社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】ネスレコンフェクショナリー関西支店事件 大阪地判平成17.3.30労判892号5頁

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ネスレコンフェクショナリー関西支店事件 大阪地判平成17.3.30労判892号5頁

 

審判:第一審
裁判所名:大阪地方裁判所
事件番号:平成15年(ワ)7870号
裁判年月日:平成17年3月30日
裁判区分:判決

1.事件の概要

 Xら5人(X1~X5)は、菓子類の製造・販売などを業とするY社に雇用され、販売促進業務に従事してきた。Xらのうち、X1~X4は、当初、Y社と親会社が共通のA社に雇用され、その後、A社の事業を承継するために設立されたY社が契約上の地位を承継した。そして、A社およびY社との間で、X1~X4は3回ないし11回にわたり契約を更新してきた。また、X5は、Y社に雇用され、契約を1回更新してきた。Xらの契約期間は1年(ただし、X3~X5の一部の契約には、1年未満の期間のものがある)であり、その契約書には、XらまたはY社の都合により、契約期間内においても解約することができるとの条項(以下、「本件解約条項」という)があった。ところが、Y社は、Xらの担当していた業務を外注化することにし、それに伴いXらを解雇する意思表示(予備的に期間満了により更新しない旨の雇止めの通知)をしたので、雇用契約上の権利を有する地位にあることなどの確認を求めたところ、Y社は、本件解雇ないし雇止めは約定解除権を行使したもので有効などと主張した。

 

2.判決の概要

 民法は、雇用契約の当事者を長期に束縛することは公益に反するとの趣旨から、期間の定めのない契約については何時でも解約申入れをすることができる旨を定める(同法627条)とともに、当事者間で前期解約申入れを排除する期間を原則として5年を上限として定めることができ(同法626条)、同法628条は、その場合においても、「やむこと得ざる事由」がある場合には解除することができる旨を定めている。そうすると、民法628条は、一定の期間解約申入れを排除する旨の定めのある雇用契約においても、前期事由がある場合に当事者の解約権を保障したものといえるから、解除事由をより厳格にする当事者の合意は、同条の趣旨に反し無効というべきであり、その点において同条は強行規定というべきであるが、同条は当事者においてより前期解除事由を緩やかにする合意をすることまで禁じる趣旨とは解し難い。
したがって、本件解約条項は、解除事由を「やむことを得ざる事由」よりも緩やかにする合意であるから、民法628条に違反するとはいえない。
この点、原告らは、・・(中略)・・民法628条は労働者が期間中に解雇されないとの利益を付与したものであると主張するが、それは、むしろ民法628条の趣旨というべきであり、民法628条は合意による解約権の一律排除を緩和するためにおかれた規定と解すべきであるから、原告らの主張は採用することができない。
また、雇用期間を信頼した労働者の保護の要請については、解雇権濫用の法理を適用することにより考慮することができるから、このように解したとしても、不当な結果を襲来するわけではない。

 

3.解説

 民法626条1項及び627条1項が「いつでも」雇用契約を解除・解約できるとしている一方で、同628条は「やむを得ない事由があるとき」として定めており、この差異を定めた趣旨が問題となる。
なお、労働働基準法14条によって、労働基準法の適用のある期間の定めのある雇用契約は原則3年で終了し、これを経た後の雇用の継続は期間の定めの無い契約としていつでも契約を解除することができるので、実際に民法第626条が適用されるのは、労働基準法の適用されない雇用契約(同居の親族のみを使用する事業・家事使用、労働基準法第116条)についてである。
判例は、民法628条の趣旨を、一定の期間解約申入れを排除する旨の定めのある雇用契約(例「いかなる場合でも2年間は解約を申し入れることはできない」など)を締結したとしても、「やむことを得ざる事由」がある場合(やむを得ない場合) に当事者の解約権を保障したものであり、強行法規と解したもの。
また同時に、この趣旨から「やむことを得ざる事由」を緩和する事由を当事者で合意(例「労働者が他にいい就職先を見つけたとき」「業務量が著しく低下したとき」など)することは禁止されていないとした。
簡単にいうと、解約をしやすくする合意はOK、解約しにくくする合意はNGとなるので、民法628は、労働者の立場では退職止めからの保護が目的であるから、解雇について争う場合は労働契約法16条(解雇権濫用法理)や同17条を根拠にしなさいということ。

 

 

民法第626条
  1. 雇用の期間が5年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約を解除することができる
民法第627条
  1. 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

民法第628条

 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

労働基準法第16条
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 
労働基準法第17条
 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

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