社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【普通解雇】ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件(東京地判平23.9.21労判1038号39頁)

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ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件(東京地判平23.9.21労判1038号39頁)

1.事件の概要

Xは、世界的に広告事業を展開する訴外A社(本社米国)の日本法人であるY社で、広告表現の企画と制作を担当するクリエイティブ部門において、クリエイティブディレクター(CD)として勤務していた。
Y社は、平成18年3月、Xに対し、Y社の業績悪化およびXの勤務成績不良を理由として退職勧奨をし、同年7月頃からXを仕事から外し、平成19年2月には、社内への立入禁止を通知し、2月分以降の賃金の支払を停止した。そこで、Xは、退職勧奨の禁止を求める労働審判、賃金仮払を求める仮処分等(前件訴訟)を提起した。この前件訴訟では、Xが一審・二審ともの勝訴したところ、Y社は、平成21年7月3日、上告受理申立てを取り下げ、同年10日、判決で命じられた賃金を支払った。
ところが、その直後の同月16日付で、Y社はXに対して退職勧奨を行い、同年10月15日、Xに対して解雇を通告した。(私見ですが、再度紛争になってでも解雇したかったんでしょうね。こういう事例を見ると金銭解雇のしくみが必要だとつくづく思います。
なお、解雇理由は、①勤務不良、能力不足、②整理解雇であった。
これを受けて(当然の如く)、Y社に対して、従業員としての地位確認等を求めて提訴したのが本件である。

2.判決の概要

Xが、Y社において相当程度高額の賃金の支払を受けており、中途採用者として、入社当初からCDとしての成果が求められる立場にあったことが認められるが、最重要の担当ブランドである「モッズヘア」については、特に躍進こそなかったものの、逆に急落もしてもいないのであって、一定ほシェアを維持していたものといえること、「ボーダフォン」に関する社内コンペでは、芳しい成績を残すことはできなかったが、あくまで社内コンペであって、実際に信用を失墜したというようなものでなかったこと、人事評価についても、平成17年まではむしろ良好であり、平成18年の評価は必ずしもXの業務の実態を正しく示したものと認められないこと等を認定し、本件解雇について、客観的で合理的な理由があるとまでは認められないとした。
また、整理解雇の主張については、人員削減の必要性に関して、Y社の経営状況が客観的に高度の経営危機下にあることや、倒産の危機に瀕していることを認めるには足りないとし、解雇回避措置についても、希望退職者を募集したことに加えて、せいぜい不利益緩和措置としての退職条件の提示を行ったという程度であって、甚だ不十分と言わざるを得ないとした。
さらに、Y社は、前件訴訟により、Xに関する雇用契約上の地位確認訴訟等につきほぼ全部敗訴の判決が確定したにもかかわらず、その後も約2年間にわたってXの出勤を許さず、したがって何ら成果を挙げる機会も与えられないまま、再び退職勧奨をするに至ったことが認められるのであり、これは、解雇の相当性に大きな疑念を生ぜしめる事情というべきあり、整理解雇としても有効性が認められず、本件解雇を無効とした。

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