社会保険労務士川口正倫のブログ

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【解雇】スカンジナビア航空事件(東京地決平7.4.13労判675号13頁)

【解雇】スカンジナビア航空事件(東京地決平7.4.13労判675号13頁)

1.事件の概要

外資系の航空会社であるY社は、業績の急激な悪化のなかで、エア・ホステスと地上職の人員を削減することが必要であるとし、日本支社で早期退職者を募集し、その後、必要な人員のみ再雇用することにした。再雇用の際の条件は、これまでの賃金体系、労働時間、退職金制度等が変更され、労働契約の期間を1年とするという内容であった。
全従業員140名のうち、115名が早期退職に応じたものの、25名が応じなかった。その後、Y社は、再雇用の可能性のある18名には再雇用の申入れをしたものの、Xら9名はそれに応じなった。そこで、Y社はXら9名を解雇した(本件解雇)。(同時に、再雇用の申入れの対象としなかった7名を整理解雇している)。
そこで、Xらが、本件解雇は無効であるとし、従業員たる地位の保全と賃金の仮払いを求めて仮処分を申請したのが本件である。

2.判決の概要

※整理解雇については、省略します。

① 本件解雇の性質

(1)Y社においては、平成6年8月15日の時点で新組織に必要となる地上職32名ののうち25名がすでに再雇用されており、本件合理化案に基づいて残り7名を補充する必要があったところ、会社は、同日付で7名に対し、地上職のポジション及び賃金等の新労働条件を明示したうえ、早期退職及び同ポジションへの再雇用を申し入れ、また、5名に対し、エア・ホステスのポジション及び賃金等の新労働条件を明示したうえ、早期退職及び同ポジションへの再雇用を申し入れ、さらに同月30日には従来の地上職32名の提案に加えて6名を追加することを提案するとともに、同6名に対し、新組織におけるポジション及び賃金等の新労働条件を明示したうえ、早期退職及び同ポジションへの再雇用を申し入れ、これと同時に、同日付で同年9月30日をもって解雇する旨の(その後、解雇予告期間を同年11月30日まで延長した。)解雇予告の意思表示をした。 
この解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

(2) なお、Xらは、右の再雇用への申入れを捉えて、仮にXらが会社の早期退職に応諾し再雇用に応募したとしても、再雇用契約が締結されるか否かは不確実であるから、会社が行ったのは、再雇用への申込みの誘因に過ぎないと主張するけれども、前記のとおり、会社は、補充する業務を念頭に置きつつ、Xらぞれぞれに対してポジション及び賃金等の新労働条件を具体的に明示して提案しているのであって、会社がこのように具体的ポジションをあげて再雇用の提案を行いながら、再雇用しないことがあるとは到底考えられないから、会社の右提案は、新雇用契約締結の申込みであるというべきである。

② 本件変更解約告知

(1)会社とXら従業員との間の雇用契約においては、職務及び勤務場所が特定されており、また、賃金及び労働時間等が重要な雇用条件となっていたのであるから、本件合理化案の実施により各人の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点について債権者らの同意を得ることが必要であり、これが得られない以上、一方的にこれらを不利益に変更することはできない事情にあったというべきである。
しかしながら、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。

(2) 会社は、平成2年以降、世界的不況及びヨーロッバ域内の航空規制緩和等により、航空部門の経営悪化が激しく、年々赤字が増大していく一方、日本支社も平成3年以降の全世界的な景気の後退及び格安航空券の市場への出回りにより、乗客数減と航空券の販売単価の低落が急速に進み、部分的なコスト削減策では到底合理化目標を達成できないことから、日本支社について抜本的な合理化案を早急に実施する必要に迫られていたところ、空港業務及び予約発券業務については業務運営方式を変更して外部委託化する、自社便が乗り入れていない2事務所については事務所を閉鎖する、営業等については組織を縮小する、ついては111名の組織であった地上職を32名程度の組織に変更するなど、全面的な人員整理、組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なものとなったということができる。
その間、日本支社は、経営の悪化が始まった平成3年度以降、希望退職募集、宣伝広報費の削減等の様々なコスト削減策をとってきたが、その削減効果は芳しくなく、このような部分的はコスト削減策ではもはや健全な経営体質への転換は不可能となり、本件合理化にともなう業務運営方式の変更、組織の縮小、統合等の全面的な組織再編を前提とする必要合計人員数は34名となったものである。

(3) 加えて、本件労働条件の変更には、賃金体系の変更、退職金制度の変更及び労働時間等の変更も含まれるが、本件合理化案を実現するためには、右変更の必要性が大きいものといえるところ、日本支社のコストの約60パーセントを人件費が占めるという実状に鑑み、①従来の賃金体系は、勤続年数に応じて賃金が上昇し続ける年功賃金体系であって、業務の違いが賃金に反映されなかった結果、全体の賃金水準が高過ぎる、各自の貢献が反映されないために熱意のある従業員の意欲をそぐなどの問題点を有しており、他の類似企業の賃金実態も加味しつつ、是正する必要があった、②また退職金制度については、従来の退職金が年功に応じて高騰し続ける基本給に一定の勤続年数による係数を乗じて定められるものであったため、その支給水準は著しく高いものであったうえ、従前の従業員数が本件合理化により約3分の1に激減した状態では、従前の退職年金制度では整合がとれなくなり、新しい退職金制度を設ける必要があった、③さらに労働時間については、新組織における業務内容の変化に応じ、労働時間も一部で延長、一部で短縮する必要があったのであり、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。

(4) 一方、新雇用契約締結の結果、労働者が受ける不利益について検討すると、右賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給とを比較すると、新賃金(年俸)は従来の賃金体系による月例給に12(月)を乗じることにより得られる金額を必ずしもすべて下回るものではないし、Xらが新労働条件での雇用契約を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として、規定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ考えると、前記の業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

(5) 平成6年6月10日に発表された本件合理化案は、これが全従業員に対し文書で配布され、またこれを発表した後の会社の組合に対する態度は、本件合理化案に対する組合の理解を得るため、合計二二回の団体交渉に応じ、会社の経営状況、コスト削減の必要性及び新組織の人員構成等、組合から質問のあった事項については、団体交渉の席上、書面をもって回答したうえ、本件合理化の解決策をさぐるため、組合に対し、誰をどの部署で就業させるのか具体的に提案するよう申し入れるなどの対応をとったが、組合は、Xら全員の従前の雇用条件での雇用継続を終始一貫前提とし、会社がこれに応じないのであれば、配置転換先について具体的に氏名を明らかにしないという硬直した態度をとったため、実質的な交渉に至らなかったものということができる。

(6) 前記「事案の概要」の中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実によれば、会社が18名に対して新労働条件を示して早期退職及び新ポジション(地上職13名、エアホステス5名)への再雇用を申し入れた時点では、地上職の募集人員は新たに追加した分も含めて残り13名に過ぎなかったのであり、この事態は、本件合理化案に基づいて任意に退職したうえで再雇用を申し入れた従業員から会社が再雇用を受け入れた結果によるものであって、その過程になんら違法不当な事実は認められないのである。

(7) 以上によれば、会社が、Xら9名に対し、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更をともなう再雇用契約の締結を申し入れたことは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は右変更によってXらが受ける不利益を上回っているものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによる解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、右再雇用の申入れをしなかたXら9名を解雇することはやむを得ないものであり、かつ解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。

よって、本件変更解約告知は有効であると解するのが相当であり、Xら9名に対する解雇は有効であるというべきである。

3.解説

本件のように解雇を目的とせずに、新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約(解雇)を変更解約告知といいます。本件は、我が国の裁判例としてはじめてこの変更解約告知に言及した裁判例ですが、労働条件の変更を伴う新契約の申込みに応じない労働者の解雇が有効とされるための要件として、

① 労働条件変更が会社の業務運営上必要不可欠である
② その必要性が労働条件変更によって労働者が被る不利益を上回っている
③ 労働条件変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りることもやむを得ないものと認められる
④ 解雇回避努力が十分に尽くされている
という 4点が示されています。
これは、変更解約告知が労働条件変更のための解雇であることに着目して、労働条件変更の必要性・相当性(上記①②)と、労働条件変更に同意しない労働者を解雇することの相当性(同③④)という 2 つの観点から解雇の効力を判断したものと理解できます。

本件は、変更解約告知が認められた事例ですが、これに対して、大阪労働衛生センター第一病院事件大阪地裁判決(平10.8.31労判751号38頁)は、変更解約告知を認めると、労働者に「厳しい選択を迫」り、労働者は「非常に不利益な立場におかれる」として、「ドイツ法と異なって明文のないわが国においては、労働条件の変更ないし解雇に変更解約告知という独立の類型を設けることは相当ではない」として、同事案の解雇は経済的必要性を主とするものである以上整理解雇として解釈すべきであるとしました。(大阪高判平 11・9・1 労判 862 号 94 頁、最二小決平 14・11・8 労判 862 号 94 頁-変更解約告知に言及することなく 1 審判決を支持して、上告不受理)。
このように、変更解約告知についての判例はいまだ確立しているとはいい難い状況にあります。(菅野和夫氏も「変更解約告知の有効性判断のより具体的な基準については、もう少し、事案に応じた判断の蓄積をまつ必要がある。」(「労働法」第12版813頁)としています。)

一般社団法人新経済連盟による会員企業各社の新型コロナワクチン接種時の対応方針まとめの公表

一般社団法人新経済連盟による会員企業各社の新型コロナワクチン接種時の対応方針まとめの公表

一般社団法人新経済連盟が行った、新型コロナワクチン接種についての対応方針や検討状況等をアンケート結果のうち、「対応方針を決定している」企業について公表されています。
多くの企業で、接種の時間を勤務扱いとしたり、特別有給休暇を付与しているようです。

2021年6月2日現在で公表されているものを抜粋いたしましたので、対応の参考にしてください。
今後も更新されると思われますので、随時リンクをご確認ください。
https://jane.or.jp/proposal/notice/14437.html


株式会社クラウドワークス

・新型コロナワクチンを接種する場合は、就業時間内扱いとする。(対象接種回数上限:2回)
・従業員が新型コロナワクチンを接種後、副反応や体調不良が発生し就業が困難な場合は、接種日当日を含め最大3日まで特別休暇を認める。(1回の接種毎に対象とする)
・従業員の家族が新型コロナワクチン接種に際し付添や副反応等の看病が発生した場合、家族の接種日当日を含め最大3日まで、従業員に対し特別休暇の取得を認める。(1回の接種毎に対象とする)
※状況により、追加対応等を検討予定

テクマトリックス株式会社

・従業員本人が就業時間中に新型コロナウィルスのワクチン接種をする場合、その時間は勤務時間扱いとします。2回目の接種までが対象となります。
・従業員本人が新型コロナウィルスのワクチン接種後、副反応や体調不良により就業が困難となった場合は、一回の接種毎に接種日当日を含め連続最大3日まで特別有給休暇の取得を認めます。
・従業員の1親等以内の家族(配偶者を含む)の新型コロナウィルスのワクチン接種に付き添いを要する場合、就業時間中であればその時間は勤務時間扱いとします。当該家族の新型コロナウィルスのワクチン接種に付き添う場合は、当該家族1名につき2回目の接種までが対象となります。 ・従業員の1親等以内家族(配偶者を含む)が新型コロナウィルスのワクチン接種後、副反応や体調不良によりサポートが必要となった場合は、一回の接種毎に接種日当日を含め連続最大3日まで特別有給休暇の取得を認めます。

ヘイ株式会社

・予約管理システム「STORES 予約」を自治体さま向けに期間限定で無償提供を開始 (
https://immediate-support.stores.jp/vaccine)
・新型コロナワクチンを接種する場合は、接種会場までの往復の移動時間含め、就業時間内扱い。なお、接種回数の上限は2回
・新型コロナワクチンを接種後、副反応が生じたり、体調不良が発生して、就業するのが困難な場合は、接種日当日を含め、1回の接種毎に最大3日まで特別休暇を付与
・家族が新型コロナワクチン接種に際して、付添や副反応等の看病が発生した場合、家族の接種日当日を含め、1回の接種毎に最大3日まで特別休暇の取得を可能。なお、ここでの家族は、二親等以内。

ホッピービバレッジ株式会社

・従業員本人が勤務時間帯にワクチンを接種する場合(2 回目の接種まで対象)は、就業時間扱いとします。
・従業員本人がワクチン接種後、副反応が発生したことにより就業が困難となった場合は、接種日当日および翌日にそれぞれ特別有給休暇の取得を認めます。
・従業員の家族のワクチン接種時(2 回目の接種まで対象)における付き添いや副反応が発生したことにより家族を看病する場合には、接種日当日および翌日にそれぞれ特別有給休暇の取得を認めます。

株式会社マネーフォワード

・従業員本人が勤務時間帯にワクチンを接種する場合(2回目の接種まで対象)は、就業時間扱いとします。
・従業員本人がワクチン接種後、副反応が発生したことにより就業が困難となった場合は、接種日当日および翌日にそれぞれ特別有給休暇の取得を認めます。
・従業員の家族のワクチン接種時(2回目の接種まで対象)における付き添いや副反応が発生したことにより家族を看病する場合には、接種日当日および翌日にそれぞれ特別有給休暇の取得を認めます。

株式会社メルカリ

・就業時間内に接種が可能。特別休暇の付与。本人、パートナーを含む家族の接種時の付き添いや副反応による看護なども対象。

株式会社LIFULL

・社員本人が就業日に接種する場合、接種に要する時間を就業時間として扱います。
・社員本人に接種後副反応が生じ、就業が困難になった場合、特別有給休暇を付与します。
・ご家族の接種に付き添う場合、特別有給休暇を付与します。

楽天グループ株式会社

・神戸市、神戸大学神大病院、慈恵大外科、SBCメディカル、ヴィッセル神戸楽天楽天メディカルによるノエビアスタジアム神戸における新型コロナワクチン大規模接種オペレーション体制の構築 ー国内初の産学官連携、大規模ワクチン接種モデルにより、迅速かつ効率的な接種を目指す。

(2021年5月31日更新)在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)が更新され、PCR検査に係る費用の課税についての考え方などが追加されています。
更新があった部分は、赤色で記載しています。


https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf


1 在宅勤務手当

〔問1〕 企業が従業員に在宅勤務手当を支給した場合は、従業員の給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません(【問3】参照)。
なお、企業が従業員に在宅勤務手当(従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000 円を渡切りで支給するもの))を支給した場合は、従業員に対する給与として課税する必要があります。

2 在宅勤務に係る事務用品等の支給

〔問2〕 在宅勤務を開始するに当たって、企業が従業員に事務用品等(パソコン等)を支給した場合は、従業員の給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
企業が所有する事務用品等を従業員に貸与する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありませんが、企業が従業員に事務用品等を支給した場合(事務用品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります(従業員が立替払いにより事務用品等を購入する場合は、【問3】①参照)。
上記の「貸与」については、例えば、企業が従業員に専ら業務に使用する目的で事務用品等を「支給」という形で配付し、その配付を受けた事務用品等を従業員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときは返却を要する場合も、「貸与」とみて差し支えありません。

3 在宅勤務に係る環境整備に関する物品の支給〔令和3年5月31日追加〕

〔問3〕在宅勤務を開始するに当たって、企業が従業員に環境整備に関する物品等(従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、椅子、机、空気清浄機等)を支給した場合は、従業員の給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
従業員の在宅勤務の環境整備のために企業が所有する物品等を従業員に貸与する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありませんが、企業が従業員に環境整備に係る物品等を支給した場合(その物品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります(従業員が立替払いにより物品等を購入する場合は、【問5】①参照)。
上記の「貸与」については、例えば、企業が従業員に専ら業務に使用する目的で物品等を「支給」という形で配付し、その配付を受けた物品等を従業員が自由に処分できず、業務に使用しなくなったときは返却を要する場合も、「貸与」とみて差し支えありません。

4 在宅勤務に係る消耗品等の購入費用の支給〔令和3年5月31日追加〕

〔問4〕当社では、在宅勤務の際に、従業員が負担した消耗品等(マスク、石鹸、消毒液、消毒用ペーパー、手袋等)の購入費用を従業員に支給する予定ですが、このような費用の支給については、従業員の給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
在宅勤務のために通常必要な費用(例えば、勤務時に使用する通常必要なマスク等の消耗品費)について、その費用を精算する方法(【問5】①参照)により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません(企業がマスク等を直接配付する場合も同様です。)。
ただし、在宅勤務のために通常必要な費用以外の費用(例えば、勤務とは関係なく使用するマスク等の消耗品費)について支給するものや、従業員の家族など従業員以外の者を対象に支給するもの、予め支給した金銭について業務のために通常必要な費用として使用しなかった場合でもその金銭を企業に返還する必要がないものは、従業員に対する給与として課税する必要があります。



5 業務使用部分の精算方法

〔問3〕 在宅勤務に通常必要な費用を精算する方法による場合は、従業員に対する給与として課税する必要がないとのことですが、その方法とはどのようなものですか。

〔答〕
在宅勤務手当としてではなく、企業が在宅勤務に通常必要な費用を精算する方法により従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
この方法としては、次の方法が考えられます。

① 従業員へ貸与する事務用品等の購入(注1)

イ 企業が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後、従業員が業務のために使用する事務用品等を購入し、その領収証等を企業に提出してその購入費用を精算(仮払金額が購入費用を超過する場合には、その超過部分を企業に返還(注2))する方法

ロ 従業員が業務のために使用する事務用品等を立替払いにより購入した後、その購入に係る領収証等を企業に提出してその購入費用を精算(購入費用を企業から受領)する方法

② 通信費・電気料金

イ 企業が従業員に対して、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後、従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し(【問4】、【問5】及び【問6】参照)、その計算した金額を企業に報告してその精算をする(仮払金額が業務に使用した部分の金額を超過する場合、その超過部分を企業に返還する(注2))方法

ロ 従業員が家事部分を含めて負担した通信費や電気料金について、業務のために使用した部分を合理的に計算し(【問4】、【問5】及び【問6】参照)、その計算した金額を企業に報告してその精算をする(業務のために使用した部分の金額を受領する)方法

(注)1 ①の事務用品等については、企業がその所有権を有し従業員に貸与するものを前提としています。事務用品等を従業員に貸与するのではなく支給する場合(事務用品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります(【問2】参照)。
(注)2  企業が従業員に支給した在宅勤務手当のうち、購入費用や業務に使用した部
分の金額を超過した部分を従業員が企業に返還しなかったとしても、その購入費用や業務に使用した部分の金額については従業員に対する給与として課税する必要はありませんが、その超過部分は従業員に対する給与として課税する必要があります。

6 通信費に係る業務使用部分の計算方法

〔問4〕 従業員が負担した通信費について、在宅勤務に要した部分を支給する場合、業務のために使用した部分はどのように計算すればよいですか。

〔答〕
〇 電話料金
イ 通話料
通話料(下記ロの基本使用料を除きます。)については、通話明細書等により業務のための通話に係る料金が確認できますので、その金額を企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
なお、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、通話明細書等による業務のための通話に係る料金に代えて、例えば、次の【算式】により算出したものを、業務のための通話に係る料金として差し支えありません。
(注)業務のための通話を頻繁に行う業務とは、例えば、営業担当や出張サポート担当など、顧客や取引先等と電話で連絡を取り合う機会が多い業務として企業が認めるものをいいます。

ロ 基本使用料
基本使用料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。
例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。

〇 インターネット接続に係る通信料
基本使用料やデータ通信料などについては、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。
例えば、次の【算式】により算出したものを企業が従業員に支給する場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
(注)従業員本人が所有するスマートフォンの本体の購入代金や業務のために使用したと認められないオプション代等(本体の補償料や音楽・動画などのサブスクリプションの利用料等)を企業が負担した場合には、その負担した金額は従業員に対する給与として課税する必要があります。

【算式】
業務のために使用した基本使用料や通信料等=従業員が負担した1か月の基本使用料や通信料等×\frac{その従業員の1か月の在宅勤務日数}{該当月の日数}×\frac{1}{2}

※ 上記算式の「1/2」については、1日の内、睡眠時間を除いた時間の全てにおいて均等に基本使用料や通信料が生じていると仮定し、次のとおり算出しています。
① 1日:24 時間
② 平均睡眠時間:8時間
(「平成28 年社会生活基本調査」(総務省統計局)で示されている7時間40 分を切上げ)
③ 法定労働時間:8時間
④ 1日の内、睡眠時間を除いた時間に占める労働時間の割合
 :③÷(①-②)= 8時間/(24 時間-8時間)= 1/2

【例】
従業員が9月に在宅勤務を20 日間行い、1か月に基本使用料や通信料1万円を負担した場合の業務のために使用した部分の計算方法。

1000円×\frac{20日(在宅勤務日数)}{30日(9月の日数)}×\frac{1}{2}=3,334 円(1円未満切上げ)

(注)上記の算式によらずに、より精緻な方法で業務のために使用した基本使用料や通信料の金額を算出し、その金額を企業が従業員に支給している場合についても、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。

7 通信費の業務使用部分の計算例

〔問5〕 企業が、従業員に対して、次のとおり従業員本人が所有するスマートフォンに係る料金4,800 円(令和2年9月分)を支給し、上記【問4】により業務使用部分の計算をすることとした場合の課税関係について教えてください。

・ 基本使用料:3,000 円(3GBまで無料)
・ データ通信料:1,000 円(3GB超過分)
・ 業務使用に係る通話料(通話明細書より):800 円
・ 在宅勤務日数:15 日
※ 上記金額は全て消費税等込みの価格。

〔答〕
ご質問の場合、次のとおり、基本使用料とデータ通信料のうち業務のために使用した部分の金額を除いた金額3,000 円について、従業員に対する給与として課税する必要があります。

① 通話明細書より確認した業務使用に係る通話料(800 円)については、課税する必要はありません。
② 基本使用料やデータ通信料については、次の算式により算出した金額(3,000 円)を、従業員に対する給与として課税する必要があります。
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8 電気料金に係る業務使用部分の計算方法

〔問6〕 従業員が負担した電気料金について、在宅勤務に要した部分を支給する場合、業務のために使用した部分はどのように計算すればよいですか。

〔答〕
基本料金や電気使用料については、業務のために使用した部分を合理的に計算する必要があります。
例えば、次の【算式】により算出したものを従業員に支給した場合には、従業員に対する給与として課税しなくて差し支えありません。
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9 レンタルオフィス

〔問7〕 当社では、自宅に在宅勤務をするスペースがない従業員に対して、自宅近くのレンタルオフィス等で在宅勤務をすることを認めています。このレンタルオフィス代等を従業員が立替払いし、そのレンタルオフィス代等に係る領収証等の提出を受けてその代金の精算をした場合、その精算をした金額について従業員に対する給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
従業員が、勤務時間内に自宅近くのレンタルオフィス等を利用して在宅勤務を行った場合、①従業員が在宅勤務に通常必要な費用としてレンタルオフィス代等を立替払いし、かつ、②業務のために利用したものとして領収書等を企業に提出してその代金が精算されているものについては、従業員に対する給与として課税する必要はありません(企業が従業員に金銭を仮払いし、従業員がレンタルオフィス代等に係る領収証等を企業に提出し精算した場合も同じです。)。

10.新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる場合のホテルの利用料等〔令和3年5月31日追加〕


〔問10〕当社では、新型コロナウイルス感染症に関する感染予防対策として、感染が疑われる従業員に対して、ホテル等で勤務をすることを認めています。この場合、従業員が負担したホテル等の利用料やホテル等までの交通費等を従業員に支給する予定ですが、このような費用の支給については、従業員に対する給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
ご質問のように、職場以外の場所で勤務することを企業が認めている場合のその勤務に係る通常必要な利用料、交通費など業務のために通常必要な費用について、その費用を精算する方法(【問5】①参照)又は企業の旅費規程等に基づいて、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません(企業がホテル等に利用料等を直接支払う場合も同様です。)。
ただし、業務のために通常必要な費用以外の費用について支給するもの(例えば、従業員が自己の判断によりホテル等に宿泊した場合の利用料など)や、予め支給した金銭について業務のために通常必要な費用として使用しなかった場合でもその金銭を企業に返還する必要がないものは、従業員に対する給与として課税する必要があります。

11.室内消毒の外部への委託費用やPCR検査費用等〔令和3年5月31日追加〕

〔問11〕当社では、新型コロナウイルス感染症に関する感染予防対策として、従業員が負担した在宅勤務を行う自宅のスペースの消毒に係る外部業者への委託費用やPCR検査費用等を従業員に支給する予定ですが、この費用の支給については、従業員に対する給与として課税する必要はありますか。

〔答〕
ご質問のように、在宅勤務に関連して業務スペースを消毒する必要がある場合の費用や企業の業務命令により受けたPCR検査費用など業務のために通常必要な費用について、その費用を精算する方法(【問5】①参照)により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません(企業が委託先等に費用を直接支払う場合も同様です。)。
ただし、従業員が自己の判断により支出した消毒費用やPCR検査費用など業務のために通常必要な費用以外の費用や、予め支給した金銭について業務のために通常必要な費用として使用しなかった場合でもその金銭を企業に返還する必要がないものは、従業員に対する給与として課税する必要があります。

12.在宅勤務者に対する食券の支給①(食券以外の食事の支給がない場合)〔令和3年4月30日追加〕

〔問12〕当社では、在宅勤務で業務を行う従業員の昼食の補助として、次の条件の下、従業員に食券(電子的なものを含みます。)を支給したいと考えています。この食券の支給に関して、従業員の給与として課税する必要はありますか。なお、当社では、この食券の支給以外に、従業員に対して食事を支給することはありません。

①毎月7,560円分の食券を従業員に交付するが、その際、従業員はその半額の3,780円を当社に支払う。
②食券の利用は、従業員が在宅勤務を行う日において、当社が契約した特定の飲食店での飲食又は飲食料品の購入(持帰り)でのみ利用可能(勤務日以外の利用や、アルコール類、飲食料品以外のものへの利用は不可)とする。
③食券の利用は、当社の従業員本人の食事代のみについて利用可能であり、従業員の親族等に係る食事代への利用は不可とする。また、食券を他人へ譲渡することを禁止する。
④食券の利用は、1回2,500円までとする。また、実際に要した食事代金が、食券の額面に満たない場合であっても、釣銭を受け取ることはできない。
⑤毎月交付された食券の未使用分については、翌月以降に繰り越して使用することができる。また、食券の利用可能期間は、交付日から1年とする。

〔答〕
企業が従業員に食事の支給(注1)をする場合に、その従業員から実際に徴収している対価の額がその食事の価額の50%相当額以上であり、かつ、企業の負担額(食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額)が月額3,500円(消費税及び地方消費税(以下「消費税等」といいます。)の額を除きます。)を超えないときは、その従業員が食事の支給により受ける経済的利益はないものと取り扱うこととしています(所得税基本通達36-38の2)。
ご質問の場合、従業員からその食券の額面金額7,560円の50%相当額を徴収しており、消費税等の額を除いた企業の負担額は月額3,500円を超えていない(注2)ため、上記の要件を満たしています。
また、②から⑤までの条件が満たされれば、その食券の支給は食事そのものを支給した場合と同視することができるものと考えられます(注3)。
このため、ご質問の食券の支給については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

(注)1「食事の支給」とは、企業が従業員に対して、契約業者から購入した弁当を提供することや、社員食堂で食事を提供すること等をいいます。
一方、「食費の補助」(現金支給)については、給与とみなされ、所得税の課税対象となります。

2 食券の利用に係る「消費税等の額を除いた企業の負担額」の計算においては、軽減税率(8%)の適用があったときの食券の利用と、標準税率(10%)の適用があったときの食券の利用とに区分して計算する必要があります。
ご質問のケースにおいては、食券の利用に当たって、次のように全て軽減税率(8%)が適用されると仮定した場合、消費税等の額を除いた企業の負担額は3,500円となるため、標準税率(10%)の適用があったとしても、その負担額は3,500円よりも少ない金額が算出されることになります。
 

 (7,560円《食券の額面金額》-3,780円《従業員の支払額》)×100/108=3,500円

3 上記の所得税基本通達36-38の2の取扱いは、日々の昼食等に対する補助を目的とするものであるため、食券の未使用分を繰り越して、一度に多額の食事をするためにその食券を利用する場合には、同取扱いの趣旨に反するものと考えられます。
このため、④の条件のように、1回の食券の利用について、一般的な昼食等としての相当額の範囲を逸脱しない限度額を設定することや、⑤の条件のように、食券の利用可能期間を設定することが、同取扱いの趣旨に合うものと考えられます。

13.在宅勤務者に対する食券の支給②(食券以外の食事の支給がある場合)〔令和3年4月30日追加〕

〔問13〕当社では、在宅勤務を導入することとし、従業員に対する昼食の補助として、従業員が在宅勤務を行う日には、上記【問12】の②から⑤までの条件を満たす食券(電子的なものを含みます。)をその従業員に支給することとし、その従業員が出勤する日には、契約業者から購入する弁当をその従業員に支給することとしました。

また、従業員に対して、食券及び弁当を支給した場合には、従業員は、それぞれの価額の半額を当社に支払うこととします。
例えば、ある月において、一の従業員に対して、次のとおり食券及び弁当を支給した場合、従業員に対する給与として課税する必要はありますか。
f:id:sr-memorandum:20210604201633p:plain

〔答〕
企業が従業員に食事の支給(注1)をする場合に、その従業員から実際に徴収している対価の額がその食事の価額の50%相当額以上であり、かつ、企業の負担額(食事の価額からその実際に徴収している対価の額を控除した残額)が月額3,500円(消費税及び地方消費税
(以下「消費税等」といいます。)の額を除きます。)を超えないときは、その従業員が食事の支給により受ける経済的利益はないものと取り扱うこととしています(所得税基本通達36-38の2)。
ご質問の場合、従業員からは、食券の額面金額及び弁当の価額の50%相当額以上を徴収しており、また、消費税等の額を除いた企業の負担額は月額3,500円を超えていない(注2)ため、上記の要件を満たしています。

また、【問12】の②から⑤までの条件が満たされれば、その食券の支給は食事そのものを支給した場合と同視することができるものと考えられます(注3)。
このため、ご質問の食券及び弁当の支給については、従業員に対する給与として課税する必要はありません。
なお、消費税等の額を除いた企業の負担額が月額3,500円を超えた場合には、その月中に支給した食券及び弁当に係る企業の負担額の全額について、従業員に対する給与として課税する必要があります。
(注)1「食事の支給」とは、企業が従業員に対して、契約業者から購入した弁当を提供することや、社員食堂で食事を提供すること等をいいます。
一方、「食費の補助」(現金支給)については、給与とみなされ、所得税の課税対象となります。

2 食券の利用に係る「消費税等の額を除いた企業の負担額」の計算においては、軽減税率(8%)の適用があったときの食券の利用と、標準税率(10%)の適用があったときの食券の利用とに区分して計算する必要があります。
ご質問のケースにおいては、食券の利用に当たって、次のように全て軽減税率(8%)が適用されると仮定した場合、消費税等の額を除いた企業の負担額は3,470円となるため、標準税率(10%)の適用があったとしても、その負担額は3,500円よりも少ない金額が算出されることになります。

イ 食券に係る企業の負担額(消費税等の額を除いた金額の計算)
  (5,000円《食券の金額》-2,500円《従業員の支払額》)×100/108=2,314.814…円


ロ 弁当に係る企業の負担額(消費税等の額を除いた金額の計算)
  (2,500円《弁当の価額》-1,250円《従業員の支払額》)×100/108=1,157.407…円

ハ 企業の負担額(イ+ロ)

  2,314.814…円+1,157.407…円=3,472.222…円
  →3,470円(10円未満の端数切捨て)

3 上記の所得税基本通達36-38の2の取扱いは、日々の昼食等に対する補助を目的とするものであるため、食券の未使用分を繰り越して、一度に多額の食事をするためにその食券を利用する場合には、同取扱いの趣旨に反するものと考えられます。
このため、【問12】の④の条件のように、1回の食券の利用について、一般的な昼食等としての相当額の範囲を逸脱しない限度額を設定することや、【問12】の⑤の条件のように、食券の利用可能期間を設定することが、同取扱いの趣旨に合うものと考えられます。

新型コロナワクチンの職域接種の開始について(令和3年6月1日事務連絡)

新型コロナワクチンの職域接種の開始について(令和3年6月1日事務連絡)


厚生労働省健康局健康課予防接種室より、新型コロナワクチンの職域接種の開始について、事務連絡があったようです。


https://www.mhlw.go.jp/content/000786973.pdf


各 都道府県・市町村・特別区 衛生主管部(局) 御中



新型コロナワクチンの職域接種の開始について
新型コロナウイルス感染症への対応にあたっては、多大なるご尽力をいただき感謝申し上げます。
また、現在、7月末を念頭に、希望する高齢者の接種が終了するよう御尽力いただいており、重ねて感謝申し上げます。
高齢者から次の接種順位への移行については、高齢者への接種の完了を待つ必要はなく、高齢者の接種の見通しがついた自治体から、高齢者の接種状況や予約の空き状況を踏まえ、各自治体の判断で順次、基礎疾患を有する者等を含めて、広く一般にも接種を開始していただくこととしています。
そうした中、今般、ワクチン接種に関する地域の負担を軽減し、接種の加速化を図っていくため、6月21日から、企業や大学等において、職域(学校等を含む)単位でワクチンの接種を開始することを可能としました。
ついては、現時点における職域接種の内容を、下記の通り、お示ししますので御了知いただくとともに、今後速やかに、各自治体においてお願いしたい取組や詳細な内容・手続等をお示ししますので、適切な対応をお願いいたします。


1.使用するワクチン

モデルナ社製ワクチンを使用します。

2.開始時期

令和3年6月21日からとします。さらに、高齢者への接種が早期に完了する見込みのある自治体においては、自治体の判断で、時期を前倒しすることも可能とします。

3.接種会場・医療従事者の確保等

自治体による高齢者等への接種に影響を与えないよう、接種に必要な会場や医療従事者等は企業や大学等が自ら確保することとします。

4.実施形態

企業単独での実施のほか、中小企業が商工会議所等を通じて共同で実施すること、企業が下請け企業など取引先も対象に含めて実施すること、大学等が学生も対象に含めて実施することなども可能とします。

5.接種順位

職域接種の対象者の中で、接種の優先順位を踏まえて、高齢者や基礎疾患を有する者が優先的に接種できる機会を設けることとします。

6.接種費用

職域接種も予防接種法に基づく予防接種として行われるものであり、接種にかかる費用は、同法に基づき支給されます。

7.接種券

接種券が届く前でも接種可能ですが、接種券が発送された後は、企業や大学等において、本人から回収して予診票に添付の上、必要な処理をして頂きます。自治体においては、標準的には6月中旬を目途に、広く住民への接種券の送付ができるよう、各自治体で準備を進めていただくようお願いいたします。また、地域の実情に応じて前倒しする等の柔軟な対応をお願いいたします。

                以 上

7月以降の雇用調整助成金の特例措置等について

7月以降の雇用調整助成金の特例措置等について

予想どおり、7月も雇用調整助成金の特例措置等は延長されるようです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/r307cohotokurei_00001.html

厚生労働省ホームページより抜粋

(注)以下は、事業主の皆様に政府としての方針を表明したものです。施行にあたっては厚生労働省令の改正等が必要であり、現時点での予定となります。

新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の特例措置については、5月・6月は特に業況が厳しい事業主等に対し特例を設けつつ、原則的な措置の水準は一定程度抑えることとし、その上で、7月以降の助成内容については通常制度に向けて更に見直しを進めていく旨公表していたところです。 今般の緊急事態宣言の延長等を踏まえ、7月についても、5月・6月の助成内容を継続することとする予定です(別紙)。 8月以降の助成内容については、雇用情勢を踏まえながら検討し、6月中に改めてお知らせします。

(別紙) f:id:sr-memorandum:20210531151213j:plain

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の延長について

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の延長について

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(以下「休業支援金」という。)について、中小企業のシフト制労働者等の令和2年4月から9月までの休業に関する申請期限などは、令和3年5月末となっていましたが、申請期限を下記のとおり延長されました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18923.html


f:id:sr-memorandum:20210528223227p:plain

令和2年10 月30 日公表のリーフレットの対象となる方(下記のいずれかに該当する方)
・いわゆるシフト制、日々雇用、登録型派遣で働かれている方
・ショッピングセンターの休館に起因するような外的な事業運営環境の変化に起因する休業の場合
・上記以外の方で労働条件通知書等により所定労働日が明確(「週〇日勤務」など)であり、かつ、労働者の都合による休業ではないにもかかわらず、労使で休業の事実について認識が一致しない場合


② 労働契約上、労働日が明確でない方(シフト制、日々雇用、登録型派遣)

その他の詳しい情報については、厚生労働省の休業支援金のHPをご覧下さい。
(参考)休業支援金・給付金HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html


令和2年10 月30 日公表のリーフレット
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高年齢雇用継続給付・育児介護休業給付|2021年(令和3年)8月より給付申請における添付書類の省略について

高年齢雇用継続給付・育児介護休業給付|2021年(令和3年)8月より給付申請における添付書類の省略について

令和3年8月1日から、次のとおり添付書類を省略できるようになります。

1.育児休業給付金、介護休業給付金、高年齢雇用継続給付金の手続の際、通帳等の写し

令和3年8月1日から、育児休業給付金、介護休業給付金、高年齢雇用継続給付金の手続の際、通帳等の写しを原則不要になります。
※手書きで申請書を作成する場合は、引き続き必要になります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000783316.pdf


育児休業給付金、介護休業給付金、高年齢者雇用継続給付金の最初の支給申請に当たっては、申請書の記載内容の確認書類として「払渡希望金融機関確認書類(通帳やキャッシュカードの写し等)」の提出が必要でしたが、令和3年8月1日以降、原則、これを不要とする取扱いに変更になります。

対象となる申請書

〈高年齢雇用継続給付金〉
 ●高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続支給申請書

育児休業給付金〉
育児休業給付金受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書

〈介護休業給付金〉
●介護休業給付金支給申請書

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2.高年齢雇用継続給付の手続の際、免許書等の写し

令和3年8月1日から、高年齢雇用継続給付の手続の際、あらかじめマイナンバーを届け出ている方について運転免許証等の写しを省略できます。
高年齢雇用継続給付金は60歳以上65歳未満の方を対象とする給付であるため、その支給申請に当たっては、被保険者の年齢を確認する書類として「運転免許証や住民票の写し等(以下、添付書類)」の提出が必要でした。
マイナンバーを届け出ていただいている方は、ハローワークにおいて年齢の確認ができるため、令和3年8月1日以降、この添付書類を不要とする取扱いに変更になります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000783315.pdf

対象となる申請書

●高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続支給申請書

留意事項

雇用保険の届出には必ずマイナンバーを記載してください。
番号法※および雇用保険法に基づき、雇用保険手続の届出に併せてマイナンバーを届け出ることが義務付けられています。
※正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」

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有限会社シルバーハート事件(東京地判令2.11.25労経速2443号3頁)

有限会社シルバーハート事件(東京地判令2.11.25労経速2443号3頁)

新型コロナウイルス感染症の影響で業務量が縮小したため、所定労働日数や所定労働時間が定まっていない日給又は時給の従業員について、休業手当を支払わずにシフトを減らすことが法的に問題ないのか疑義がありましたが、この問題に対して、本件は参考になり得る裁判例です。
なお、本件は、会社側が従業員に対して、労務を提供させる債務などが不存在であることの確認を求めて提訴したという、珍しい事例です。判例は、原告をX、被告をYとして表記するのがお作法なので、本件は、労働関係の裁判としては珍しく会社側がX、労働者側がYとなっています。

1.事件の概要

X社は、介護事業及び放課後児童デイサービス事業を営む有限会社であり、Yは平成26年1月30日付けでX社に雇用され、シフト制で介護業務等に従事していた。
雇用契約書には、勤務日・時間に関し始業・終業時刻のほか「シフトによる。」との記載のみがあり、業務内容は空欄、就業場所は各事業所とされ主たる事業所の記載はなかった。Yは、入社以降、複数の事業所にて介護業務に従事したが、平成28年1月頃から児童デイサービスの勤務シフト(原則として午後半日勤務)に入るようになり、同29年2月以降、児童デイサービスでの勤務のみとなってからは、不当配転だと考えるようになり、異議を留め業務に従事していた。
なお、Yは、同28年10月頃、地域ユニオンに加入し、勤務シフト時間数、勤務場所、時給その他の労働条件について、X社との間で団体交渉を行っていた。
Yの勤務日数・時間は、同29年5月は13日(勤務時間65.5時間)、同年6月は15日(同73.5時間)、同年7月は15日(同78時間)であったが、同年8月は、当初17日であったのが5日(同40時間)に削減され、同年9月は1日(同8時間)のみ、同年10月以降は1日も配属されなくなった。
これに対し、Yは、X社との間で、勤務時間を週3日、1日8時間、週24時間、勤務地、職種を介護事業所及び介護事業と合意(以下「本件合意」という。)したと主張していたが、X社は合意を否定している。
また、Yは、同29年10月30日の団体交渉において、児童デイサービスの半日勤務には応じない旨を表明した。

本件本訴は、X社がYに対し、本件合意を前提とした労務を提供させる債務などの別紙1記載の各債務がいずれも不存在であることの確認を求め訴訟提起した事案である。

一方、本件反訴は、YがX社に対し、①主位的に、X社の責めに帰するべき事由により本件合意に基づき就労することができなかったと主張して平成28年5月以降の未払賃金等を、②予備的に、同29年8月以降のシフトの大幅な削減が違法かつ無効であると主張して、同月以降の未払賃金等の支払いを求めるとともに、③給与振込手数料の控除には理由がない旨を主張して控除された振込手数料等の支払い、④通勤手当の未払いがあると主張して未払通勤手当の支払いを求め反訴提起した事案である。

2.判決の概要

※他にも争点がありますが、ここでは、勤務時間の合意の有無、職種限定の合意の有無、シフトの不当な削減による賃金請求権の有無を取及び給与振込手数料控除の可否り上げます。

(1)勤務時間の合意について

ア Yは、本件労働契約締結の際に、勤務時間につき週3日、1日8時間、週24時時間とする合意をした旨供述するとともに同旨の陳述書を提出する一方、X社代表者はそのような合意はしていない旨供述する。
そこで検討すると、本件労働契約の雇用契約書には、始業・終業時刻及び休憩時間欄に、始業時刻午前8時00分、終業時刻午後6時30分、休憩時間60分の内8時間のほか、手書きの「シフトによる。」という記載があるのみであり、週3日であることを窺わせる記載はないことは、X社代表者の供述と符合する。また、Yが作成した平成26年2月から平成28年1月まで及び同年4月のスケジュールによれば、1か月の出勤回数は9回~16回であり、YのX社における勤務開始当初の2年間においても、必ずしも週3日のシフトが組まれていたとは認められないことからすると、固定された日数のシフトが組まれていたわけではなかったといえる。そして、X社の介護事業所におけるシフトを組み際には、管理者、相談員、運転、入浴担当、アクティビティー担当等の役割を考慮して、各役割につき1人ずつ配置する必要があるところ、Yは運転免許や相談員の資格を有しておらず、アクティビティー又は入浴のシフトに入る必要があることからすれば、他の職員との兼ね合いから、Yの1か月の勤務日数を固定することは困難であると考えられる。以上によれば、Yが、X社の求人に応募した際に、勤務時間について週3日、1日8時間、週24時間の希望を有していたことを踏まえても、そのような内容の合意をしていない旨のX社代表者の供述は信用でき、Yの供述は、これに反する部分は信用できないと言わざるを得ない。

イ Yは、「シフトによる」という文言さえ雇用契約に記載すれば、繁閑等に応じて、自由にその裁量で勤務させることが可能になりかねず、賃金を唯一の収入とする労働者の利益を害することが著しいことから、シフトによる旨の合意をすることは考えられない旨主張する。しかしながら、翌月の勤務に関する希望を踏まえて、シフトによって勤務日及び勤務日数を決定する方法は、労働者の都合が反映される点で労働者にとっても都合のよい面もあるのであって、シフトによるという合意自体があり得ないものとはいえず、Yの主張は採用できない。
また、Yは、履歴書に週3日・週24時間勤務の希望を記載しており、それが受け入れられたからこそX社に入社した旨主張するが、シフトによる場合にも社員の希望にできる限り沿う運用をすることは可能であることからすれば、Yがそのような勤務時間を前提として求職活動を行っていたことは、前記認定を左右する事情とはいえない。

(2)就労場所及び職種の合意について

ア Yは、本件労働契約締結の際に、就労場所及び職種について、X社のQ2事業所、職種につき介護職とする旨合意したと供述するとともに、同旨の陳述書を提出する一方、X社代表者はそのような合意はしていない旨供述する。
そこで検討すると、本件労働契約の雇用契約書には、就業場所をX社の各事業所とするのみで、主たる事業所の記載はなく、業務内容は空欄であること、X社においては、介護事業所の他、児童デイサービスの事業所を運営するところ、各事業場の担当者が集まってシフトを決定するものであり、人手不足のために人員を融通しあうこともあったこと、Yも、平成28年2月に初めて児童デイサービスのシフトを入れられて以降、少なくとも当初は異議を述べることなく当該シフトに応じて児童デイサービスの業務を行っていたことからすれば、X社代表者の供述は信用でき、Yの供述はこれに反する部分は直ちに信用できない。

イ Yは、インターネット上の介護職の求人サイトから、介護職・ヘルパーの職種を募集していたX社を選び出し、応募したことから、介護職に限定する合意がある旨主張するが、求人サイトを経由したことで直ちに職種について介護職に限定する合意があったと認めることはできず、前記アの認定を左右する事情とはいえない。
また、Yは、平成28年2月以降の児童デイサービスでの就労については、異議を留めながら従っていた旨主張するが、当初から児童デイサービスにおける勤務について異議を留めていたことを窺わせる証拠はなく、Yの主張は採用できない。

以上によれば、本件労働契約において、勤務時間について週3日、1日8時間、週24時間、勤務地について介護事業所、職種につき介護職とする合意があったとは認められない。

(3)シフトの不当な削減による賃金請求権の有無について

前記のとおり、本件労働契約において勤務時間につき週3日、1日8時間、週24時間とする合意があったとは認められず、毎月のシフトによって勤務日や勤務時間が決定していたことからすれば、適法にシフトが決定されている以上、Yは、X社に対し、シフトによって決定された勤務時間以外について、X社の責めに帰すべき事由によって就労できなかったとして賃金を請求することはできない。しかしながら、シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得ると解される。

民法336条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

そこで検討すると、Yの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)であったが、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同月10日のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後を5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。
この点、X社は、Yが団体交渉の当初から、児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから、Yのシフトを組むことができなくなったものであり、Yが就労できなかったことはX社の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
しかしながら、第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ、Yが児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で、一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年9月29日時点でYが一切の児童デイサービスで勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、X社はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。
※シフトを大幅に削減した理由は、第一次団体交渉をしたことと推測されますが、X社がこれを合理的な理由として主張すれば、不当労働行為を認めることになってしまいます。

一方、Yは、同年10月30日の第2回団体交渉において、児童デイサービスでの半日勤務には応じない旨表明しているところ、このようなYの表明により、原則として半日勤務である放課後児童デイサービス事業所でのシフトに組み入れることが困難になるといえる。そして、前記のとおり、Yの勤務地及び職種を介護事業所及び介護職に限定する合意があると認められないところ、Yの介護事業所における勤務状況から、X社がYについて介護事業所ではなく児童デイサービス事業所での勤務シフトに入れる必要があると判断することが直ちに不合理とまではいえないことからすれば、同年11月以降のシフトから外すことについて、シフトの決定権限の濫用があるとはいえない。
※業務の状況について、何度かX社の副社長や他の職員から注意指導を受けたことがあった。

そうすると、Yの同年9月及び10月の賃金については、シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月(同年5月分~7月分)の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であり、その平均額は、6万8,917円である。
そして、当該平均額との差額は、同年9月分が6万円1,317円、同年10月分が6万8,917円である。
以上によれば、Yは、X社に対して、同年9月分及び10月分の賃金として、13万円234円及び遅延損害金の支払を求めることができる。

(4)給与振込手数料控除の可否について

労働基準法24条1項但書きは、当該事業場の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、賃金の一部を控除して支払うことができる旨規定するところ、X社、本件労使協定について、P1氏が過半数代表者として適法に選出された旨主張する。
しかしながら、P1氏は、当時、本社に所属して訪問介護を行う従業員であり、X社代表者も、P1氏は本社を事業場とする過半数代表者として選出された旨供述するところ、Yの所属する事業場は、Q2事業所、Q3事業所及び児童デイサービスの事業所のいずれかであり、本社に所属していたことは認められないことに加え、本件証拠上、P1氏の選出手続が具体的に明らかでないことからすれば、P1氏が、Yの所属する事業場の過半数代表者であるとは認められないから、本件労使協定によって、Xの賃金から給与振込手数料を控除することはできず、控除された給与振込手数料分の賃金が未払いである。

3.解説

冒頭で述べたように、新型コロナウイルス感染症の影響で業務量が縮小したため、所定労働日数や所定労働時間が定まっていない日給又は時給の従業員について、休業手当を支払わずにシフトを減らすことが法的に問題ないのか疑義がありましたが、この問題に対して、本件は参考になる裁判例です。

本裁判例では、「翌月の勤務に関する希望を踏まえて、シフトによって勤務日及び勤務日数を決定する方法は、労働者の都合が反映される点で労働者にとっても都合のよい面もあるのであって、シフトによるという合意自体があり得ないものとはいえず」としており、所定労働日数や所定労働時間が定まらない雇用契約を認めています。ただし、本件の雇用契約が真に「シフトによる」ものと認められたのは、勤務日数等が実際に一定ではなく、また勤務日数を一定にすることが業務実態から困難であったことが背景にあり、単に契約書の文言だけで判断されているわけではありません。

そして、「シフトによる」雇用用契約を認めたうえで、「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得る」と、合理的な理由がない大幅なシフト削減については、権利濫用になり無効になるという一定の制約を示しています。

これを業務量の縮小の場合に当てはめれば、勤務日数等を一定とするのが困難な業務実態があり、実際の運営も勤務日数等が一定とされておらず、シフトの削減が業務量の削減に応じた合理的な範囲であれば、賃金支払義務や休業手当の支払義務も無くなるものと考えられます。
ただし、あくまで下級審の判断なので、これが司法機関の統一的な見解というわけではありません。

なお、全く異なる争点ですが、「給与振込手数料控除の可否について」も実務上問題となりそうなので取り上げました。
社会保険料源泉徴収税など法律上認められたもの以外の費用(社宅、組合費や共済会費など)を従業員の賃金から控除する場合は、個別の同意又は労使協定の締結が必要となります(労働基準法24条)。
本件においては、労使協定が締結されてはいましたが、その従業員代表者の選出手続が不明確であり、また他の事業場の従業員であったことから、労使協定の効力が否定され、給与振込手数料控除が賃金不払いであるとされています。
従業員代表は選挙などの民主的な手続で選出される必要があり、適切な手続を踏まずに選出された従業員代表と締結した労使協定は無効となります。朝礼での挙手等で行われ書類による証拠が無かったとしても、従業員を証人として証言させればよいのですから、民主的な方法で選出されなかったものと判断されても仕方ありません。
また、労使協定は原則として事業場毎に締結する必要があるため、本社で給与事務を行っていたとしても、本社で締結しただけでは他の事業場には効力は及びません。全ての事業場で、個別に従業員代表を選出し、賃金控除についての労使協定を締結する必要がありました。

令和3年度版産業保健関係助成金について

令和3年度版産業保健関係助成金について

独立行政法人労働者健康安全機構にて、「令和3年度版産業保健関係助成金について」が公表されています。
まだ詳細は公表されていませんが、令和3年からは、「事業場における労働者の健康保持増進計画助成金」が新たに開始されます。
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1944/Default.aspx

産業保健関係助成金は、それほど認知されいませんが、いい機会ですので概要を抜粋します。

産業保健関係助成金とは(ホームページより抜粋)

労働者健康安全機構では、事業者が使用する労働者の健康管理、健康教育その他の健康に関する業務について、事業者及び産業医等の産業保健関係者が行う自主的な産業保健活動を支援することにより労働者の健康の確保に資すること並びに小規模事業場の事業者及び労働者に対する産業保健サービスの提供による労働者の健康確保を図ることを目的とした事業を行っています。
その事業の一部として平成27年度から「ストレスチェック助成金」事業が開始され、平成29年度からは産業保健関係助成金として「ストレスチェック助成金」、「職場環境改善計画助成金」、「心の健康づくり計画助成金」及び「小規模事業場産業医活動助成金」の取扱いを開始しました。また、平成30年度は「心の健康づくり計画助成金」の対象を、従来の「企業本社」に「個人事業主」を加え、「小規模事業場産業医活動助成金」を「産業医コース」「保健師コース」「直接健康相談環境整備コース」の3つのコースに分け、平成31年1月から「職場環境改善計画助成金」に「建設現場コース」を加え、助成金の対象範囲を拡大しました。一方、令和元年度からは、メンタルヘルス対策や産業医活動を促進する従来の助成金に加え「治療と仕事の両立支援助成金(環境整備コース)」と「治療と仕事の両立支援助成金(制度活用コース)」を、令和2年度からは「副業・兼業労働者の健康診断助成金」といった多様な働き方を推進する観点から新しい助成金を開始しています。
令和3年度からは「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の改正を踏まえて、事業者が継続的かつ計画的に心身両面にわたる積極的な健康保持増進対策を推進するために、「事業場における労働者の健康保持増進計画助成金」を新たに開始することとなりました。
職場における労働者の健康管理等のために、ぜひご活用ください。

主な助成金

※、「事業場における労働者の健康保持増進計画助成金」は、まだ詳細は公表されていません。


副業・兼業労働者の健康診断助成金

使用者は、常時使用する労働者に対して、労働安全衛生法第66条等に基づき、健康診断等を実施しなければなりませんが、副業・兼業労働者については、その就労時間が標準的労働者に比べて短いことから、使用者に健康診断実施義務が課せられていません。
このため、副業・兼業労働者に対する健康診断の実施を促進することを目的に、「副業・兼業労働者の健康診断助成金」が設けられています。
事業者が副業・兼業労働者に対して、一般健康診断を実施した場合に、費用の助成を受けることができる制度です。
https://www.johas.go.jp/tabid/1946/Default.aspx

治療と仕事の両立支援助成金

治療と仕事の両立支援助成金事業者の方が、労働者の傷病の特性に応じた治療と仕事を両立させるための制度を導入することは、労働者の健康確保という意義とともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現といった意義があるとされています。

「治療と仕事の両立支援助成金(環境整備コース)」は、事業者の方が、両立支援コーディネーターの配置と両立支援制度の導入を新たに行った場合に、事業者が費用の助成を受けることができる制度です。(1法人又は1個人事業主あたり、200,000円を将来にわたり1回限り助成)
https://www.johas.go.jp/tabid/1948/Default.aspx

「治療と仕事の両立支援助成金(制度活用コース)」は、事業者の方が、両立支援コーディネーターを活用し、両立支援制度を用いた両立支援プランを策定するとともに、実際に労働者に適用した場合に、事業者が費用の助成を受けることができる制度です。
傷病を抱える労働者に、両立支援制度を適切かつ効果的に実施するために、是非ご活用ください。
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1950/Default.aspx

ストレスチェック』実施促進のための助成金

平成26年6月25日に公布された労働安全衛生法の一部を改正する法律により、ストレスチェックと面接指導の実施等を義務づける制度が創設されました。(平成27年12月1日施行)
従業員数50人未満の事業場は、当分の間努力義務となりますが、この「『ストレスチェック』実施促進のための助成金」は、従業員数50人未満の事業場が、医師・保健師などによるストレスチェックを実施し、また、ストレスチェック後の医師による面接指導などを実施した場合に、事業主が費用の助成を受けることができる制度です。
従業員のメンタルヘルス不調の未然防止のために、ぜひご活用ください。
https://www.johas.go.jp/tabid/1952/Default.aspx

職場環境改善計画助成金

平成26年6月25日に公布された労働安全衛生法の一部を改正する法律により、ストレスチェックと面接指導の実施等を義務付ける制度が創設され、平成27年12月1日から施行されています。

この「職場環境改善計画助成金(事業場コース)」は、事業者の方が、ストレスチェック実施後の集団分析結果を踏まえて、専門家による指導に基づき職場環境改善計画を作成し、計画に基づき職場環境の改善を実施した場合に負担した指導費用の助成を受けることができる制度です。
職場環境の改善のために、是非ご活用ください。(1事業場あたり100,000円を上限とし、将来にわたり1回限り
https://www.johas.go.jp/tabid/1954/Default.aspx

この「職場環境改善計画助成金(建設現場コース)」は、建設業の元方事業者の方が、ストレスチェック実施後の集団分析結果を踏まえて、専門家による指導に基づき、職場環境改善計画を作成し、計画に基づき職場環境の改善を実施した場合に負担した指導費用の助成を受けることができる制度です。
職場環境の改善のために、是非ご活用ください。(1建設現場あたり100,000円を上限に将来にわたり1回限り
https://www.johas.go.jp/tabid/1956/Default.aspx

心の健康づくり計画助成金

厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定、平成27年11月30日改正)を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進しています。事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。 
この「心の健康づくり計画助成金」は、事業主の方が各都道府県にある産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員の助言・支援に基づき心の健康づくり計画を作成し、計画を踏まえメンタルヘルス対策を実施した場合に助成を受けることができる制度です。  
職場におけるメンタルヘルス対策のために、ぜひご活用ください。(1法人又は1個人事業主当たり、100,000円を将来にわたり1回限り
※「労働保険(雇用保険労災保険)」適用事業場であること、登記上の本店又は本社機能を有する事業場であること、当該事業場に雇用されている労働者がいることが対象です。
https://www.johas.go.jp/tabid/1958/Default.aspx

小規模事業場産業医活動助成金産業医コース)

職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なことから、常時50人以上の労働者を使用する事業場においては事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないこととなっており、労働者数50人未満の事業場については産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に、労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならないこととされています。

この「小規模事業場産業医活動助成金産業医コース)」は、小規模事業場が産業医の要件を備えた医師と産業医活動の全部又は一部を実施する契約を締結し、実際に産業医活動が行われた場合に実費を助成するものです。
職場における労働者の健康管理等のために、ぜひご活用ください。
https://www.johas.go.jp/tabid/1961/Default.aspx

この「小規模事業場産業医活動助成金保健師コース)」は、小規模事業場が保健師と産業保健活動の全部又は一部を実施する契約を締結し、実際に産業保健活動が行われた場合に実費を助成するものです。
職場における労働者の健康管理等のために、ぜひご活用ください。
https://www.johas.go.jp/tabid/1963/Default.aspx

この「小規模事業場産業医活動助成金(直接健康相談環境整備コース)」は、小規模事業場が産業医と締結する産業医活動契約、又は保健師と締結する産業保健活動契約のいずれかに、契約した産業医又は保健師に労働者が直接健康相談できる環境を整備した条項を含めた場合に助成するものです。
職場における労働者の健康管理等のために、ぜひご活用ください。
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1965/Default.aspx

令和3年5月・6月の雇用調整助成金の特例措置等について

令和3年5月・6月の雇用調整助成金の特例措置等について

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000782480.pdf

判定基礎期間の初日が令和3年5月1日以降の場合の支給申請様式が変更されています。厚生労働省HPに掲載している最新の様式をご提出ください。

こちらのページでどの様式を使用するか、判別できるようなっています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouchouseijoseikin_20200410_forms.html

【中小企業主・判定基礎期間の初日が令和3年5月1日以降・業況及び地域のいずれにも該当しない場合の例】
① 1から4の設問で該当するラジオボタンにチェックを入れ、「様式の確認」をクリックします。
f:id:sr-memorandum:20210524204049p:plain
※休業手当×助成率が上限を超えていない場合は、小規模事業主ではなく、「中小企業事業主(小規模事業主を除く)」の様式を利用した方が、助成額が多くなることがあります。

② 次のように様式の番号が案内されます。
f:id:sr-memorandum:20210524204949p:plain

③ すぐ下から様式の番号の「雇調金」又は「緊安金」をクリックします。
f:id:sr-memorandum:20210524205157p:plain
雇用保険被保険者の休業は「雇調金」、雇用保険非加入者の休業は「緊安金」です。

④ 該当する様式をダウンロードする部分にジャンプするので、ここから様式をダウンロードして作成します。
f:id:sr-memorandum:20210524205611p:plain

また、最新のガイドブックやFAQはこちらで確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html(令和3年5月21日付けで、ガイドブックやFAQが更新されています)

1.延長について

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、令和3年4月30日までを期限に雇用調整助成金の特例措置を講じられいましたが、一部内容が変更され、この特例措置が6月30日まで延長されました。(以前、厚生労働省の方針として示されていましたが確定しました)

特例措置の内容

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(注)金額は1人1日あたりの上限額、括弧書きの助成率は解雇等を行わない場合です。
①は令和2年1月24日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無及び「判定基礎期間末日の労働者数が各月末の労働者数平均の4/5以上」の要件により適用する助成率が判断されています。
②は令和3年1月8日から判定基礎期間の末日までの解雇等の有無により適用する助成率を判断しています。
雇用保険被保険者以外の方に対する休業手当については、「緊急雇用安定助成金」として支給されます。

※1に該当する事業主
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※2に該当する事業主
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厚生労働省ホームページに掲載する区域及び期間
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/cochomoney_00002.html

2.地域特例に係る追加支給申請について(大企業事業主の方へ)

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000782479.pdf

地域特例では、令和3年4月23日に発令された緊急事態宣言対象地域に関する特例を遡及して適用することから、追加支給申請を受け付けます。緊急事態措置を実施すべき期間を含む判定基礎期間について、既に支給決定を受けた事業主の方々は、追加支給申請が必要かご確認下さい。

以下のケースに該当する場合、追加支給申請の手続きが必要となります。
① 緊急事態措置を実施すべき期間を含む判定基礎期間について、既に、特例を利用せずに支給決定を受けている
② 上記①の内容が、地域特例に関する支給要件を満たしている
③ 上記①の内容の判定基礎期間の末日が令和3年5月31日以前である
f:id:sr-memorandum:20210524212542p:plain

● 追加支給申請の期限は、A又はBのうち遅い日付となります。
  A:令和3年7月31日まで  B:支給決定日の翌日から2か月以内

● 次の書類の提出が必要となります。
※様式はこちらのリンクの13(一番下)にあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouchouseijoseikin_20200410_forms.html#20005a

「追加支給申請に係る申出書(様式)」、「支給要件確認申立書(様式)」、「支給申請書(様式)」、
「助成額算定書【要請等対象施設/要請等対象施設以外】(様式)」、
「休業等実績一覧表【要請等対象施設/要請等対象施設以外】(様式)」、
「支給決定通知書」、「休業させた日や時間がわかる書類(対象労働者を増やした場合)」
「要請等対象施設の所在地、その施設における対象労働者を確認できる書類」