社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



マイカー通勤の労働者が、自勤務先から2.5キロメートル離れた妻の勤務先まで送った後、自宅に忘れ物を取りに戻る途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2042号)

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イカー通勤の労働者が、自勤務先から2.5キロメートル離れた妻の勤務先まで送った後、自宅に忘れ物を取りに戻る途中の事故は、通勤災害か(昭50.11.4基収2042号)

(問)
 当局管内において、下記事故が発生しましたが、通勤災害の認定上疑義が生じましたので何分のご指示をお願いいたします。

1 事案の概要
 (1) 所属事業場
   ㈱T製作所
   T県M郡I町 仏壇製造業
 (2) 被災労働者
   A.N 男 34歳
   T県M郡N町O町営住宅
   販売部員(商品の配送、在庫管理)
 (3) 災害発生年月日
   昭和49年8月23日 午前8時15分頃(昭和49年8月23日午前8時35分死亡)
 (4) 災害発生場所
   T県M郡M町
   国道192号線
 (5) 傷病の部位及び傷病名
   頸椎骨折、頸髄損傷(死亡)
 (6) 災害発生の日の就業場所
   T県M郡I町
 (7) 所定労働時間
   午前8時~午後5時
 (8) 災害発生の日の就業開始の予定時刻
   午前8時
 (9) 災害発生の日に住居を離れた時刻
   午前7時15分頃
 (10) 通常の通勤経路(別添資料のとおり)
   マイカーにて自宅→国道192号線→県立M病院正門(妻の勤務先)→国道192号線(引返す)→M大橋→国道32号→県道→勤務先
 (11) 災害発生状況
 昭和49年8月23日被災労働者は、共稼ぎの妻が運転する軽四輪乗用車の助手席に同乗し、午前7時15分頃自宅を出発し、国道192号線を西方に向け約23.5キロメートル走行し、午前7時50分頃妻の勤務先であるM病院正門に到着、妻が出勤のため下車したので、被災労働者が軽四輪乗用車を運転し、会社に向かうべく国道192号線を引き返したが、通常勤務先へはM大橋南詰交差点を左折し北進しなければならないのに、左折せずにそのまま直進し約15キロメートル東進したM郡M町K1854-5交差点で信号待ちのため停車中の軽四輪トラックに追突し、頸椎骨折、頸髄損傷のため、午前8時35分死亡した。

2 問題点
 妻が、M病院で下車したあと、勤務先へ向かわず、自宅の方向へ直進した理由については、会社の就業に必要な書類を取りに帰るための行為と認めることができるが、自分の勤務先より約2.5キロメートル離れた妻の勤務先に迂回した後、更に21キロメートル離れた自宅まで引き返す途中の事故が通勤災害と認められるか否か疑義がある。

3 当局の見解
 マイカー通勤の共稼ぎ労働者が、妻の勤務先まで往復5キロメートルの距離を迂回する行為及び自分の勤務先方向へ左折せず自宅方向へ直進する行為が会社の就業に必要な書類を取りに帰るための行為であるとしても、明らかに通勤行為を逸脱したものと認められる。


(答)
 通勤災害として取り扱うのが妥当である。


(理 由)
1 本件の場合には、次の事由から、被災労働者と同一方向にある事業場に勤務する妻とがマイカーに相乗りして通勤することに合理性があると判断できることから、当該労働者が出退勤時に経由する経路を労災保険法第7条第2項の「合理的な経路」と認めるのが妥当である。

(1) 夫婦共稼ぎ労働者であり、両者とも就業のため自宅(住居)を出たものであること。

(2) 被災労働者の居住する地域は、山間部のいわゆる郡部であって、公共交通機関(鉄道、バス) を用いて通勤したとしても所定始業時刻に間に合わなくなる等、極めて不便であることが認められるので、マイカーを利用して通勤することが最も合理的な方法であると解されること。
 したがって、夫婦どちらかの運転するマイカーに同乗して通勤することに合理的理由があると認められること。

2 次に出勤の途中引き返したことは、会社の就業に必要な書類を忘れたことに気づき、自宅に取りに帰るための行為であると推断できることから、当該引き返す行為に「就業関連性」があると認めるのが相当である。

3 以上のことから、本件の被災労働者の災害は、就業との関連性に基づく通勤行為中に被災したものであって、労災保険法第7条第1項第2号の通勤災害として取り扱うのが妥当である。