社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】丸島アクアシステム事件 大阪高決平成9.12.16労判729号18頁

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丸島アクアシステム事件(大阪高決平成9.12.16労判729号18頁)

 

参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 1997年12月16日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成9年 (ラ) 971

1.事件の概要

 ダム等の水利関係施設の製造業であるY社に嘱託職員として期間の定めのある雇用契約を締結して採用されたXは、6か月の雇用期間が10回にわたり反復更新され、5年余り雇用されていたところ、勤務成績不良や業績の悪化を理由に雇止めされた。本件は、地位保全および賃金仮払いの申立てを却下した原審決定に対する即時抗告の控訴審決定である。

 

2.判決の概要

 期間の定めのある雇用契約の期間の満了による雇止めの効力の判断に当っては、当該労働者の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇用契約の期間等についての使用者側の説明、契約更新時の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等を考える必要がある。これらに鑑み、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたか、あるいは、労働者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきである。

これを本件についてみると、確かに、Xは、合計10回の契約更新により5年間にわたり継続してY社に雇用され、その従事した業務内容も正社員と同様のものであったということができる。この期間、回数のみからみれば、なるほどXにおいて、Y社が継続雇用を行うことを期待すべき事情があったといえなくもない。
しかし、Y社は、従前定年退職者を対象として行ってきた嘱託社員制度の対象者に、比較的高年齢者で特に技能を有する者を例外的に加えてきた経緯が認められる。すなわち、Y社では、比較的高年齢者の就職希望者に関し、その技能に着目して、期間、賃金等の雇用条件をその都度明示して、就職希望者がこれに合意する場合に限り、雇用契約の締結ないしその更新契約を締結してきたものである(なお、Xは、その賃金等の労働条件が正社員と同様に扱われていた旨主張する。しかし、Xの賃金等は、雇用契約ないし更新契締結の都度、Y社との間で合意されたものであり、その際に正社員の労働条件が参考されたことがあるとしても、そのことをもって、Xの労働条件が正社員と同様に扱われていたとはいえない)。
その上、Y社の担当者が、Xを採用するに際し、Xに対し、長期継続雇用をするとか、正社員として採用することを期待させるような言動をしたことを認めるに足りる疏明がない。
また、Y社においては、嘱託社員の雇用契約更新の可否を、その都度実質的に審査し、これを可とする判断をした場合にのみ、その更新を行っており、Xについても、本件雇止めに至るまで、右のような実質的な審査の結果を踏まえて雇用契約の更新が行われてきたことが、認められる。
さらに、Xは、平成8年9月21日には、既にY社の担当者から、同年10月14日から平成9年4月13日までを雇用期間とする次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものである。
その上右説示のとおり、Xの勤務態度には、問題がなかったとはいえない。それのみならず、Y社の担当者は、Xに対し、加工ミス等につき厳重な注意をしていたが、Xの勤務状況の改善がなされなかったことが認められる。
なお、Xは、嘱託社員で60歳未満で雇止めをされた者はほとんどいない旨主張する。
しかし、そもそも嘱託社員は、Y社において、定年退職者の中から勤務成績、技能等の優秀な者を再雇用するために発足した制度である。
そして、Y社は、その後、同制度の適用範囲を、定年退職者以外の者で、Y社がその技術をとくに必要とする場合にも拡大した。このため、Y社は、定年退職者以外の嘱託社員の採用をとくに右のような技能者を必要とする場合に限定している。Y社は、その後の更新に際しても、その都度その必要性を吟味して、更新契約をしてきた。そうであるから、仮に嘱託社員で60歳未満で雇止めされた者がほとんどいなかったとしても、そのことが、直ちに、本件雇用契約が、期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態であったとか、あるいは、Xが期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったことに結びつくものではない。
そもそも、民法は、期間の定めのある雇用契約を適法と認めている。そして、これを修正する特別法はない(労働基準法14条は、期間の上限を定めるにすぎない)。そうであるから、当事者が、期間の定めのある労働契約の締結ないし更新をする明確な意図のもとで、その合意をしている場合には、その意思に即した効果が認められる。
したがって、本件に関し、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたとか、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合に当たるものと認めることができない。

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