社会保険労務士川口正倫のブログ

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任意継続被保険者が再発した場合の傷病手当金の受給

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任意継続被保険者が再発した場合の傷病手当金の受給

先日、クライアントさんより、次のような従業員が傷病手当金の対象となるか、問い合わせがありました。
※事例に基づいていますが、特定されないように一部アレンジしています。


協会けんぽ加入1年以上

・令和2年8月1日~令和2年10月31日:怪我により、休職して傷病手当金を受給

・令和2年11月1日:短時間勤務者に雇用形態を変更し復職
※所定労働時間が正社員の3/4を満たないため、令和2年11月1日で健康保険は資格喪失し、同時に任意継続被保険者となる。
※正社員としての最終出勤日である10月31日までは、休職しており欠勤。

・令和2年12月16日:前回の怪我が再発したため、再度休職


さて、この方は傷病手当金を受給できるのでしょうか?

任意継続被保険者の傷病手当金

端的にいって、任意継続被保険者には傷病手当金の給付制度自体が現在はありません。あえて、「現在は」と強調するのは以前は給付制度があったからで、平成19年4月1日に任意継続被保険者の傷病手当金と出産手当金の給付制度は廃止されました。廃止されたのが、それほど昔でもないので、過去に受給したことがある人は、今でも受給できると思っていても不思議ではありません。(ちなみ、私自身、平成16年頃に勤めていた会社で、今回と同様の質問を退職した従業員から受けたことがあり、その時は受給可能でした。その際の記憶があったこともあり、今回かなり突っ込んで協会けんぽに照会しました。)

ただし、一定の例外があり、次の継続給付に該当する場合は、受給することができます。

継続給付

退職等で加入者の資格がなくなった場合、次の4つの要件を全て満たすと、傷病手当金の支給期間(最長1年6か月)の範囲で受給することができます。

①退職日までに、1年以上継続して被保険者であること。
※任意継続加入期間は含まれません。

②退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態であること。
※受給できる状態とは、待期期間(3日間)を経過し4日目以降が退職日であることをいいます。

③退職後も引き続き同じ病気療養のため(医師の診断により)労務不能の状態であること。
※退職後に働ける状態になり傷病手当金が不支給になった場合には、その後さらに労務不能になったとしても傷病手当金は支給されません。

④退職日に仕事を休んでいること。

ただし、雇用保険(失業給付)の申請または受給されている場合、傷病手当金は支給されません。
※老齢厚生年金、障害年金、障害手当金を受給されている場合も、傷病手当金は支給されませんが、その額が傷病手当金の額を下回るときは、その差額が支給されます。

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※分かりやすかったので引用させてもらいました(引用元:
http://www.kenpo.keio.ac.jp/contents/01shikumi/keizoku/index.html


今回の事例を、この要件に当てはめれば、

協会けんぽ加入1年以上 ⇒ ①の要件を満たす

令和2年10月31日まで傷病手当金を受給 ⇒ ②の要件を満たす。

令和2年10月31日を欠勤 ⇒ ④の要件を満たす。

となり、①、②及び④の要件は満たしていますが、令和2年11月1日から短時間勤務者として復職しているため、③の要件を満たさず(引き続き労務不能ではなくなる)、傷病手当金の受給はできません。


ところが、協会けんぽのHPには次のようにしか記載されておらず、

・資格を喪失する日の前日までに継続して1年以上被保険者であった人は、資格を喪失した際に現に受けていた傷病手当金及び出産手当金を引き続き受けることができます。
傷病手当金は1年6か月間、出産手当金は出産前後合わせて原則98日間の範囲内で、支給を受けることができることになっていますが、この期間から被保険者である間にすでに支給を受けた残りの期間について受けることができます。

「資格を喪失した際に」というフレーズを「退職日」という意味で用いているなら、また、再発であれば、「引き続き受ける」に該当するのではと考え(都合のいいように曲解しているように感じるかも知れませんが、こういうケースでの行政機関への照会は、まずクライアントに都合のいいように考えた自分の見解に間違いが無いか確認し、その後は一歩退いて、慎重かつ具体的にお伺いするよう、私はあえてしています。)、協会けんぽに照会してみると、次のようなロジックでやはり受給対象とはならないとのことでした。

再発というのは、前回の受給開始時に発生した受給権(1年6か月間)が、前回の復職から2回目の休職の間も存続しており(ただし、労務可能であるため不支給という扱い)、再度労働不能となった際に受給できるようになるものです。
一方、継続要件というのは、本来であれば資格喪失と同時に失効する受給権を、上記の①~④の要件を満たすことで、資格喪失後も特例的に継続させるものです。
今回の事例では、短時間勤務者として復職すると、引き続き労務不能という要件を満たさなくなり、その時点で受給権を失効することになります。

やはり、継続要件も再発も、単なる資格喪失者と任意継続被保険者を区別しない制度(任意継続被保険者も単なる資格喪失者として扱われる)なので、任意継続被保険者であることは特に影響しません。