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【同一労働同一賃金】大阪医科薬科大学事件(大阪高判平31.2.15号労判1199号5頁)

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大阪医科薬科大学事件(大阪高判平31.2.15号労判1199号5頁)

本裁判例最高裁判決が2020年10月13日に出ています。
詳細は、こちらをご確認ください。
大阪医科薬科大学事件(最判小三令2.10.13引用元裁判所HP)

裁判所名    :大阪高等裁判所
事件番号    :平成30年(ネ)406号
裁判年月日   :平成31年2月15日
裁判区分    :判決

1.事件の概要

Xは、平成25年1月、医科大学や同附属病院等を運営するY法人との間で期間雇用契約を締結し、期間1年の雇用契約を更新しながら平成28年3月までアルバイト職員として、Y法人で勤務していた。Xは、Y法人の運営するA大学の教室事務員として、教授等のスケジュール管理、電話・メール・来客・業者対応、各種事務、清掃等の業務を行っていた。
Xは、期間の定めのない労働契約をY社と締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)とXとの間で、基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金支給、年休の日数、夏期特別有給休暇、業務外の疾病(私傷病)による欠勤中の賃金、附属病院の医療費補助措置に相違があることは労働契約法(労契法)20条に違反すると主張して、Y社に対し、不法行為に基づき、差額に相当する額等合計1,272万1,811円の損害賠償金等を求めて提訴したが、第一審がこれを棄却したため、Xが控訴したのが本件である。

2.判決の要旨

① 労契法20条の趣旨について

(1) 労契法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は、有期契約労働者については、無期契約労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。
そして、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(職務の内容等)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

(2)労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提としているから、両者の労働条
件が相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方、期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は、労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。
そうすると、同条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。

(3)次に、労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して「不合理と認められるものであってはなら
ない」と規定していることに照らせば、同条は飽くまでも労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解することが文理に沿うものといえる。また、同条は、職務の内容等が異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定であるところ、両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。
したがって、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。そして、両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから、当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が、それぞれ主張立証責任を負うものと解される。(以上につき、ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)参照

(4)労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。また、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして、労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情と
して、「その他の事情」を挙げているところ、その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。
したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。(長澤運輸事件(最二小判平30.6.1労判1179号34頁)参照

②争点1 期間の定めがあることを理由とする相違にあたるかについて

①(2)のとおり、労契法20条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
これを本件についてみると、賃金、賞与等Xが主張するXとB氏を含む正職員との労働条件の相違は、アルバイト職員と正職員とでそれぞれ異なる就業規則等が適用されることにより生じているものであるから、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。
したがって、XとB氏を含む正職員との上記労働条件は、同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。

②争点2 不合理な労働条件の相違にあたるかについて

(1)労働条件の相違を判断するに当たっての比較対象者及びY法人の休職規程等の適用範囲について
ア 当裁判所も、Xと正職員との労働条件の相違が不合理か否かを判断するために比較対照すべき無期契約労働者は、Y法人の正職員全体であり、かつ、Xの労働条件はアルバイト職員就業内規に定められているところにより、他の規程が適用されるものではないと判断する。

イ Xは、Xと労働条件を比較対照すべきであるのは基礎系教室に教室事務員として配属されている無期契約労働者(その中でもB氏)である旨主張する。
しかし、労契法20条は、「同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者」と規定しているのであるから、有期契約労働者の比較対象となる無期契約労働者は、むしろ、同一の使用者と同一の労働条件の下で期間の定めのない労働契約を締結している労働者全体と解すべきである。Xは、裁判所は、有期契約労働者側が設定した比較対象者との関係で不合理な相違があるかどうかを判断すべきであるとも主張するが、比較対象者は客観的に定まるものであって、有期契約労働者側が選択できる性質のものではない。
正職員には配転の可能性があること、正職員には業務・責任が異なる者が混在していることは、Y法人においては、正職員が法人全体のあらゆる部門における事務を担っているからにほかならない。Y法人の正職員一人一人は、どの部署に配転されても一定の要求水準に見合った労務の提供をすることを期待されており、そのような要求水準に適う労務を提供することができるという合理的な期待があるからこそ、各労働者は正職員として採用され、正職員としての労働条件が適用されていると解することができる。正職員の労働条件が単一の就業規則をもって定められていることからすれば、教室事務員という一部署の正職員を比較対象とすることは適切ではない。正職員には配転可能性があること、正職員には業務・責任の異なる者がいることを理由に正職員全体を比較対象にできないというのは、正職員という無期契約労働者の基本的な就労実態から離れるものとなる。
Xの上記主張は採用することができない。
なお、教室事務員のB氏についてみると、平成27年4月1日現在で勤続19年と勤続年数が長いことが認められる。Y法人の正職員には昇給制度があるこ
と、勤続年数の長さからは経験における違いも大きいものと推測されることからすれば、これらの点でも、B氏を適切な比較対象者ということはできない。

(2)賃金(基本給)について
ア (1)のとおり、Xと労働条件を比較対照すべきはY法人の正職員全体とすべきである。しかし、賃金(基本給)についてみると、その対象者は、Xが平成25年1月29日に採用されたことからすると、Y法人の正職員全体の中でも、これに近接した時期である同年4月1日付けで新規採用された正職員とするのが相当である。
認定事実のとおり、①アルバイト職員は時給制であるのに対し、正職員は月給制であること、②Xの時給は950円(採用当初)であったが、平成25年4月新規採用の正職員の初任給は19万2570円であったことが認められる。
そして、別紙賃金比較表のとおり、Xの平成25年4月から平成26年3月までの賃金は、最低が13万9175円、最高が16万2451円であって、平均月額は14万9170円であった。もっとも、1か月に21日又は23日、フルタイム(1日7時間20分)で勤務すると、計算上、Xの月額賃金は、約15万円から16万円程度となる。
いずれにせよ、Xと平成25年4月新規採用の正職員との間には、2割程度の賃金格差がある。

イ アルバイト職員は時給制、正職員は月給制という労働条件の相違についてみると、どちらも賃金の定め方として一般に受け入れられているものである。その上、認定事実によれば、アルバイト職員は短時間勤務者が約6割を占めていることが認められる。そのことを踏まえると、アルバイト職員に、短時間勤務者に適した時給制を採用していることは不合理とはいえない。
ウ 認定事実のとおり、Y法人の正職員は、法人全体のあらゆる業務に携わっており、その業務内容は総務、学務、病院事務等多岐にわたる上、例えば、法人の事業計画の立案・作成、法人の経営計画の管理・遂行、法人の組織及び職制の改善計画の立案等法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含
まれ、業務に伴う責任も大きく、また、あらゆる部署への異動の可能性があったこと、一方、アルバイト職員が行う事務は、教室事務員以外の者でみると、書類のコピーや製本、仕分け、パソコンの登録等の定型的な事務であり、教室事務員においても(これはアルバイト職員に限られないが)、多くの教室では、所属する教授等のスケジュール管理・日程調整、各種事務、備品管理等の定型的で簡便な業務や雑務が大半であり、配置転換は例外的であったことを認めることができる。
Xは、Y法人は教室事務員を正職員からアルバイト職員に置き換える過程にあったから、教室事務員に正職員しか行えない特別な業務は存在しなかった、教室事務員は、総務、人事、経理関係など多種多様な幅広い業務に従事しており、定型的で簡便な業務や雑務が大半というわけではなかった、アルバイト職員であっても正職員の教室事務員と異ならない頻度の異動があった旨主張する。
しかし、教室事務員のうち正職員として残っている4名の者が、教室事務員としての業務のほかに定型的かつ簡便とはいえない業務も担当していたことは、認定事実のとおりである。
一方、Xの担当した業務は、Xが後任のために作成した教室事務員としての業務の引継書/をみると、毎日することは、「各先生方の予定の把握、確認」「ポットの水を替える。」「コーヒーを沸かす。」「B教授のコーヒーを朝夕2回入れる。」「1階メールセンターに郵便物を取りに行く(できれば朝夕2回)」に尽き、一週間のうちすることも、「ゴミがいっぱいになっていたら捨てる。」「水曜日午後に声をかけて白衣を集めてクリーニングに出し、木曜日に先週のを取りに行く。」など、締日(毎月5日)までにすることも、「請求書がきたらどの研究費で支払うか確認後、購入伺を作成して研究協力課に提出(詳細は白いファイルに載っている)」「科研費のときは業者の納品書に研究協力課の検収印があるか確認」などといった程度である。これらは、何らの判断も伴わないか単純な判断のみの簡易な事務作業ばかりであると認められる。また、アルバイト職員の異動は、認定事実のとおり、産休の代替要員として採用した者を産休取得者の復帰に伴い他部署に異動させた例、Xの後任として採用した2名のうち1名を人員過剰により他部署に異動させた例があるものの、いずれも個別的かつ具体的な事情によるものであって、例外的な取扱いといえる。
したがって、Xの上記主張は採用することができない。
そして、認定事実のとおり、Y法人の正職員は、期間を定めず、部署を限定せずに採用し、かつ、多数の応募者の中から選定して採用するものであること、アルバイト職員は、期間を定め、特定の業務に限定し、正職員から業務指示を受けることを前提として募集及び採用をしていたことが認められる。このことからは、正職員は、将来にわたってどの部署にも適応し得る能力を有する者を選抜して採用しているのに対し、アルバイト職員は、定型的かつ簡便な作業を行う能力のある者を採用していたということができる。
このように、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も、配転の可能性も、採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきである。Y法人が、アルバイト職員から契約職員、契約職員から正職員へと登用される道を開く登用試験を実施していたことも、それぞれの職務及び採用に際し求められる能力が異なっていたことを示すものである。
さらに、認定事実のとおり、正職員には原則として勤務年数により昇給の道が開かれているのに対し、アルバイト職員には原則として職務の変更がない限り時給の変動がないと定められていることを併せ考慮すると、正職員の賃金は勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給的な賃金、アルバイト職員の賃金は特定の簡易な作業に対応した職務給的な賃金としての性格を有していたといえる。
以上のとおり、職務、責任、異動可能性、採用に際し求められる能力に大きな相違があること、賃金の性格も異なることを踏まえると、正職員とアルバイト職員で賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえないというべきである。アでみるとおり、その相違は、約2割にとどまっていることからすると、そのような相違があることが不合理であるとは認めるに足りない。

(3)賞与について
ア 認定事実のとおり、Y法人においては、給与規則の中に定めはないものの、正職員に対しては、年2回の賞与が支払われており、一方、アルバイト職員に対しては、アルバイト職員就業内規で賞与は支給しないと定められている。なお、有期契約労働者のうち契約職員には、正職員に対する賞与の約80%に当たる額の賞与が支払われている。

イ 賞与は、月例賃金とは別に支給される一時金であり、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである。そこで、Y法人における賞与がどのような趣旨を有するものかをみるに、認定事実のとおり、明確な定めはないものの、正職員に対して支給されていた賞与は、旧来から通年で概ね基本給の4.6か月分(平成26年度は夏期につき2.1か月分+2万3000円、冬期につき2.5か月分+2万4000円)との額であったことが認められる。賞与の支給額は、正職員全員を対象とし、基本給にのみ連動するものであって、当該従業員の年齢や成績に連動するものではなく、Y法人の業績にも一切連動していない。
このような支給額の決定を踏まえると、Y法人における賞与は、正職員としてY法人に在籍していたということ、すなわち、賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有するものというほかない。そして、そこには、賞与算定期間における一律の功労の趣旨も含まれるとみるのが相当である。
Y法人は、Y法人には、正職員、嘱託職員、契約職員、アルバイト職員という契約形態があり、行う業務の内容、したがって、人材の代替性の程度が異なり、長期雇用への期待が契約形態に応じて段階的に相違することから、正職員や嘱託職員のほか、契約職員には一定の賞与を支給し、
長期雇用の期待が乏しいアルバイト職員には全く賞与を支給していないと主張する。先にみた賞与の支給額の決定方法からは、支給額は正職員の年齢にも在職年数にも何ら連動していないのであるから、賞与の趣旨が長期雇用への期待、労働者の側からみれば、長期就労への誘因となるかは疑問な点がないではない。仮に、Y法人の賞与にそのような趣旨があるとしても、長期雇用を必ずしも前提としない契約職員に正職員の約80%の賞与を支給していることからは、上記の趣旨は付随的なものというべきである。また、Y法人は、正職員はY法人の業績を左右するような貢献が想定されるのでその貢献によって変動する業績に応じて変動する賃金の後払いとして賞与を支給しているとも主張する。しかし、それでは、契約職員に正職員の約80%の賞与を支給していることについて合理的な説明をすることが困難である。賞与の支給額の決定方法からは、上記のような趣旨をうかがうことはできない。なお、Y法人は、アルバイト職員には賞与でなく時給額で貢献への評価が尽くされるとも主張するが、具体的に時給額にどのように反映されているというのかは全く不明である。
よって、Y法人の主張は採用することができない。

ウ イでみたとおり、Y法人における賞与が、正職員として賞与算定期間に在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価としての性質を有する以上、同様にY法人に在籍し、就労していたアルバイト職員、とりわけフルタイムのアルバイト職員に対し、額の多寡はあるにせよ、全く支給しないとすることには、合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理というしかない。
Y法人は、アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用がある労働条件を、期間の定めがあることと労働条件が相違していることの関連性の程度が低いものととらえ、アルバイト職員以外の有期契約労働者には適用があることをもって、アルバイト職員に適用がないことの不合理性を否定する方向の事情と主張する(第2の4(1))。しかし、賞与に関していえば、同じ有期契約労働者の契約職員に一定の支給があることは、アルバイト職員には全く支給がないことの不合理性を際立たせるものというべきである。

エ もっとも、Y法人の賞与には、功労、付随的にせよ長期就労への誘因という趣旨が含まれ、先にみたとおり、不合理性の判断において使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い。さらに、②ウでみたとおり、正職員とアルバイト職員とでは、実際の職務も採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきであるから、アルバイト職員の賞与算定期間における功労も相対的に低いことは否めない。これらのことからすれば、フルタイムのアルバイト職員とはいえ、その職員に対する賞与の額を正職員に対すると同額としなければ不合理であるとまではいうことができない。
上記の観点及びY法人が契約職員に対し正職員の約80%の賞与を支払っていることからすれば、Xに対し、賃金同様、正職員全体のうち平成25年4月1日付けで採用された者と比較対照し、その者の賞与の支給基準の60%を下回る支給しかしない場合は不合理な相違に至るものというべきである。

(4)年末年始や創立記念日の休日における賃金支給について
年末年始及び創立記念日の休日については、アルバイト職員は時給制であるため休日が増えればそれだけ賃金が減少するが、正職員は月給制であるため賃金が減額されるわけではないという違いが生ずる。
しかし、これは、賃金について一方は時給制、他方は月給制を採用したことの帰結にすぎず、②イのとおり、正職員に月給制、アルバイト職員に時給制を採用すること自体が不合理とはいえないから、このような相違が生ずることをもって不合理とはいえない。

(5)年休の日数について
当裁判所も、年休の日数に1日の相違が生ずるとしても、これを.労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違であるとはいうことができないと判断する。

(6)夏期特別有給休暇について
ア Y法人の正職員には夏期(7月1日から9月30日まで)に5日の夏期特別有給休暇が付与されるのに対し、アルバイト職員には付与されない。

イ わが国の蒸し暑い夏においては、その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく、休暇を付与し、心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められる。また、いわゆる旧盆の時期には、お盆の行事等で多くの国民が帰省し、子供が夏休みであることから家族旅行に出かけることも多いことは、公知の事実といえる。このため、官公署や企業が夏期の特別休暇制度を設けていることも、公知の事実である。
Y法人における夏期特別有給休暇が、このような一般的な夏期特別休暇とその趣旨を異にするとうかがわせる事情はない。Y法人は、Y法人の夏期特別有給休暇は、正職員において時間外労働が著増する繁忙期に備えて閑散期に十分な休息を与えようとするものであると主張する。しかし、Y法人が当審で提出したグラフをみても、事務系正職員の繁忙期は、年末の12月と年度末の3月であると認められ、それも年によって変化があることが分かる。平成25年1月からの2年2か月分のグラフだけで、Y法人の夏期特別有給休暇が上記のような趣旨であるとは認められない。12月の繁忙期のために7月に休暇を
取るというのも不自然、不合理な話である。Y法人の主張は採用することができない。
また、Y法人は、正職員とアルバイト職員では勤務時間も責任も異なるから、夏期特別有給休暇を正職員にのみ付与することは不合理ではないとも主張する。確かに、正職員は、長期にわたり継続してフルタイムで就労することが想定されており、時間外労働も相対的に長いことから、1年に1度、夏期に5日間のまとまった有給休暇を付与することには意味がある。しかし、アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は、職務の違いや多少の労働時間(時間外勤務を含む。)の相違はあるにせよ、夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くない。
そうであれば、少なくとも、Xのように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し、正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない。

(7)私傷病による欠勤中の賃金及び休職給について
ア 前提事実のとおり、Y法人の正職員には、給与規則及び休職規程に基づいて、私傷病で欠勤した場合、6か月間は賃金が全額支払われ、6か月経過後は、休職が命ぜられた上で休職給として標準賃金の2割が支払われる。しかし、アルバイト職員には、アルバイト職員就業内規に上記のような補償はなく、休職規程の適用がない。

イ 労働者が私傷病によって労務の提供をすることができない場合、使用者には賃金の支払義務がないのが原則である。Y法人が私傷病によって労務を提供することができない状態の正職員に対して一定期間の賃金や休職給を支払う旨を定める趣旨は、正職員として長期にわたり継続して就労をしてきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労をすることに対する期待から、正職員の生活に対する保障を図る点にあると解される。
他方、アルバイト職員は、契約期間が最長でも1年間であるから、Y法人において長期間継続した就労をすることが多いとも、そのような長期間継続した就労をすることに対する期待が高いともいい難い。正職員はその能力に鑑み代替性が乏しい反面、アルバイト職員は定型的かつ簡便な作業を担うため代替性が高いことも、そのような長期間継続した就労に対する評価又は期待に対して一定の影響を及ぼすことは否定し得ない。
しかし、アルバイト職員も契約期間の更新はされるので、その限度では一定期間の継続した就労もし得る。アルバイト職員であってもフルタイムで勤務し、一定の習熟をした者については、Y法人の職務に対する貢献の度合いもそれなりに存するものといえ、一概に代替性が高いとはいい難い部分もあり得る。そのようなアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことからすると、アルバイト職員であるというだけで、一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには、合理性があるとはいい難い。
Y法人は、私傷病による欠勤中の賃金及び休職給は、Y法人の業績を左右するような貢献をなし得る能力を有し、その長期的かつ大いなる発揮が期待される正職員及び嘱託職員の生活保障であると主張する。しかし、給与規則及び休職規程をみても、「Y法人の業績を左右するような貢献をなし得る能力」「その長期的かつ大いなる発揮が期待される」ことというような要件はなく、正職員であれば、一律に給付がされるものと認められる。Y法人が主張するところは、欠勤中の賃金及び休職給の支給を正職員のみに行うということを繰り返しているにすぎず、何ら相違があることの不合理性を否定する理由にはなっていない。Y法人の上記主張は採用することができない。
先にみた事情を考慮すると、フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して、私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと、休職給の支給を一切行わないことは不合理というべきである。

ウ もっとも、正職員とアルバイト職員の、長期間継続した就労を行うことの可能性、それに対する期待についての本来的な相違を考慮すると、被控訴人の正職員とアルバイト職員との間において、私傷病により就労をすることができない期間の賃金の支給や休職給の支給について一定の相違があること自体は、一概に不合理とまではいえない。
アルバイト職員の契約期間は更新があり得るとしても1年であるのが原則であり、当然に長期雇用が前提とされているわけではないことを勘案すると、私傷病による賃金支給につき1か月分、休職給の支給につき2か月分(合計3か月、雇用期間1年の4分の1)を下回る支給しかしないときは、正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきである。これと同程度又はこれを上回るときは、不合理であると認めるに足りない。

(8)附属病院の医療費補助措置について
当裁判所も、附属病院受診の際の医療費補助措置は、恩恵的な措置というべきであって、労働条件に含まれるとはいえず、正職員とアルバイト職員との間の相違は労契法20条に違反する不合理な労働条件の相違とはいえないと判断する。
Xは、当審においても、附属病院の医療費補助措置は雇用契約の内容となっていると主張する。しかし、医療費補助措置の対象者が必ずしも労働契約の当事者のみに限られず、Y法人の学生等広範な者が対象となっていることからすれば、これを労働契約の内容とみるのは困難といわざるを得ない。Xの主張は採用することができない。

③争点4 Y法人に不法行為法上の故意・過失があるかについて

確かに、労契法20条が施行された当初は、必ずしも解釈が定まっていなかった部分もあるものの、他方で、本件で不合理とされたような労働条件の相違が労契法20条違反ではないと明言している判例があったり、そのような学説が通説的であったわけではない。その中であえてY法人が本件で不合理とされたような労働条件の相違が労契法20条に違反しないと判断したことには過失があったというべきである。
Y法人は、労契法20条が施行されるに際して、Y法人における人事制度が同条に抵触しないか否か検討を行った上で、無期契約労働者の労働条件と有期契約労働者の労働条件の間に、期間の定めの有無による不合理な相違と評される点はないと判断したところ、その判断は合理的な根拠に基づいているものであるから、Y法人に故意又は過失が認められないと主張する。
しかし、本件で不合理と判断された労働条件の相違については、Y法人は合理的根拠を示すには至らなかったのであるから、Y法人の主張は採用することができない。

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