社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【配転】日本ガイダント仙台営業所事件(仙台地判平14.11.14労判842号56頁)

日本ガイダント事件(仙台地判平14.11.14労判842号56頁)

参照法条 : 労働基準法2章、労働基準法3章 裁判年月日 : 2002年11月14日 裁判所名 : 仙台地 裁判形式 : 決定

*1.事件の概要 Xは、医薬品、医療用具の製造、販売等を営んでいるY社の仙台営業所で、営業係長として勤務していた。Y社の賃金体系は、職階ごとに給与等級を割り当て、低い方からPJ-1、P1からP3、M1からM3となっている。営業事務職はP1、営業職係長はP3となっており、Xは、P3の給与等級であった。 Y社は、平成11年から営業所単位での売上目標を、同12年から営業職員ごとの売上目標を設定したが、Xの平成13年の成績は、全国営業所のP3職員15名中、目標達成率では14位、売上実績では最下位であった。Xは、実績低下により、上司から成績の向上と反面向上が無理なら退職を考えよとの圧力を頻繁にかけられた。 その後、会社は、平成14年3月11日付けで、Xを仙台営業所事務職(給与等級P1)に配置転換し、Xの給与額を約半分とした。 これに対して、同配置転換が無効であるとして、Xが地位保全等の仮処分を申立てたのが本件である。

*2.判決の要旨 本件配転命令は、Xの職務内容を営業職から営業事務職に変更するという配転の側面を有するとともに、Y社においては職務内容によって給与等級に格差を設けているところ、Xが営業職のうちの高位の給与等級であるP3に属していたことから、営業事務職に配転されることによって営業事務職の給与等級であるP1となった結果、賃金の決定基準である等級についての降格(昇格の反対措置にあたる。以下この意味で「降格」という。)という側面をも有している。 配転命令の側面についてみると、使用者は、労働者と労働契約を締結したことの効果として、労働者をいかなる職種に付かせるかを決定する権限(人事権)を有していると解されるから、人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にわたるものでない限り、使用者の裁量の範囲内のものとして、その効力が否定されるものではないと解される。 他方、賃金の決定基準である給与等級の降格の側面についてみると、賃金は労働契約における最も重要な労働条件であるから、単なる配転の場合とは異なって使用者の経営上の裁量判断に属する事項とはいえず、降格の客観的合理性を厳格に問うべきものと解される。 労働者の業務内容を変更する配転と業務ごとに位置付けられた給与等級の降格の双方を内包する配転命令の効力を判断するに際しては、給与等級の降格があっても、諸手当等の関係で結果的に支給される賃金が全体として従前より減少しないか又は減少幅が微々たる場合と、給与等級の降格によって、基本給等が大幅に減額して支給される賃金が従前の賃金と比較して大きく減少する場合とを同一に取り扱うことは相当ではない。従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するにあたっては、賃金が労働条件中最も重要な要素であり、賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、降格の運用状況等を総合考慮し、従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効と解すべきである。そして、本件において降格が無効となった場合には、本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、賃金減少の原因となった給与等級P1の営業事務職への配転自体も無効となり、本件配転命令全体を無効と解すべきである(本件配転命令のうち降格部分のみを無効と解し、配転命令の側面については別途判断すべきものと解した場合、業務内容を営業事務職のまま、給与について営業職相当の給与等級P3の賃金支給を認める結果となり得るから相当でない。)。 以上の疎明された事実、殊にY社によるXに対する執拗ともいうべき退職勧奨からすれば、Y社としてはXを何とか退職に持ち込みたかったところ、Xが退職に応じないために本件配転命令を発することとなった経緯が明らかであり、本件配転命令以後のXの営業事務職としての就業実態が営業事務職の名に値しない状態であるといわざるを得ないことも併せ考慮すれば、Y社においてXを営業事務職として稼働させる業務上の必要性を見いだすことはできず、また、Xに再起の可能性を与えるためともいえず、むしろ、Xの給与等級をP3からP1に下げることを目的としたものと判断せざるを得ないところである。 以上検討してきたXの営業実績とそれについてのXの帰責性、降格の動機及び目的、Y社側の業務上の必要性、降格の運用状況等を総合すると、Xの賃金を従前の約半分とすることについて客観的合理性があるとはいえないから、本件配転命令に基づくXの降格は無効というべきである。そして、本件において降格が無効である以上、本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠付けることができなくなるから、賃金減少の原因となった給与等級P1の営業事務職への配転自体も無効となり、本件配転命令全体を無効というべきである。

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