社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【整理解雇】大村野上事件(長崎地大村支判昭50.12.24労判242号14頁)

大村野上事件(長崎地大村支判昭50.12.24労判242号14頁)

審判:一審

裁判所名:長崎地方裁判所大村支部

事件番号:昭和50年(モ)41号

裁判年月日:昭和50年12月24日

1.事件の概要

Xら名は、メリヤス肌着等の製造を営むY社に勤務していた。Y社の業績は、昭和48年度は受注が大幅に伸びたため、従業員の増員を行ない、231名となった。ところが、昭和49年5月頃から繊維不況の影響を受け、受注が減少し始め、同年11月には昭和49年度の生産計画を下回った。Y社では、例年60名程度の任意退職者があることから、当初は新規採用を停止すれば従業員が自然に減少するものと見込んでいたが、同年度の任意退職者が少なかったため、希望退職を募ることもなく、主として工場長の意向により指名解雇を行った。 指名解雇の方法は、代替困難者ら185名を解雇対象者から除き、残る46名について、①出勤状況、②作業能力、③協調性、④共稼ぎ等の整理解雇基準に従ってXらを含む29名を解雇対象者に選定した。 昭和49年12月2日Y社は、全従業員に対し、人員整理の必要性について概括的な説明をし、その後、一人ずつ面接をし、解雇対象者には具体的理由を示さず、その場で解雇通告を行った。 これに対して、Xらが、Y社に労働契約上の地位確認等を求めて提訴したのが本件である。

2.判決な概要

当該整理解雇が権利濫用となるか否かは、①当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度にさし迫った必要性があること、②従業員の配置転換や一時帰休或いは希望退職者の募集等労働者にとって解雇よりもより苦痛の少ない方策によって余剰労働力を吸収する努力がなされたこと、③労働組合ないし労働者代表に対し事態を説明し了解を求め、人員整理の時期、規模、方法等について労働者側の納得が得られるよう努力したこと、④整理基準およびそれに基づく人選の仕方が客観的・合理的なものであること、である。

これを本件ついて見るに、本件解雇は不況による受注量減少を理由としてなされた解雇であるから、本来ならば今後の生産計画と照らし合わせ過剰となる従業員数を先ず確定し、次にその具体的人選に移る筋合いであるが、本件では一体何名の人員整理が本当に必要であったかが明らかでない。

このような基本的事項の確定すらされていないのであるから、いわんや29名の解雇をしなければ企業採算上とうなるかといった面からの検討がなされた形跡もない。そればかりか、本件解雇後、結婚・出産等の理由により、返って人手不足となってその後少なくとも4名以上の者を新規採用し、更に現在8名位の求人募集をしている事実を伴わせ考えれば、Y社において本件解雇を実施するに先立ち、もう少し誠意をもってきめ細かな検討を行っておれば、或いは本件解雇を実施するまでもなかったのではないかと思われるのであって、以上要するに、Xを含め29名の従業員を解雇するにつき前示のようなさし迫った必要性があったとは到底認められない。

仮に、本件解雇時、29名の従業員を整理しなければならぬ必要性が客観的に認められたとしても、Y社は親会社であるA社への配置転換や一時帰休或いは希望退職者の募集等労働者にとってより苦痛の少ない方策を採用して解雇を避ける努力を全くせず、当初から指名解雇の方針に固執した。

Y社は遅くとも昭和49年10月頃には人員整理の方針を決定したのであるから、労働者代表に対し人員整理の必要性について事態を説明し、その時期・規模・方法等の諸点につき協議をして労働者側の納得を得られるよう努力すべきであったのに何らそのような努力を払わず、本件解雇当日行われた朝礼の席上、初めて不況により人員整理を行わざるを得ない旨簡単に説明したのみで、予め解雇通告を行った。

このように本件解雇は、極めてずさんな人員計画から安易に指名解雇という結論を導いたものであって、以上の諸点を検討しただけでも既に解雇権行使のありようは、本来の権利行使として許容されるべき程度を著しく逸脱するものであることが認められるから、更に整理基準およびその適用の仕方の当否等の点につき事細かに当裁判所の判断を示すまでもなく、本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効であるといわねばならない。

3.解説

整理解雇が権利濫用となるか否かについて、①人員整理について「企業の維持存続が危殆に瀕する程度にさし迫った必要性」があり、②他の方法による「余剰労働力を吸収する努力」を行い、③組合や労働者に対して説明し「労働者側の納得が得られるよう努力」し、④選定基準や人選が「客観的・合理的」なこと、4つであること。いわゆる「整理解雇四要件」を最初に示した判例

これに続く、東洋酸素事件(東京高判昭和54.10.29労判330号71頁)でも、当事件と同様の4基準を、①の人員整理の必要性という要件を緩和して、示されている。