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【同一労働同一賃金】メトロコマース事件(東京高平31.2.20労働判例1198号5頁)

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メトロコマース事件(東京高平31.2.20労働判例1198号5頁)

本件については、2020年10月13日に最高裁判所で上告審の判決が出ており、契約社員に対する退職金の不支給が不合理な労働条件の差異ではないとされています。
こちらをご参照ください。 メトロコマース事件(最判小三令2.10.13引用元裁判所HP)

裁判所名   :東京高等裁判所
事件番号   :平成29年(ネ)1842号
裁判年月日  :平成31年2月20日
判決区分   :判決

1.事件の概要

Xらは、駅構内での物品販売等の事業を営むY社に、契約社員Bとして採用され、有期雇用契約を反復更新しながら、Y社が運営する売店で販売業務に従事していた。Xらは、Y社の正社員のうち販売業務に従事している者とXらとの間で、①本給及び資格手当、②住宅手当、③賞与、④退職金、⑤褒賞並びに⑥早出残業手当(以下、これらを併せて「本件賃金等」という。)に相違があることは労働契約法20条又は公序良俗に違反していると主張して、Y社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、平成23年5月20日から各退職日までの間に正社員であれば支給されたであろう本件賃金等の一部の支払い等を求めて提訴した。第一審は、正社員全体を比較対象とし、正社員と契約社員Bの間で職務内容等に明らかな相違があるとの判断を前提に、⑥に関する相違を除いて労働契約法20条違反の成立を否定した。これに対して、Xら及びY社ともに不服として双方控訴したのが本件である。

2.判決の要旨

争点1 労働契約法20条違反の有無について

(1) 労働契約法20条が比較対象とする無期契約労働者を具体的にどの範囲の者とするかについては、その労働条件の相違が、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められると主張する無期契約労働者において特定して主張すべきものであり、裁判所はその主張に沿って当該労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断すれば足りるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、Xらは、契約社員Bと比較対象すべきY社の無期契約労働者を、正社員全体ではなく、売店業務に従事している正社員に限定しているのであるから、当裁判所もこれに沿って両者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断することとする(なお、比較対象すべきY社の無期契約労働者を正社員全体に設定した場合、契約社員Bは売店業務のみに従事しているため、それに限られない業務に従事している正社員とは職務の内容が大幅に異なることから、それだけで不合理性の判断が極めて困難になる。)。

(2) 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される(ハマキョウレックス事件(最二小判平30.6.1 労判1179号20頁)(以下「最高裁判決1」という。)参照)。

(3) 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期労働契約者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(最高裁判決1参照)。
これを本件についてみると、本件賃金等に係る労働条件の相違は、契約社員Bと正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって、契約社員Bと正社員の本件賃金等に係る労働条件は、同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。

(4) 労働契約法20条の文理や、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難いことからすると、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である(最高裁判決1参照)。
そして、両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから、当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が、それぞれ主張立証責任を負うものと解される(最高裁判決1参照)。

(5) 労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(以下、併せて「職務内容及び変更範囲」という。)により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができ、また、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできるのであって、労働契約法20条にいう「その他の事情」は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである(長澤運輸事件(最二小判平30.6.1労判 1179号34頁)(以下「最高裁判決2」という。)参照)。
これに対し、Xらは、「その他の事情」について付随的な考慮要素として限定解釈すべきであると主張するが、そのように解すべき理由はないから、上記主張は採用することができない。

(6) 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁判決2参照)。

(7) 上記(1)から(6)までで述べたところを踏まえて、売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの本件賃金等に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる否かについて検討する。

①本給及び資格手当について

売店業務に従事している正社員は、正社員就業規則の適用を受ける結果、本給として①年齢給及び②職務給が、55歳未満の一定の資格の者については資格手当がそれぞれ支給されるのに対し、契約社員Bは、時給制の本給が支給されるが、資格手当は支給されない。

a 本給について
Y社の正社員一般と契約社員Bとの間には、職務内容及び変更範囲に相違がある上、一般論として、Y社において、高卒・大卒新入社員を採用することがある正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、本来的に短期雇用を前提とする有期契約労働者にはこれと異なる賃金体系を設けるという制度設計をすることには、企業の人事施策上の判断として一定の合理性が認められるところである。そして、本件で比較対象とされる売店業務に従事している正社員と契約社員Bについてみても、比較対象とされる売店業務に従事している正社員については、職務の内容に関しては代務業務やエリアマネージャー業務に従事することがあり得る一方、休憩交代要員にはならないし、職務内容及び変更範囲に関しては売店業務以外の業務への配置転換の可能性があるのに対し、契約社員Bは、職務の内容に関しては原則として代務業務に従事することはないし、エリアマネージャー業務に従事することは予定されていない一方、休憩交代要員になり得るし、職務内容及び変更範囲に関しては売店業務以外の業務への配置転換の可能性はないという相違があるということができる。
また、売店業務に従事している者は、年齢給が全員7万2000円の支給を受けている可能性が高く、職務給の平均が18万2541円であったから、本給だけで25万4541円になるところ、Xらが過去に支給された最も高い本給は第1審原告X1が19万0080円、X2が18万4800円、控訴人X3が18万7460円であり、それぞれ74.7%、72.6%、73.6%と一概に低いとはいえない割合となっているし、契約社員Bには、正社員とは異なり、皆勤手当及び早番手当が支給されている。そして、このような賃金の相違については、決して固定的・絶対的なものではなく、契約社員Bから契約社員A(現在は職種限定社員)へ及び契約社員Aから正社員への各登用制度を利用することによって解消することができる機会も与えられている。
加えて、前記のとおり、労働契約法20条は労働条件の相違が不合理であるか否かの判断についての考慮要素として「その他の事情」を挙げているところ、本件で比較対象とされる売店業務に従事している正社員は、平成12年10月の関連会社再編によって他社から転籍してきた者が一定程度の割合を占めており、その勤務実績や関連会社再編という経緯からして、他社在籍時に正社員として勤務していた者を契約社員に切り替えたり、正社員として支給されてきた賃金の水準をY社が一方的に切り下げたりすることはできなかったものと考えられ、勤務条件についての労使交渉が行われたことも認められるから、そのような正社員がそのような労働条件のまま実際上は売店業務以外の業務への配置転換がされることなく定年まで売店業務のみに従事して退職することになっているとしても、それは上記事情に照らしてやむを得ないものというべきである。また、上記の登用制度を利用して正社員となった者を契約社員B及び契約社員A(現在は職種限定社員)よりも厚遇することも、当然というべきである。

b  資格手当について
資格手当は、正社員の職務グループ(マネージャー職、リーダー職及びスタッフ職)における各資格に応じて支給されるものであるところ、契約社員Bはその従事する業務の内容に照らして正社員と同様の資格を設けることは困難であると認められるから、これに相当する手当が支給されなくともやむを得ないというべきである。

したがって、本給及び資格手当の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

② 住宅手当について

売店業務に従事している正社員は、扶養家族の有無によって異なる額の住宅手当を支給されるのに対し、契約社員Bは、扶養家族の有無にかかわらず、住宅手当を支給されない。
この住宅手当は、従業員が実際に住宅費を負担しているか否かを問わずに支給されることからすれば、職務内容等を離れて従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであり、その手当の名称や扶養家族の有無によって異なる額が支給されることに照らせば、主として従業員の住宅費を中心とした生活費を補助する趣旨で支給されるものと解するのが相当であるところ、上記のような生活費補助の必要性は職務の内容等によって差異が生ずるものではないし、Y社においては、正社員であっても転居を必然的に伴う配置転換は想定されていないというのであるから、勤務場所の変更によっても転居を伴うことが想定されていない契約社員Bと比較して正社員の住宅費が多額になり得るといった事情もない。
これに対し、Y社は、人事施策として、正社員採用の条件として住宅手当が支給されることを提示することによって採用募集への訴求を図り、有為な人材を確保し、採用後に現に支給することによって有為な人材の定着を図る趣旨であると主張する。しかしながら、Y社においてそのような効果を図る意図があるとしても、住宅手当の主たる趣旨は上記のとおりに解されるのであって、そうである以上、比較対象とされる正社員との関係で上記のような理由のみで契約社員Bに住宅手当を支給しないことが正当化されるものとはいえないから、上記主張は採用することができない。
したがって、住宅手当の相違は、不合理であると評価することができるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

③ 賞与について

売店業務に従事している正社員は、毎年夏季と冬季に賞与が支給されることになっており、平成25年度から平成29年度までの平均支給実績としては本給の2か月分に17万6000円を加算した額の賞与が支給されたのに対し、契約社員Bは、毎年夏季と冬季に各12万円の賞与が支給される。
一般に、賞与は、月例賃金とは別に支給される一時金であり、対象期間中の労務の対価の後払い、功労報償、生活補償、従業員の意欲向上など様々な趣旨を含み得るものであり、いかなる趣旨で賞与を支給するかは使用者の経営及び人事施策上の裁量判断によるところ、このような賞与の性格を踏まえ、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという第1審被告の主張する人事施策上の目的にも一定の合理性が認められることは否定することができない。また、Y社における賞与については、平成25年度から平成29年度までの正社員に対する平均支給実績が、いずれの年度も夏季及び冬季にそれぞれ本給の2か月分に17万6000円を加算した額であったことに照らすと、少なくとも正社員個人の業績(Y社の業績に対する貢献)を中心に反映させるものとは必ずしもいえないのであって、主として対象期間(賞与金支給規程にいう調査期間)中の労務の対価の後払いの性格や上記のような人事施策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上策等の性格を帯びているとみるのが相当である。
そうであるとすれば、従業員の年間賃金のうち賞与として支払う部分を設けるか、いかなる割合を賞与とするかは使用者にその経営判断に基づく一定の裁量が認められるものというべきところ、契約社員Bは、1年ごとに契約が更新される有期契約労働者であり、時間給を原則としていることからすれば、年間賃金のうちの賞与部分に大幅な労務の対価の後払いを予定すべきであるということはできないし、賞与はY社の業績等を踏まえて労使の団体交渉により支給内容が決定されるものであり、支給可能な賃金総額の配分という制約もあること、Y社においては、近年は多数の一般売店がコンビニ型売店に転換され、経費の削減が求められていることがうかがわれること、Xらが比較対象とする正社員については、前記の経緯から他の正社員と同一に遇されていることにも理由があることも考慮すれば、契約社員Bに対する賞与の支給額が正社員に対する上記平均支給実績と比較して相当低額に抑えられていることは否定することができないものの、その相違が直ちに不合理であると評価することはできない。
したがって、賞与の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

④ 退職金について

売店業務に従事している正社員には、勤続年数等に応じて退職金規程に基づく退職金が支給されるのに対し、契約社員Bには退職金制度がない。
一般に、退職金の法的性格については、賃金の後払い、功労報償など様々な性格があると解されるところ、このような性格を踏まえると、一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって無期契約労働者に対しては退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事施策上一概に不合理であるということはできない。
もっとも、Y社においては、契約社員Bは、1年ごとに契約が更新される有期契約労働者であるから、賃金の後払いが予定されているということはできないが、他方で、有期労働契約は原則として更新され、定年が65歳と定められており、実際にもX2及びX3は定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたこと、契約社員Bと同じく売店業務に従事している契約社員Aは、平成28年4月に職種限定社員に名称変更された際に無期契約労働者となるとともに、退職金制度が設けられたことを考慮すれば、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金(退職金の上記のような複合的な性格を考慮しても、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1はこれに相当すると認められる。)すら一切支給しないことについては不合理といわざるを得ない。
したがって、退職金の相違は、労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても、上記X2やX3らのような長期間勤務を継続した契約社員Bにも全く退職金の支給を認めないという点において不合理であると評価することができるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

⑤ 褒賞について

売店業務に従事している正社員は、①勤続10年に表彰状と3万円が、②定年退職時に感謝状と記念品(5万円相当)がそれぞれ贈られる。これに対し、契約社員Bは、これらは一切支給されない。
褒賞取扱要領によれば、褒賞は、「業務上特に顕著な功績があった社員に対して褒賞を行う」と定められていることが認められるが、実際には勤続10年に達した正社員には一律に表彰状と3万円が贈られており、上記要件は形骸化しているということができる。
そうであるとすれば、業務の内容にかかわらず一定期間勤続した従業員に対する褒賞ということになり、その限りでは正社員と契約社員Bとで変わりはない。そして、契約社員Bについても、その有期労働契約は原則として更新され、定年が65歳と定められており、長期間勤続することが少なくないことは、上記④で述べたとおりである。
したがって、褒賞の相違は、不合理であると評価することができるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

⑥ 早出残業手当について

売店業務に従事している正社員は、所定労働時間を超えて労働した場合、初めの2時間については割増率が2割7分であり、これを超える時間については割増率が3割5分であるのに対し、契約社員Bは、1日8時間を超えて労働した場合、割増率は労働時間の長短にかかわらず一律2割5分である。
労働基準法37条1項本文は、使用者が1日8時間を超えて労働させた場合、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければならない旨を定めているところ、その趣旨は、時間外労働が通常の労働時間又は労働日に付加された特別の労働であるから、それに対しては使用者に一定額の補償をさせるのが相当であるとともに、その経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制しようとする点にあると解される。
上記の定めは、正社員にしても契約社員Bにしても同項及びこれに関する政令の定める最低限度の割増率(2割5分)を満たしているから、その限りでは同項の趣旨に反するものではないということもできる。
しかしながら、時間外労働の抑制という観点から有期契約労働者と無期契約労働者とで割増率に相違を設けるべき理由はなく、そのことは使用者が法定の割増率を上回る割増率による割増賃金を支払う場合にも同様というべきである(政府が発表した「同一労働同一賃金ガイドライン案(平成28年12月20日)や、口頭弁論終結後に告示されたものではあるが、平成30年厚生労働省告示第430号「短期間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」においても、同一の使用者から雇用されている無期契約労働者と有期契約労働者とで時間外労働手当の割増率は同一とすべきである旨がうたわれている。)ところ、Y社において、割増賃金の算定に当たっては、売店業務に従事する正社員と契約社員Bとでは基礎となる賃金において前者が後者より高いという相違があるのであって、これに加えて割増率においても同様の事情をもって正社員の方が契約社員Bより高いという相違を設けるべき積極的理由があるということはできないし、Y社が主張するような労使交渉によって正社員の割増率が決められたという経緯を認めるに足りる的確な証拠もない。また、関連会社再編や契約社員制度導入の当時、契約社員Bや契約社員制度導入前のパートタイマーとY社との間で早出残業手当の割増率が正社員と異なることを踏まえた労使交渉が行われた形跡もうかがわれない。
したがって、早出残業手当(割増賃金率)の相違は、不合理であると評価することができるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

争点2 労働契約に基づく請求の可否について

労働契約法20条は、有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり、文言上も、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。
そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。
また、Y社においては、正社員就業規則契約社員就業規則とが別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、前者が契約社員BであるXらに適用されることとなると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。(以上につき最高裁判決1参照
以上によれば、本件賃金等の相違が労働契約法20条に違反するとしても、Xらの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないから、Xらが、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求はいずれも理由がない。


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