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【同一労働同一賃金】学校法人産業医科大学事件(福岡高判平30.11.19労判1198号63頁)

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学校法人産業医科大学事件(福岡高判平30.11.19労判1198号63頁)

裁判所名     :福岡地方裁判所
事件番号     :平成29年(ネ)886号
裁判年月日    :平成30年11月29日
裁判区分     :判決

1.事件の概要

Xは、学校法人Yが運営する大学病院で臨時職員として勤務していた。XとYの間の労働契約(以下「本件労働契約」という。)は、任期を1年とする有期契約で更新されてきていた。Xは、Yの対して、本件に係る賃金の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、無期労働契約を締結している労働者(以下「正規職員」という。)との間で著しい賃金格差を生じており、労働契約法20条及び公序良俗に違反するとして、不法行為に基づき、損害金等の支払を求めて提訴した。第一審がXの請求を棄却したため、控訴したのが本件である。

2.判決の要旨

争点1 平成25年4月1日から現在までの本件労働契約における賃金の定めが労働契約法20条に違反するかについて

(1)労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が、期間の定めがあることにより、同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)の労働条件と相違する場合において、当該労働条件の相違が労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
そして、労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)参照)。
これを本件についてみると、Xと対照職員との俸給(正規職員)ないし給与月額(臨時職員)(以下、併せて「基本給」という。)に係る労働条件の相違は、臨時職員において、正規職員に適用される就業規則のうち、採用、給与、勤務時間等について「臨時職員の取扱いに関する件」が適用されることにより生じているものである。そうすると、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものということができる。したがって、臨時職員と正規職員の基本給に係る労働条件は、同条にいう「期間の定めがあることにより」相違している場合に当たる。

(2)そして、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものをいうと解するのが相当である(ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)参照)。
これを踏まえて、基本給に係る相違が職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか検討する。

(3) Xは、平成25年4月1日から平成27年7月までの基本給について、Xとほぼ同じ勤続年数の正規職員(対照職員)等の基本給と比較して、その相違が不合理であると主張する。

ア しかし、対照職員のうちB氏、C氏については、学校法人Yに採用されて以来、専門的ないし技術的業務に携わってきたものであり、Xの業務内容とは差異があり、その職務の内容等に照らし、本件労働契約における賃金の定めが不合理であることを根拠づけることはできない。
イ 対照職員のうちA氏、D氏、E氏について、その経歴等は、平成25年4月1日から平成27年7月まで(以下「比較対象期間」という。)の賃金との比較においては、その間の業務内容やその範囲、業務量等において同等のものと認めるに足る証拠はない。
ウ D氏、E氏についてみると、各対照職員は、Xと同じく大学病院において教務職員としての業務をしたことがあるところ、教務職員とは、大学の各科に配置される事務職系職員のことをいい、庶務業務、経理業務、教育関係業務等を行うものであるが、学校法人Yにおいては、職制の変更により、現在、教務職員の業務は、基本的にアルバイトが行っていることが認められる。
そこで、上記比較対象期間の直近で、正規職員が教務職員として業務を行うこともあった平成24年4月当時をみると、D氏は、当時、大学事務部大学管理課主任(I)として勤務し、E氏は、J主任として勤務していたもので、E氏は、Xとは、その業務内容が同じということはできないが、D氏は、その担当していた業務の内容がXと類似していた。しかし、平成24年当時のD氏の業務を詳しくみると、D氏が主任として教務職員の業務を遂行したIの年間講義時間数は、少なくとも64時間であり、Xの担当する歯科口腔外科の28時間の約2倍、経理業務の対象となる外部資金管理は約3200万円であって歯科口腔外科の約150万円の約20倍であり、当該業務に伴う業務の範囲や責任の程度には違いがあった。
また、職務の内容及び配置の各変更の範囲に関してみると、正規職員は、大学病院だけでなく、大学本体、各種研究支援施設などの全ての部署に配属される可能性があるほか、出向を含む異動の可能性があり、大学の総務、財務、大学管理、大学病院や各種研究支援施設の管理などの多様な業務を担当することが予定されている。D氏は、比較対象期間の前後をみても、平成17年4月1日に大学事務部学事課(K)主任から同課(L)主任に異動になり、平成25年4月1日に大学事務部大学管理科主任(I)から病院事務部病院管理課主任に配置替えになっており、実際に配置転換を命じられていた。さらに、学校法人Yにおいて、正規職員は、等級役職制度(人事制度上のものとしての等級制度と組織上のものとしての役職制度が合わさったもの)が設けられており、人事考課制度を通じて、職務遂行能力に見合う等級・役職への格付けを行い、将来、学校法人Yの中核を担う人材として登用される可能性がある。これに対し、臨時職員は、大学病院の勤務であり、規定上異動は予定されておらず、出向もなく、業務内容の変更も予定されていない。また、臨時職員は、人事考課制度の対象ではなく、将来、前記のような人材として登用されることも予定されていない。Xにおいても、学校法人Yに雇用されて以来、歯科口腔外科に配置され、その後、配置転換や業務の変更がなされなかったことが認められる。
以上のとおり、正規職員である対照職員と臨時職員であるXとの間では、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)に違いがあるということができ、さらに、両者は、その可能性だけでなく、実際上も職務の内容及び配置の各変更の範囲において相違があるということができる。

エ  しかし、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として、「その他の事情」を挙げているところ、その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである(長澤運輸事件(最二小判平30.6.1労判1179号34頁))。
これを本件についてみると、学校法人Yにおいては、正規職員について定年制を採用するところ、学校法人Yにおける臨時職員は、1月以上、1年以内と期間を限定して雇用されるもので、学校法人Yが大学病院を開院した昭和54年から昭和57年までに新規採用され、学校法人Yは、昭和55年から昭和62年まで、臨時職員向けの正規職員への登用試験を実施し、正規職員として採用された者もいたものである。
そうすると、学校法人Yの雇用する正規職員は、定年制であって、長期雇用や年功的処遇を前提とするもので、その賃金体系も、当該労働者を定年退職するまでの長期間雇用することを前提に定められたものであると解されるのに対し、臨時職員は、1月以上、1年以内と期間を限定して雇用する職員であって、学校法人Yにおいては、大学病院開院当時の人員不足を一時的に補う目的で採用を開始したもので、間もなく採用を中止し、正規職員への登用試験を実施するなど、臨時職員については、長期間雇用することを採用当時は予定していなかったものと推認される。
しかし、実際には、Xは、昭和55年8月に採用され、30年以上も臨時職員として雇用されている。
そうすると、1か月ないし1年の短期という条件で、しかも大学病院開院当時の人員不足を補う目的のために4年間に限り臨時職員として採用された有期契約労働者が、30年以上もの長期にわたり雇い止めもなく雇用されるという、その採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たるというべきである。

(4) 上記に述べたところを踏まえて、さらに、学校法人Yにおける臨時職員であるXと正規職員との基本給に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する。

ア 学校法人Yは、正規職員に対し、俸給、賞与のほか、退職時には退職手当を支給しているが、臨時職員に対しては、給与、賞与(支給月数は正規職員と同じ。)を支給するが、原則として時間外勤務等をさせず、宿日直勤務をさせないこととなっている。また、退職手当も支給しない。臨時職員は、人事考課制度の対象ではなく、その給与月額は、「臨時職員の取扱いに関する件」により雇用期間や職種に関わりなく、毎年一律に定められており、その金額は、毎年人事院勧告に従い引き下げや引き上げが行われていた(なお、平成21年以降は、臨時職員について引き下げは実施されていない。)。基本給は、従業員に対して固定的に支給される賃金であるところ、X(昭和55年8月採用)の基本給の額は、平成25年4月に18万2100円であったのに対し、Xと同じ頃(昭和56年4月)採用されたD氏は、平成25年3月当時37万6976円であり、その額は約2倍となっている。
たしかに、臨時職員と正規職員との間においては、前判示のとおり、職務の内容はもとより、職務内容及び配置の各変更の範囲に違いがあるが、対照職員らは、いずれも一般職研究補助員として採用され、当初は、大学事務部学事課に属し、大学(M)卒業(中途採用)のA氏は同課N勤務、高校卒業のB氏は同課(G)勤務、大学(O)卒業のC氏は同課(H教室)勤務、大学(P)卒業のD氏は同課(Q)勤務、短大(R)卒業のE氏は大学事務部S勤務となり、6年ないし10年の後に主任となったもので、そうすると、前判示のとおり、専門的、技術的業務に携わってきたB氏、C氏を除くと、いずれも当初は、教務職員を含む一般職研究補助員としてXと類似した業務に携わり、業務に対する習熟度を上げるなどし、採用から6年ないし10年で主任として管理業務に携わるないし携わることができる地位に昇格したものということができる。
なお、Xは、正規職員の採用試験を1度受験したものの、学校法人Yにおいて合格の取扱いはしておらず、Xは、受験に伴い学長秘書室での勤務の打診があったが、歯科口腔外科での継続勤務を希望して、その後、受験することはなかった。
また、学校法人Yにおいては、短大卒で正規職員として新規採用された場合の賃金モデルを平成24年度の俸給表をもとに作成すると、概ね採用から8年ないし9年で主任に昇格し、その時点での俸給は22万2000円(2級21号)となり、主任昇格前は約21万1600円(1級53号)となる。

イ  これらの事情を総合考慮すると、臨時職員と対照職員との比較対象期間及びその直近の職務の内容並びに職務の内容及び配置の各変更の範囲に違いがあり、Xが大学病院内での同一の科での継続勤務を希望したといった事情を踏まえても、30年以上の長期にわたり雇用を続け、業務に対する習熟度を上げたXに対し、臨時職員であるとして人事院勧告に従った賃金の引き上げのみであって、Xと学歴が同じ短大卒の正規職員が管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず、現在では、同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができるものであり、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

ウ なお、学校法人Yは、組合との交渉の結果、平成25年4月から臨時職員について嘱託職員への切り替えによる3万円の基本給の引上げを提案し、組合や、Xを除く臨時職員全員(4名)が了承し、Xについても同様の基本給のベースアップを実施したことが認められる。労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということができるが、臨時職員については、正規職員への登用や採用が中止されてからの期間の経過の中で退職する者がいたりして、その数が少数になっていったことが認められ、必ずしも、団体交渉等による労使自治により、労働条件の改善が図られていたということができない事情があった。このような事情は、臨時職員としての有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものということができ、上記賃金引上げの実施は、その後の賃金差額や上記引上げの実施時期に照らして、上記認定を左右するものではない。

(6) そして、学校法人Yが、30年以上の長きにわたり、月額給与について人事院勧告に従った賃金の引上げしかしてこなかったことに照らすと、学校法人Yが、上記労働契約法20条に違反した取扱いをしたことについては、過失があったというべきである。

争点2 平成24年8月から平成25年3月までの本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反し、これを改善するための措置をとらない学校法人Yの行為が違法であるかについて

Xは、Xと正規職員との俸給の差は不合理なものであるから、本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反すると主張するが、労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができるというのが相当である。そして、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということができ、前記認定事実に加え証拠(甲61の10)によれば、学校法人Yは、団体交渉を経て、臨時職員の退職金についての労働条件を一部改善し、また、平成25年4月からは嘱託職員への切り替えによる3万円の基本給引上げも実施したことが認められ、これらからすれば、Xが主張する事情から、本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反するということはできない。

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