三和機材事件(東京地判平成7.12.25労判689号31頁)
1.事件の概要
Y会社は、倒産し、裁判所で認可された和解条件を履行中に、会社の営業部門を分離してA会社を設立し、当該部門の従業員全員を転籍させることとした。しかし、労働組合の書記長であったXのみが、転籍命令を拒否した。Y社は説得を試みたが、応じないので、就業規則の懲戒事由に該当するとして、懲戒解雇した。
2.判決の概要
右転籍出向命令は、会社再建のための経営上の措置として必要であったということができる。しかしながら、本件転籍命令は、XとY社との間の労働契約関係を終了させ、新たにA社との間に労働契約関係を設定するものであるから、いかにYの再建のために業務上必要であるからといって、特段の事情のない限り、Xの意思に反してその効力が生ずる理由はなく、Xの同意があってはじめて本件転籍命令の効力が生ずるものというべきである。
3.解説
転籍は、労働者が従前の会社との労働契約を解約して別会社に籍を移すものであるから、労働者の同意要件は絶対的なもので、出向の場合のように「特段の根拠」により個別同意に代えるという例外は認められない。たとえ会社が倒産して再建計画の一環として転籍を命じた場合も同様であることを示した判例。
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