社会保険労務士川口正倫のブログ

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【配転】日本ドナルドソン青梅工場事件(東京地八王子支判平15.10.30労判866号20頁)

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日本ドナルドソン青梅工場事件(東京地八王子支判平15.10.30労判866号20頁)

裁判年月日 : 2004年4月15日
裁判所名 : 東京高等裁判所
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15年 (ネ) 6152

1.事件の概要

Xは、各種フィルター及びフィルター関連製品の製造・販売を事業とするY社の青梅工場に勤務していた。Y社は、昭和60年1月、定年を55歳から60歳に引き上げ、また平成11年7月、従来の年功序列制度を改め、能力型賃金体系を採用して会社の活性化を図ることを目的にして新人事制度を施行した。
Y社は、平成12年4月から12月にかけて、Xを含む従業員24名に対し、退職勧奨(本件退職勧奨)を行った。Xは、平成6年に、同年12月5日に、本件退職勧奨を受け、他の退職勧奨対象者と同様に、給与の3か月分相当の割増金の上積みおよび5か月分の猶予期間(即時退職の場合は、同期間相当分の給与全額支給)、有給の残日数の買い上げを提示された。そして、退職勧奨に応じなければ、50%程度の賃金減額措置をとる旨の書面を渡された。
Xは、Y社に、本件退職勧奨には同意せず、かつ本件賃金減額措置にも承服しない旨の通知書を提出した。その後、Y社は、平成13年1月、Xに対し、青梅工場生産課「工作改善班」から分離されて新設された「廃液処理班」への配転命令と、賃金を従前の半分程度に減額する旨の本件給与事例を発してたところ、これに対してXが、本件給与命令の無効等を求めて提訴したのが本件である。
なお、Y社の規則には、「社員の異動は、社員の能力、経験、健康その他を考慮して会社が業務上必要な場合において公平に行う。これは、例外として必要によっては給与の変更を伴うこともある」、「・・・55歳以降な能力、貢献度及び地位により、役員会の判断により若い同僚のキャリア発展のため一線から退くことや別の仕事に移るように要求されることもある。それによって給与調整されることもある」と規定してある。

2.判決の要旨

就業規則が給与の減額の根拠規定となるといっても、給与という労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件を変更するものであることに照らすと、使用者のまったくの自由裁量で給与の減額を行うことが許容されているものとはとうてい解されず、これらの規定を根拠として使用者が一方的に労働者の給与の減額をする場合は、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容できるだけの高度な必要性に基づいた合理的な事情が認められなければ無効であると解すべきである。
また、これらの規定が、配転に伴う給与減額の根拠になるとしても、労働者にとっての給与の重要性に照らすと、給与の減額が有効となるためには、配転による仕事の内容の変化と給与の減額の程度とが、合理的な関連を有すると解すべきであるし、また、これらの規定が能力型の給与体系の採用を背景として導入されたことにかんがみれば、給与の減額の程度が当該労働者に対する適切な考課に基づいた合理的な範囲内にあると評価できることが必要である。
上記規定に基づく給与減額の合理性の判断に際しては、当該給与の減額によって労働者の受ける不利益の程度(当該給与の減額に伴ってなされた配転による労働の軽減の程度を含む)、労働者の能力や勤務状況等の労働者側における帰責性の程度およびそれに対する使用者側の適切な評価の有無、Y社の経営状況等業務上の必要性の有無、代替措置の有無、従業員側との交渉の経緯等を総合考慮して、判断されるべきものと解される。
Xの出勤状況は、・・・(中略)、本件給与辞令直前の平成11、12年度の出勤状況はさほど悪いものとは認められない。また、Xは、これまで一度として降格や減給となったことがなく、新人事考課制度導入時においても、「6等級」に該当するとされ、その後の同等級の下での2回の人事考課では総合的に平均的な評価を受けている。しかるに、本件給与辞令によりXになされた「1等級」という評価は、「単純定型的な作業」とされているところ、Xがしている他の班への応援作業等はXが従前培った知識および経験を必要とするものであることを勘案すると、「1等級」という格付けを行うことは、恣意的なものといわざるを得ない。
さらに、Xの作業能率の低下は、それが存在していたとしても、本件給与辞令による大幅な給与減額を正当化する程度に顕著なものであったとはとうてい認められない。しかも、Y社は、退職勧奨に応じない場合、年収によって一律20%ないし50%の割合で賃金を減額することとしていたもので、その際、少なくとも工場長等に意見を聴くなどして、従業員の労働能力あるいは労働意欲等について個別的に検討を加えたことがうかがえるような証拠がまったく提出されていないことからしても、Xの労働能力について、適正な評価がなされたとは認めがたい。
また、会社の経営状況に照らせばその必要性が高かったとまではいえず、さらに十分な代替措置も講ぜられておらず、社内組合も本件給与辞令に同意したものとはいい難い。本件給与辞令は、合理性を有せず、無効である。


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