マイカーで帰宅途中に、通勤経路上にある姉経営の美容院に迎えに立ち寄り崖崩れに遭った場合は、通勤災害か(昭50.1.17基収3680号)
(問)
被災当日、K地方は集中豪雨があり、被災労働者は、道路が崩壊の恐れがあることと、姉Sが経営するK美容室の裏のがけ崩れの危険もあるので、いっしょに早く帰ろうと思い、上司の許可を得て、午後4時30分早退し、自家用自動車を運転し帰途についた。
被災労働者の勤務先の乗馬クラブから1.4㎞離れた通勤経路上(国道X号線)にあるK美容室前に午後4時35分頃到着、美容室前の通路が駐車禁止となっているため、前の空地に停車、そこから歩いて美容室に入って間もなく(約4~5分)裏の地山が高さ12m、幅23mにわたり約300㎥崩壊し、美容室の建物は全壊し、その際姉とともに建物の下敷となって即死したものである。
(答)
通勤災害として取扱われたい。
(理 由)
(1) 本件のマイカー通勤労働者が、通常、退勤途中において通勤経路上にある姉の経営する美容院に立ち寄り、姉を同乗させ帰宅するため待つ行為は、通勤行為の中断に該当する。
従って、その後は労災保険法第7条第2項の「通勤」とは認められない。しかし、被災当日については、次の事実から姉といっしょに直ちに帰宅しようとしていたものと推定され、一般に労働者が通勤の途中で行う「ささいな行為」として取扱うのが相当と認められる。
① 当該地方を襲った集中豪雨のため、通勤経路である道路が崩壊するおそれがあったので帰宅できなくなると考えたこと、また、姉が経営する美容院の裏にあるがけが崩れ美容院が倒壊する危険性があると考えられたこと等から早く姉を同乗させ帰宅しようと会社を早退していること。
② 災害が美容院に入った直後(入ってから4分位と推定されること)に発生していること。
③ 美容院には、客がいなかったことから待たずにすぐ帰ることができたものと考えられること。
(2) 次に通勤中に生じた本件災害が「通勤による」かどうかであるが、当該被災労働者の通勤経路及び当該美容院は、通称「シラス」と呼ばれる、雨に対しては極めて軟弱な土質の上に盛土をしたがけ下にあり、一般にこのような場所を通勤する労働者にとっては、雨が降れば常に土砂崩壊による災害を被る危険が内在しているものといえ、本件災害もかかる危険が、被災当日当該地方を襲った局地的な集中豪雨によって具体化したものと認められる。
(3) 従って、本件災害は、通勤に伴う危険が具体化したものと認められるので、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害に該当するものである。