社会保険労務士川口正倫のブログ

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【同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

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同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

1.事件の概要

Y社は飼料及び飼料添加物の製造及び販売等を目的とする株式会社である。✕らは、Y社と期間の定めのある労働契約を締結した嘱託社員(定年後再雇用者を含む。以下「✕ら嘱託社員」という。)、又はY社と期間の定めのない労働契約を締結した年俸社員(以下「✕ら年俸社員」という。)であり、兵庫県にあるY社のQ2工業で製品の製造作業等に従事していた。
本件は、嘱託社員又は年俸社員である✕らが、Y社と無期労働契約を締結している年俸社員以外の他の無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当(以下これらを併せて「本件手当等」という。)に相違があることは、労働契約法20条ないし民法90条※に違反している旨などを主張して、Y社に対して、不法行為に基づく損害賠償として、本件手当等に係る賃金に相当する額等の支払いを求めて提訴したのが本件である。
Y社の雇用形態には、有期契約労働者である「嘱託」と、無期契約労働者である「社員」との区分があり、さらに「社員」には「年俸社員」とその他の区分が存在していた。そして、年俸社員を除く社員のコースの種類として、「総合職コース」、「専門職コース」及び「一般職コース」が設けられていた。
民法90条とは、いわゆる公序良俗違反についての規定です。無期労働契約を締結している年俸社員については、旧労働契約法20条の適用がないため、公序良俗違反を持ち出しています。

2.判決の要旨

争点1 ✕ら嘱託社員に対する不法行為責任の有無について

(1)労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」ということがある。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めているところ、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容等を考慮して、その相違が不合理と認めらるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求めている。
そして、同条の「期間の定めがあることにより」とは、上記労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいい、同条の「不合理と認められるもの」とは、上記労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう(最高裁平成28年(受)第2099号、第2100号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号88頁参照)。また、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目(賞与を含む。)に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁、同令和元年(受)第1055号、第1056号同2年10月13日第三小法廷判決参照)。

(2)本件において、✕らが比較の対象としているQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と、✕ら嘱託社員との間には、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違があるところ(争いがない。)、これは、✕ら嘱託社員の賃金が、一般職コース社員に適用される本件給与規程及び本件賞与規程ではなく、本件嘱託就業規則によって定められていることにより生じていることといえる。そうすると、上記労働条件の相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると認められるから、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。

(3)業務の内容及び当該業務に伴う責任(職務の内容)の程度について
ア まず、✕らは、一般職コース社員のうち、職能資格等級が4等級である社員を比較の対象とするべきであると主張する。
しかし、本件職能資格規程には、「職能資格等級に基づいて業務上の指示・命令を行うことはできない」と定められており、職能資格等級と業務の内容は直接連動するものではなく、職能資格等級は当該社員の能力を示す基準に過ぎないこと、Q2工場製造課に所属する全ての一般職コース社員についてその昇格の経過等は必ずしも判然としないことからすると、比較の対象を職能資格等級が4等級の社員のみに限定することは相当とはいえないことから、以下ではQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と比較する。
イ ✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、工場の稼働中、いずれも作業担当者である工程担当者として定型的な作業を行うことがあった。したがって、両社員は、この点で同一の業務に従事していたと認められる。
一方、一般職コース社員には、工程担当者としての業務だけではなく、工程管理責任者又は副工程管理責任者として、各工程の管理者としての業務に従事している者があり、また、作業主任者として、危険を伴う一定の作業について、安全管理のための業務等に従事している者がいた。
これに対して、✕らは、定型的な作業だけに従事しており、(副)工程管理責任者としての業務、作業主任者としての業務等に従事する者はいなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、その職務の内容に一定の相違があったと認められる。

(4)職務の内容及び配置の変更の範囲について
一般職コース社員と嘱託社員は、いずれも転勤を伴う配置の転換を命じられることはないから、この点で、両社員の職務の内容等の範囲に相違はなかった。
一方、一般職コース社員に相当する社員において、課を越えた異動が行われた例がこれまでに3件あった一方で、平成27年4月1日の人事制度の変更後、現在に至るまでの間に、一般職コース社員及び嘱託社員において、課を越えて異動をした者はいなかった。そうすると、Q2工場の一般職コース社員において、課を越えた異動が行われる可能性はあったものの、その頻度は高くなかったといえる。
次に、経験を積んだ一般職コース社員は、その適性や能力に応じて、(副)工程管理責任者や作業主任者として選任され、その業務に従事することが予定されていたほか、一般職コース社員には本件人事考課規程が適用され、職能資格等級の昇格に伴い、最終的には管理職層の調査役として、人材マネジメント業務を担うことまで一応想定されていた。
これに対して、✕ら嘱託社員は、製造課で定期的な作業を行うことが想定されており、課を越えた異動を命じられることや、(副)工程管理責任者としての業務を担うことは想定されていなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったと認められる。

(5)人材活用の仕組みについて
一般職コース社員には本件職能資格規程及び本件人事考課規程が適用され、一般職コース社員は、職能資格等級制度を通じて、段階的に職務遂行能力を向上させていくことが求められていたといえる。また、一般職コース社員は、本件人事考課規程に基づいて、目標面談を受け、人事考課を受ける必要があり、その結果は、職能資格等級の昇格選考に活用されていた。そして、一般職コース社員の業務は相応の責任や知識等を要する業務であることを踏まえると、Y社においては、一般職コース社員について、人事考課制度を通じてその職務遂行能力の向上を図ることや、上記業務を遂行できる人材として長期的に育成していくことが予定されていたといえる。
これに対して、✕ら嘱託社員に、本件職能資格規程や本件人事考課規程は適用されなかった。
そうすると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員では人材活用の仕組みが大きく異なっていたといえ、これは、労働条件の相違の不合理性の判断において考慮されるべき事情といえる。

(6)賃金体系の違いについて
一般職コース社員には本件給与規程が適用され、その基本給は、年齢給、職能給及び調整給から構成されていた。
一方、✕ら嘱託社員には本件嘱託就業規則が適用され、その給与は年俸制とされていた。
このように、両社員の賃金体系は異なっていたところ、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給の年間支給額と比較して、高い水準となっていた(このことは、一般職コース社員の基本給に昼食手当を加えた場合も同じである。)。

(7)登用制度について
Y社では、一定の年齢制限と回数制限が設けられており、年齢制限によりその受験資格を得られなかった者がいたものの、嘱託社員から年俸社員へ、年俸社員から一般職コースへの試験による登用制度が設けられていた。
この点、✕らは、Y社の登用制度には年齢制限や回数制限があり、✕らの中には受験機会すら与えられない者がいたことなどからすると、登用制度があることを斟酌するべきではない旨主張する。
確かに、回数制限が2回とされている点や、嘱託社員から年俸社員への年齢制限が40歳以下とされている点は、制度として厳しいと評価できる余地があるものの、登用制度は、Y社における採用方法及び人材育成全般にかかわることであり、いかなる内容の制度とするかは基本的に企業の経営判断に属する事項といえること、本件職能資格規程によれば、一般職コース以上等の社員コース変更についても、50歳までに限られていたこと、また、Y社では現に一定の登用の実績があったことを踏まえると、Y社が登用制度を設けていることを斟酌すべきでないとはいえない。

(8)以上を踏まえて、本件手当等に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認めらるものに当たるか否か検討する。

ア 賞与
年度末賞与を含め、Y社の一般職コース社員に対する賞与は、本件賞与規程又は実際上、基本給をベースに支給金額が定められていることからすると、その算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償との趣旨が含まれていたといえる。また、上記基本給は、年齢給、職能給及び調整給から成るところ、職能給は、職能資格等級に基づいて決定され、職能資格等級の昇格選考は、人事考課によって行われていた。このように、Y社が支給する賞与は、人事考課の結果に連動し、また、年齢給や職能資格等級にも連動してその支給額が増えることになることに照らすと、その賞与には、労働意欲の向上を図るという趣旨や、一般職コース社員としての職務を遂行し得る人材を確保して、その定着を図るという趣旨が含まれていたといえる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、そのため、両社員では人材活用の仕組みが異なっており、一般職コース社員については、職務遂行能力の向上が求められ、長期的な人材育成が予定されていたこと、また、両社員では賃金体系が異なっており、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額と比較すると、一般職コース社員の基本給の年間支給額は低く抑えられ、したがってこの点で月額の基本給も低いこと、定年後の再雇用者については、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることが予定されていることなどからすれば、その賃金が一定程度抑制されることもあり得ること、さらに、Y社では嘱託社員から年俸社員に、年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられ、一定の登用実績もあり、嘱託社員としての雇用が必ずしも固定されたものではないことが認められる。
以上の事情を総合すれば、✕ら嘱託社員には賞与が一切支給されないことのほか、✕ら嘱託社員についても賞与の算定期間中に労務を提供していることや、再雇用者を除く✕ら嘱託社員については継続的な雇用が想定されているといえることなどの事情を斟酌したとしても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に賞与に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して賞与を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※一般職コース社員と✕ら嘱託社員の年間支給額(令和元年度)は次のとおりで、✕ら嘱託社員の年収は、一般職コース社員の概ね7割でした。有意人材確保論や職務の内容やその変更の範囲等の違い等に応じて、3割程度の差異は不合理でないとされました。

(一般職コース社員)
 A:387万8095円(平成22年4月入社)
 B:389万9484円(平成22年4月入社)
 C:382万2308円(平成22年4月入社)
 D:392万6095円(平成22年4月入社)
 E:390万0195円(平成22年4月入社)
 F:324万2976円(平成29年4月入社)
 A~Eの平均:388万5235円
 A~Fの平均:377万8192円

(✕ら嘱託社員)
 ✕10:275万8800円(平成22年4月入社)
 ✕13:261万6000円(平成25年10月入社)
 ✕14:264万4800円(平成25年4月入社)
 ✕15:259万2000円(平成26年6月入社)
 平均:265万2900円(A~Fの約70%)

イ 家族手当、住宅手当
(ア)Y社は、扶養家族を有する社員、又は住居費の負担のある社員に対して、家族手当又は住宅手当として、扶養家族や同居者等の属性に応じて、一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと、Y社が支給する家族手当及び住宅手当は、従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであるといえる。
そして、扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは、✕ら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。また、✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動を予定されておらず、住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。そうすると、家族手当及び住宅手当の趣旨は、✕ら嘱託社員にも同様に妥当するということができ、このことは、その職務の内容等によって左右されることとはいえない。
また、確かに、現役社員については、幅広い世代の労働者が存在し、雇用が継続される中で、その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し、再雇用者については、一定の年齢に達して定年退職をした者であるから、その後の長期雇用が想定されているとか、生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし、他方で、住居を構えることや、扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上、再雇用者になると、その基本月額は相当な割合で引き上げられる一方で、Y社において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺がわれない。
これらの事情に照らすと、再雇用者も含む、✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは不合理であると評価することができる。
したがって、一般職コース社員に対して家族手当及び住宅手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると認められる。
※家族手当や住宅手当(転居と伴う異動が無い場合)は、雇用形態に関係なく、一般的に賃金水準が低い若年層を対象に支給し、一定の年齢を超過すると一律支給しないという扱いが、従業員の生活費を補助するという趣旨に相応しいと思います。

ウ 昼食手当
Y社は、一般職コース以上の社員に対して、昼食手当として、一律に月額1万1700円を支給していた。
Y社における昼食手当の金額は、昭和43年当時は1000円であったが、その後、昭和45年に1600円、昭和46年に2000円、昭和49年に5000円、昭和60年に7000円、昭和63年に8000円、平成元年に1万円、平成4年に現在の1万1700円と、全国で一律の増加幅によって金額の改定が行われてきたこと、また、平成3年7月の役員会では、当時の労働市場における労働力不足に対応すべく、年間給与額は維持しつつ、見かけ上、安い印象が持たれていた月額給与額を増加させるために、賞与の1.5か月相当分を月給に繰り入れる旨、その調整の際の不足額は、一律支給をしている昼食手当で補完する旨などの議論が行われていたこと、平成4年5月の役員会では、初任給調整として昼食手当に1000円を加算するとの議論が行われていたことが認められる。このように、昼食手当が、過去に全国一律かつ相当幅による増額がされてた等の経緯に加え、昼食手当は賞与のベースされていないことにも照らすと、Y社が支給している昼食手当は、当初の従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても、遅くとも平成4年頃までにはその名称にかかかわらず、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、両社員では人材活用の仕組みが異なっていること、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えても✕ら嘱託社員の月額支給額より低いこと、さらにY社では登用制度が設けられていることなどの事情が認められ、これらの事情を総合すれば、昼食手当との名称や、✕ら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどを斟酌しても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して昼食手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※昼食手当の実態が調整給であることから、不合理とはされませんでした。昼食手当の趣旨が昼食の補助である場合は、不合理と判断される可能性が高いです。

(9)以上によれば、Y社が✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を支給しないことは、労働契約法20条に違反するといえる。そして、同条が平成25年4月1日に施行されるに至っていたことからすれば、Y社がこのような違法な取扱いを行ったことについては、少なくとも過失のあることが認められる。
したがって、Y社は、✕ら嘱託社員に対し、この範囲において、不法行為責任を負う。

争点2 ✕ら年俸社員に対する不法行為責任の有無について

✕らは、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間に本件手当等の支給に係る労働条件の相違があることについて、労働契約法20条を類推適用するべきである旨、あるいは、憲法14条、労働契約法3条2項、同一労働同一賃金の原則等により裏付けられた公序良俗民法90条)に違反する旨を主張する。
しかし、労働契約法20条の文言に照らすと、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理であることを禁止する規定であることは明らかであり、また、雇止めに対する不安がないなどの点において、有期契約労働者と無期契約労働者では雇用契約上の地位が異なっていること等に鑑みると、無期契約労働者間の労働条件の相違について同条を類推適用することは困難である。そのため、無期契約労働者間の労働条件の相違について、同条と同じ枠組みによりその違法性の有無を判断することは相当でないというべきである。また、憲法14条、労働契約法3条2項、その他の法令上、無期契約労働者間において同一労働同一賃金の原則を具体的に定めたと解される規定は見当たらない以上、そのような原則自体が、使用者と無期労働契約者との間の労働関係を規律する法規範として存在していたとか、これが公序として確立していたと認めることもできない。このことは、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が本件当時に作成されていたことによって変わることとはいえない。
※いずれも無期契約労働者である、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間の労働条件の相違については、労働契約法20条による同一労働同一賃金の原則が適用されないとしています。その上で、均等待遇の理念(労働契約法3条2項)や同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らして、公序良俗に反する相違であるかが、以下で検討されています。


そして、Y社では、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら年俸社員に対して支給されないという労働条件の相違があった。しかし、他方で、①✕ら嘱託社員と✕ら年俸社員の職務の内容等は同じであったところ、一般職コース社員と✕ら年俸社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定相違があり、したがって、両社員の間に人材活用の仕組みや賃金体系等に違いを設けることが不合理であるといえないこと、加えて、②✕ら年俸社員については、労働者派遣法所定の派遣期間が満了するのに伴い、平成22年4月に無試験でY社に直接雇用されたという経緯があり、その年俸額は、前年度のQ3における年間支給額を上回る金額と決められたこと、③直接雇用の前後で、✕ら年俸社員の職務の内容に変化はなかったこと、④説明資料や雇用条件通知書等には、年俸額は通勤手当と時間外手当を除きQ3での年間給与額を基準とする旨が明記されていたこと等を踏まえると、同✕らは、Y社から賃金等の労働条件について必要な説明を受けた上で雇用契約を締結してといえること、⑤✕ら年俸社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給及び本件手当等の年間支給額と比較して、極端に低い金額とはいえないこと、⑥Y社では年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられており、これによる一定の登用実績もあり、年俸社員としての雇用形態が固定化されたものとまではいえないことが認められる。
そうすると、労働契約法3条2項が「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めていることや、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する規定ではあるが、同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らし、無期契約労働者の労働条件においても均等待遇の理念が働くことを踏まえたとして、本件関係において、上記労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容であるとまで評価することはできない。したがって、当該労働条件の相違を設けたことが、公序良俗に違反するとか、不法行為を構成すると認めることはできない。
以上によれば、Y社が✕ら年俸社員に対して不法行為責任を負うとは認められない。
同一労働同一賃金については、旧労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)の施行に伴い、多くの訴訟が発生しましたが、それ以前は、本件のように民法90条公序良俗違反)を根拠に争われていました(参照:丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁))。現在においても、無期雇用者間や有期雇用者間の労働条件の相違が労働契約法20条(反対解釈)で認められているわけではなく、「労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容である」と評価される場合は、民法90条を根拠に公序良俗違反とされることはあります。