社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】タイカン事件 東京地判平成15.12.19労判873号73頁

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イカン事件 東京地判平成15.12.19労判873号73頁

 

審判:一審(地方裁判所)
裁判所名:東京地方裁判所
事件番号:平成14年(ワ)12963号
裁判年月日:平成15年12月19日
裁判区分:判決

1.事件の概要

Xはゴルフ場などを経営するY社に契約社員として採用された。XとY社間の雇用契約書には、契約期間について、1年間(平成12年9月11日から平成13年9月10日)、その他として、「契約期間満了時双方の希望により更新又は正社員登用もありうる。」と記載されていた。そして、Xは平成13年9月11日以降も就労を継続するとともに、平成13年12月27日にA労働組合に加入し、平成14年1月6日に加入がY社に通知された。ところが、平成14年1月10日、Y社は経営悪化のため本社事務所の移転と人員整理の必要が生じたことを理由にXを同年3月31日付け解雇する旨の意思表示をした。そこで、Xは、本件解雇は無効であるとして、従業員としての地位の確認などを求めたのが本件である。

 

2.判決の概要

XとY社間の労働契約は、期間を1年と定めて締結されたものにすぎず、期間満了後もXが就労を継続したことにより、黙示の更新がされたと推定されるにとどまるというべきである(民法629条)。そして、この場合の更新後の契約期間は、同条の文言どおり、従前の契約と同一条件であり、1年間と推定するのが相当である。したがって、XとY社間の労働契約は、平成13年9月11日以降、平成14年9月10日までの間存続することになったと認められる。

 

3.解説

労働基準法14条は、労働契約に期間を付す場合、その上限を3年(平成15年に改正されるまでは1年)としているが、このような制限を超える期間を定めた労働契約の効力はどうなるか問題となる。この点について、違反した期間は無効になるので、期間が空白になり、その結果、期間の定めのない契約になるとする説がある(無効説)。また、上限を超える期間も、雇用保障期間としては有効であり、労働者はその労働契約を有効と主張できるが、使用者がそれを主張することはできないという考え方もあった(片務的効力説)。しかし、多数説および判例は、法令の上限の期間に短縮されると考えている。なぜなら、労働基準法13条によれば、労働基準法で定める基準に違反している場合、その基準は無効になり、無効となった部分は労働基準法が定める基準によるとしているからである(労働基準法の直律的効力)。


また、期間満了後もそのまま継続して働いている場合には、民法629条1項により従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定される。これを「黙示の更新」というが、このような場合に「従前の雇用と同一の条件」に、労働契約の期間の定めを含むかが問題となる(「含む」なら、同一の期間の有期労働契約が更新されることとなり、「含まない」なら、無期労働契約へ転化することとなる)。
無期労働契約に転化するという説が唱えられた当時は、解雇権濫用法理が確立される以前であり、民法629条1項後段の趣旨は、期間の定めのある雇用契約の黙示の更新が行われても、各当事者に解約の自由(使用者にとっては解雇の自由)を認め、期間への拘束はされないようにすることであった。期間の定めのない労働契約に解雇権濫用法理が確立され、また、反復更新された有期労働契約の更新拒絶に同法理が類推適用(2012年には労働契約法で立法化)される今日では、期間の定めのある労働契約は黙示の更新の場合にも、同じ期間の契約として更新されると解するべきである。(もし、更新を1回だけ失念したがために、無期労働契約になるというのでは、使用者にとってあまりにも酷であろう。)

本件は、下級審ながらこのような黙示の更新では、有期労働契約が無期労働契約に転化しないとの説に立った判例である。
なお、このような黙示の更新が反復してなされたような場合には、労働契約法第19条による雇止めの法理が適用されることとなる。

 

労働基準法第14条
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、一年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、三年)を超える期間について締結してはならない。
労働基準法第14条労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。


労働基準法13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

 

民法第629条第1項
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

 

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