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「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A公表

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「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A公表

厚生労働省より「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aが公表されています。

目次と、基本的な考え方が示された1-1及びフレックスタイム制と個人的に興味があった「フレックスタイム制に関する 労働時間の通算の考え方」を抜粋いたしますので、詳細は次のリンクをご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000473062.pdf


【目次】

1.労働時間管理等

<原則的な労働時間の通算方法の考え方>

1-1 自社で雇用されており、かつ、副業・兼業先においても雇用される場合には、労働基準法における労働時間等の規定の適用はどうなるのか。
(設例1~4)

1-2 労働者が自社で従事する業務に適用される労働時間制度と、副業・兼業先で従事する業務に適用される労働時間制度が異なる場合において、労働時間の通算はどのように行うのか(変形労働時間制、裁量労働制フレックスタイム制等)。

1-3 変形労働時間制の採用や労働基準法第40条の特例対象事業場への該当により、法定労働時間が1日8時間、週40時間とならない場合は、どのように労働時間の通算を行うのか。また、フレックスタイム制の場合はどうか。

1-4 法定休日における労働時間はどのように通算するのか。

1-5 起算日が異なる1週間の労働時間はどのように通算するのか。

<簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)の考え方>

1-6 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で示している簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)を導入する場合、労働時間の管理や時間外労働の上限規制の遵守、割増賃金の支払はどのように行うのか。
(設例5・6)

1-7 1-2から1-5までの論点について、管理モデルを用いる場合にはどのように考えるのか。

1-8 自社と副業・兼業先のいずれにおいても清算期間3か月のフレックスタイム制を導入しており、両社で清算期間の起算月が異なる場合、管理モデルによる労働時間の通算はどのように行うのか。

1-9 管理モデルの導入に伴う労働時間の上限設定に当たっては、使用者A・使用者B間で書面を交わすことが必要か。

1-10 業務の繁閑により労働時間が月ごとに大きく変動するような場合、管理モデルにおける労働時間の上限の設定はどのように行えばよいのか。

1-11 労働者が既に副業・兼業を開始している場合でも、管理モデルを導入することは可能か。

1-12 副業・兼業を行う労働者と時間的に後から労働契約を締結した使用者の立場から管理モデルを導入することは可能か。

1-13 A事業場において、所定労働時間と所定外労働時間を合計しても法定外労働時間が発生しないような場合において、管理モデルを導入して労働時間の通算を行うことは可能か。

1-14 管理モデル導入時の各事業場における労働時間の上限については、合計した時間数が単月100時間未満・複数月平均80時間以内となる範囲内(時間外労働の上限規制の範囲内)において設定することとされているが、過重労働の観点から問題ないか。

<原則的な労働時間の通算方法と管理モデルに共通する考え方>

1-15 副業・兼業を行う労働者について、自社で法定外労働が発生する場合に、「時間外労働・休日労働に関する協定」の締結に当たって、「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」としては、「副業・兼業」と記載すればよいのか。

1-16 自社の法定休日に他社において副業・兼業が行われた場合、法定休日を確保したことになるのか。

1-17 有害業務の労働時間の上限規制、年少者の労働時間、妊産婦の労働時間について、労働時間は通算されるのか。

1-18 時間的に先に締結された労働契約が有期労働契約であって、時間的に後から締結する労働契約が期間の定めのない契約(無期労働契約)である場合には、有期労働契約が更新される際に労働時間通算の順序は変更されるのか。

1-19 副業・兼業を行う労働者との労働契約の締結の先後にかかわらず、労働時間通算の順序を変更することは可能なのか。

<副業・兼業の禁止又は制限の考え方>

1-20 副業・兼業の形態(雇用型、非雇用型など)や副業・兼業を行う対象者の自社における働き方の属性(管理監督者裁量労働制適用者など)によって、副業・兼業を禁止又は制限をすることは可能か。

1-21 企業が労働者の副業・兼業を認めるに当たって、管理モデルによる副業・兼業を要件とすることは可能か。

2.健康管理

2-1 短時間労働者が副業・兼業を行うことにより、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間を通算すると、自らの事業場の通常の労働者の1週間の所定労働時間の3/4以上となる場合には、当該短時間労働者に対する健康診断やストレスチェックの実施義務はかかるのか。

2-2 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置の一つとして、労働者に「健康保持のため自己管理を行うよう指示」することが挙げられているが、具体的にどのような形で指示を行えば良いか。また、自己管理として何を行えば良いのか。

2-3 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置の一つとして、「心身の不調があれば都度相談を受けることを伝える」ことが挙げられているが、どのような相談体制が想定されるか。また、相談することで自身の不利益になると思い労働者が相談しない、ということも考えられるが、どのように労働者に伝えるべきか。

2-4 自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、それぞれの事業場において適切な措置を講ずるために、使用者・労働者がどのようなことを行うことを想定しているか。

3.労災保険の給付

3-1 労働者が副業・兼業を行っている場合、労災保険給付額の算定はどうなるのか。

3-2 労働者が副業・兼業を行っている場合、労災認定する際の業務の過重性の評価に当たって労働時間は合算されるのか。

3-3 A会社での勤務終了後、B会社へ向かう途中に災害に遭った場合、通勤災害に該当するのか。

1-1 自社で雇用されており、かつ、副業・兼業先においても雇用される場合には、労働基準法における労働時間等の規定の適用はどうなるのか。

1 労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))
このため、労働者がA事業場でもB事業場でも雇用される場合には、原則として、その労働者を使用する全ての使用者(A事業場の使用者Aと、B事業場の使用者Bの両使用者)が、A事業場における労働時間とB事業場における労働時間を通算して管理する必要があります。

2 労働時間を通算した結果、労働基準法32条又は第40条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、使用者は、自社で発生する法定時間外労働について、同法第36条に定める「時間外労働・休日労働に関する協定」(いわゆる36(サブロク)協定)を労働者代表と締結し、あらかじめ労働基準監督署長に届け出る必要があります(※1)。
また、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数が、同法第36条第6項第2号及び第3号に定める時間外労働の上限規制(※2)の範囲内となるようにする必要があります。
加えて、使用者は、労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間数のうち自ら労働させた時間について、同法第37条第1項に定める割増賃金を支払う必要があります。

※1なお、副業・兼業の開始時点で、有効な「時間外労働・休日労働に関する協定」が既に存在しており、その協定により、副業・兼業を行う労働者に時間外労働を行わせることができる場合には、副業・兼業の開始のみを理由として、新たに「時間外労働・休日労働に関する協定」を締結する必要はありません「時間外労働・休日労働に関する協定」に関して以下同じ。)。
※2時間外労働と休日労働の合計について、1か月100時間未満、かつ、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」を全て1か月あたり80時間以内としなければならない要件(単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件)

これらの労働基準法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った(すなわち、それぞれの法定外労働時間を発生させた)使用者です。

3 副業・兼業の場合の労働基準法における労働時間等の規定の適用の考え方は以上のとおりであり、
・まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
・次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、
労働時間の通算を行い、労働基準法が適用されることとなります。(参照:設例1~4)
※ 所定外労働には、所定労働日における所定外労働と、所定休日における労働時間の両方が含まれます。
※ また、同法第36条第6項第2号及び第3号に定める時間外労働の上限規制については、通算するべき所定外労働として、所定労働日における所定外労働と、所定休日における労働時間に加えて、自らの事業場の法定休日における労働時間についても、これらの全てを発生順に所定外労働時間として通算することによって労働時間の通算を行い、労働時間の上限規制を遵守する必要があります。

4 具体的に整理すると、A事業場の使用者Aと先に労働契約を締結している労働者が、B事業場の使用者Bと新たに労働契約を締結して副業・兼業を行う場合の労働時間の通算の順序は、①、②、③の順となります。
①A事業場における所定労働時間
②B事業場における所定労働時間
※ 副業・兼業の開始前に、まずは①と②を通算します。
※ 上記の通算の結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間(通常の労働時間制度の場合は1週40時間、1日8時間)を超える部分がある場合、この法定労働時間を超える部分は法定時間外労働となります。
※ また、副業・兼業の開始後に、使用者Bは、この法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。

③A事業場における所定外労働時間又はB事業場における所定外労働時間(実際に行われた順に通算)
※ 使用者A及び使用者Bは、それぞれ、①と②の通算(所定労働時間の通算)の後、副業・兼業の開始後に、A事業場における所定外労働時間とB事業場における所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算します。
※ 上記の通算の結果、A事業場又はB事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合、それぞれの法定労働時間を超える部分はそれぞれ法定時間外労働となります。すなわち、A事業場では、「上記の通算の結果、A事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分」が法定時間外労働となり、B事業場では、「上記の通算の結果、B事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分」が法定時間外労働となります。このため、A事業場、B事業場のいずれも、法定時間外労働が生じることがあります。
※ 使用者A及び使用者Bは、それぞれ、この法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。

【設例】

設例1~4においては、
・A事業場の使用者A・B事業場の使用者Bともに、自らの下での労働時間に加え、他の使用者の事業場での労働時間も、労働者からの申告等により把握しているものとします。
・A事業場・B事業場ともに、同一の労働時間制度(1週40時間、1日8時間)を採用しているものとします。
・A事業場・B事業場ともに、日曜日から土曜日までの暦週を採用しているものとします。
(注)原則的な法定労働時間を定める労働基準法32条では、1週間について40時間と、1日について8時間の法定労働時間が定められており、各使用者は、その双方について、通算した労働時間が法定労働時間を超えるかどうかを、確認する必要があります。

(設例1)
使用者Aと「所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、A事業場における所定労働日と同一の日について、使用者Bと新たに※「所定労働時間2時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

※使用者Bとの労働契約が後に締結されたことを意味します。

(答)
1 A事業場の所定労働時間は8時間であり、法定労働時間内の労働であるため、所定労働時間労働させた場合、使用者Aに割増賃金の支払義務はありません。
2 A事業場で労働契約のとおりに労働した場合、A事業場での労働時間がB事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間に達しているため、それに加えてB事業場で労働する時間は、全て法定外労働時間となります。
3 よって、B事業場で当該労働者を労働させるためには、使用者BがB事業場の「時間外労働・休日労働に関する協定」で定めるところによって行わせる必要があります。また、B事業場で労働した2時間は法定時間外労働となり、法定労働時間を超えて労働させた使用者Bは、その2時間の労働について割増賃金の支払義務を負います。

(パターン1)
A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日8時間・休憩1時間(7:00~16:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日2時間(18:00~20:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(8時間)
②B事業場における所定労働時間(2時間)
の順に通算します。
f:id:sr-memorandum:20210805211433p:plain

(パターン2)
※パターン1とは、1日の中でのA事業場・B事業場での労働の順を逆にしています。
A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日8時間・休憩1時間(11:00~20:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日2時間(7:00~9:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(8時間)
②B事業場における所定労働時間(2時間)
の順に通算します。
→①だけでB事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間(8時間)に達するので、B事業場で行う2時間の労働は法定時間外労働となり、使用者Bはその2時間について割増賃金を支払う必要があります。
f:id:sr-memorandum:20210805211848p:plain


(設例2)
使用者Aと「所定労働日は月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、使用者Bと新たに「所定労働日は土曜日、所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

(答)
1 A事業場での1日の労働時間は8時間であり、月曜日から金曜日までの5日間労働した場合、労働時間は40時間となり、法定労働時間内の労働であるため、労働契約のとおり労働させた場合、使用者Aに割増賃金の支払義務はありません。
2 A事業場で労働契約のとおり労働した場合、A事業場での月曜日から金曜日までの労働時間がB事業場の労働時間制度における週の法定労働時間に達しているため、それに加えてB事業場で土曜日に労働する時間は、全て法定外労働時間となります。
3 よって、B事業場で当該労働者を労働させるためには、使用者BがB事業場の「時間外労働・休日労働に関する協定」で定めるところによって行わせる必要があります。また、B事業場で土曜日に労働した5時間は法定時間外労働となり、法定労働時間を超えて労働させた使用者Bは、その5時間の労働について割増賃金の支払義務を負います。
f:id:sr-memorandum:20210805212142p:plain


(設例3)
使用者Aと「所定労働時間4時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、A事業場における所定労働日と同一の日について、使用者Bと新たに「所定労働時間4時間」を内容とする労働契約を締結し、A事業場で5時間労働して、その後B事業場で4時間労働した場合。

1 労働時間の通算は、問1-1に記載しているとおり、
・まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
・次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、
行います。
2 労働者がA事業場及びB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は8時間(A事業場での所定労働時間4時間+B事業場での所定労働時間4時間)となり、法定労働時間内の労働となります。
3 1日の所定労働時間が通算して8時間に達しているため、A事業場で労働時間を延長して労働した場合、A事業場で延長して労働する時間(A事業場での所定外労働時間)は、全て法定外労働時間となります。
4 よって、A事業場で労働時間を延長して当該労働者に1日4時間を超えて労働させるためには、使用者AがA事業場の「時間外労働・休日労働に関する協定」で定めるところによって行わせる必要があります。また、A事業場で所定労働時間を超えて労働した1時間は法定時間外労働となり、法定労働時間を超えて労働させた使用者Aは、その延長した1時間の労働について割増賃金の支払義務を負います。

(パターン1)
A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日4時間(7:00~11:00)
・当日発生した所定外労働1時間(11:00~12:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日4時間(15:00~19:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(4時間)
②B事業場における所定労働時間(4時間)
の順に通算します。
→次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算するので、
③A事業場における所定外労働時間(1時間)
の順に通算します。
→①+②でA事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間(8時間)に達するので、A事業場で行う1時間の所定外労働(11:00~12:00)は法定時間外労働となり、使用者Aはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。
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(パターン2)
※設例・パターン1とは、1日の中でのA事業場・B事業場での労働の順を逆にしています。

A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日4時間(14:00~18:00)
・当日発生した所定外労働1時間(18:00~19:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日4時間(7:00~11:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(4時間)
②B事業場における所定労働時間(4時間)
の順に通算します。
→次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算するので、
③A事業場における所定外労働時間(1時間)
の順に通算します。
→①+②でA事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間(8時間)に達するので、A事業場で行う1時間の所定外労働(18:00~19:00)は法定時間外労働となり、使用者Aはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。
f:id:sr-memorandum:20210805212823p:plain


(設例4)
使用者Aと「所定労働時間3時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、A事業場における所定労働日と同一の日について、使用者Bと新たに「所定労働時間3時間」を内容とする労働契約を締結し、A事業場で5時間労働して、その後B事業場で4時間労働した場合。

(答)
1 労働時間の通算は、問1-1に記載しているとおり、
・まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
・次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、
行います。
2 労働者がA事業場及びB事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は6時間(A事業場での所定労働時間3時間+B事業場での所定労働時間3時間)となり、法定労働時間内の労働となります。
3 ここで使用者Aが労働時間を2時間延長した場合、A事業場での労働が終了した時点では、B事業場での所定労働時間も含めた当該労働者の1日の労働時間は法定労働時間内であり、A事業場は割増賃金の支払等の義務を負いません。
4 ここまでで、A事業場の所定労働時間とB事業場の所定労働時間を通算し、次にA事業場の所定外労働時間を通算して、1日の労働時間が8時間に達しているため、B事業場で労働時間を延長して労働した場合、B事業場で延長して労働する時間(B事業場での所定外労働時間)は、全て法定外労働時間となります。
5 よって、B事業場で労働時間を延長して当該労働者に1日3時間を超えて労働させるためには、使用者BがB事業場の「時間外労働・休日労働に関する協定」で定めるところによって行わせる必要があります。また、B事業場で所定労働時間を超えて労働した1時間は法定時間外労働となり、法定労働時間を超えて労働させた使用者Bは、その延長した1時間の労働について割増賃金の支払義務を負います。


(パターン1)
A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日3時間(7:00~10:00)
・当日発生した所定外労働2時間(10:00~12:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日3時間(15:00~18:00)
・当日発生した所定外労働1時間(18:00~19:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(3時間)
②B事業場における所定労働時間(3時間)
の順に通算します。
→次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算するので、
③A事業場における所定外労働時間(2時間)
④B事業場における所定外労働時間(1時間)
の順に通算します。
→①+②+③でB事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間(8時間)に達するので、B事業場で行う1時間の所定外労働(18:00~19:00)は法定時間外労働となり、使用者Bはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。
f:id:sr-memorandum:20210805213628p:plain


(パターン2)
※設例・パターン1とは、1日の中でのA事業場・B事業場での労働の順を逆にしています。
A事業場:時間的に先に労働契約を締結
・所定労働時間1日3時間(14:00~17:00)
・当日発生した所定外労働2時間(17:00~19:00)
B事業場:時間的に後から労働契約を締結
・所定労働時間1日3時間(7:00~10:00)
・当日発生した所定外労働1時間(10:00~11:00)
→まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算するので、
①A事業場における所定労働時間(3時間)
②B事業場における所定労働時間(3時間)
の順に通算します。
→次に、所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算するので、
③B事業場における所定外労働時間(1時間)
④A事業場における所定外労働時間(2時間)
の順に通算します。
→①+②+③+(④のうち1時間)でA事業場の労働時間制度における1日の法定労働時間(8時間)に達するので、A事業場で行う1時間の所定外労働(18:00~19:00)は法定時間外労働となり、使用者Aはその1時間について割増賃金を支払う必要があります。
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フレックスタイム制に関する労働時間の通算の考え方

フレックスタイム制を導入している事業場(A事業場)においてフレックスタイム制で労働している労働者が、新たに別の事業場(B事業場)においてフレックスタイム制でない形で働く場合、当該別の事業場(B事業場)では、法定労働時間の関係で、日・週ごとに労働時間を通算して管理する必要がある一方で、フレックスタイム制の事業場(A事業場)における日々の労働時間は固定的なもの(固定的な労働時間)がなく予見可能性がないということが生じます(フレックスタイム制の事業場(A事業場)において、固定的な「コアタイム」を設けている場合でも、コアタイム以外の労働時間について予見可能性がないということが生じます。)。
こうした状況を踏まえた上で、フレックスタイム制の事業場においてもフレックスタイム制でない事業場においても副業・兼業に伴う労働時間の通算を適切に行うことができるよう、フレックスタイム制に関する労働時間の通算における「固定的なもの」「変動的なもの」は、以下のように考えられます。
フレックスタイム制の制度の詳細(労働時間の通算関係以外)については、パンフレット「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」を御覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

(1)フレックスタイム制でない事業場における労働時間の通算の考え方

フレックスタイム制でない事業場(B事業場)においては、上記のとおり、フレックスタイム制の事業場(A事業場)における日々の労働時間は固定的なものがなく予見可能性がないことから、フレックスタイム制の事業場(A事業場)における労働時間と自らの事業場(B事業場)における労働時間の通算を行うに当たって、
フレックスタイム制の事業場(A事業場)における1日・1週間の所定労働時間を、清算期間における法定労働時間の総枠の1日・1週分(1日8時間・1週40時間)であると仮定して、フレックスタイム制の事業場(A事業場)における労働時間について1日8時間・1週40時間を「固定的な労働時間」とし、
・次に、自らの事業場(B事業場)における「固定的な労働時間」(所定労働時間など、各労働時間制度において固定的なものと捉える労働時間:表参照)を、法定外労働時間として通算し、
・次に、自らの事業場(B事業場)における「変動的な労働時間」(所定外労働時間など、各労働時間制度において変動的なものと捉える労働時間:表参照)を、法定外労働時間として通算し、
・最後に、フレックスタイム制の事業場(A事業場)における清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間を通算する
こととなります。

※「フレックスタイム制の事業場(A事業場)における1日・1週間の所定労働時間を、清算期間における法定労働時間の総枠の1日・1週分(1日8時間・1週40時間)であると仮定」した上で労働時間の通算を行うという考え方を採用する理由は、この仮定により、B事業場が労働時間の通算に用いる「A事業場における日々の労働時間」に予見可能性を持たせることで、B事業場が自らの事業場における労働時間のうち法定労働時間を超える部分について予見できるようにし、これによりB事業場において「時間外労働・休日労働に関する協定」の締結時に「法定労働時間を超える時間数」を適正な時間数として定められるようにすることにあります。
なお、上記の労働時間の通算の考え方は、B事業場が労働時間の通算に用いる「A事業場における日々の労働時間」を予見可能とするための便宜的なものですので、B事業場において、
・使用者Bが、副業・兼業を行う労働者のA事業場における日ごとの労働時間を把握しており、
・A事業場における日ごとの労働時間とB事業場における労働時間を通算しても法定労働時間の枠に収まる部分が明確となっている
場合にまで、使用者Bが、B事業場における時間外労働の上限規制の遵守や割増賃金の支払を行うに当たり、A事業場における労働時間を1日8時間・1週40時間の前提で行うことまでを求めるものではなく、副業・兼業を行う労働者のA事業場における日ごとの労働時間と自らの事業場における日ごとの労働時間を通算して法定労働時間内に収まる部分の労働時間について、自らの事業場における時間外労働とは扱わず割増賃金を支払わないこととすることは差し支えありません。
ただし、このように、使用者Bが、労働者のA事業場における実際の労働時間を用いて、労働時間の通算を行うこととした場合、フレックスタイム制清算期間の範囲内においては、全てその方法で行う必要があり、「労働者からの申告等によって把握したA事業場における実際の労働時間が8時間未満の場合には実際の労働時間を用いて通算し、8時間を超える場合には1日8時間と仮定して通算を行う」ということは認められません。
※使用者Bが、
・「フレックスタイム制の事業場(A事業場)における1日・1週間の所定労働時間を、清算期間における法定労働時間の総枠の1日・1週分(1日8時間・1週40時間)であると仮定」した上で労働時間の通算を行う場合
・労働者のA事業場における実際の労働時間(日ごとの労働時間)を、労働者からの申告等により把握し、当該時間を用いて労働時間の通算を行う場合
のいずれの場合においても、通算して時間外労働となる時間のうち、使用者Bが労働させた時間(1日・1か月等の時間外労働)について、B事業場における「時間外労働・休日労働に関する協定」の延長時間の範囲内となっている必要があることに留意が必要です。
また、使用者Bが労働時間の通算方法として上記のいずれの方法を採用する場合においても、どのような通算方法を採用するかについて、使用者Bと副業・兼業を行う労働者との間で、副業・兼業の開始前にあらかじめ確認しておくことが重要です。

(2)フレックスタイム制の事業場における労働時間の通算の考え方

ア フレックスタイム制清算期間が1か月以内の場合

フレックスタイム制の事業場(清算期間が1か月以内のもの)が、自らの事業場(A事業場)における労働時間とフレックスタイム制でない他の事業場(B事業場)における労働時間の通算を行うに当たっては、
・自らの事業場(A事業場)における清算期間における法定労働時間の総枠の範囲内までの労働時間について「固定的な労働時間」とし、
・次に、当該清算期間中の他の事業場(B事業場)における「固定的な労働時間」(所定労働時間など、各労働時間制度において固定的なものと捉える労働時間:表参照)を、「固定的な労働時間」として通算し、
・次に、当該清算期間中の他の事業場(B事業場)における「変動的な労働時間」(所定外労働時間など、各労働時間制度において変動的なものと捉える労働時間:表参照)を、「変動的な労働時間」として通算し、
清算期間の最後に、自らの事業場(A事業場)における清算期間における法定労働時間の総枠を超えた労働時間を、「変動的な労働時間」として通算する
こととなります。

イ フレックスタイム制清算期間が1か月を超える場合

フレックスタイム制の事業場(清算期間が1か月を超えるもの)においては、
①1か月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①でカウントした労働時間を除く)
の両方が法定時間外労働となり、「清算期間の最終月以外の月」と「清算期間の最終月」で法定時間外労働のカウントの方法が異なることから、自らの事業場(A事業場)における労働時間とフレックスタイム制でない他の事業場(B事業場)における労働時間の通算を行うに当たっては、「清算期間の最終月以外の月」と「清算期間の最終月」でそれぞれ以下のとおりとなります。

(ア)清算期間の最終月以外の月

・その月の自らの事業場(A事業場)における労働時間のうち、週平均50時間となる範囲内までの労働時間(週平均50時間となる月間の労働時間数の算出方法:週50時間×当該月の暦日数÷7日)について「固定的な労働時間」とし、
・次に、当該月の他の事業場(B事業場)における「固定的な労働時間」(所定労働時間など、各労働時間制度において固定的なものと捉える労働時間:表参照)を、「固定的な労働時間」として通算し、
・次に、当該月の他の事業場(B事業場)における「変動的な労働時間」(所定外労働時間など、各労働時間制度において変動的なものと捉える労働時間:表参照)を、「変動的な労働時間」として通算し、
・その月の最後に、自らの事業場(A事業場)における労働時間のうち、週平均50時間を超過した労働時間(①)を、「変動的な労働時間」として通算することとなります。

(イ)清算期間の最終月

・最終月の自らの事業場(A事業場)における労働時間のうち、週平均50時間となる範囲内までの労働時間(週平均50時間となる月間の労働時間数の算出方法:週50時間×当該月の暦日数÷7日)であって、かつ、清算期間における法定労働時間の総枠の範囲内の労働時間について「固定的な労働時間」とし、
・次に、最終月の他の事業場(B事業場)における「固定的な労働時間」(所定労働時間など、各労働時間制度において固定的なものと捉える労働時間:表参照)を、「固定的な労働時間」として通算し、
・次に、最終月の他の事業場(B事業場)における「変動的な労働時間」(所定外労働時間など、各労働時間制度において変動的なものと捉える労働時間:表参照)を、「変動的な労働時間」として通算し、
・最終月の最後に、
②最終月の自らの事業場(A事業場)における労働時間のうち、週平均50時間を超過した労働時間
③自らの事業場(A事業場)における清算期間における法定労働時間の総枠を超えた労働時間(算出方法:清算期間における総実労働時間-最終月以外の月において①でカウントした労働時間-最終月において②でカウントした労働時間-清算期間における法定労働時間の総枠)
を、「変動的な労働時間」として通算することとなります。


<具体的な考え方のイメージ>
注)使用者A・B双方の事業場における法定労働時間を1日8時間・週40時間、所定労働日を月~金曜日、法定休日を日曜日と仮定して作成。
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○ 上図はフレックスタイム制の事業場とフレックスタイム制でない事業場との間で、労働時間の通算を行う場合の、一例を図示したものです。
○ B事業場では、A事業場における労働時間について1日8時間・1週40時間を「固定的な労働時間」として通算していますが、[フレックスタイム制に関する労働時間の通算の考え方]の(1)の※に示したとおり、B事業場において、使用者Bが、副業・兼業を行う労働者のA事業場における日ごとの労働時間を把握しており、A事業場における日ごとの労働時間とB事業場における労働時間を通算しても法定労働時間の枠に収まる部分が明確となっている場合は、副業・兼業を行う労働者のA事業場における日ごとの労働時間と自らの事業場における日ごとの労働時間を通算して法定労働時間内に収まる部分の労働時間について、自らの事業場における時間外労働とは扱わず割増賃金を支払わないこととすることは差し支えありません。