社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



令和4年10月から育児休業給付制度が変わります

令和4年10月から育児休業給付制度が変わります

育児・介護休業法の改正により、令和4年10月から、育児休業の2回までの分割と、産後パパ育休(出生時育児休業)の制度が施行されます
これに伴い、育児休業給付についても以下の点が変更になります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000838696.pdf

1.育児休業の分割取得

■ 1歳未満の子について、原則2回の育児休業まで、育児休業給付金を受けられるようになります。
■ 3回目以降の育児休業については、原則給付金を受けられませんが、以下の例外事由に該当する場合は、この回数制限から除外されます。
■ また、育児休業の延長事由があり、かつ、夫婦交代で育児休業を取得する場合(延長交代)は、1歳~1歳6か月と1歳6か月~2歳の各期間において夫婦それぞれ1回に限り育児休業給付金が受けられます。

回数制限の例外事由

①別の子の産前産後休業、育児休業、別の家族の介護休業が始まったことで育児休業が終了した場合で、新たな休業が対象の子または家族の死亡等で終了した場合
育児休業の申し出対象である1歳未満の子の養育を行う配偶者が、死亡、負傷等、婚姻の解消でその子と同居しないこととなった等の理由で、養育することができなくなった場合
育児休業の申し出対象である1歳未満の子が、負傷、疾病等により、2週間以上の期間にわたり世話を必要とする状態になった場合
育児休業の申し出対象である1歳未満の子について、保育所等での保育利用を希望し、申し込みを行っているが、当面その実施が行われてない場合

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※注意
・例外事由に該当する場合は、給付申請の際にその旨を申請書に記載してください。
記載がない場合は回数制限の対象としてカウントされます(申請様式は準備中。追って公表されます)。
・ 必要に応じ、事業主やご本人に事実確認をする場合があります。

2.産後パパ育児休業(出生時育児休業

子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる産後パパ育休※1制度が創設されます。
産後パパ育休を取得した場合に、出生時育児休業給付金が受けられます。
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3.その他の変更点

・支給要件となる被保険者期間の確認や、支給額を決定する休業開始時賃金月額の算定は、初めて育児休業を取得する時のみ行います。従って、2回目以降の育休の際は、これらの手続きは不要です。
※産後パパ育休を取得している場合は、それを初めての休業とします。その後に取得する育児休業についても、これらの手続きは不要です。
・産後パパ育休と育児休業を続けて取得した場合など、短期間に複数の休業を取得した場合は、先に取得した休業から申請してください。

監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)

監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)

厚生労働省より、労働基準監督署が監督指導を行った結果、令和2年度(令和2年4月から令和3年3月まで)に、不払だった割増賃金が支払われたもののうち、支払額が1企業で合計100万円以上となった事案の取りまとめたものが公表されました。

概要を抜粋いたします。
詳細は、リンクをご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c_r02.html


【令和2年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント】
(1) 是正企業数 1,062企業(前年度比549企業の減)
うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、112企業(前年度比49企業の減)
(2) 対象労働者数 6万5,395人(同1万3,322人の減)
(3) 支払われた割増賃金合計額 69億8,614万円(同28億5,454万円の減)
(4) 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円

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賃金の支払場所(持参債務と取立債務)

賃金の支払場所(持参債務と取立債務)

通常、こんなことは問題にもなりませんが、特に定めがない場合、賃金は会社に取りに行くべきものなのでしょうか?、それとも、会社が従業員宅に持っていくものなのでしょうか?

賃金というのは労務の対価として発生する債権ですが、債権の弁済について民法484条1項は次のように定めています。
なお、この規定は任意規定なので、就業規則等により当事者間で別の定めがある場合は、そちらが優先適用されます。

第484条
1.弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

特定物とは、「個性に着目して取引の対象となっている物」を言います。
例えば、犬や猫等の動物をペットとして購入する場合、通常はこの『チワワ』やこの『シャム』を気に入って購入します。品種や性別が同じあっても、この『チワワ』やこの『シャム』に代替できる物はありません。特定物とは、このように代替不可能な物です。
逆に、カルビーの『じゃがりこ サラダ』を買う場合、通常はどの『じゃがりこ サラダ』かには着目しません。例えば、スーパーで購入した後に、もし賞味期限が切れていたことに気づいても、切れていないものと交換してもらえば特に問題ありません。こういう代替可能な物を不特定物と言います。

民法484条1項は、対象となる債権が特定物・不特定物に応じて、引渡し場所を

特定物の引渡し:債権発生の時にその物が存在した場所
不特定物の引渡し:債権者の現在の住所

と定めているのです。

なお、弁済の場所が債権者の住所である債務を持参債務、弁済の場所が債務者の住所である債務のことを取立債務と言いますが、不特定物の引渡しは持参債務であると言うことができます。

さて、それでは賃金の支払は特定物の引渡し、不特定物の引渡しのいずれに該当するのでしょうか?
金銭というのは、明らかに個性に着目して引き渡す物でありませんので、不特定物です。従って、賃金の支払は不特定物の引渡しなので、債権者である従業員の現在の住所で金銭を引き渡す、持参債務となります。
ただし、会社で賃金を支払うことが、長期間反復継続して行われていたような場合には、そのような労使慣行が民法92条により慣習として認められることにより、使用者の住所が賃金の支払場所とされることもあり得ます。(詳細はこちらを参考:
商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(大阪高判平5.6.25労判679号32頁) - 社会保険労務士川口正倫のブログ)

このような賃金の支払場所が、実際に問題となった裁判例として、パールシステムズ事件(大阪高決平10.4.30)があります。
東京に本社があるY社の従業員✕が、神戸の自宅で在宅勤務してたところ、Y社に解雇されたため、Y社に従業員としての地位確認等を求めて、神戸地方裁判所に提訴した事例で、裁判籍が問題となりました。
訴訟する際には、どこの裁判所に訴えを提起すべきか(土地管轄)が問題となりますが、その基準となるものを裁判籍といいます。簡単に言えば、裁判籍とは、事件の当事者または訴えと密接に関連する一定の地点のことで、この裁判籍の所在地を管轄区域内にもつ裁判所に土地管轄が生じることなります。

裁判籍は、普通裁判籍特別裁判籍の2種類があり、さらに特別裁判籍独立裁判籍関連裁判籍(併合請求の裁判籍)に分けられ、概説すると次のようになります。

普通裁判籍:事件の内容や性質に関係なく、一般的に認められる裁判籍で、自然人の場合は被告の住所、法人については、被告の主たる事業所または営業所等となります。

特別裁判籍:普通裁判籍のように一般的に認められるものではなく、一定の種類の事件について特に認められる裁判籍で、独立裁判籍と関連裁判籍(併合請求の裁判籍)に分けられます。
独立裁判籍:普通裁判籍と競合して管轄が認められる裁判籍(「競合」という法律用語ができ来た場合は、どちらも選択できる程度の意味です。例:賃金全額請求と休業手当の請求の競合という場合、賃金全額と休業手当を選択して請求できるという意味です。)で、民事訴訟法5条に15種類列挙されています。そのうち、財産上の訴えに関する裁判籍として、義務履行地(同条1号)があります。

1つの事件について普通裁判籍と特別裁判籍が競合する場合は、いずれの裁判籍所在地にも土地管轄があり、どの裁判所に訴訟を提起するかは原告が決めることができるので、パールシステムズ事件のXは、Y社の本社がある東京地方裁判所と賃金支払の義務履行地のいずれにも提訴することが可能です。

そして、✕は、賃金支払方法について就業規則等に定めがなく、✕の自宅がある神戸市(実際には、振込で神戸市内の金融機関に賃金は支払われていた)を義務履行地として、神戸地方裁判所に訴え提訴しました。

第一審は、給与支払方法が銀行振込の場合、振込手続を行った時点で支払が確定するため、Y社が銀行銀行の支店等に送金手続をした時点で義務の履行を完了しているとして、賃金債務の義務履行地は振込送金先である神戸市内の支店ではなく、神戸地方裁判所に裁判籍はないとしましたが、✕が即時抗告しました。
これに対して、大阪高裁は、振込手続を行ったとしても、送金手続の過誤等で債権者の指定口座に入金されない可能性を指摘し、義務の履行が終了するのは指定口座に入金されたときであるとし、「本件においては、Y社の本店所在地等に✕が出向いて取立ての方法で給料を支払うことは予定されておらず、民法の原則のとおり✕の住所地で持参の方法で支払うことを予定しており、上記口座振込の方法による支払は、上記持参の方法による支払のためにとられていると解される。そうすると、賃金支払義務の履行地は、✕の住所地であるというべきである。」とし、神戸地方裁判所での裁判籍を認めました。

実務上、✕の住所地を義務履行地とするのを防止するために、就業規則等に「賃金は会社の事務所で支払う。ただし、従業員が申出た場合は、指定する金融機関に振込む。」と記載しておくことが考えられます。そうすることで、本店所在地等に従業員が出向いて取立ての方法で給料を支払うこと」を予定していることになり、「口座振込の方法による支払は、取立ての方法による支払のためにとられている」と判断される可能性が高くなるためです。
なお、「上記口座振込の方法による支払は、上記持参の方法による支払のためにとられていると」されていることから、Y社の本社近くの金融機関を指定するだけでは、足りないと考えます。

「年末調整がよくわかるページ(令和3年分)」が公開されました

「年末調整がよくわかるページ(令和3年分)」が公開されました

短い夏が終わるとクリスマス・カウントダウンまではあっという間です。

「年末調整がよくわかるページ(令和3年分)」が早くも公開されました。
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index.htm



(リンクより抜粋)
年末調整の手順等を解説した動画やパンフレット、年末調整時に必要な各種申告書など、国税庁が提供している年末調整に関する情報はこのページから入手・閲覧できます。

【お知らせ】
〇 令和3年分の年末調整は昨年(令和2年分)と同じ手順となります。
〇 基礎控除の適用を受ける方は基礎控除申告書の提出が必要となりますので、提出漏れがないようご注意ください。
〇 税務署主催で実施していた年末調整説明会について、令和3年以降は実施しないこととしています。


年末調整の各種様式
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/mokuji.htm

令和3年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2021/index.htm

年末調整のしかた
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2021/01.htm

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商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(大阪高判平5.6.25労判679号32頁)

商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(最一小判平7.3.9労判691号54頁)

1.事件の概要

自動車教習所を経営するY社は、毎週月曜日を特定休日としており、その特定休日に出勤した場合には休日出勤手当を支払っていたが、Y社は、昭和47年10月30日に訴外A労働組合と「特定休日が祭日と重なった場合には特定休日の振替は行わない」等の労使協定を締結し、その後、昭和52年2月21日にB労働組合とも、同趣旨の労使協定を締結していた。
しかし、実際には月曜日が祭日の場合には火曜日を振り替えられた特定休日扱いとし休日出勤手当を支給していた。
昭和62年5月、Y社の勤労部長が、この取扱いが労働協約等に反していることに気づき、昭和63年2月から10月にかけて取りやめる措置をとっていたところ、B労働組合の組合員である✕らが、休日出勤手当等の支給については労使慣行が成立しているとして、手当分の賃金の支払いを求めて訴訟を提起した。第一審は、このような取扱いが長年適用されてきたことで、労働契約上の労働条件になっているとしたうえで、それをY社が一方的に不利益に変更することは信義に反するとして✕らの請求を認容したが、これに対してY社が控訴したのが本件である。

2.判決の概要

民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要するものと解される。
そして、その労使慣行が上記の要件を満たし、事実たる慣習として法的効力が認められるか否かは、その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約就業規則等との関係、当該慣行の反復継続性の程度、定着の度合い、労使双方の労働協約就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定すべきものであり、この理は、上記の慣行が労使のどちらに有利であるか不利であるかを問わないものと解する。
本件の取扱いは、かなりの長期間継続反復されてきたが、特定休日が祝祭日に重なる頻度は多くなく、期間の割には回数が多くなかったこと、昭和52年の協定が取り交わされた後に、特定休日の振替に関する規定について労使双方から議論がなされたことはなかったこと、勤労部長がこの取扱いを知るに至り直ちに協定どおりに戻したことなどからすると、Y社が、この慣行によって労使関係を処理するという明確な規範意識を有していたとは認め難い。(✕らは、これに対して上告したが、「上告人らの請求をいずれも理由がないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。」として、✕らの上告は棄却された。最一小判平7.3.9)

3.解説

①労使慣行の法的効力

就業規則や労働契約に記載されていない労働条件が、職場のルールとして意識され、何となく使用者と従業員が従っている場合があります。
例えば、就業規則で定められた給料日が月末なのに毎月25日に支給されていたり、土日祝祭日が休日の会社で時間外労働の割増賃金については労基法どおり就業規則に定めているにも関わらず、祭日がある週の土曜日に法定外休日出勤をした際に一律25%の割増手当を支給(週40時間を超過しなければ割増賃金の支給は不要)する、就業規則に特に定められていないのに賞与の支給対象者は賞与支給日に在籍する従業員に限定する等です。
このような事実上のルールを「労使慣行」と言いますが、就業規則等の内容とは異なるので、どのような法的効力を有するかが問題となります。

民法92条

民法92条は、次のように任意規定と異なる慣習が法的効力を有する場合について定めています。

任意規定と異なる慣習)
第92条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

「法令中の公の秩序に関しない規定」とは「任意規定」を意味しています。「任意規定」の反対は「強行規定」ですが、これに反する契約等は、締結されていても無効になります。これに対して、「任意規定」はあくまで「任意」なので、契約を締結する際にその部分について取決めをしなかった場合に、契約の内容を補充する効力しかありません。
民法92条は、そのような任意規定と異なるような慣習がある場合の取扱いについて定めた条文で、契約等で定められていなくても、地域や業界において通用している慣習があるような場合、その慣習は一定の合理性があるものと考えられるため、その慣習に従うという意思を両当事者が有している場合には、それによって契約の内容の解釈や補充を行うとしたのが第92条です。
なお、「慣習に従うという意思を両当事者が有している場合」とは、特に反対の意思表示をしていないことを意味すると考えられています。従って、慣習によることを当事者が反対していない限り、その慣習より補充することになります。

③労使慣行が民法92条の慣習として認められる場合

前置きが長くなりましたが、本判決は、労使慣行が民法92条の慣習として認められる3つの必要条件が示されています。
・同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと
・労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと
・当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること(使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたこと)

上記はあくまで必要条件であって、これらの条件を具備したうえで、
・その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約就業規則等との関係、当該慣行の反復継続性の程度、定着の度合い、労使双方の労働協約就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定する(慣行が労使のどちらに有利であるか不利であるかを問わない)
としています。

本件においては、勤労部長がこの取扱いを知るに至り直ちに協定どおりに戻したことなど」により、Y社が、この慣行によって労使関係を処理するという明確な規範意識を有していたとは認め難いとして、法的効力を有する民法92条の慣習としては認められませんでした。

さて、「規範意識」とは、簡単に言えば、長年事実として行われてきた行為にルールとして意識し従う、という意味です。これに対して、民法92条は「反対の意思表示をしていないこと」が要件なので、明らかに規範意識までは要求していません。この点に対して、本判例には学説上議論があります。

【整理解雇】森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

コロナ禍で業務転換・縮小を理由とする整理解雇が無効とされた事例

1.事件の概要

本件は、主に観光バス事業を営むY社(従業員数20名)のバス運転手として勤務していた✕が、Y社による業務縮小を理由とする解雇の無効を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに賃金の仮払いを求める事案である。
Y社は、令和2年3月17日、全従業員が参加するミーティングで、福岡ー大阪間の高速バスを毎日走らせる予定であることを説明した後、高速バスの運転手として稼働してもよい者は挙手するように促したが、✕を含む複数の運転手は挙手しなかった。
✕は、令和2年3月20日、営業所長から、解雇することが告げられた。また、同日には、他の運転手1名についても解雇が言い渡されたが、営業所長は✕ら2名が解雇の対象となったのはミーティングの場で、高速バスを運転することについて挙手しなかったためであると説明した。
令和2年3月25日、✕は、Y社より、同月31日付で解雇する旨の解雇予告通知書を受領した。同書面には、解雇理由として「コロナウイルス被害の拡大により業務縮小の為」と記載されていた。同月31日付で解雇又は雇止めとなったのは✕を含めて4名であり、さらに同年6月末で1名が自主退職した。
Y社は、令和2年7月2日、高速バス事業を開始するため、高速バスの運転手2名を新たに雇い入れて同日時点でY社の従業員数は17名となったが、その後も観光バス事業についてはほとんど受注がなく、観光バス運転手4名は原則として自宅待機となっている。

2.判決の概要

Y社は、新型コロナウイルス感染症拡大によって、令和2年2月中旬以降、貸切バスの運行事業が全くできなくなり、同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと、同年3月の売上は約399万円、同年4月の売上は約89万円であったこと、従業員の社会保険料の負担は月額150万円を超えていたこと、令和2年3月当時、雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると、その後、高速バス事業のために運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても、Y社において人員削減の必要性があったことは一応認められる。
しかしながら、Y社は、令和2年3月17日のミーティングにおいて、人員削減の必要性に言及したものの、人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず、本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。
また、✕が解雇の対象に選ばれたのは、高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされているところ、Y社は、上記ミーティングにおいて、高速バス事業を開始することを告知し、運転手らに協力を求めたものの、高速バスによる事業計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、高速バスを運転するか否かの意向確認は突然であって、観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると、当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切無いものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い。
そうすると、本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効といわざるを得ない。

【同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

1.事件の概要

Y社は飼料及び飼料添加物の製造及び販売等を目的とする株式会社である。✕らは、Y社と期間の定めのある労働契約を締結した嘱託社員(定年後再雇用者を含む。以下「✕ら嘱託社員」という。)、又はY社と期間の定めのない労働契約を締結した年俸社員(以下「✕ら年俸社員」という。)であり、兵庫県にあるY社のQ2工業で製品の製造作業等に従事していた。
本件は、嘱託社員又は年俸社員である✕らが、Y社と無期労働契約を締結している年俸社員以外の他の無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当(以下これらを併せて「本件手当等」という。)に相違があることは、労働契約法20条ないし民法90条※に違反している旨などを主張して、Y社に対して、不法行為に基づく損害賠償として、本件手当等に係る賃金に相当する額等の支払いを求めて提訴したのが本件である。
Y社の雇用形態には、有期契約労働者である「嘱託」と、無期契約労働者である「社員」との区分があり、さらに「社員」には「年俸社員」とその他の区分が存在していた。そして、年俸社員を除く社員のコースの種類として、「総合職コース」、「専門職コース」及び「一般職コース」が設けられていた。
民法90条とは、いわゆる公序良俗違反についての規定です。無期労働契約を締結している年俸社員については、旧労働契約法20条の適用がないため、公序良俗違反を持ち出しています。

2.判決の要旨

争点1 ✕ら嘱託社員に対する不法行為責任の有無について

(1)労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」ということがある。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めているところ、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容等を考慮して、その相違が不合理と認めらるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求めている。
そして、同条の「期間の定めがあることにより」とは、上記労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいい、同条の「不合理と認められるもの」とは、上記労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう(最高裁平成28年(受)第2099号、第2100号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号88頁参照)。また、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目(賞与を含む。)に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁、同令和元年(受)第1055号、第1056号同2年10月13日第三小法廷判決参照)。

(2)本件において、✕らが比較の対象としているQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と、✕ら嘱託社員との間には、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違があるところ(争いがない。)、これは、✕ら嘱託社員の賃金が、一般職コース社員に適用される本件給与規程及び本件賞与規程ではなく、本件嘱託就業規則によって定められていることにより生じていることといえる。そうすると、上記労働条件の相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると認められるから、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。

(3)業務の内容及び当該業務に伴う責任(職務の内容)の程度について
ア まず、✕らは、一般職コース社員のうち、職能資格等級が4等級である社員を比較の対象とするべきであると主張する。
しかし、本件職能資格規程には、「職能資格等級に基づいて業務上の指示・命令を行うことはできない」と定められており、職能資格等級と業務の内容は直接連動するものではなく、職能資格等級は当該社員の能力を示す基準に過ぎないこと、Q2工場製造課に所属する全ての一般職コース社員についてその昇格の経過等は必ずしも判然としないことからすると、比較の対象を職能資格等級が4等級の社員のみに限定することは相当とはいえないことから、以下ではQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と比較する。
イ ✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、工場の稼働中、いずれも作業担当者である工程担当者として定型的な作業を行うことがあった。したがって、両社員は、この点で同一の業務に従事していたと認められる。
一方、一般職コース社員には、工程担当者としての業務だけではなく、工程管理責任者又は副工程管理責任者として、各工程の管理者としての業務に従事している者があり、また、作業主任者として、危険を伴う一定の作業について、安全管理のための業務等に従事している者がいた。
これに対して、✕らは、定型的な作業だけに従事しており、(副)工程管理責任者としての業務、作業主任者としての業務等に従事する者はいなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、その職務の内容に一定の相違があったと認められる。

(4)職務の内容及び配置の変更の範囲について
一般職コース社員と嘱託社員は、いずれも転勤を伴う配置の転換を命じられることはないから、この点で、両社員の職務の内容等の範囲に相違はなかった。
一方、一般職コース社員に相当する社員において、課を越えた異動が行われた例がこれまでに3件あった一方で、平成27年4月1日の人事制度の変更後、現在に至るまでの間に、一般職コース社員及び嘱託社員において、課を越えて異動をした者はいなかった。そうすると、Q2工場の一般職コース社員において、課を越えた異動が行われる可能性はあったものの、その頻度は高くなかったといえる。
次に、経験を積んだ一般職コース社員は、その適性や能力に応じて、(副)工程管理責任者や作業主任者として選任され、その業務に従事することが予定されていたほか、一般職コース社員には本件人事考課規程が適用され、職能資格等級の昇格に伴い、最終的には管理職層の調査役として、人材マネジメント業務を担うことまで一応想定されていた。
これに対して、✕ら嘱託社員は、製造課で定期的な作業を行うことが想定されており、課を越えた異動を命じられることや、(副)工程管理責任者としての業務を担うことは想定されていなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったと認められる。

(5)人材活用の仕組みについて
一般職コース社員には本件職能資格規程及び本件人事考課規程が適用され、一般職コース社員は、職能資格等級制度を通じて、段階的に職務遂行能力を向上させていくことが求められていたといえる。また、一般職コース社員は、本件人事考課規程に基づいて、目標面談を受け、人事考課を受ける必要があり、その結果は、職能資格等級の昇格選考に活用されていた。そして、一般職コース社員の業務は相応の責任や知識等を要する業務であることを踏まえると、Y社においては、一般職コース社員について、人事考課制度を通じてその職務遂行能力の向上を図ることや、上記業務を遂行できる人材として長期的に育成していくことが予定されていたといえる。
これに対して、✕ら嘱託社員に、本件職能資格規程や本件人事考課規程は適用されなかった。
そうすると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員では人材活用の仕組みが大きく異なっていたといえ、これは、労働条件の相違の不合理性の判断において考慮されるべき事情といえる。

(6)賃金体系の違いについて
一般職コース社員には本件給与規程が適用され、その基本給は、年齢給、職能給及び調整給から構成されていた。
一方、✕ら嘱託社員には本件嘱託就業規則が適用され、その給与は年俸制とされていた。
このように、両社員の賃金体系は異なっていたところ、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給の年間支給額と比較して、高い水準となっていた(このことは、一般職コース社員の基本給に昼食手当を加えた場合も同じである。)。

(7)登用制度について
Y社では、一定の年齢制限と回数制限が設けられており、年齢制限によりその受験資格を得られなかった者がいたものの、嘱託社員から年俸社員へ、年俸社員から一般職コースへの試験による登用制度が設けられていた。
この点、✕らは、Y社の登用制度には年齢制限や回数制限があり、✕らの中には受験機会すら与えられない者がいたことなどからすると、登用制度があることを斟酌するべきではない旨主張する。
確かに、回数制限が2回とされている点や、嘱託社員から年俸社員への年齢制限が40歳以下とされている点は、制度として厳しいと評価できる余地があるものの、登用制度は、Y社における採用方法及び人材育成全般にかかわることであり、いかなる内容の制度とするかは基本的に企業の経営判断に属する事項といえること、本件職能資格規程によれば、一般職コース以上等の社員コース変更についても、50歳までに限られていたこと、また、Y社では現に一定の登用の実績があったことを踏まえると、Y社が登用制度を設けていることを斟酌すべきでないとはいえない。

(8)以上を踏まえて、本件手当等に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認めらるものに当たるか否か検討する。

ア 賞与
年度末賞与を含め、Y社の一般職コース社員に対する賞与は、本件賞与規程又は実際上、基本給をベースに支給金額が定められていることからすると、その算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償との趣旨が含まれていたといえる。また、上記基本給は、年齢給、職能給及び調整給から成るところ、職能給は、職能資格等級に基づいて決定され、職能資格等級の昇格選考は、人事考課によって行われていた。このように、Y社が支給する賞与は、人事考課の結果に連動し、また、年齢給や職能資格等級にも連動してその支給額が増えることになることに照らすと、その賞与には、労働意欲の向上を図るという趣旨や、一般職コース社員としての職務を遂行し得る人材を確保して、その定着を図るという趣旨が含まれていたといえる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、そのため、両社員では人材活用の仕組みが異なっており、一般職コース社員については、職務遂行能力の向上が求められ、長期的な人材育成が予定されていたこと、また、両社員では賃金体系が異なっており、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額と比較すると、一般職コース社員の基本給の年間支給額は低く抑えられ、したがってこの点で月額の基本給も低いこと、定年後の再雇用者については、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることが予定されていることなどからすれば、その賃金が一定程度抑制されることもあり得ること、さらに、Y社では嘱託社員から年俸社員に、年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられ、一定の登用実績もあり、嘱託社員としての雇用が必ずしも固定されたものではないことが認められる。
以上の事情を総合すれば、✕ら嘱託社員には賞与が一切支給されないことのほか、✕ら嘱託社員についても賞与の算定期間中に労務を提供していることや、再雇用者を除く✕ら嘱託社員については継続的な雇用が想定されているといえることなどの事情を斟酌したとしても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に賞与に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して賞与を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※一般職コース社員と✕ら嘱託社員の年間支給額(令和元年度)は次のとおりで、✕ら嘱託社員の年収は、一般職コース社員の概ね7割でした。有意人材確保論や職務の内容やその変更の範囲等の違い等に応じて、3割程度の差異は不合理でないとされました。

(一般職コース社員)
 A:387万8095円(平成22年4月入社)
 B:389万9484円(平成22年4月入社)
 C:382万2308円(平成22年4月入社)
 D:392万6095円(平成22年4月入社)
 E:390万0195円(平成22年4月入社)
 F:324万2976円(平成29年4月入社)
 A~Eの平均:388万5235円
 A~Fの平均:377万8192円

(✕ら嘱託社員)
 ✕10:275万8800円(平成22年4月入社)
 ✕13:261万6000円(平成25年10月入社)
 ✕14:264万4800円(平成25年4月入社)
 ✕15:259万2000円(平成26年6月入社)
 平均:265万2900円(A~Fの約70%)

イ 家族手当、住宅手当
(ア)Y社は、扶養家族を有する社員、又は住居費の負担のある社員に対して、家族手当又は住宅手当として、扶養家族や同居者等の属性に応じて、一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと、Y社が支給する家族手当及び住宅手当は、従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであるといえる。
そして、扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは、✕ら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。また、✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動を予定されておらず、住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。そうすると、家族手当及び住宅手当の趣旨は、✕ら嘱託社員にも同様に妥当するということができ、このことは、その職務の内容等によって左右されることとはいえない。
また、確かに、現役社員については、幅広い世代の労働者が存在し、雇用が継続される中で、その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し、再雇用者については、一定の年齢に達して定年退職をした者であるから、その後の長期雇用が想定されているとか、生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし、他方で、住居を構えることや、扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上、再雇用者になると、その基本月額は相当な割合で引き上げられる一方で、Y社において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺がわれない。
これらの事情に照らすと、再雇用者も含む、✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは不合理であると評価することができる。
したがって、一般職コース社員に対して家族手当及び住宅手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると認められる。
※家族手当や住宅手当(転居と伴う異動が無い場合)は、雇用形態に関係なく、一般的に賃金水準が低い若年層を対象に支給し、一定の年齢を超過すると一律支給しないという扱いが、従業員の生活費を補助するという趣旨に相応しいと思います。

ウ 昼食手当
Y社は、一般職コース以上の社員に対して、昼食手当として、一律に月額1万1700円を支給していた。
Y社における昼食手当の金額は、昭和43年当時は1000円であったが、その後、昭和45年に1600円、昭和46年に2000円、昭和49年に5000円、昭和60年に7000円、昭和63年に8000円、平成元年に1万円、平成4年に現在の1万1700円と、全国で一律の増加幅によって金額の改定が行われてきたこと、また、平成3年7月の役員会では、当時の労働市場における労働力不足に対応すべく、年間給与額は維持しつつ、見かけ上、安い印象が持たれていた月額給与額を増加させるために、賞与の1.5か月相当分を月給に繰り入れる旨、その調整の際の不足額は、一律支給をしている昼食手当で補完する旨などの議論が行われていたこと、平成4年5月の役員会では、初任給調整として昼食手当に1000円を加算するとの議論が行われていたことが認められる。このように、昼食手当が、過去に全国一律かつ相当幅による増額がされてた等の経緯に加え、昼食手当は賞与のベースされていないことにも照らすと、Y社が支給している昼食手当は、当初の従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても、遅くとも平成4年頃までにはその名称にかかかわらず、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、両社員では人材活用の仕組みが異なっていること、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えても✕ら嘱託社員の月額支給額より低いこと、さらにY社では登用制度が設けられていることなどの事情が認められ、これらの事情を総合すれば、昼食手当との名称や、✕ら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどを斟酌しても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して昼食手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※昼食手当の実態が調整給であることから、不合理とはされませんでした。昼食手当の趣旨が昼食の補助である場合は、不合理と判断される可能性が高いです。

(9)以上によれば、Y社が✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を支給しないことは、労働契約法20条に違反するといえる。そして、同条が平成25年4月1日に施行されるに至っていたことからすれば、Y社がこのような違法な取扱いを行ったことについては、少なくとも過失のあることが認められる。
したがって、Y社は、✕ら嘱託社員に対し、この範囲において、不法行為責任を負う。

争点2 ✕ら年俸社員に対する不法行為責任の有無について

✕らは、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間に本件手当等の支給に係る労働条件の相違があることについて、労働契約法20条を類推適用するべきである旨、あるいは、憲法14条、労働契約法3条2項、同一労働同一賃金の原則等により裏付けられた公序良俗民法90条)に違反する旨を主張する。
しかし、労働契約法20条の文言に照らすと、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理であることを禁止する規定であることは明らかであり、また、雇止めに対する不安がないなどの点において、有期契約労働者と無期契約労働者では雇用契約上の地位が異なっていること等に鑑みると、無期契約労働者間の労働条件の相違について同条を類推適用することは困難である。そのため、無期契約労働者間の労働条件の相違について、同条と同じ枠組みによりその違法性の有無を判断することは相当でないというべきである。また、憲法14条、労働契約法3条2項、その他の法令上、無期契約労働者間において同一労働同一賃金の原則を具体的に定めたと解される規定は見当たらない以上、そのような原則自体が、使用者と無期労働契約者との間の労働関係を規律する法規範として存在していたとか、これが公序として確立していたと認めることもできない。このことは、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が本件当時に作成されていたことによって変わることとはいえない。
※いずれも無期契約労働者である、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間の労働条件の相違については、労働契約法20条による同一労働同一賃金の原則が適用されないとしています。その上で、均等待遇の理念(労働契約法3条2項)や同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らして、公序良俗に反する相違であるかが、以下で検討されています。


そして、Y社では、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら年俸社員に対して支給されないという労働条件の相違があった。しかし、他方で、①✕ら嘱託社員と✕ら年俸社員の職務の内容等は同じであったところ、一般職コース社員と✕ら年俸社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定相違があり、したがって、両社員の間に人材活用の仕組みや賃金体系等に違いを設けることが不合理であるといえないこと、加えて、②✕ら年俸社員については、労働者派遣法所定の派遣期間が満了するのに伴い、平成22年4月に無試験でY社に直接雇用されたという経緯があり、その年俸額は、前年度のQ3における年間支給額を上回る金額と決められたこと、③直接雇用の前後で、✕ら年俸社員の職務の内容に変化はなかったこと、④説明資料や雇用条件通知書等には、年俸額は通勤手当と時間外手当を除きQ3での年間給与額を基準とする旨が明記されていたこと等を踏まえると、同✕らは、Y社から賃金等の労働条件について必要な説明を受けた上で雇用契約を締結してといえること、⑤✕ら年俸社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給及び本件手当等の年間支給額と比較して、極端に低い金額とはいえないこと、⑥Y社では年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられており、これによる一定の登用実績もあり、年俸社員としての雇用形態が固定化されたものとまではいえないことが認められる。
そうすると、労働契約法3条2項が「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めていることや、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する規定ではあるが、同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らし、無期契約労働者の労働条件においても均等待遇の理念が働くことを踏まえたとして、本件関係において、上記労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容であるとまで評価することはできない。したがって、当該労働条件の相違を設けたことが、公序良俗に違反するとか、不法行為を構成すると認めることはできない。
以上によれば、Y社が✕ら年俸社員に対して不法行為責任を負うとは認められない。
同一労働同一賃金については、旧労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)の施行に伴い、多くの訴訟が発生しましたが、それ以前は、本件のように民法90条公序良俗違反)を根拠に争われていました(参照:丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁))。現在においても、無期雇用者間や有期雇用者間の労働条件の相違が労働契約法20条(反対解釈)で認められているわけではなく、「労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容である」と評価される場合は、民法90条を根拠に公序良俗違反とされることはあります。

脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました

脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました。

【認定基準改正のポイ
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号) - 社会保険労務士川口正倫のブログ
ント】

■長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

■長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

■短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤心不全」を追加

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参照:
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号) - 社会保険労務士川口正倫のブログ
脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました|厚生労働省

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号)

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号)

標記については、平成13年12月12日付け基発第1063号(以下「1063号通達」という。)により示してきたところであるが、今般、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の検討結果を踏まえ、別添の認定基準を新たに定め、令和3年9月15日から施行するので、今後の取扱いに遺漏なきを期されたい。
なお、本通達の施行に伴い、1063号通達及び昭和62年10月26日付け基発第620号は廃止する。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832042.pdf


(別添)
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準

第1 基本的な考え方

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するものである。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因する疾病として取り扱う。
このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷及び長期間にわたる疲労の蓄積を考慮する。
これらの業務による過重負荷の判断に当たっては、労働時間の長さ等で表される業務量や、業務内容、作業環境等を具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断する必要がある。

第2 対象疾病

本認定基準は、次に掲げる脳・心臓疾患を対象疾病として取り扱う。

1 脳血管疾患

(1)脳内出血(脳出血
(2)くも膜下出血
(3)脳梗塞
(4)高血圧性脳症

2 虚血性心疾患等

(1)心筋梗塞
(2)狭心症
(3)心停止(心臓性突然死を含む。)
(4)重篤心不全
(5)大動脈解離

第3 認定要件

次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務に起因する疾病として取り扱う。
(1)発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと。
(2)発症に近接した時期において、特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。
(3)発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。

第4 認定要件の具体的判断

1 疾患名及び発症時期の特定

認定要件の判断に当たっては、まず疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。
また、脳・心臓疾患の発症時期は、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものである。通常、脳・心臓疾患は、発症の直後に症状が出現(自覚症状又は他覚所見が明らかに認められることをいう。)するとされているので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。
なお、前駆症状(脳・心臓疾患発症の警告の症状をいう。)が認められる場合であって、当該前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に明らかとされたときは、当該前駆症状が確認された日をもって発症日とすること。

2 長期間の過重業務

(1)疲労の蓄積の考え方

恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。

(2)特に過重な業務

特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。
ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。

(3)評価期間

発症前の長期間とは、発症前おおむね6か月間をいう。
なお、発症前おおむね6か月より前の業務については、疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり、付加的要因として考慮すること。

(4)過重負荷の有無の判断

ア 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
ここでいう同種労働者とは、当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む。
イ 長期間の過重業務と発症との関係について、疲労の蓄積に加え、発症に近接した時期の業務による急性の負荷とあいまって発症する場合があることから、発症に近接した時期に一定の負荷要因(心理的負荷となる出来事等)が認められる場合には、それらの負荷要因についても十分に検討する必要があること。
すなわち、長期間の過重業務の判断に当たって、短期間の過重業務(発症に近接した時期の負荷)についても総合的に評価すべき事案があることに留意すること。
ウ 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。

(ア)労働時間
a 労働時間の評価
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
①発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね 45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
ここでいう時間外労働時間数は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。

b 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価
労働時間以外の負荷要因(後記(イ)から(カ)までに示した負荷要因をいう。以下同じ。)において一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断すること。
その際、前記a②の水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
ここで、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることに留意すること。

(イ)勤務時間の不規則性
a 拘束時間の長い勤務
拘束時間とは、労働時間、休憩時間その他の使用者に拘束されている時間(始業から終業までの時間)をいう。
拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時間数及び回数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること。
なお、1日の休憩時間がおおむね1時間以内の場合には、労働時間の項目における評価との重複を避けるため、この項目では評価しない。

b 休日のない連続勤務
休日のない(少ない)連続勤務については、連続労働日数、連続労働日と発症との近接性、休日の数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること。
その際、休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に、休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すものであることを踏まえて適切に評価すること。

c 勤務間インターバルが短い勤務
勤務間インターバルとは、終業から始業までの時間をいう。勤務間インターバルが短い勤務については、その程度(時間数、頻度、連続性等)や業務内容等の観点から検討し、評価すること。なお、長期間の過重業務の判断に当たっては、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること。

d 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」とは、予定された始業・終業時刻が変更される勤務、予定された始業・終業時刻が日や週等によって異なる交替制勤務(月ごとに各日の始業時刻が設定される勤務や、週ごとに規則的な日勤・夜勤の交替がある勤務等)、予定された始業又は終業時刻が相当程度深夜時間帯に及び夜間に十分な睡眠を取ることが困難な深夜勤務をいう。
不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務については、予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度・事前の通知状況、予定された業務スケジュールの変更の予測の度合、交替制勤務における予定された始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のため夜間に十分な睡眠が取れない程度 (勤務の時間帯や深夜時間帯の勤務の頻度・連続性)、一勤務の長さ(引き続いて実施される連続勤務の長さ)、一勤務中の休憩の時間数及び回数、休憩や仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容及びその変更の程度等の観点から検討し、評価すること。

(ウ)事業場外における移動を伴う業務
a 出張の多い業務
出張とは、一般的に事業主の指揮命令により、特定の用務を果たすために通常の勤務地を離れて用務地へ赴き、用務を果たして戻るまでの一連の過程をいう。
出張の多い業務については、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、出張が連続する程度、出張期間、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、出張先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張中の業務内容等の観点から検討し、併せて出張による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
ここで、飛行による時差については、時差の程度(特に4時間以上の時差の程度)、時差を伴う移動の頻度、移動の方向等の観点から検討し、評価すること。
また、出張に伴う勤務時間の不規則性についても、前記(イ)により適切に評価すること。

b その他事業場外における移動を伴う業務
その他事業場外における移動を伴う業務については、移動(特に時差
のある海外への移動)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、移動先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、宿泊を伴う場合の睡眠を含む休憩・休息の状況、業務内容等の観点から検討し、併せて移動による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
なお、時差及び移動に伴う勤務時間の不規則性の評価については前記aと同様であること。

(エ)心理的負荷を伴う業務
心理的負荷を伴う業務については、別表1及び別表2に掲げられている日常的に心理的負荷を伴う業務又は心理的負荷を伴う具体的出来事等について、負荷の程度を評価する視点により検討し、評価すること。

(オ)身体的負荷を伴う業務
身体的負荷を伴う業務については、業務内容のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業量、作業時間、歩行や立位を伴う状況等のほか、当該業務が日常業務と質的に著しく異なる場合にはその程度(事務職の労働者が激しい肉体労働を行うなど)の観点から検討し、評価すること。

(カ)作業環境
長期間の過重業務の判断に当たっては、付加的に評価すること。

a 温度環境
温度環境については、寒冷・暑熱の程度、防寒・防暑衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖・冷却の状況、寒冷と暑熱との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度、水分補給の状況等の観点から検討し、評価すること。

b 騒音
騒音については、おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等の観点から検討し、評価すること。

3 短期間の過重業務

(1)特に過重な業務

特に過重な業務の考え方は、前記2(2)と同様である。

(2)評価期間

発症に近接した時期とは、発症前おおむね1週間をいう。
ここで、発症前おおむね1週間より前の業務については、原則として長期間の負荷として評価するが、発症前1か月間より短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低いために、長期間の過重業務とは認められないような場合には、発症前1週間を含めた当該期間に就労した業務の過重性を評価し、それが特に過重な業務と認められるときは、短期間の過重業務に就労したものと判断する。

(3)過重負荷の有無の判断

ア 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。

イ 短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、業務による過重な負荷は、発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられることから、次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して、特に過重な業務と認められるか否かを判断すること。
①発症に最も密接な関連性を有する業務は、発症直前から前日までの間の業務であるので、まず、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
②発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
なお、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の継続とは、この期間中に過重な業務に就労した日が連続しているという趣旨であり、必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労した日が間断なく続いている場合のみをいうものではない。したがって、発症前おおむね1週間以内に就労しなかった日があったとしても、このことをもって、直ちに業務起因性を否定するものではない。

ウ 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。
(ア)労働時間
労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、過重性の評価の最も重要な要因であるので、評価期間における労働時間については十分に考慮し、発症直前から前日までの間の労働時間数、発症前1週間の労働時間数、休日の確保の状況等の観点から検討し、評価すること。
その際、①発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合、②発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等(手待時間が長いなど特に労働密度が低い場合を除く。)には、業務と発症との関係性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
なお、労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合には、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断する必要がある。

(イ)労働時間以外の負荷要因
労働時間以外の負荷要因についても、前記2(4)ウ(イ)ないし(カ)において各負荷要因ごとに示した観点から検討し、評価すること。ただし、長期間の過重業務における検討に当たっての観点として明示されている部分を除く。
なお、短期間の過重業務の判断においては、前記2(4)ウ(カ)の作業環境について、付加的に考慮するのではなく、他の負荷要因と同様に十分検討すること。

4 異常な出来事

(1)異常な出来事

異常な出来事とは、当該出来事によって急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる出来事であり、具体的には次に掲げる出来事である。
ア 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態
イ 急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
ウ 急激で著しい作業環境の変化

(2)評価期間

異常な出来事と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているので、発症直前から前日までの間を評価期間とする。

(3)過重負荷の有無の判断

異常な出来事と認められるか否かについては、出来事の異常性・突発性の程度、予測の困難性、事故や災害の場合にはその大きさ、被害・加害の程度、緊張、興奮、恐怖、驚がく等の精神的負荷の程度、作業強度等の身体的負荷の程度、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化の程度等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
その際、①業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、②事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合、③生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合、④著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合、⑤著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合等には、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。

第5 その他

1 基礎疾患を有する者についての考え方

器質的心疾患(先天性心疾患、弁膜症、高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等)を有する場合についても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務と発症との関連が認められるものであること。
ここで、「著しく重篤な状態に至った」とは、対象疾病を発症したことをいう。

2 対象疾病以外の疾病の取扱い

(1)動脈の閉塞又は解離

対象疾病以外の体循環系の各動脈の閉塞又は解離については、発生原因が様々であるが、前記第1の基本的考え方により業務起因性の判断ができる場合もあることから、これらの疾病については、基礎疾患の状況や業務の過重性等を個別に検討し、対象疾病と同様の経過で発症し、業務が相対的に有力な原因であると判断できる場合には、労働基準法施行規則別表第1の2第11号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱うこと。

(2)肺塞栓症

肺塞栓症やその原因となる深部静脈血栓症については、動脈硬化等を基礎とする対象疾病とは発症機序が異なることから、本認定基準の対象疾病としていない。
肺塞栓症等については、業務による座位等の状態及びその継続の程度等が、深部静脈における血栓形成の有力な要因であったといえる場合に、労働基準法施行規則別表第1の2第3号5の「その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱うこと。

第6 複数業務要因災害

労働者災害補償保険法第7条第1項第2号に定める複数業務要因災害による脳・心臓疾患に関しては、本認定基準における過重性の評価に係る「業務」を「二以上の事業の業務」と、また、「業務起因性」を「二以上の事業の業務起因性」と解した上で、本認定基準に基づき、認定要件を満たすか否かを判断する。その上で、前記第4の2ないし4に関し以下に規定した部分については、これにより判断すること。

1 二以上の事業の業務による「長期間の過重業務」及び「短期間の過重業務」の判断

前記第4の2の「長期間の過重業務」及び同3の「短期間の過重業務」に関し、業務の過重性の検討に当たっては、異なる事業における労働時間を通算して評価する。また、労働時間以外の負荷要因については、異なる事業における負荷を合わせて評価する。

2 二以上の事業の業務による「異常な出来事」の判断

前記第4の4の「異常な出来事」に関し、これが認められる場合には、一の事業における業務災害に該当すると考えられることから、一般的には、異なる事業における負荷を合わせて評価することはないものと考えられる。

小学校休業等対応助成金・支援金を再開

小学校休業等対応助成金・支援金を再開

小学校休業等対応助成金・支援金が復活するようです。
以下、次のリンクをそのまま掲載します。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20912.html



新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等により仕事を休まざるをえない保護者の皆様を支援するため、今後、以下のとおり、「小学校休業等対応助成金・支援金」制度を再開するとともに、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が直接申請することを可能とする予定です。
詳細については、改めて公表いたします。

1.「小学校休業等対応助成金・支援金」制度の再開

令和2年度に実施していた「小学校休業等対応助成金・支援金」制度を再開する予定です。
※令和3年8月1日以降12月31日までに取得した休暇を対象とする予定です。
※現在実施している「両立支援等助成金 育児休業等支援コース 新型コロナウイルス感染症対応特例」は、令和3年7月31日までに取得した休暇が対象となるものとする予定です。

<参考:令和2年度に実施していた小学校休業等対応助成金・支援金の概要>
●支給対象者
・ 子どもの世話を保護者として行うことが必要となった労働者に対し、有給(賃金全額支給)の休暇 (労働基準法上の年次有給休暇を除く。)を取得させた事業主
・ 子どもの世話を行うことが必要となった保護者であって、委託を受けて個人で仕事をする者
●対象となる子ども
新型コロナウイルス感染症への対応として、ガイドライン等に基づき、臨時休業等をした小学校等 (※)に通う子ども
※ 小学校等:小学校、義務教育学校の前期課程、特別支援学校、放課後児童クラブ、幼稚園、保育 所、認定こども園
② ⅰ)~ⅲ)のいずれかに該当し、小学校等を休むことが必要な子ども
ⅰ)新型コロナウイルスに感染した子ども
ⅱ)風邪症状など新型コロナウイルスに感染したおそれのある子ども
ⅲ)医療的ケアが日常的に必要な子ども又は新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクの高い基礎疾患等を有する子ども

2.「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」の再開

「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」を今後全国の都道府県労働局に設置し、労働者からの「(企業に)この助成金を利用してもらいたい」等のご相談内容に応じて、事業主への小学校休業等対応助成金の活用の働きかけを行う予定です。

3.新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みによる申請

昨年度と同様に、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が直接申請できることとする対応も行う予定です。
 ※ 当該労働者を休業させたとする扱いに事業主が同意することが必要です。
 ※ 休業支援金・給付金は現在のところ11月末までの休業が対象ですが、今後の取扱いについては、雇用情勢等を踏まえて10月中にお示しする予定です。