社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【配転】ゆうちょ銀行事件(静岡地判浜松支部平26.12.12労経速2235号15頁)

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ゆうちょ銀行事件(静岡地判浜松支部平26.12.12労経速2235号15頁)

1.事件の概要

Xは、郵便貯金事業を営むY社の浜松店で窓口サービス部で勤務していた。Y社は、社員のスキルアップおよび不正行為の防止を目的として、同一店舗に長期間にわたり勤務している社員を計画的・段階的に異動させる制度(本件人事制度)を実施することとし、これは、同一店勤務が10年以上の社員を対象としていたが、10年未満の社員も順次対象とすることとなっていた。
Y社は、平成25年3月にはXの浜松店在籍が9年となることから、同年同月に、Xに対して静岡店窓口サービス部への配転命令(本件配転命令)を内示したところ、Xは、その配転命令を拒否したが、Y社は、同年4月1日、同内容の配転命令を行った。
これに対して、XがY社に、本件配転命令の無効等を求めて、提訴したのが本件である。
なお、Y社の就業規則には、社員は業務上の都合により、人事異動等を命じられることがある旨の規定がある。

2.判決の要旨

Y社は、本件人事制度の一環として、Xへの配転命令を行ったが、同一店舗に長期間勤務する社員に対する人事異動は不正行為の防止および社員のスキルアップに資する合理的なものである。長期間にわたり特定の社員が金銭の管理を取り扱う業務に従事している場合、そうでない場合と比較して不正行為が発生する危険が高くなることは経験則に照らして明らかである。また、一般的に社員が業務上必要なスキルは、業務経験の長さ、多様さに応じて向上するものであり、店舗の異動は多様な経験を積む機会となるものである。Xに店舗の異動により多様な経験を積ませ、スキルアップを図るとのY社の判断は合理性を有する。
本件配転命令により、Xが通勤のため60分から90分程度の時間を要することになったが、本件配転命令当時、Xの妻は専業主婦であり、Xの子らの養育が困難となるような客観的事情は見当たらない。Xが家族と共に過ごす時間を何よりも重視していること、本件配転命令による通勤時間の延伸によりその時間が減少し苦痛を感じていることは認められるが、長時間通勤を回避したいというのは、年齢、性別、配偶者や子の有無等に関わらず、多くの労働者に共通する希望である。配転命令の有効性を判断するに当たって考慮すべき労働者の不利益の程度は、当該労働者の置かれた客観的状況に基づいて判断すべきであり、Xの主観的事情に基づいて判断すべきものではない。
Y社において、従前同一店舗での勤務が10年未満の社員には意思に反する異動をしないとの慣行はないこと、本件紛争後、浜松店で社員20名に行った調査で、18名の者が同一店舗での勤務が10年未満でも異動の対象となり得ると認識していた旨回答していたこと等により、店長より、同一店舗での勤務が10年になる社員を人事異動させる旨告げられたというXの供述は採用できない。
以上より、本件配転命令は、権利の濫用に当たらず有効であり、不法行為にも当たらない。

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