社会保険労務士川口正倫のブログ

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【解雇】関西金属工業事件( 大阪高判平19.7.17労判943号5頁)

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【解雇】関西金属工業事件(大阪高判平19.7.17労判943号5頁)

1.事件の概要

Xら10名は、工事用照明器具、電撃殺虫器等の製造及び販売を営むY社で正社員として勤務し、Xらは、いずれも全日本金属情報機器労働組合全大阪金属支部(以下「本件組合」という)の組合員である。
平成14年11月30日に、松下電工との取引が完全に解消され、Y社の売上高が減少したため、Y社は変更解約告知による労働条件の変更を行ったが、Xら10名は変更後の労働条件による新規募集に応募しなかった。
そこで、Y社はXら10名を整理解雇したが、XらはY社に対して従業員としての地位確認等を求めて提訴した。第一審は、係争中に定年を迎えたX10を除き、Xらの請求をいずれも認め、定年を迎えたX10の請求についても一部認容した。これに対して、Y社が控訴したのが本件である。

2.変更解約告知の経緯

①変更解約告知の内容

Y社は、平成16年4月16日、本件変更解約告知の通知を行った。
この本件変更解約告知の内容は、勤続25年以上の全従業員(希望退職者を除く)を同年5月20日付けで解雇し、他方で、解雇対象者について新規の条件での採用を募集するというものであった。なお新規募集期間は、①第1期として同年5月1日から同月7日まで、②第2期として同月8日から14日までとし、採用日は同月21日とされていた。
しかし、Y社は、対象とされた従業員が本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても、採用されない場合があることを明示していた。
すなわち、Y社作成の本件変更解約告知の通知文書においては、「採用決定通知を発行されなかった(選考にもれた)者に対しては、Y社の就業規則62条4号に基づき、5月20日付け(この日は、本件変更解約告知により解雇される日と同一であり、新規採用された場合における採用日の前日である)で整理解雇を行う」旨が明記されていた。
本件変更解約告知による解雇については、募集期間内に応募して採用が決定された者には、本来の退職金(自己都合によるもの)に加えて、次のとおり、優遇措置として勤続年数に応じた特別退職金を支払うこととするが、募集期間ごとに特別退職金の額は異なることとされた。

・第1期に本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した者の特別退職金
 勤続25年から41年まで:30万円
 勤続42年以上:60万円

・第2期に本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した者の特別退職金
 勤続25年から41年まで:25万円
 勤続42年以上:50万円

新規の採用条件の内容については、勤続25年以上41年以下の者については基本給等を第1期に応募した者については従前の70%、第2期に応募した者については従前の65%とすることとされていた。

②希望退職者追加募集

Y社は、平成16年5月12日、本件変更解約告知に応じない対象者が✕ら10名のみであったことから、同月14日を募集期限とする本件希望退職者追加募集を行った。
しかし、原告ら10名はいずれも、同日までに希望退職の応募をしなかった。

③解雇通知

Xら10名は、本件変更解約告知に応じなかったが、原告ら10名以外の本件変更解約告知の対象者は全てこれに応じ、その全員が新規採用された。
Y社は、平成16年5月17日、原告らに対し、同月20日付けで解雇する旨を通知した。

④本件計画を実施するに当たってのY社の説明

Y社は、本件組合や従業員に対し、本件計画の内容について、平成16年3月23日における第2次希望退職者募集の対象者に対する説明会や、同年4月5日開催の本件組合との団体交渉などの場で、次のとおり説明していた。
Y社は、第2次希望退職者募集における希望退職者が6名に達しなかったときには、6名に達するまでの人員を削減することを予定していること
6名分の人員削減の理由について、次の点

(ア)その当時、毎月1500万円から2000万円の営業損失が生じているという実情から、毎月の人件費を600万円削減させることにより、Y社の再建を図りたいこと
(イ)前記(ア)記載の600万円の人件費削減のうちの500万円分については本件計画における賃金の切下げ及び人員削減により実現させその余の100万円分については、役員報酬の切下げにより実現させる計画であること
(ウ)前記(イ)記載の500万円のうちの260万円分については、本件変更解約告知による賃金の切下げにより実現させ、240万円分については第2次希望退職者募集などによる人員削減により実現させる計画であること
(エ)前記(ウ)記載の240万円分に係る人員削減のためには、勤続25年以上の正社員の平均賃金が44万円であるために、6名分の人員削減が必要であること

3.判決の概要

本件解雇の有効性

(1) 本件変更解約告知とその後予定されていた整理解雇との関係
Y社は、本件変更解約告知の行使に当たって、その対象とされた従業員が本件変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても、採用されない場合があることを明示していたことが認められる。
しかし、本件変更解約告知と本件整理解雇とが、別個独立のものとして、主位的・予備的の関係にあるものとは考えられず、特に、Y社は、本件変更解約告知に当たって、その対象とされた従業員が変更解約告知に応じて新規採用に応募した場合であっても、変更解約告知により解雇される日(平成16年5月20日)と同一の日において整理解雇をすることを予定し、このような整理解雇が行われることによって新規採用の応募に対する採用決定がされないことがありうる旨を明記していることからすれば、変更解約告知の対象者の全員がこれに応じて新規採用に応募した場合であっても、Y社は、そのうちの6名については採用しないことを予定していたことが認められるから、6名について当初から整理解雇に至ることが予定されていたものと認められる。
変更解約告知とは、新たな労働条件での新雇用契約の締結(再雇用)の申込みを伴った従来の雇用契約の解約(解雇)であり、それを受け入れるか否かのイニシアティブは、労働者の側にあることから、解雇とは異なった扱いがされるものと解されるところ、本件変更解約告知は、その実態は、これに応じない者のうち6名に対しては、解雇することを予定しているものであるから、本件の変更解約告知を整理解雇と別個独立のものであるとするY社の主張は採用できない。

(2)人員整理の必要性
ところで、労働契約を解約(解雇)するとともに新たな労働条件での雇用契約の締結(再雇用)を募集すること(いわゆる変更解約告知)が、適法な使用者の措置として許される場合はあろうが、本件のように、それが労働条件の変更のみならず人員の削減を目的として行われ、一定の人員については再雇用しないことが予定されている場合には、整理解雇と同様の機能を有することとなるから、整理解雇の場合と同様に、その変更解約告知において再雇用されないことが予定された人員に見合った人員整理の必要性が存在することが必要となると考えられる。
すなわち、人員の削減を目的として本件のような変更解約告知が行われた場合に、変更解約告知に応じない者が多数生じたからといって、人員整理の必要性により本来許容されるべき限度を超えて解雇が行われることは許されないというべきである。この点について、Y社は、当審において、本件変更解約告知の計画当初から10名を削減する予定であったわけではなく、Xらが変更解約告知に応じなかった結果、10名の人員削減をせざるを得なかっただけであると主張し、Y社は、この6名分の人件費削減の必要性について十分な主張立証を行ってきたと主張している。  
確かに、本件解雇の当時には、Y社において人件費を削減する必要があったものと認められ、また、その人員数として、6名とすることも、あながちこれを不相当な規模の人員削減であるということはできないものと考えられる。
しかし、本件解雇では10名が解雇されているのであって、上記のとおり、本件解雇については、整理解雇と同様の要件を必要とするものと解される以上、10名を全員解雇する必要性があったことについて主張立証されることが必要であるというべきであり、たとえ6名の人員削減の必要性が認められたとしても、本件解雇は、同一の理由に基づいて同一の機会に行われており、特定の6名を選定する作業が実際に行われていない以上、結局のところ、本件解雇すべてについてその必要性が主張立証されなかったことに帰するというほかないのである。
そうすると、本件解雇においては、本件変更解約告知において削減された人員に見合った人員整理の必要性があったとは認めることができないこととなる。
  
(3) 解雇手続の相当性
Y社が摘示する証拠を精査するも、本件組合の「6名が10名になっても解雇するのか。」との質問に対し、Y社が「そうです、私はそう解釈しているが、次回にはっきりと回答します。」と答えているのみであって、10名の人員削減の必要性については何ら説明していないのであるから、上記事実をもってY社主張のように十分な協議・説明が尽くされたものなどとは到底いうことができない。ほかにY社主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は無効であると認められる。
なお、仮に6名までの人員整理の必要性が認められたとしても、Xらに対する本件解雇は同一の理由に基づいて同一の機会に行われており、特定の6名を選定する作業が実際に行われていない以上、本件解雇すべてを無効と認めるしかないというべきであり、特定の6名の解雇を有効とし、残りの4名の解雇だけを無効とすることはできない。  また、一定程度の人員整理の必要性が認められるものの、実際に何名までの人員整理の必要性があったかについては、前記の結論を左右するものではないので、それ以上の検討はしないこととする。

4.解説

本件のように、新契約締結の申込みをともなった従来の労働契約の解約(解雇)を変更解約告知といいますが、通常は労働条件の変更を目的としてなされるものです。
本件については、「変更解約告知の対象者の全員がこれに応じて新規採用に応募した場合であっても、Y社は、そのうちの6名については採用しないことを予定していたことが認められる」ことから、労働条件の変更と人員削減の両方を目的とした変更解約告知であると判断されています。
そして、このような場合は、整理解雇と同様の機能を有するため、整理解雇の4要件(①解雇の必要性、②人選の合理性、③解雇回避義務の履行、④解雇手続の相当性)の1つである、解雇の必要性(人員整理の必要性)が検討され、6名までしか必要性が認められませんでした。さらに、解雇手続の相当性についても、10名の解雇が必要であることの説明が十分にされておらず、相当な手続(十分な協議・説明を尽くすこと)がされていないと判断されました。
そして、特定の6名を選定する作業(人選の合理性も満たされていない)が、実際に行われていないことから10名全員の解雇を無効とされました。
なお、本裁判例では判断されていませんが、変更解約告知により、一種の解雇回避義務の履行が満たされたと考えることはできるかも知れません。