社会保険労務士川口正倫のブログ

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賞与が前月給与の10倍を超える場合の源泉徴収税の計算

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賞与が前月給与の10倍を超える場合の源泉徴収税の計算

1.賞与における通常の源泉徴収税の計算

(1) 前月の給与から社会保険料等を差し引きます。
(2) 上記(1)の金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて税率(賞与の金額に乗ずべき率)を求めます。
(3) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)×上記(2)の税率
この金額が、賞与から源泉徴収する税額になります。

2. 前月の給与の金額(社会保険料等を差し引いた金額)の10倍を超える賞与(社会保険料等を差し引いた金額)を支払う場合

①賞与の計算期間が6か月以内の場合

(1)  (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6
(2)  (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)
(3)  (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(4)  (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)
(5)  (4)×6
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

②賞与の計算期間が6か月超過の場合

(1)  (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷12
(2)  (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)
(3)  (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(4)  (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)
(5)  (4)×12
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

3.前月に給与の支払がない場合

(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6
(2) (1)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
(3) (2)×6
この金額が賞与から源泉徴収する税額になります。

4.具体的な例

役員報酬の月額報酬(定期同額給与)を下げて役員賞与(事前確定届出給与)を支給することにより、年収を下げずに社会保険料を節約するような場合は、役員賞与の支給タイミングによって、源泉徴収額が大きく異なることがあります。
最終的には、年末調整で還付もしくは徴収されるので源泉徴収額の大小はあまり大きな問題ではありませんが、控除後の支給額を大きくしたいというのが人情です。

パターン1
役員報酬 1月~6月:300万円 7月~12月:15万円
・役員賞与 7月:1710万円
・本店所在地 東京都
・年齢 50歳(扶養等数0人)

【計算】
標準賞与額:1710万円
健康保険料(介護保険料を含む)=573万円×0.1163/2=333,199円(50銭以下切捨て)
厚生年金保険料=150万円×0.183/2=137,250円
∴賞与から社会保険料等を差し引いた金額=16,629,551円・・・・・①

前月の役員報酬:300万円
前月の標準報酬月額:139万円(健康保険)・62万円(厚生年金)
健康保険料(介護保険料を含む)=80,828円
厚生年金保険料=56,730円
∴前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額=2,862,442円・・・・・②

①は②の10倍を超えていないため、通常どおり源泉徴収額を計算します。
令和2年分 源泉徴収税額表|国税庁
令和2年の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめると、2,621千円~3,495千円で扶養等数0人なので、
税率=41.861%となります。
∴賞与の源泉徴収税=16,629,551円×41.861%=6,961,296円

パターン2
役員報酬 1月~6月:300万円 7月~12月:15万円
・役員賞与 8月:1710万円
・本店所在地 東京都
・年齢 50歳(扶養等数0人)

【計算】
賞与から社会保険料等を差し引いた金額=16,629,551円・・・・①
※パターン1と同じです。

前月の役員報酬:15万円

7月の社会保険料はパターン1と同じになります。(7月から報酬が下がったので10月から随時改定で、減額されます)
∴前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額=15万円-80,828円-56,730円=12,442円・・・・②

①は②の10倍を超えているため、通常の計算方法は使用できません。
ここで、賞与の計算期間を6か月以内と6か月超過の2パターンで計算してみます。

(賞与の計算期間を6か月以内とした場合)
※ここでは、少数点以下の数字は計算途中で切り捨てます。
(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷6=①÷6=2,771,585円
(2) (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)=(1)+②=2,784,027円
(3) (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
※令和2年の月額表に当てはめます。
225万円超過350万円未満に該当するため、
(3) 615,120円+(2,784,027円-2,250,000円)×40.84=833,216円
(4) (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)=833,216円
※前月の給与に対する源泉徴収税額は、0円です。(課税額12,442円なので)
(5) (4)×6=833,216円×6=4,999,296円
∴賞与の源泉徴収税=4,999,296円

(賞与の計算期間を6か月超過とした場合)
※ここでは、少数点以下の数字は計算途中で切り捨てます。
(1) (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)÷12=①÷12=1,385,795円
(2) (1)+(前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額)=(1)+②=1,398,237円
(3) (2)の金額を「月額表」に当てはめて税額を求める。
※令和2年の月額表に当てはめます。
95万円超過170万円未満に該当するため、
(3) 121,480円+(1,398,237円-950,000円)×33.693%=272,504円
(4) (3)-(前月の給与に対する源泉徴収税額)=272,504円
※前月の給与に対する源泉徴収税額は、0円です。(課税額12,442円なので)
(5) (4)×12=272,504円×12=3,270,048円
∴賞与の源泉徴収税=3,270,048円

賞与の源泉徴収税は、計算期間が6か月以内の場合の方が高くなることがわかります。
この違いは、6か月以内というのは6か月後に同等の賞与を支給すると改定した税率で計算されるためだと思われます。

パターン1とパターン2は、年収も役員賞与も同額であるにも関わらず、源泉徴収税額は大きく異なる結果となりました。(賞与計算期間を6か月超過で計算するとパターン2はパターン1の半分以下となります。)
役員報酬の月額報酬を下げて役員賞与を支給することにより、年収を下げずに社会保険料を節約する場合は、このように役員賞与を支給するタイミングによって源泉聴取税額が大きく異なることがあります。
なお、源泉徴収税は最終的には年末調整や確定申告で精算されますので、源泉徴収税額が少なければ後から徴収されることになり、年間ベースで見れば損得はありません。