2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました
https://www.rosei.jp/lawdb/common/data/pamphlet/file/0109439GY1.pdf
2020年(令和2年)6月1日から、
・中小事業主以外では、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。
・中小事業主では、ひとまずは努力義務ですが、2022年(令和4年)4月1日から義務化されます。
下表の業種・資本金・従業員数に応じた分類にあてはまる事業主が中小事業主に該当します。
(①又は②のいずれかを満たすもの)
1.職場における「パワーハラスメント」とは
職場における「パワーハラスメント」とは、職場において行われる次の①~③までの要素を全て満たすものをいいます。
- ①優越的な関係を背景とした言動
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- ③労働者の就業環境が害されるもの
※ 客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。
具体的な内容は次のとおりです。
①優越的な関係を背景とした言動
当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの
(例)
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの等
※優越的な関係であって地位ではないことに注意。同僚や部下であっても優越的な関係であれば該当します。
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの
(例)「職場におけるパワハラに該当すると考えられる例/該当しないと考えられる例」を参照
③労働者の就業環境が害される
○ 当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
○ この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当
(例)「職場におけるパワハラに該当すると考えられる例/該当しないと考えられる例」を参照
■ 個別の事案について、その該当性を判断するに当たっては、当該事案における様々な要素(※)を総合的に考慮して判断することが必要です。
※ 当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性、当該言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等
■ また、その判断に際しては、相談窓口の担当者等が相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要です。
<職場におけるパワハラに該当すると考えられる例/該当しないと考えられる例>
以下は代表的な言動の類型、類型ごとに典型的に職場におけるパワハラに該当し、又は該当しないと考えられる例です。個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、例は限定列挙ではないことに十分留意し、職場におけるパワハラに該当するか微妙なものも含め広く相談に対応するなど、適切な対応を行うことが必要です。
※ 例は優越的な関係を背景として行われたものであることが前提です。
2.事業主及び労働者の責務
以下の事項に努めることが、事業主・労働者の責務として法律上明確化されました。
【事業主の責務】
■ 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題(以下「ハラスメン問題」という。)に対する労働者の関心と理解を深めること
■ その雇用する労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと
■ 事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと
【労働者の責務】
■ ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(※)に対する言動に注意を払うこと
■ 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
※ 取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。
3.職場におけるパワーハラスメントの防止のために講ずべき措置
事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません(義務)。
◆ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること
◆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること
④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること
◆ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
➄ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(注1)
⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと(注1)
⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(注2)
注1 事実確認ができた場合
注2 事実確認ができなかった場合も同様
4.事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止
事業主は、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いをすることが、法律上禁止されました。
5.望ましい取組
望ましい取組についても、責務の趣旨も踏まえ、積極的な対応をしましょう。
※ 【★】の事項については、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても同様に望ましい取組とされています。
職場におけるパワーハラスメントを防止するための望ましい取組
■ セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント等と一元的に相談に応じることのできる体制の整備【★】
■ 職場におけるパワハラの原因や背景となる要因を解消するための取組
・コミュニケーションの活性化や円滑化のための研修等の必要な取組
・適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組
■ 必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、雇用管理上の措置の運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めること【★】
自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組【★】~就活生などの求職者や個人事業主などのフリーランス等~
■ 職場におけるパワハラを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者、労働者以外の者(個人事業主などのフリーランス、インターンシップを行う者、教育実習生等)に対しても同様の方針を併せて示すこと
■ 雇用管理上の措置全体も参考にしつつ、適切な相談対応等に努めること
・特に就職活動中の学生に対するセクシュアルハラスメント等については、正式な採用活動のみならず、OB・OG訪問等の場においても問題化しています。
・企業としての責任を自覚し、OB・OG訪問等の際も含めて、セクシュアルハラスメント等は行ってはならないものであり厳正な対応を行う旨などを研修等の実施により社員に対して周知徹底すること、OB・OG訪問等を含めて学生と接する際のルールをあらかじめ定めること等により、未然の防止に努めましょう。
6.職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止対策も強化されました
職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、雇用管理上の措置を講じることが既に義務付けられています。
今回の法改正により、以下のとおり、防止対策が強化されました。
(①・②の内容は職場におけるパワーハラスメントと同様です。)
- ① 事業主及び労働者の責務
- ② 事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止
- ③ 自社の労働者が他社の労働者にセクシュアルハラスメントを行った場合の協力対応
※ セクシュアルハラスメントのみ
自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行い、他社が実施する雇用管理上の措置(事実確認等)への協力を求められた場合、これに応じるよう努めることとされました。
※ なお、セクハラについては、他社の労働者等の社外の者が行為者の場合についても、雇用管理上の措置義務の対象となっています。
自社の労働者が他社の労働者等からセクハラを受けた場合には、必要に応じて他社に事実関係の確認や再発防止への協力を求めることも雇用管理上の措置に含まれます。
◎ 職場における「セクシュアルハラスメント」とは、
職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることをいいます。
※ 労働者を雇用する雇用主や上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等も含まれます。
※ 職場におけるセクシュアルハラスメントは、異性に対するものだけではなく、同性に対するものの含まれます。
※ 被害を受ける者の性的指向や性自認にかかわらず、「性的な言動」であればセクシュアルハラスメントに該当します。
◎ 職場における「妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント」とは、
職場において行われる、上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されることをいいます。
※ 業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。
※ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景には、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動(注)が頻繁に行われるなど、制度等の利用や請求をしにくい職場風土や、制度等の利用ができることについて職場内での周知が不十分であることが考えられます。
制度等を利用する本人だけでなく全従業員に理解を深めてもらうとともに、制度等の利用や請求をしやすくするような工夫をすることが大切です。
注: 不妊治療に対する否定的な言動を含め、他の労働者の妊娠・出産等の否定につながる言動や制度等の利用否定につながる言動で、当該女性労働者に直接言わない場合も含みます。また単なる自らの意思の表明を除きます。
セクハラ等の防止対策の強化の内容については、事業所の規模を問わず、2020年(令和2年)6月1日から施行されました。