社会保険労務士川口正倫のブログ

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定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について

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定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について

次のように退職所得は控除額が高額なため、従業員に支払われる金銭が税法上の退職所得に該当すると、所得税額が低くなります。

例えば、通常の従業員が支給される退職金に相当する、一般退職手当等の退職所得控除額は、次のとおりです。
●勤続年数が20年までの場合
40万円×勤続年数(80万円より少ないときは80万円)
●勤続年数が20年を超える場合
70万円×勤続年数-600万円
※障害者となったことにより退職した場合は、上記で計算した金額に100万円を加算します。

退職金がそれほど多くない場合は、非課税となることも少なくありません。

そんなことから、退職所得該当の当否はかなり重要なことですが、国税庁から、「定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について(文書回答事例)」が公表されました(令和4年12月3日公表)。
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/gensenshotoku/211111/01.htm#a01

概要を抜粋すると次のようになります。

照会事例

当社は、安定的に雇用を確保しながら事業を前進させる必要があることに加え、高年齢者安定雇用の確保という社会情勢や労働組合の要望を踏まえ、労働組合との合意により労働協約書等を改定し、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき満60歳に達した月の末日としていた従業員の定年を、満60歳から満65歳までの間で従業員が選択したいずれかの年齢に達した月の末日に延長することとしました(以下、労働協約書等の改定後の従業員が選択した定年年齢を「選択定年年齢」といい、改定後の定年制度を「本件定年制度」といいます。)。
これまで、定年年齢(60歳)に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給してきましたが、本件定年制度においては、原則として、選択定年年齢に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給することとしました。しかしながら、本件定年制度の制定前に入社した従業員のうち、満60歳に達した月の翌月末までに一時金の支給を希望する従業員(以下「本件希望者」といいます。)に対しては、選択定年年齢にかかわらず、本件退職一時金の代わりに一時金(以下「本件一時金」といいます。)を支給することとしました。
この本件一時金は、引き続き勤務する従業員に対して支給するものであり、本来の退職所得とはいえませんが、所得税基本通達30-2(5)《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》に定める給与に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないか照会いたします。

※この会社では、定年を一律に63歳というように定めるのではなく、60歳から65歳までの間で本人が選択して決めることにしています。そして、選択した定年に達したら退職一時金を支給するのが原則ですが、このような制度ができる前、つまり定年が60歳であった時期に入社した従業員に限っては、本人の希望により満60歳で、退職一時金の代わりに一時金を支給することにしています。このような、退職を伴わない一時金を退職所得として取り扱って問題ないか照会したのが本件です。

判断の枠組み

国税庁は次のような枠組みで、一時金を退職所得に該当するか判断しました。

引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、
① 労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合において、
② 延長前の定年(以下「旧定年」といいます。)に達した使用人に対し旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与であり、
③ その支払をすることにつき相当の理由があると認められるもので、
④ その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、
退職手当等とする(所得税基本通達30-2(5))

国税庁の判断:結論は退職所得に該当

労働組合との合意により労働協約等を改定して旧定年を延長し、本件希望者に対して旧定年である満60歳に達した月の末日までを基礎として本件一時金の計算をすることとしていますので、本件一時金は「旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与」であると考えます。
また、本件一時金を支給した後、本件希望者に退職を理由とした一時金を支給しないことから、本件希望者に対して旧定年時までの勤続期間を加味した一時金が支給されることもありませんので、本件一時金は、いわゆる打切支給の退職手当等※であると考えます。
そして、本件一時金は、次のイないしニのことからすると、その支払をすることにつき「相当の理由がある」ものと考えます。

したがって、本件一時金は、退職手当等に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないものと考えます。
イ 本件一時金は、入社時から、旧定年(満60歳)を迎えたときに本件退職一時金が支給されることを前提に生活設計をしてきた本件希望者の事情を踏まえ、旧定年時において精算を行うものであること。
ロ 本件定年制度導入前後において、本件退職一時金の支給金額が同額であるにもかかわらず、その支給時期が延期されるという不利益が従業員に生じる中で、本件支給事由に係る不都合に対して雇用主として特に配慮する必要があること。
ハ 本件一時金は、本件定年制度導入前に入社した従業員のうち希望者(本件希望者)に対して支給されるものであり、その支給時期も旧定年時に限られていること。
ニ 本件定年制度導入前において、旧定年時(満60歳)に支給されていた本件退職一時金は、長期間勤務したことに対する報償及び旧定年時以後の生活保障としての性格を有するものであるところ、本件一時金もその性格を有するものであることに変わりはないと考えられること。

※打切支給の退職手当等とは、退職金制度を廃止する際に廃止時の勤続年数等により支給される退職金を言います。打切支給の退職手当等も退職所得として扱われます。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/15.htm