となると解される。

ウ 労働契約法20条が適用されること
しかしながら、労働契約法20条は、不合理な労働条件の相違を規律しようとする対象につき、「有期労働契約を締結している労働者」と定めるのみで、それ以外に文言上なんら限定していない。
上記アで述べたとおり、同条の趣旨は、有期契約労働者については、無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであるところ、その趣旨は、有期の派遣労働契約についても当てはまると解される。このことは、①有期労働契約の在り方について検討した労働政策審議会労働条件分科会の報告や労働契約法の改正議案の国会審議における担当大臣の発言あるいは労働者待遇確保法案の審議における修正案提出者の回答において、検討すべき有期労働契約の類型ないし是正されるべき「通常の労働者以外の労働者」に派遣労働が含まれているとしていること、②労働者待遇確保法において、雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在する等の状況を是正するため、施策に関して基本理念を定めるなどとされており、派遣労働にも妥当すると解されること、③労働者待遇確保法案の審議において政府参考人厚生労働省の担当者)が、派遣元事業主の通常の労働者と有期雇用の派遣労働者との通勤手当の支給に関する労働条件の相違について労働契約法20条による規律を想定している回答をしていることやその後の厚生労働省から発出された通知からもうかがえる。
加えて、派遣労働者について同法21条(船員関係)や22条(公務員・同居親族関係)のような特例や適用除外を定める規定も存在しない。
そうすると、派遣労働者について、不合理な待遇ないし格差の是正は、労働者派遣法に定める規律が中心となるとしても、そのことにより、派遣労働者の待遇格差の是正がおよそ労働契約法20条のらち外となるものではなく、派遣労働者と派遣元との関係についても労働契約法20条の規律を及ぼし、派遣労働の特殊性を含めて労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、当該事案における労働条件等の相違について、不合理と認められるものか否を判断することが相当と解される。

エ 小括
よって、有期派遣労働契約は、労働契約法20条の定める有期労働契約に含まれると解され、本件相違に関し労働契約法20条が適用される。

争点 2(本件通勤手当の性質及び趣旨・目的)について

ア Y社においては、派遣スタッフ及びOSスタッフについては、個別の契約で定めた場合を除き、通勤手当が支給されないが、その他の有期労働契約者及び全ての無期労働契約者に通勤手当が支給されている。
そして、上記通勤手当は、Y社の就業規則(ただし、部門別契約社員については個別の労働契約)において、「通勤手当」との名称で定められており、職種により上限額の設定があるものの、原則として実費を全額支給されていることに照らすと、直接的には、通勤に要する費用を補填する性質の手当として設けられたものであることは明らかというべきである。
イ この点につき、Y社は、本件通勤手当を含む通勤手当は、配転命令の対象となることによる想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、派遣スタッフやOSスタッフが気に入らない仕事は断っている状況を目の当たりにする内勤社員が、就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするという趣旨・目的の下で支給しているものであり、配転命令権の対象であることが支給要件である旨主張する。
他方、Xは、本件通勤手当の名称、支給要件、支給範囲及び労働者への説明からすれば、本件通勤手当の趣旨は、「通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるもの」に過ぎない旨主張するので更に検討する。
Y社においては、派遣スタッフ及びOSスタッフについては、個別の契約で定めた場合を除き、通勤手当が支給されないが、その他の有期労働契約者及び全ての無期労働契約者に通勤手当が支給されているところ、かかる事実に徴すると、Y社では実際に配転命令が行われる可能性のある職種区分の社員に通勤手当を支給している実情があると認められる。
他方、Y社は、平成元年頃までは、登録型派遣労働者(派遣スタッフ)に対して基本給(時給)とは別に通勤手当を支給しており、その後、新時給制度を運用するようになってからは、時給テーブル表等を作成して基本給(時給)に組み込むようになり、さらには、より高額の時給額を設定しなければスタッフが集まらなくなったため、時給テーブル表等の資料は徐々に活用されなくなくなった経緯があるところ、その後も求人に困難を来すもの等について派遣スタッフ及びOSスタッフについても個別の派遣労働契約により通勤交通費が時給とは別に支給されることがある。
しかるところ、Y社内部の検討資料によれば、Y社は、有期労働契約を期間の定めのない労働契約に転換することを定める労働契約法18条が平成25年4月1日に施行されることに伴い、派遣スタッフ等の有期派遣労働契約者が無期労働契約者(無期転換スタッフ)となった場合の労働条件を設定する際、無期転換後は通勤交通費を通勤手当として実費支給することとし、有期労働契約における時間給から平均的な通勤交通費程度の額を控除した額を基本給(基本時間給+職務手当)として設定していることが認められる。
以上によれば、Y社では、平成元年当時、通勤手当と配転命令は必ずしも直接関連づけられたものではなかったものの、その後、新時給制度が採用されて以降、通勤手当について、実際に配転命令が行われる可能性のある職種区分の社員に通勤手当を支給するとの整理がY社においてされるようになっていったこと並びに派遣スタッフ及びOSスタッフについては、配転命令とは別に募集の観点等から時給とは別に通勤交通費が支給されることがあるものと認められる。
ウ そうすると、Y社における通勤手当ないし交通費の支給は、①配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするという趣旨②配転命令を受けない職員に対しては、魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨を有するものと解される。
※本件の通勤手当の支給の趣旨が、
①配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にする
②配転命令を受けない職員に対しては、魅力的な労働条件として求人を可能とする等
とされ、ハマキョウレックス事件のように、単に「通勤に要する交通費を補填する趣旨」とは異なる趣旨と認定されています。

争点3 本件相違が期間の定めがあることによるものか否か

ア 労働契約法20条「期間の定めがあることにより」の判断枠組み労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提とするものであるところ、両者の労働条件が相違しているというだけで同条を適用することはできないが、期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができることに徴すると、同条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(前掲最高裁平成30年6月1日判決参照)。

イ 本件相違についての検討
前記認定のとおり、Y社においては、無期労働契約社員のみならず派遣スタッフ等を除く有期労働契約社員(KS職社員、KA職社員、SV職社員、PM職社員、部門契約社員(B)、EV職社員)について、いずれも配転命令の対象となることから、通勤手当が支給されている。
他方、派遣スタッフ等については、Y社との労働契約関係上、個別の労働契約により就業場所等が特定されているため、Y社において配転を命ずることができないことから、原則として、交通費ないし通勤手当の支給はされないこととされており、例外的に販売促進業務や通勤先が遠方となる業務等、就業するJOBの業態や就業場所によって派遣労働者の求人に困難を来すJOBについて、他のJOBに比べて魅力的な労働条件に映るようにする等の理由から、時給とは別に通勤交通費の支給がされることがある。
しかるところ、派遣スタッフ等は、Y社の従業員の94%を占めており、いずれも就業規則通勤手当の定めがなく、個別の契約でも基本的に通勤交通費の支給はなく、例外的に求人に困難を来すJOBについて、魅力的な労働条件に映るようにする等の理由から、時給とは別に通勤交通費の支給がされることがあるに過ぎない一方、無期労働契約社員については、いずれも就業規則において通勤手当を支給する旨が定められ、全員に通勤手当が支給されている。以上の事情を総合勘案すると、本件相違は、
主として、①配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするという趣旨及び②配転命令を受けない職員に対しては、魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨に由来する相違により生じているものと解されるものの、依然、期間の定めによる相違の要素があることも否定できないところである。
そして、労働契約法20条の趣旨が有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止することにあること及び労働条件が相違していることと期間の定めの有無の関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りることを踏まえると、本件相違について、期間の定めの有無に関連して生じたものとして検討することが相当と解される。

ウ 小括
そうすると、本件相違は、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるいうべきである。
通勤手当の支給の有無が、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に該当するとされたことにより、以下でその差異が不合理なものでないかが検討されます。

争点4 本件相違が不合理と認められるものか否かについて

ア 労働契約法20条所定の不合理性について
労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないとし、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解されるところ、両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難いところである。
したがって、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。 (以上、前掲最高裁平成30年6月1日判決参照

イ 本件通勤手当の趣旨ないし目的について
争点2において認定説示したとおり、Y社における通勤手当ないし通勤交通費の支給は、①配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にする(インセンティブ施策すなわち経営判断)という趣旨と②配転命令を受けない派遣スタッフ等については、魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨を有するものと解される。

ウ 職務の内容について
(ア)派遣スタッフ等は、自らが選択したJOBを前提としたY社との派遣労働契約に基づき、派遣先の特定の就労場所において、その指揮命令に従って、特定の業務にのみ従事するものであり、指揮命令をする派遣先や雇い主である派遣元(Y社)の意向により左右されものではない。
また、OSスタッフも、自らが選択した受託業務を前提に、Y社との雇用契約に基づき、Y社が受託した委託元の特定の就労場所において、特定の業務にのみ従事するものであり、雇い主である派遣元(Y社)の意向により左右されものではない。
しかるところ、✕は、①平成27年8月17日から同年9月30日まで、派遣先である一般財団法人Hにおいて、製品素材の検査業務に、②同年12月25日から平成28年1月5日まで、派遣先である株式会社Nにおいて、家電の販売・接客、家電の陳列、家電の搬出等の販売関連業務(関係し付随する業務を含む。)に、③同年2月1日から同年4月10日まで、派遣先である株式会社Rにおいて、電話により顧客に対してサービスの契約申込やサービスの相談、商品の説明等を行うテレマーケティング関係業務(関 係し付随する業務を含む。)に、④同年4月11日から平成29年6月30日まで、派遣先であるU株式会社において、設備の保守・メンテナンス、在庫の管理業務等のサービス関係業務(関係し付随する業務を含む。)に、各従事した。
また、✕は、平成26年9月1日から平成27年5月31日までOSスタッフとして、委託事業者である株式会社Dにおいて、eo光サービスの加入促進活動・契約獲得業務(チラシのポスティング)の業務に従事していたものである。
(イ)他方、✕が比較対象として例示するR職社員は、職種・勤務地限定なしの無期労働契約を締結した社員であり、その業務内容は、営業業務(具体的な営業計画を立て、顧客獲得活動、派遣契約の締結、就業開始から就業終了にかけての派遣労働者の支援)、JC業務、スタッフ職業務(内勤事務職、各部署において、企画立案・経営判断に必要な情報の取りまとめを行う。)であり、労働者派遣事業者たるY社の根幹業務というべきものであった。
そして、R職社員は、「許可なく会社以外の業務に従事しないこと、または、その他の労務に服しないこと」として、兼業は許可制とされている。
(ウ)以上によれば、派遣スタッフ等としての✕とR職社員の職務の内容は大きく異なるものであり、特に、業務内容について共通するところはなかったということができる。なお、別の無期労働契約社員であるCWスタッフは、派遣就業をするものであるが、事務派遣スタッフとしてのキャリア形成を目的とし、Y社においてビジネススキル等の教育研修を施した上で、一般企業に事務派遣スタッフとして派遣して就業経験を積み、事務キャリアを形成していく職種であり、派遣スタッフ等としての✕とは職務の内容が異なるものである。また、その他の無期労働契約社員(EO職社員、SR職社員、RJ職社員、EX職社員、P-EX職社員)も、その職種区分の内容・性質に照らし、派遣スタッフ等としての✕とは職務の内容が大きく異なるものといえる。

エ 職務の内容及び配置の変更の範囲について
(ア)派遣スタッフ及びOSスタッフは、派遣労働契約又は雇用契約に基づき、各契約で定められた期間、特定されたJOB又は受託業務にのみ従事するものであり、Y社による配転命令の対象となることも予定されていない。
(イ)他方、✕が比較対象として例示するR職社員は、業務には限定がないため、配転の範囲も全国に及び、将来の幹部候補生として、定期的に職種変更があり、Y社の基幹業務に幅広く従事し、これに伴い、Y社から全国範囲で配転を命じられるものである。
また、具体的な業務を遂行するに際しては、Y社の広範な裁量の下、所属する部署の業務のみならず、必要に応じ、臨機応変に多種多様な業務を遂行することになるほか、派遣労働者のように労務提供に際して指揮命令をする者が限定されていないため、権限を有する者からの指示があれば、それに従って広く労務を提供することになる。
(ウ)以上によれば、派遣スタッフ等としての✕とR職社員の職務の内容及び配置の変更の範囲は、大きく異なるものであったというべきである。
なお、その他の無期労働契約社員についても、異動対象地域の広狭はあるものの、配転命令の対象となるため、突然、その意に反して異動を命ぜられ、異動先の指揮命令を受けて就労することになり得ることから、派遣スタッフ等としての✕とは職務の内容及び配置の変更の範囲が大きく異なるものといい得る。

オ その他の事情について
(ア)派遣労働は、雇用関係にある派遣元事業主と指揮命令関係にある派遣先が存するという特殊性があり、派遣労働者の労働条件は派遣元と派遣先との間で締結される派遣契約や労働市場の影響を受けるものである。
また、OSスタッフの賃金についても、Y社が委託者と締結する業務委託契約で定められる委託料を踏まえて決定される構造にあり、派遣スタッフと同様の状況にある。加えて、派遣スタッフ等の労働条件は、JOBごとに提示された個別的かつ詳細な労働条件を内容として規定されていくものであるのに対し、R職社員の労働条件は、就業規則所定のものに定められており、その余の職員についても配転命令の対象となるなど労働条件は広範な変化を予定しているものである点で、派遣スタッフ等と異なっている。そして、派遣労働者の労働条件ないし待遇に関する格差の是正ないし規制は、派遣先の労働者との均衡等を考慮した待遇について規律する労働者派遣法による不合理な待遇ないし格差の是正が中心となると解されるところ、本件において派遣先に雇用される労働者の労働条件ないし待遇についての相違は何ら問題とされていない。
(イ)労働者待遇確保法2条は、労働者がその雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにすること(2条1号)、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにすること(2条2号)、労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにすること(2条3号)を旨として施策が行われるべき旨を定めている。
しかるところ、Y社において、派遣スタッフ等になろうとする登録者は、自己の希望する条件(職種、就業可能日数、勤務時間、交通費、希望する職場環境[規模、喫煙又は完全分煙等、オフィススタイル]等の働き方)を特定して登録した後、Y社により提案ないし提示されるJOBの中から、自らの希望に従い、通勤交通費の支給はないが高額の時給単価のJOBを選ぶことも、多少時給単価が低めでも通勤交通費の支給があるJOBを選ぶことも可能であるところ、✕についてもJOB等を選択する際、自身の経験・能力を生かせる仕事であるか、安定した仕事であるかに加え、待遇面に関して、1日の時給合計額から往復の交通費を差し引いた金額を勤務時間数で除した時間給がいくらであるかという点を重視して、当該JOB等に従事して就労するか否かを決めていたのであるから、当該JOBごとの労働条件を吟味した上で就労するか否かを決定していたといい得る(なお、本件当時、Y社から派遣スタッフ等に対し、通勤交通費の支給はなく、自己負担であることが明確に説明されていたことも踏まえると、✕は、選択した各JOB及び受託業務には通勤交通費の支給がなく、通勤に要した費用は、支給される時給の中からの自己負担となることについて、就労する前提として承知した上で就労する業務を選択していたということができる。)。
また、Y社では、派遣スタッフ等以外の従業員の多くは、許可なく兼業することを禁じられているのに対し、派遣スタッフ等について、兼業に関する制約はなく、派遣スタッフ及びOSスタッフとして登録し、更には派遣労働契約や受託業務に就く旨の契約を締結した場合であっても、当該労働者は、並行して他の派遣会社に登録したり、その紹介等を受けて就労すること、あるいは全く関係なく別の会社で同時並行的に就労することは禁じられていない。
しかるところ、✕は、Y社においてOSスタッフとして就労中、Dにおいて、個人客を対象としたインターネット回線のプランに関するチラシのポスティング業務に従事したり、Dでの就労期間中、限りなく無期に近い労働契約に基づき他社のスーパーマーケットで就労して、兼業していた(他方、R職社員は、Y社の許可なく兼業することはできず、また、Y社の配転命令に応じて多種多様な業務を遂行することになる。)。
そうすると、✕について、労働者待遇確保法の定める自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられており、主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じて就労していたと評価することが可能である(なお、同法は、派遣先に雇用される労働者との間において職務の内容等に応じた均等な待遇及び均衡のとれた待遇の実現を図るべく、所要の措置を講ずる旨を定めているところ、上述したとおり、本件においては、派遣先の労働者の待遇との関係では何らの不合理性も問題にされていない。)。
(ウ)✕が派遣スタッフないしOSスタッフとして従事した各JOB及び受託業務における時給額、✕が要した通勤交通費及びアルバイト・パートの平均時給額は、別紙6の表1及び2とおりであったと認められるところ、これらの比較によれば、✕が得ていた時給額はアルバイト・パートの平均時給額よりも相当程度高額であり、その差額は、各JOBにおいては✕が通勤に要した交通費を支弁するのに不足はないものであり、また、受託業務においても100円程度上回っており、✕が通勤に要した交通費の相当部分を補うのに足りるものであったと認められる。また、派遣スタッフ等の時給は、無期転換スタッフの時給・通勤手当、調整手当と同程度である。
そうすると、✕が得ていた時給額は、一般的にみて、その中から通勤に要した交通費を自己負担することが不合理とまではいえない金額であったということができる。
(エ)また、派遣労働者の賃金について、通勤手当を含めて総額制にし、別途通勤手当を支給しないこと自体を禁ずる法律は存しない。
そして、平成24年頃の派遣労働者通勤手当支給率は、45.5%であったところ、労働者待遇確保法(なお、同法はいわゆる理念法である。)の法案審議においてかかる状況を問題とする趣旨ではあるものの、「派遣において交通費を支給しないことは違法ではないかもしれないんですが、」として、派遣労働者に交通費を支給されるべき旨の質問がされ、政府参考人が労働契約法20条で規律される旨回答したこと等を総合勘案すると、当時、派遣労働者通勤手当を支給しないことが一般的に違法であるとの取扱いがされていたとはいえない。

カ 小括
以上の認定ないし説示にかかるY社の無期労働契約社員と有期労働契約社員である✕についての業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を踏まえると、本件相違は、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできない。
以上のほか、本件相違について、本件当時、✕に通勤手当が支払われないことにつき、当否は別として、民法709条の損害賠償請求を基礎づける程の違法性があったことを基礎づけるような事情もない。

キ ✕の主張について
(ア)✕は、自ら労働契約を締結したことを理由に労働契約法20条が適用されないこととなるのであれば、およそ同条が適用される場面は生じないこととなる旨主張するが、労働契約を締結するか否かを決することと労働契約を締結する際に通勤交通費込みの契約と込みでない契約を選択することは別であって、✕の上記主張は両者を混同するものであり、採用できない。
そして、労働契約を締結する際に通勤交通費込みの契約と込みでない契約を選択した(選択の機会が与えられていた場合を含む。)か否かをその他の事情として不合理性を判断し、あるいは民法709条の違法性の判断をする際に考慮要素とすることは相当と解される。
よって、✕の上記主張は、本件当時、✕に通勤手当が支払われないことにつき、損害賠償請求を基礎づける程の違法性があったと解することはできない旨の判断を左右するものではない。
(イ)✕は、ほとんどY社からの紹介により就労していたのであり、✕が自ら選択したという事実もないと主張するが、✕は、Y社において派遣スタッフ等として登録し、更には派遣労働契約を締結しつつ、並行して他の派遣会社に登録し、あるいは別の会社で就労していたことがあるほか、Y社との関係においてもメールやマイページで示されるJOBやY社が提案するJOBの中から、自らの希望に従い、通勤交通費の支給はないが高額の時給単価のJOBを選ぶことも、多少時給単価が低めでも通勤交通費の支給があるJOBを選ぶことも可能であったのであり、主として、Y社のコーディネーターから電話でJOB等の提案を受けたり、Y社からのメールでJOB等の提案を受けて、就労するJOB等を選択していたとしても、その際には、自身の経験・能力を生かせる仕事であるか、安定した仕事であるかに加え、待遇面に関して、1日の時給合計額から往復の交通費を差し引いた金額を勤務時間数で除した時間給がいくらであるかという点を重視して、当該JOB等に従事して就労するか否かを決めていたのであるから、✕が自ら選択したという事実がないといえないことは明らかである。
よって、✕の上記主張も採用できない。
(ウ)✕は、前掲最高裁平成30年6月1日判決が、「労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。加えて、通勤手当に差異を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない」
と判断していることを挙げた上、この点は、有期派遣労働者であっても何ら変わるところはないと主張する。
しかし、上記最高裁判決は、直接雇用労働者の労働条件の相違に関するものであり、間接雇用とされる派遣労働者に関する本件とは事案を異にするものである。上述したとおり、派遣労働に関して労働契約法20条の適用があると解されるものの、有期雇用労働者の労働条件について不合理性の判断については、上述した派遣労働の特殊性等を踏まえて、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を検討すべきであり、本件相違は、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできない。よって、✕の上記主張も採用できない。

3.解説

本件、派遣先の従業員と派遣社員との間ではなく、派遣元の通常の従業員と派遣社員との間の労働条件の相違が問題となっており、非常に珍しい事例です。
旧労働契約法20条が、そもそも有期の派遣社員にも適用があるのか、また派遣元の通常の従業員と有期の派遣社員との間の労働条件の相違有期の派遣社員にも適用があるのか、判断が難しいところですが、本判例は、同条が「有期労働契約を締結している労働者」と定めるのみで、それ以外に文言上なんら限定してことや立法時の経緯等により、認めています。
そして、問題となっている通勤手当の相違が、労働契約期間の定めに基づく差異であることが否定できないとして、その不合理性が検討されました。
しかし、本件においては、通勤手当の趣旨が、①配転命令の対象となる職員については、想定外の負担やライフスタイルへの影響のリスクに配慮するとともに、社員が就業場所の変更を伴う配転命令に対して不満を抱くことなく機動的経営を可能にするもの、②配転命令を受けない職員に対しては、魅力的な労働条件として求人を可能とする等の趣旨に由来する相違により生じているもの、と解されたこと、✕が例示していた無期のR職社員と職務内容に共通するところがなかったこと、✕は業務が限定され(派遣社員なら当たり前)、配転命令を予定していなかったのに対して、無期のR職社員は業務の限定がなく、配転命令が予定されていたこと、✕は兼業に制約がなかったのに対して、無期のR職社員は許可性であったこと、✕が得ていた時給額がアルバイト・パートの平均時給額よりも相当高額であり、通勤に要した交通費を自己負担することが不合理とまでは言えない金額であったこと等により、不合理な差異とはされませんでした。