社会保険労務士川口正倫のブログ

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今さらですが・・・休業手当の計算方法

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今さらですが・・・休業手当の計算方法


今年は特に問い合わせが多かった、休業計算方法を簡単にまとめておきます。
一般的な日割り計算よりも平均賃金は少なくなるのが一般的です。
ただし、残業代が異常に多い従業員は平均賃金の方が高くなるかも知れません・・・
長くなるので、『休業手当とは?』『休業手当が必要な場合』といった話は長くなるので省きます。

1.休業手当

休業手当の最低額は『平均賃金』の60/100(60%)と労働基準法で定められています。(労働基準法26条)
そして、『平均賃金』は、労働基準法12条に次のように定められています。
読んで理解できる方は、このとおり計算すれば『平均賃金』が求まります。

労働基準法第12条
1.この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一  賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二  賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

2.前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

3.前二項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。

一  業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間 ⇒ 労災により休業していた期間
二  産前産後の女性が第65条の規定によつて休業した期間 ⇒ 産前産後休業期間
三  使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間 ⇒ 休業手当が支払われたいた期間
四  育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 (平成三年法律第七十六号)第2条第一号 に規定する育児休業又は同条第二号 に規定する介護休業(同法第61条第3項 (同条第6項 及び第7項 において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第7項において同じ。)をした期間 ⇒ 育児介護休業等の期間
五  試みの使用期間 ⇒ 試用期間終了後に休業が発生した場合は、試用期間は除いて計算する。試用期間中の休業手当の場合は試用期間中の賃金でよい。
4.第1項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。 ⇒ 賞与を含まない
5.賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。 ⇒ 通勤定期の現物支給など
6.雇入後三箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。 ⇒ 3か月に満たない場は、雇い入れ後の期間だけで計算する。
7.(超特殊な例なので省略)
8.(超特殊な例なので省略)

2.平均賃金の計算

①原則

「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額」=既に支払われている直近3回の賃金総額(算定すべき事由の発生した日以前とあるので、その日が賃金支払日である場合はその賃金も含めて直近3回)であり、「その期間の総日数」=その直近3回の賃金総額の賃金計算期間の暦日数であるため、平均賃金は式(1)のようになります。
また、賃金は控除前支給額のことで、残業代や通勤手当等も含まれます。

     平均賃金=\frac{直近3回の賃金総額}{その直近3回の賃金総額の賃金計算期間の暦日数}     (1)

②例外

(1)賃金が月給制や日給月給制ではなく、日給制・時給制・出来高制など、労働日数に応じて変動する場合

式(1)で計算した平均賃金が、式(2)で計算した額に満たない場合は、式(2)が平均賃金の額となります。
※式(2)に60/100を乗じていることから、これを休業手当と早とちりする方が時々いますが、式(2)はあくまでも平均賃金です。

     \frac{直近3回の賃金総額}{その直近3回の賃金総額の賃金計算期間の実労働日数}×\frac{60}{100}  (2)

(2)賃金の一部が月給制や日給月給制で支給されている場合

具体的には次のようなケースが考えられます。

・月給制もしくは日給月給制であるが、諸手当の中に労働日数に応じて変動する手当がある場合
※営業成績に応じて決まる成果給や勤務実績に応じて決まる精勤手当や通勤手当が出勤日数によって定められている場合などが考えられます。

式(1)で計算した平均賃金が、式(3)で計算した額に満たない場合は、式(3)が平均賃金の額となります。

     \frac{直近3回の賃金A}{その直近3回の賃金総額の賃金計算期間の暦日数}+\frac{直近3回の賃金B}{その直近3回の賃金総額の賃金計算期間の実労働日数}×\frac{60}{100}  (3)

  賃金A:賃金総額-労働日数に応じて変動する手当
  賃金B:労働日数に応じて変動する手当


・直近3回の賃金計算期間の間に賃金体系に変更があり、月給制もしくは日給月給制と日給制もしくは時給制が混在している場合
※時給制のアルバイトから日給月給制の正社員に雇用形態が変更した場合などが考えられます。

式(1)で計算した平均賃金が、式(4)で計算した額に満たない場合は、式(4)が平均賃金の額となります。

  \frac{直近3回の賃金A}{賃金Aの賃金計算期間の暦日数}+\frac{直近3回の賃金B}{賃金Bの賃金計算期間の実労働日数}×\frac{60}{100}  (4)

  賃金A:日給もしくは日給月給制など労働日数に応じて変動しない賃金
  賃金Aの賃金計算期間の暦日数:月給制もしくは日給月給制など労働日数に応じて変動しない賃金体系となっている期間の暦日数
  賃金B:日給制もしくは時給制など労働日数に応じて変動する賃金
  賃金Bの賃金計算期間の実労働日数:日給制もしくは時給制など労働日数に応じて変動する賃金体系となっている期間の実労働日数

少々わかりにくいので例を挙げて説明します。

賃金計算期間:前月16日から当月15日
支給日:25日
賃金体系の変更:7月16日に時給制から月給制に変更
休業開始日:9月1日

平均賃金の対象となる支給日は、6/25・7/25・8/25の3回となります。
従って、式(1)は、

 (1)=\frac{6/25・7/25・8/25の賃金総額}{31日+30日+31日} 

となります。
7月16日から月給制に変っているので、6/25と7/25は時給制、8/25は月給制にそれぞれ基づく賃金となるので、式(4)は、

 (4)=\frac{8/25の賃金}{31日}+\frac{6/25と7/25の賃金総額}{5/16~7/15の実労働日数}×\frac{60}{100}

となります。
そして、この式(1)と式(4)を比較して金額が大きいほうが平均賃金となります。

3.休業手当

平均賃金が求まれば、平均賃金に休業手当の支給率を乗じれば休業手当は簡単に求まりますが、この休業手当というのは休業した1日に対して支払われる手当となります。例えば、法定の最低額であれば、支給率は60/100ですので、平均賃金に60/100を乗じます。

さて、もし休業手当の支給率が100%であれば、どれぐらいの額になるのか計算してみます。

賃金計算期間:前月16日から当月15日
支給日:25日
休業開始日:9月1日
月所定労働日数:20日

このような条件で、月給制で賃金の変動が無いものとし月額賃金30万円として計算してみると、

 平均賃金=\frac{90万円}{92日}=9,783円 

となります。月所定労働日数が20日ですので、1か月休業したとすると9,783円×20日=195,660円となります。
支給率を100%としても、月給の約65%程度、支給率60%であれば、月給の40%弱にしかなりません。
なぜ、この程度の額になるかというと、式(1)で除算しているのが暦日数であるからです。

4.雇用調整助成金における休業手当

休業手当が賃金よりかなり低くなるのは、賃金を暦日数で除しているからですが、雇用調整助成金ガイドブックに記載されている休業協定書に記載されている休業手当の計算式は、所定労働日数で除算されています。
そうすると、あまり深く考えず、ガイドブックのとおり休業手当を支給している企業は、不当に高く休業手当を支払っているのかというと、そうではありません。

雇用調整助成金でいう平均賃金はデフォルトでは式(5)のように定められており、分母で除算するのは年間所定労働日数です。

雇用調整助成金の平均賃金=\frac{賃金総額}{月平均雇用保険被保険者数×年間所定労働日数}  (5)

式(5)で求まる平均賃金に休業手当の支給率を乗じた額を基礎として、一人一日休業当たりの助成額が決まりますので、休業手当の計算をガイドブックのとおりに計算したとしても別に高い休業手当を支払っているということにはならないのです。
それでも、暦日数で除して計算した休業手当の方が少ないじゃないかと思う方もいるかも知れませんが、ガイドブック20ページの右下をご覧ください。この場合は、1年間の暦日数である365日で除算することになっており、助成金の受給額も少なくなるのです。ちなみに、令和1年度は閏年でしたが、361日とする必要は無いようです。
f:id:sr-memorandum:20201213145323p:plain

なお、休業手当を減らそうという会社よりも、休業するにもどうしていいかよくわからずに賃金を全額支給していたり、従業員の生活を考えると法定どおり休業手当では話にならないという会社が、私の周りではほとんどです。
また、所定労働日数がはっきりしないパート従業員が非常に多く、年間の所定労働日数の計算が困難で休業手当の計算は暦日数でせざるを得ないという会社では、時給制の従業員は時給額×休業手当の支給率×所定労働時間とし、日給月給制の従業員は賃金控除の計算を\frac{賃金}{暦日数}×休業日数(このように計算すると、休業による賃金控除額は所定労働日数で除算するより少なくなります)とし、支給額が少なくならないように工夫していました。(さすがに、休業が長引くと厳しくなり、休業手当の支給率を労使で協議したようですが)