社会保険労務士川口正倫のブログ

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監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成31年度・令和元年度)

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監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成31年度・令和元年度)

厚生労働省にて、労働基準監督署が監督指導を行った結果、平成31年度・令和元年度に、不払だった割増賃金が支払われたもののうち、支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を取りまとめられています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00002.html


【監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成31年度・令和元年度)のポイント】
(1) 是正企業数 1,611企業(前年度比 157企業の減)
  うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、161企業(前年度比 67企業の減)
(2) 対象労働者数 7万8,717人(同3万9,963人の減)
(3) 支払われた割増賃金合計額 98億4,068万円(同26億815万円の減)
(4) 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり611万円、労働者1人当たり13万円


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賃金不払残業の解消のための取組事例

事例1(業種:自動車・同付属品製造業)

賃金不払残業の状況【キーワード:タイムカード打刻後の労働 】
◆賃金不払残業の防止を目的として 、 労基署が立入調査 を 実施 。
◆検査部門の労働者に対し 、 所定終業時刻にタイムカードを打刻させた後 、 部品の検査を行わせており 、 検査した個数に応じて 「 手当 」 を支払っていたが 、 作業に要した時間を確認した結果 、 賃金不払残業の疑いが認められたため 、 実態調査を行うよう指導 。

企業が実施した解消策
◆検査部門の労働者へのヒアリングを基に実態調査を行った上で 、 不払と なっていた割増賃金を支払った 。
◆賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
①「労働時間適正把握ガイドライン」に基づく労働時間の考え方について資料を作成し、全ての労働者に説明を行うとともに、社長がコンプライアンスを宣言した。
②タイムカードは作業終了時に打刻させることとし、残業する必要がある場合にはあらかじめ申請書を提出させ、申請を基に労働時間を把握することとした。
③残業申請された時間とタイムカードの記録との間にかい離があった場合は、労働者本人とその管理者に対し、かい離の原因について確認を行うこととした。

事例2(業種:産業廃棄物処理業)

賃金不払残業の状況【キーワード:始業前残業と労働時間の切り捨て】
◆「タイムカード打刻前の朝礼と車両点検に対して割増賃金が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。
◆産業廃棄物の収集車の運転者に対し、始業前の朝礼への出席と車両点検を義務づけていたほか、労働時間の算定の際に、1日ごとに30分単位で切り捨て計算を行っており、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

企業が実施した解消策
◆産業廃棄物の収集車の運転者に対し、朝礼と車両点検に要した時間、切り捨てされていた時間について実態調査を行った上で、不払となっていた割増賃金を支払った。
◆賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
①役員から全ての労働者に対して、労基署の指導内容やコンプライアンスの重要性を説明し、「労働時間適正把握ガイドライン」に基づく労働時間の適正な把握について教育研修を行った。
②30分未満の労働時間を切り捨てる方式を廃止したほか、朝礼及び車両点検については、始業後に実施することとした。
③労働時間の適正な管理を徹底するため、タイムカードの記録と車両の運行記録などの記録に大幅なかい離があった場合には、かい離の原因について聴取を行うこととした。

事例3(業種:飲食店)

賃金不払残業の状況【キーワード:自己申告制の不適切な運用 】
◆「残業代が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。
◆労働者がパソコンに入力する出退勤時刻により労働時間管理を行っていたが、店舗への入退場を管理する静脈認証システムの記録との間にかい離が認められ、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

企業が実施した解消策
◆店舗に勤務する労働者からのヒアリングなどを基に実態調査を行った上で、不払となっていた割増賃金を支払った。
◆賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
①全ての労働者を対象に労働時間の適正な管理に関する社内教育を実施し、その場で社長から、コンプライアンスが最重要であり、企業全体としてこれに取り組んでいくとの決意表明を行った。
②パソコンへの入力による管理を廃止し、静脈認証システムによる客観的な記録を基礎として労働時間を把握することとし、適正なシステム運用を行うよう、各店舗に注意事項を掲示した。

事例4(業種:卸売業)

賃金不払残業の状況【キーワード:固定残業代制度の不適切な運用】
◆「労働時間が全く把握されておらず、残業代が一切支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。
◆労働者に対し、月10時間から42時間相当の残業手当を定額で支払っていたが、実際の労働時間を全く把握しておらず、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

企業が実施した解消策
◆パソコンの送信メールのログ記録や労働者からのヒアリングなどを基に実態調査を行った上で、不払となっていた割増賃金を支払った。
◆賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
①「労働時間適正把握ガイドライン」に基づく労働時間の考え方について資料を作成し、管理者を含めた全ての労働者に周知するとともに、社内のイントラネット上で、いつでも閲覧できるようにした。
②パソコンのオン/オフ時の時刻を自動で記録する勤怠管理システムを導入し、客観的な記録を基礎として労働時間を把握することとした。
③管理者が、労働者がパソコンをオフ後に仕事を行っていないかなど、勤怠管理システムによる労働時間の管理が適正に行われているかについて日常的に確認し、問題が認められた場合には、労働者本人とその上司に対して指導を行うこととした。


(参照)
労働基準監督署による調査の概要