社会保険労務士川口正倫のブログ

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厚生年金・健康保険の資格得喪についての重要な裁決

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厚生年金・健康保険の資格得喪についての重要な裁決

実質的には休業していないのに、休業を理由として提出された全喪届に基づく資格喪失確認の効力(平成8年11月29日裁決<被保険者資格>裁決集13頁)

請求人Xは、A水道工事店(個人企業)の事業主であるBの妻で、同店に使用される者として健康保険及び厚生年金の被保険者であったところ、Bが他に愛人を持ったことから夫婦仲が悪くなり、Bは家を出て別居した。その後、Bは時折事業所に顔を出すだけで、事業はXと使用人とで続けられていたが、Bは平成7年8月にA水道工事店につき休業を理由として全喪届を、Xにつき資格喪失届を提出した。
しかし、その後もBはXに対し工事に関する申請その他の業務の遂行を依頼してきたことがあり、事実、同店の営業は継続されている。国は、XはBに代わって事業主になったので被保険者資格を喪失したと主張するが、そのような事実を認めるに足りない。したがって、Xに関する本件被保険者資格喪失確認処分は取り消されるべきである。(被保険者資格が認められた)

非常勤代表取締役の資格喪失確認の効力(平成15年4月30日裁決<被保険者資格>裁決集43頁)

請求人Xは、同属会社であるA社の代表取締役であるが、平成11年6月に常勤から非常勤に変ったことに伴い、被保険者資格の喪失を届け出て、国の確認を得た。しかし、国は、その後会計検査院の指摘を受けてこの処分を取り消し、平成11年12月に遡って被保険者資格取得確認の処分(原処分)をした。
Xは、非常勤となった後も、隔日(月間13日程度)出勤して数時間程度の執務をしており、その報酬は、非常勤に変った当時は月55万円、その後会社の経営が不振であるところから逐次35万円まで低下している。しかし、現実に安定した勤務をしていること、勤務時間は常勤者とはかなり差があるとはいえ、本来法人の代表者としての職務は事業所に出勤したうえでの労務の提供に限定されるものではないことを考慮すれば、Xの執務状況は、非常勤となってからも経常的に存続していたといえるし、報酬額も常用的勤務に対するものとして不自然ではない程度のものである。原処分は妥当である。(資格喪失が否定された)

勤務実態が無い従業員の資格喪失確認処分の効力(平成11年11月30日裁決<被保険者資格>裁決集53頁)

請求人Xはスキー場に位置するホテルである本件事業所に使用される者であるとして平成4年に厚生年金保険及び健康保険の被保険者資格取得届をしているが、国は、平成7年7月現在、Xが同事業所に勤務している事実は認められないとして、資格喪失確認処分(原処分)をした。
同ホテルは冬季のみ営業しており、Xはほとんど現地に足を運ぶことはなく、営業はアルバイト従業員のみで営まれていること、Xの冬季以外の勤務場所はほかの場所(自宅及び他のホテル)であることからすると、原処分は妥当である。(資格取得が否定された)

在宅勤務従業員と偽装された取引先の個人事業主等の資格取得確認処分の取り消しの効力(平成15年6月30日裁決<被保険者資格>裁決集50頁)

請求人(X社)は、個人事業主を主たる顧客として、給与計算や帳簿類の記帳代行の業務を請け負う事業を行っていたところ、個人事業主又はその配偶者等をX社が経営する適用事業所の在宅勤務社員として健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を取得させることによって、当該事業主の家族全体としての社会保険料負担額を大幅に軽減させる仕組みを考案し、平成12年頃から希望者の募集を開始して、平成13年6月までに応募した89名について順次被保険者資格取得の届出をし、国の確認を得ていた。国は、投書を受けて調査を行った結果、当該89名は当該事業所に使用される者とは認められないとして、資格取得確認処分を取り消した(原処分)。
当該事業所における在宅勤務社員の募集は、なんらの選考基準も資格要件もなく無差別に行われており、職務への従事と当該社員の本業との時間的な兼ね合いが検討された形跡もない。応募者の側にも、新たにX社の事業所での職務に従事するという意識はなく、もっぱら社会保険料節減の手段として在宅勤務社員となる契約を結んでいる。その業務内容はPR業務、リサーチ業務、新商品開発のためのアイディア提供などとなっているが、実際には月1枚の簡単なレポートの提出のみであり、その利用が予定されていたとは思われない。さらに在宅勤務社員はX社に月額11万円のコンサルタント料を支払い、X社は入金の翌月に給与として8万5000円を支払い、その給与から健康保険及び厚生年金保険の保険料を控除するものとされているが、この高額なコンサルタント料は、給与の原資及び保険料の事業主負担分等に充てられるものとしか考えられない。
以上の事実からすると、本件の在宅勤務社員が当該事業所に使用される者でないことは明らかであり、原処分は妥当である。(被保険者資格取得が否定された)

譲渡後の事業の従業員と偽装された事業譲渡の譲渡人の被保険者資格取得確認処分の取り消しの効力(平成17年11月30日裁決<被保険者>裁決集登載なし(平成16年(健厚)310号)

請求人Xは、A社に使用される者として昭和58年に被保険者資格取得が提出され、その確認処分を経て、平成6年まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者資格を認められていた者であるが、国は、平成15年に前記被保険者資格取得確認処分を取り消したうえ、前記資格を前提とする老齢給付の裁定を取り消した(原処分)。
A社は、Xがかって経営していて昭和58年7月に全喪となったB社の事業を承継して同年8月に適用事業所となった会社である。XはA社に出勤したこともなく、前記事業承継の際にXとA社の代表者らとの間で、Xに健康保険や厚生年金保険の給付を得させる目的で、使用関係の実体のないXにA社の使用人として被保険者資格を取得させることが合意され、これに基づいて前記被保険者資格取得届がされたものであり、当該行為及びこれに基づく保険給付の受給は詐欺罪に当たるとして、既にX及びA社代表者に対する有罪判決が確定している。そうすると、Xに対し前記被保険者資格取得の確認処分を取り消した処分及びこれを前提とした老齢給付の裁定を取り消した原処分は妥当である。(被保険者資格が否定され、それに基づく老齢給付も否定された)

請負契約により運営されていた事業に使用される委託事業者の従業員の被資格者資格取得確認請求却下の効力(平成15年1月31日裁決<被保険者>裁決集19頁)

請求人Xは、A社の事業所に期間員という資格で雇用され、平成11年2月に同事業所が閉鎖されるまでの間、同社が請負契約を締結した相手方であるB社及びC社でウエイターとして就労していた。就労日数及び就労時間数は、当該事業所と契約先との約定によって定まり、給与も当該事業所の就業規則及び賃金規程に基づいて支払われていた。したがって、Xは前記期間中、当該事業所に使用されていたものというべきであり、その被保険者資格取得確認請求を却下した原処分は失当である。(被保険者資格が認められた)

国民年金の被保険料が還付された期間の被保険者資格(平成19年7月31日裁決<老齢厚生年金>裁決集276ページ)

国保管の原簿によれば、請求人Xは、昭和42年6月に厚生年金保険の被保険者資格を喪失して、初めて国民年金に加入し、同年9月に国民年金の被保険者資格を喪失し、昭和44年3月に再び同資格を取得したが、同年11月にこれを喪失して再び厚生年金保険の被保険者となったとされている。そうして、昭和42年9月から昭和44年2月までの期間(本件係争期間)については、国民年金被保険者台帳上、納付済みの保険料を還付したとされている。
Xは、本件係争期間が厚生年金保険の被保険者期間であると主張しているが、Xが当時の勤務先と申し出たいずれの事業所についても、Xが被保険者であったことを示す資料は見出されていない。しかし、前記保険料還付の理由としては、当該期間が被用者年金の加入期間であったことしか考えられず、また、Xが当該期間中国家公務員等の共済組合に加入していなかったことは、当事者間で争いがない。
以上によれば、本件係争期間を老齢厚生年金支給のための基礎期間としなかった原処分の判断にも無理からぬ点があるが、「5000万件を超える資格記録の帰属先が不明とされる国の現下の記録管理体制の許で、当該期間についての具体的な被保険者記録が判明しないからといって、Xに同資格がなかったとする取扱いが許されるものではない。」国は、「本件係争期間を、Xに係る前後の被保険者期間の実績を勘案するなど妥当な方法で同人の厚生年金保険の被保険者期間に加え、Xの老齢厚生年金を再裁定するのが相当である。」(被保険者資格の期間として認められた)

保険料の支払いを怠り、報酬も支払われていない会社の代表者の被保険者資格確認取消しの効力(平成20年9月30日裁決<被保険者資格>裁決集未登載(平成20年(健厚)124号)

請求人Xは、自ら唯一の出資者となって、発起設立の方法により、平成19年11月に本件会社を設立した。その発行可能株式数は1株、資本金は1000円、取締役は1人であり、Xが代表取締役で、従業員はひとりも居ない。本件会社は、設立後まもなく、健康保険及び厚生年金保険の新規適用届並びにXについての被保険者資格取得届を提出した。所轄社会保険事務所長は、同年12月に、前記被保険者資格届に基づく確認処分を行い、取得届の報酬月額(1億円)に基づいて、Xに係る健康保険法上の標準報酬月額を121万円、厚生年金保険法上のそれを62万円と定める処分をした。しかし、その後Xは保険料の納付を怠り、所轄社会保険事務所長は、調査の結果、本件会社の事業には不明な点が多く、Xに対する報酬も支払われていないとして、平成20年3月、上記確認処分を取り消す旨の処分(原処分)をした。
Xの説明は、本件会社は、Xが調達した20兆円超の借入金によって巨大企業数社を含む会社の株式のそれぞれ過半を取得し、その配当を役員報酬等に当てることになっているというのであるが、そのような事業の存在も、それについての準備活動がされた形跡も認められない。
平成17年のいわゆる新会社法施行により、最低資本金制度が廃止された結果、会社制度の悪用事例の増加が予想され、社会保険の分野でも、財産らしい財産を有しない法人が保険料納付義務を怠りながら、そのような被保険者期間に基づいて保険給付を得ようとする事例などがみられることは当審査会に顕著な事実であり、本件もそのような事例のひとつと認められる。このように、法人格が形骸化し、あるいはそれが法律の適用を回避するために濫用されている場合には、法人格否認の法理の適用があると解すべきである。これによれば、本件会社は適用事業所に当たらず、Xは適用事業所に使用される者ではない。したがって、原処分は適正妥当である。(被保険者資格は否定された)

地方公務員等共済組合の組合員との重複期間の被保険者資格(平成22年2月26日裁決<老齢厚生年金>裁決集未登載(平成21年(厚)280号))

厚生年金保険の被保険者であった請求人Xは、適用事業所での勤務を継続しつつ、昭和61年2月から同年12月までの10か月間、N県の公立中学校で、産休・育休代替職員とし勤務した。当時地方公務員等共済組合の組合員とされるのは定数内の職員とされていたが、学校共済のN支部では、定数外の職員でも任用期間が6か月以上の臨時任用職員には組合員資格を認めていたため、前記10か月は重複加入期間となった。Xがした老齢厚生年金の裁定請求に対し、国は、重複加入期間のうち60年改正施行前の2か月については、当時は重複加入の有無にかかわらず、保険料納付の実績に応じて給付を行うのが実務慣例となっていたところから、これに従って給付の基礎期間に加えたが、残り8か月については、厚生年金保険の被保険者期間と認めなかった。しかしながら、本件重複期間当時においても、地方公共団体の事業所又は事務所(本件中学校はこれに該当する。)に「常時勤務に服する」ことを要しない形で勤務する者は、厚生年金保険の被保険者とされ(厚生年金保険法及び旧厚生年金保険法の6条1項2号及び9条参照)、その者が他の適用事業所にも勤務する場合、両者からの報酬を合算して標準報酬月額が算定される(厚生年金保険法及び旧厚生年金保険法の24条2項)ことになっていた。したがって、学校共済N支部の前記取扱いの適法性には疑問があり、本件重複期間はすべて厚生年金の被保険者として扱われるべきものというべきである。(被保険者資格の期間として認められた)

実質的に代表取締役ではない役員の被保険者資格確認の効力(平成22年5月31日裁決<被保険者資格>裁決集未登載(平成22年(健厚)345号))

請求人XはA株式会社の代表取締役であるが、国が職権でその健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格取得を確認し、標準報酬月額を定めた処分に対して不服を申し立て、A会社の経営に必要な事項はすべてXの夫であるBの判断によって行っているから、XがA会社から役員報酬として受け取っている金員は労務の対償に当たらず、Xは被保険者資格を取得していないと主張した。
しかしながら、Xは、本件役員報酬を贈与や名義貸し料ではないとも主張しているうえ、A会社における経理上もこの金員の支払いを代表取締役に対する役員報酬として処理しているのであり、A会社における代表取締役としてなすべき行為はすべてXの名義で行われている。そうしてみると、Xは代表取締役としての業務を全面的にBに委ねており、そのこと自体が(忠実義務違反の問題が生ずるかどうかはともかく)代表取締役としての職務の遂行に当たるというべきであって、その受ける役員報酬はこれに対する対償と認められるから、上記主張は理由がない。(被保険者資格確認の効力が認められた)