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【同一労働同一賃金】日本郵便(大阪)事件(大阪高判平31.1.24労判1197号5頁)

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日本郵便(大阪)事件(大阪高判平31.1.24労判1197号5頁)

本件については、2020年10月15日に最高裁判所で判決が出されています。
詳細は、こちらをご確認ください。
日本郵便(大阪)事件(最判小一令2.10.15引用元裁判所HP)


審判:二審
裁判所名:大阪高等裁判所
事件番号:平成30年(ネ)729号
裁判年月日:平成31年1月24日
裁判区分:判決

1.事件の概要

Xら8名は、郵便事業を営むY社で時給制契約社員として(ただし、1名は後に月給制契約社員に変更)、郵便局で郵便配達等の業務に従事していた。XらとY社とは、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という)を締結していたが、Xらは、Y社との間で期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という)を締結している従業員(以下「正社員」という)との間で、①外務業務手当、②郵便外務業務精通手当、③年末年始勤務手当、④早出勤務等手当、⑤祝日給、⑥夏期手当及び年末手当(以下「夏期年末手当」という)、⑦住居手当、⑧扶養手当、⑨夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という)、⑩病気休暇の各労働条件(以下、これらを「本件各労働条件」といい、①ないし⑧を「本件手当」という。)に相違があることは労働契約法20条に違反している、また、同法施行前は同一労働同一賃金の原則に反するもので公序良俗に反すると主張して、正社員との差額の賃金の支払等を求めて提訴した。
第一審は、①②④~⑥に関する不合理はないが、③⑦⑧に関する相違を労働契約法20条違反と判断し、Xらの請求を一部認容した。これを不服として、Xらが控訴したのが本件である。
なお、Y社は、正社員につき、平成26年3月末までは総合職・一般職という採用区分を設けていたが、平成26年4月以降、総合職(新総合職)、地域基幹職、一般職(新一般職)に区分するコース制を導入し、このうち新一般職は、窓口業務、郵便内務・外務等の業務に従事し、役職層への登用はなく、原則として転居を伴う転勤がない。

2.判例の要旨

① 労働契約法20条違反の有無に係る判断枠組み

(1)労契法20条は、有期労働契約を締結している労働者(有期契約労働者)の労働契約の内容である労働条件が、「期間の定めがあることにより」同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者(無期契約労働者)の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、

  • ア 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)
  • イ 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
  • ウ その他の事情

を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。
同条は、有期契約労働者の公正な処遇を図る趣旨の規定であるが、規定の文言から明らかなとおり、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があることを前提としているのであり(すなわち、同一労働同一賃金を前提とするものではない。)、使用者に対し、それぞれの労働者の職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇をするよう要求する規定と解される。

(2) 労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当であるところ、Y社における本件契約社員と正社員の本件各労働条件について、同条にいう期間の定めがあることにより相違が認められることは、当事者間に争いがない。

(3) 労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮することとなる事情として、「その他の事情」を挙げているところ、労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではないこと、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務の内容の違い、職務の内容や配置の変更の範囲の広狭にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものであること、また、労働者の賃金に関する労働条件については、団体交渉等による私的自治に委ねられるべき部分が大きいことなどからすれば、同条にいう「その他の事情」は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではないものというべきである。

(4) また、労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合、個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとに、その趣旨を異にするものということができ、さらに、有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、当該賃金項目の趣旨により、その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であり、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定されている場合もあり得るが、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなると解される。(以上(1)ないし(4)について、ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)及び長澤運輸事件(最二小判平30.6.1労判1179号34頁)参照)

② Xらと正社員との職務内容等の相違

(1)Xらと比較対照すべき正社員について
Y社は、正社員につき、新人事制度においては、地域基幹職と新一般職を含めた正社員全体を比較対象者とすべき旨主張する。しかしながら、総合職や地域基幹職は、担当業務や異動等の範囲の点で明らかにXらと異なっている。また、確かに、新一般職は、本人が希望すれば一定の条件の下に地域基幹職へのコース転換が行われ得るし、実際にも、コース転換者はいるものであるが、Y社において上記採用区分又はコースによって職務の内容及び配置の変更の範囲が決定されており、原則として上記区分が変更されない点を重視すべきである。
したがって、地域基幹職と新一般職を含めた正社員全体を比較対象者とすべき旨のY社の主張は採用できない。

(2) 本件契約社員と本件比較対象正社員との職務内容等の相違
(ア) 正社員は、就業規則において、業務上の都合又は緊急的な業務応援により、人事異動等を命じられることがあるとされている。そして、旧人事制度における旧一般職は、役職者及び管理者に登用される可能性や、支社又は監査室等において事務職や企画職に従事する可能性もあるものとして支社ごとに採用された者であり、支社エリア内での郵便局間異動や支社、監査室等への異動、異動に伴う職務内容の変更や同一郵便局内での職務内容の変更、役職者や管理者への登用に伴う職務内容の変更等の可能性があり、その範囲に制限は設けられていなかった。実際にも、平成22年度から同27年度までの間において、全国で延べ約5万人が郵便局を異にする異動をしていた。
また、新人事制度における新一般職(郵便コース)は、原則として職務の内容が郵便局における郵便外務業務等であり、転居を伴う異動はなく、役職者や管理者にも登用されないが、転居を伴わない範囲での郵便局間異動が命じられる可能性はあり、実際にも異動が行われた例があった。さらに、本人が希望すれば一定の条件の下で新一般職(郵便コース)から地域基幹職(郵便・郵便営業コース)へのコース転換が可能であり、実際にも、平成30年4月のコース転換についてみると、新一般職(郵便コース)で地域基幹職への転換の要件を満たす者1117名のうち、1028名(約92%)がコース転換に応募し、518名(応募者の5割以上)が地域基幹職(郵便・郵便営業コース)へコース転換している。
そして、コース転換することにより、会社が指定する地域内での異動が命じられる可能性があるほか、役職者や管理者への登用、これらに伴う職務の内容の変更等の可能性もある。
(イ) これに対し、本件契約社員については、勤務地及び職務内容がいずれも限定されて採用されており、正社員のような人事異動等は行われない。仮に別の郵便局で勤務する場合には、本人との合意により、従前の郵便局における雇用契約を一旦終了させた上で、新規に別の郵便局における勤務に関して雇用契約を締結し直している。
(ウ) したがって、本件比較対象正社員と本件契約社員との間には、程度の差はあるものの、当該職務の内容及び配置の変更の範囲について相違が存在すると認められる。
また、雇用及び人事に関する経営判断から、正社員について長期雇用を前提とした有為な人材確保、会社に貢献することに対するインセンティブ付与の側面があることは否定できない。

③争点1 Xら主張に係る本件労働条件の相違が、労働契約法20条に違反するか否か(同相違に係る不合理性の有無)について

(1)はじめに
上記②で認定説示したとおり、本件契約社員(Xら)と本件比較対象正社員(一般職及び新一般職)との間においては、程度の差はあるものの、職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲の各要素において相違があることが認められる。ごく抽象的にいうならば、上記のような相違がある以上、両者の間では、必然的に、入社時の採用手続、昇任・昇格を含めた人事評価制度、職場における人材育成制度や研修制度といった面での処遇格差が発生するはずであり、また、賃金上の処遇格差が発生することも避け難いことである。
しかしながら、問題は、職務内容等の相違と現に生じている労働条件の相違が均衡を失する不合理なものであるかどうかの判定である。そして、賃金というものが、賃金項目ごとに、企業ごとに、これを支払うことになった経緯や支払を行う趣旨・目的が異なると考えられる以上、賃金に係る労働条件の相違の是非を考える上で考慮すべき事情や考慮の仕方も異なるものである。そこで、以下においては、本件各労働条件の相違が労契法20条に係る不合理であるといえるかについて、個別に検討する。

(2)外務業務手当
当裁判所も、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との外務業務手当に係る労働条件の相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断するが、その理由は原判決のとおり。(外務業務手当は、その制定経緯に照らすと、平成19年4月の正社員の職種統合によって外務職に従事していたY社従業員の賃金額の激変を緩和するために、正社員の基本給の一部を手当化したものであって、同手当の支給は、外務職の従前の給与水準を維持するという目的を有するものであり、正社員と本件契約社員の雇用期間の差異とは無関係なものであって、本件契約社員を含む期間雇用社員は上記の激変緩和措置の対象となる従業員とはいえないこと、②その具体的な支給金額も、労使協議の結果を踏まえた上で、統合前後で賞与や退職金支給額を含めた処遇をおおむね均衡させる観点から算出されたものであること、③郵便外務業務に従事する者のうち、時給制契約社員に対しては外務加算額によって、月給制契約社員に対しては基本月額等によって、いずれも外務業務に従事することが各賃金体系において反映されており、その金額も正社員の外務業務手当と比較して均衡を失するものであるとはいえないこと、以上の事情が認められ、これらの諸事情を総合考慮すれば、正社員に外務業務手当を支給し、本件契約社員に同手当を支給しないという相違は、不合理なものであるとまで認めることはできない。

(3)郵便外務業務精通手当
当裁判所も、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との郵便外務業務精通手当に係る労働条件の相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断するが、その理由は原判決のとおり。(①郵便外務業務精通手当は、正社員の意欲向上を図るため、基本給の調整額等の一部を原資に、より能力及び実績を反映するために担当職務の精通度合いに応じた手当として組み替えたものであり、新規採用後6か月未満の者等については支給されていないこと等に照らして、同手当は、郵便外務業務への習熟度及び成果等個々の従業員の職務能力の程度に応じて支給されるものといえること、②郵便外務業務精通手当は、労使協議も経た上で新設されたものであること、③時給制契約社員については、資格給の加算によって郵便外務業務への精通度合い(職務能力)がそもそも基本賃金に反映されており、月給制契約社員についても、そのように評価された時給制契約社員の給与と比較して高額な基本月額が設定されていること等に照らすと、本件契約社員においては職務能力に応じた基本給等の設定がされており、職務能力に応じた給与の差異が設けられているといえること、以上の事情が認められ、これらの諸事情を総合考慮すれば、正社員に対して郵便外務業務精通手当を支給し、本件契約社員に同手当を支給しないという相違は、不合理なものであるとまで認めることはできない。

(4)年末年始勤務手当
ア 年末年始勤務手当は、本件比較対象正社員に対し、勤務した1日につき、12月29日から同月31日までは4000円、1月1日から同月3日までは5000円が支給されるが、Xら本件契約社員に対しては、支給されていない。
イ ①年末年始勤務手当は、年末年始に年賀状の配達等によって平常時の数倍の業務量が短期間に集中するという郵便事業の特殊性に鑑みて、昭和32年に常勤職員に導入された年末年始特別繁忙手当に由来するものであるが、その後、郵便物処理の機械化による繁忙度の緩和等の就業環境の変化を受けて、平成17年10月1日に上記年末年始特別繁忙手当が廃止されたのに伴い、その原資の一部によって新設されたものであること、②その具体的支給額は、民間企業の同種手当との均衡も考慮した上で、労使協議を経て決定されたこと、③年末年始勤務手当は、12月29日から翌年1月3日までの期間に勤務した場合に、勤務内容や勤務内容や勤務中の業務量の相違にかかわらず一律の金額(4時間以下の場合には半額)が支給されるものであること、以上の事実が認められる。
また、我が国では、官公庁において12月29日から翌年1月3日までの日が休日とされており、多くの民間企業においてもこれに準じる取扱いがされているが、Y社の職場では、年賀状の配達及びその準備のため年末年始が一年を通して最も繁忙な時期に該当する(公知の事実)。
ウ(ア) 上記イで認定した事実によれば、年末年始勤務手当は、年末年始が最繁忙期になるという郵便事業の特殊性から、多くの労働者が休日として過ごしているはずの年末年始の時期に業務に従事しなければならない正社員の労苦に報いる趣旨で支給されるものと認められる。
(イ)ところで、上記(ア)のうち、年末年始が最繁忙期になり、その時期に業務に従事しなければならないこと自体は、正社員のみならず本件契約社員においても同様といえる。
しかしながら、他方で、本件契約社員は、①原則として短期雇用を前提とし、各郵便局において、その必要に応じて柔軟に労働力を補充、確保することを目的の一つとして設けられている雇用区分であり、その募集は、各郵便局の判断により、当該郵便局における業務量等の状況に応じて随時行われ、年末年始の期間は休日とされておらず、同期間に(むしろ同期間こそ)業務に従事することを当然の前提として採用されているということができること、②契約期間は、時給制契約社員については6か月以内、月給制契約社員については1年以内とされており、実際にも、時給制契約社員の従業員数は、毎年、年末年始の期間又はこれを含む下半期に増加し、採用者数も、毎年、年末年始の期間に向けて11、12月が多くなっていること、③時給制契約社員の退職者の5割以上が1年以内、7割以上が3年以内での退職という統計結果があることが指摘できる。さらに、Y社において、正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図る必要があるとの事情やY社における各労働条件が労使協議を経て設定されたという事情がある。これら事情は、相応の重みのある労契法20条所定の「その他の事情」であり、労働条件の相違が不合理であるとの評価を妨げる事情ということができる。
以上からすれば、本件比較対象正社員と本件契約社員とで年末年始勤務手当に関し労働条件の相違が存在することは、直ちに不合理なものと評価することは相当ではない。
(ウ)もっとも、本件契約社員にあっても、有期労働契約を反復して更新し、契約期間を通算した期間が長期間に及んだ場合には、年末年始勤務手当を支給する趣旨・目的との関係で本件比較対象正社員と本件契約社員との間に相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ないから、このような場合にも本件契約社員には本件比較対象正社員に対して支給される年末年始勤務手当を一切支給しないという労働条件の相違は、職務内容等の相違や導入時の経過、その他Y社における上記事情などを十分に考慮したとしても、もはや労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
(エ) これを本件についてみるに、XらのうちX4を除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年(労契法18条参照)を超えているところ、このような本件契約社員についてまで年末年始勤務手当について上記のような相違を設けることは、不合理というべきである。一方、X4については、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点での契約期間を通算した期間は約3年にとどまり、必要に応じて柔軟に労働力を補充、確保するための短期雇用という性質は未だ失われていないといえるから、このような本件契約社員について年末年始勤務手当について上記のような相違を設けることは直ちに不合理とはいえないが、その後、さらに有期労働契約が更新され、契約期間を通算した期間が5年を超えた平成27年5月1日以降については、年末年始勤務手当について上記のような相違を設けることは、不合理というべきである。

(5)早出勤務等手当
当裁判所も、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との早出勤務等手当に係る労働条件の相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断するがその理由は、原判決のとおり。(①早出勤務等手当が支給される趣旨は、正社員について、業務命令により定められた勤務シフトに基づいて早朝、夜間の勤務を求められている状況下で、正社員の中には、早朝、夜間のシフトに従事した者と、そうでない者が存在することから、両者間の公平を図るという点にあること、②他方で、本件契約社員については、募集時及び採用時に勤務する時間帯が明示され、勤務シフトを作成する際には、本人の同意のない時間帯には割り当てないよう配慮されているのであるから、本件契約社員に関しては、早出勤務等手当が支給される前提を欠いているということになること、③早出勤務等手当には、通常の勤務時間以外の業務遂行への対価という側面があるとうかがわれるところ、本件契約社員に対しても、同手当とほぼ類似する支給条件で早朝・夜間割増賃金が支給されていること、④早出勤務等手当と早朝・夜間割増賃金とではその支給金額が異なるものの、その支給条件については正社員よりも本件契約社員の方が有利な点も存在すること、以上の点が認められ、これらの諸事情を総合的に勘案すると、早出勤務等手当に関する正社員と本件契約社員との間の相違は、不合理であるとまで認めることはできない。

(6)祝日給
ア Y社は、正社員である本件比較対象正社員に対し、祝日給として、祝日又は1月1日から同月3日までのうち祝日を除く日(通常の年は1月2日、3日。以下「年始期間」という。)に勤務した場合、1時間当たりの給与(基本給、調整手当、遠隔地手当)に支給対象期間(8時間)と100分の135を乗じた額を支給している。
一方、時給制契約社員に対しては、祝日に勤務した場合に、基本賃金額(時給に支給対象時間(X8を除くXらはいずれも8時間))と100分の35を乗じた額の祝日割増賃金を支給しているが、正社員の祝日給とは上記のとおり支給額の算定方法が異なる上、年始期間に勤務した場合には祝日割増賃金が支給されないという点で、相違がある。また、月給制契約社員に対しては、祝日に勤務した場合に、正社員の祝日給と同様の算定方法による祝日割増賃金を支給しているが、年始期間に勤務した場合には祝日割増賃金が支給されないという点で、相違がある。
イ 祝日の勤務に対する祝日給又は祝日割増賃金の支給額の算定方法に関する相違について検討する。本件比較対象正社員を含む正社員及び月給制契約社員については、祝日に勤務することを命じられる者と命じられない者があり、祝日に勤務することを命じられずに勤務しなかった者も月額給与が減額されることなく支給されることから、社員間の公平を図るため、正社員に対しては祝日給、月給制契約社員に対しては祝日割増賃金として1日当たりの給与に100分の135を乗じた額を支給している。これに対し、時給制契約社員については、実際に祝日に勤務を命じられて勤務した者に対しては同勤務時間に応じた基本賃金(100分の100部分)を支給することから、正社員のような公平を図る必要はない。また、祝日に勤務を命じられなかった時給制契約社員に対しては同日分の基本賃金を支給しないが、祝日に勤務する時給制契約社員については、これに配慮した割増額として本来の労働に応じた基本賃金に加えて時給の100分の35に相当する祝日割増賃金を支給しているものである。
そうすると、祝日に勤務した場合においては、本件比較対象正社員を含む正社員及び月給制契約社員と時給制契約社員との間で、祝日勤務に対する配慮を考慮した割増率は同じ(100分の35)であって、処遇上の相違がないということができるから、本件比較対象正社員の祝日給と本件契約社員の祝日割増賃金の支給額の算定方法に関する相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。
ウ(ア) 次に、年始期間の勤務に対する祝日給又は祝日割増金の支給の有無に関する相違について検討する。
正社員は、年始期間について特別休暇が与えられており、かつては代替休暇も認められていたのに対し、本件契約社員(時給制・月給制契約社員)にはこのような特別休暇がなかったものであり、年始期間の勤務に対する祝日給と祝日割増賃金の支給の有無に関する相違は、上記特別休暇についての相違を反映したものと解される。しかも、長期雇用を前提とする正社員と、原則として短期雇用であり、かつ、Y社の業務の特殊性から、最繁忙期である年始期間に勤務することを前提に採用されている本件契約社員との間で、勤務日や休暇について異なる制度や運用を採用すること自体は、企業の人事上の施策として一定の合理性があるというべきである。
そうすると、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との年始期間の特別休暇についての相違が存在することは、直ちに労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解されるから、これを反映した祝日給と祝日割増賃金との相違も、同条にいう不合理と認められるものには当たらない。
(イ)もっとも、前記年末年始勤務手当の項((4)ウ(ウ))で説示したことは、年始期間の祝日給又は祝日割増賃金の支給の有無にも当てはまるというべきである。
そうすると、本件において、XらのうちX4Dを除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、年始期間に勤務した場合の祝日給又は祝日割増賃金の支給の有無に上記相違を設けることは、不合理というべきである。また、X4については、平成25年4月1日時点での契約期間を通算した期間は約3年にとどまるから、上記相違を設けることは、不合理とはいえないが、その後、さらに有期労働契約が更新され、契約期間を通算した期間が5年を超えた平成27年5月1日以降も上記相違を設けることは、不合理というべきである。

(7)夏期年末手当
当裁判所も、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との夏期年末手当に係る労働条件の相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断するが、その理由は原判決のとおり。(夏期年末手当は、その支給要件、支給内容及び支給に至る経緯からすれば、賞与としての性質を有するものであることは明らかである。ところで、賞与は、一般的に、対象期間の企業の業績等も考慮した上で、月額で支給される基本給を補完するものとして支給されるものであり、支給対象期間の賃金の一部を構成するものとして基本給と密接に関連するものであると認められる。そして、これら賞与の性格等に照らせば、賞与支給の有無及び支給額の決定については、基本給の設定と同様に、労使間の交渉結果等を尊重すべきであるとともに、功労報償的な性質及び将来の労働への意欲向上へ向けたインセンティブとしての意味合いをも有するものであることも否定できないことも併せ考慮すると、使用者の人事政策上の裁量の及ぶ事項であることから、使用者において、広い裁量があると認められる。以上のような点に加えて、①正社員と本件契約社員との職務の内容等には相違があり、同相違に伴って、功績の程度や内容、貢献度等にも自ずから違いが存在することは否定できないこと、②長期雇用を前提として、将来的に枢要な職務及び責任を担うことが期待される正社員に対する夏期年末手当の支給を手厚くすることにより、優秀な人材の獲得やその定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること、③正社員の夏期年末手当は、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定され、本件契約社員の臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)も、その支給額の算定方法が労使交渉の結果を踏まえて決定されたものであることをも踏まえると、正社員の夏期年末手当と本件契約社員の臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)に関する算定方法等の相違は、不合理であるとは認められない。

(8)住居手当
当裁判所も、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員のうち新人事制度における新一般職との住居手当に係る労働条件の相違は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断するが、その理由は原判決のとおり。(①住居手当の支給額は、家賃の額や住宅購入の際の借入額に応じて決定されていることに照らすと、Y社において、住居手当が支給される趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられること、②新一般職は、本件契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること、③住居手当の支給の有無によって、最大で月額2万7000円の差異が生じるところ、本件契約社員には、住居に係る費用負担の軽減という観点からは何らの手当等も支給されていないこと、以上の点に鑑みれば、上記のとおり住居手当には福利厚生的な要素があること等を考慮したとしても、住居手当の支給についての新一般職と本件契約社員との労働条件の相違は、不合理なものであるといわざるを得ない。

また、Y社は、新一般職も地域基幹職へのコース転換が想定されている旨主張する。しかしながら、前述したとおり、新人事制度における各コースは、採用時に決定されており、本人の希望なく、Y社がコース転換を強制することはないこと、本人の希望により一定の条件の下で新一般職から地域基幹職へのコース転換もあり得るが、コース転換により労働条件(転居を伴う配転の有無や適用される基本給表など)も変更されるのであるから、コース転換前にコース転換後の事情を考慮するにも限度がある。
さらに、Y社は、新一般職であっても、採用や配転に伴い転居する例が存在する旨主張するが、採用時の転居事情については新一般職と本件契約社員とで相違があるとは考えられず、配転についても、Y社は、新一般職について転居を伴う配転は行わないこととしている。
以上によれば、Y社の上記主張は、いずれも新一般職と本件契約社員との間に住居手当について上記のような相違を設けることの合理的理由とはならないというべきであるから、採用できない。

(9)扶養手当
ア Y社は、正社員である本件比較対象正社員に対し、扶養親族の状況に応じて扶養手当を支給しているが、Xら本件契約社員に対しては、扶養手当を支給していない。
イ ①扶養手当は、昭和15年に発生した日華事変の進展に伴う物価騰貴に対して、政府職員のうち一部の職員に対して「臨時家族手当」を支給する制度が創設されたことをきっかけとして、郵政省においても同年に導入され、その後、第二次世界大戦終戦前後の国内経済事情のインフレの進行等の大きな変動に対処するため、適用範囲の拡充、支給金額の引上げ等の数次にわたる改正が行われ、郵政民営化後、現在のY社における扶養手当に引き継がれたものであることその後の支給額について、その都度労使協議を経て改正・決定されていること、以上の事実が認められる。
ウ ところで、扶養手当は、いわゆる家族手当に該当するところ、家族手当は、一般的に生活手当の一種とされており、長期雇用システム(いわゆる終身雇用制)と年功的賃金体系の下、家族構成や生活状況が変化し、それによって生活費の負担が増減することを前提として、会社が労働者のみならずその家族の生活費まで負担することで、有為な人材の獲得、定着を図り、長期にわたって会社に貢献してもらうという効果を期待して支給されるものと考えられる。そして、前記イの歴史的経緯や支給要件等からすれば、Y社の扶養手当も、上記と同様に長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質、趣旨を有するものといえる。
エ これに対し、本件契約社員は、原則として短期雇用を前提とし、必要に応じて柔軟に労働力を補充、確保するために雇用されたものであり、賃金も年功的賃金体系は採用されておらず、基本的には従事する業務の内容や就業の場所等に応じて定められているのであるから、長期雇用を前提とする基本給の補完といった扶養手当の性質及び支給の趣旨に沿わないし、本件契約社員についても家族構成や生活状況の変化によって生活費の負担増もあり得るが、基本的には転職等による収入増加で対応することが想定されている。
そうすると、本件比較対象正社員と本件契約社員との間の扶養手当に関する前記アの相違は、不合理と認めることはできない。

(10)夏期冬期休暇
ア Y社は、正社員である本件比較対象正社員に対し、一定の期間(夏期休暇は6月1日から9月30日まで、冬期休暇は10月1日から翌年3月31日まで)に、在籍時期に応じて暦日3日ないし1日の休暇を付与し、いずれも有給としているが、Xら本件契約社員に対しては、このような夏期冬期休暇を付与していない。
イ ①昭和30年代後半以降、民間企業において夏期休暇を与える例が増加した当時、郵政省としては、夏期においては、できるだけ年次有給休暇を与えるよう指導するにとどまっていたが、その後、労使交渉を踏まえ、昭和39年12月に夏期休暇を1日付与することとされたこと、②平成2年から一般の国家公務員について新たに3日の夏季休暇が付与されたことを考慮し、平成3年から郵政省においても付与日数が3日増加されたこと、③一般のの国家公務員については、年末年始期間は原則として勤務することを要しないとされていたところ、郵政職においても、年末年始特別休暇が設けられていたが、上記期間は郵便事業においては最繁忙期となっており、特に12月29日から12月31日の期間は年賀配達の準備等のため最も忙しいことから、平成20年から平成21年にかけて、年末年始特別休暇期間を1月2日及び3日に見直し、新たな特別休暇として、冬期休暇が新設されたこと、以上の各事実が認められる。
ウ 民間企業においてはいわゆるお盆休みとして8月13日から15日やこれを含む前後の期間に休暇が付与される例が見られるが、一般の国家公務員の夏季休暇はお盆の時期に限らず夏季における心身の健康の維持、増進等を図る趣旨で付与されていると解されるところ、Y社における夏期休暇においても、上記イ認定の経緯やその内容からすれば、いわゆるお盆休みではなく一般の国家公務員と同様に心身の健康の維持、増進等を図るための特別の休暇と解される。
 また、冬期休暇は、12月29日から翌年1月3日までの年末年始特別休暇に由来するものであるが、Y社においては年末(12月29日から31日まで)に特別休暇が与えられないことを踏まえ、年末年始の期間に限らず冬期の一定の期間に付与された特別の休暇(有給)であると解される。
エ ところで、夏期冬期休暇についても、前記年末年始勤務手当の項((4)ウ(イ))で説示したと同様、長期雇用を前提とする正社員と原則として短期雇用を前提とする本件契約社員との間で、異なる制度や運用を採用すること自体は、相応の合理性があるというべきであり、本件比較対象正社員に対して付与される夏期冬期休暇が本件契約社員に対しては付与されないという相違が存在することは、直ちに不合理であると評価することはできない。
もっとも、前記年末年始勤務手当の項((4)ウ(ウ)(エ))で説示したことは、夏期冬期休暇にも当てはまるというべきである。そうすると、本件において、XらのうちX4を除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、夏期冬期休暇について上記相違を設けることは、不合理というべきである。また、X4については、平成25年4月1日時点での契約期間を通算した期間は約3年にとどまるから上記相違を設けることは不合理とはいえないが、その後、さらに有期労働契約が更新され、契約期間を通算した期間が5年を超えた平成27年5月1日以降も上記相違を設けることは、不合理というべきである。

(11)病気休暇
ア Y社は、正社員である本件比較対象正社員に対し、業務上の事由若しくは通勤による傷病以外の私傷病により、最小限度所属長が必要と認める期間において、勤務日又は正規の勤務時間中に勤務しない場合、その勤務しない期間について病気休暇を付与し、その場合は有給としているが、X ら本件契約社員に対しては、病気休暇の付与を1年度において10日の範囲内に限定し、かつ、無給としているから、両者には相違がある。
イ 郵政省における病気休暇制度は明治憲法下から存在していた(ただし、昭和28年に休業規則が制定されるまでは、俸給支給上の取扱いとして定められていた。)が、これが今日に至るまで原則的には変更されることなく引き継がれていることが認められる。
そして、一般の国家公務員の病気休暇は、職員が私傷病になった場合にも安んじて療養に専念させ、健康体に回復させることによって公務能率の維持向上に資することにあると考えられるところ、Y社の病気休暇も同趣旨と認められる。
ウ ところで、病気休暇についても、前期年末年始勤務手当の項((4)ウ(イ))で説示したと同様、長期雇用を前提とする正社員と原則として短期雇用を前提とする本件契約社員との間で、病気休暇について異なる制度や運用を採用すること自体は、相応の合理性があるというべきであり、Y社における本件契約社員と本件比較対象正社員との間で病気休暇の期間やその間有給とするか否かについての相違が存在することは、直ちに不合理であると評価することはできない。
もっとも、前記年末年始勤務手当の項((4)ウ(ウ)(エ))で説示したことは、病気休暇にも当てはまるというべきである。そうすると、本件において、XらのうちX4を除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、前記病気休暇の期間及びその間の有給・無給の相違を設けることは、不合理というべきである。また、X4については、平成25年4月1日時点での契約期間を通算した期間は約3年にとどまるから、上記相違を設けることは不合理とはいえないが、その後、さらに有期労働契約が更新され、契約期間を通算した期間が5年を超えた平成27年5月1日以降も病気休暇について上記相違を設けることは、不合理というべきである。

以上のとおり、Xらが労契法20条に違反すると主張する本件各労働条件の相違のうち、①住宅手当についての相違は、Y社の新一般職との比較においては不合理というべきであり、②年末年始勤務手当、祝日給のうち年始期間の扱い、夏期冬期休暇、病気休暇についての相違は、本件契約社員のうち有期労働契約が反復して更新され契約期間が長期間に及んだ場合には不合理というべきであるが、そうでない場合には不合理とはいえず、③その余の本件各労働条件についてはいずれも不合理なものとはいえない。

④争点2 Xらが主張する本件各労働条件の相違が労契法20条に違反するとした場合の法的効果について

労契法20条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや、その趣旨が有期契約労働者の公平な処遇を図ることにあること等に照らせば、同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される。もっとも、同条は、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等に応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり、文言上も、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労契法20条に違反する場合であっても、同条の効力により、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である(ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)参照)。
また、Y社は、正社員に適用される就業規則として社員就業規則を定め、これと異なる労働条件で採用された者に適用する就業規則は別に定めるものとし、本件契約社員を含む期間雇用社員に適用される期間雇用社員就業規則を別途定めたこと、社員就業規則(76条)及び期間雇用社員就業規則(46条)の規定を受けて、それぞれ正社員に適用される社員給与規程及び期間雇用社員に適用される期間雇用社員給与規程が定められたことが認められるところ、Y社においては、正社員に適用される社員就業規則等と期間雇用社員に適用される期間雇用社員就業規則等が別個独立に存在しており、社員就業規則等が期間雇用社員就業規則等にも当然に適用されるという形式になっておらず、期間雇用社員就業規則等では、労契法20条違反とされる上記住居手当等について何ら定めておらず、その支給も予定していないのであり、このような就業規則等の定めにも鑑みれば、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、期間雇用社員であるXらが社員就業規則等の各規定が適用される労働契約上の地位にあるものと解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。