社会保険労務士川口正倫のブログ

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【整理解雇】森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

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森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

コロナ禍で業務転換・縮小を理由とする整理解雇が無効とされた事例

1.事件の概要

本件は、主に観光バス事業を営むY社(従業員数20名)のバス運転手として勤務していた✕が、Y社による業務縮小を理由とする解雇の無効を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに賃金の仮払いを求める事案である。
Y社は、令和2年3月17日、全従業員が参加するミーティングで、福岡ー大阪間の高速バスを毎日走らせる予定であることを説明した後、高速バスの運転手として稼働してもよい者は挙手するように促したが、✕を含む複数の運転手は挙手しなかった。
✕は、令和2年3月20日、営業所長から、解雇することが告げられた。また、同日には、他の運転手1名についても解雇が言い渡されたが、営業所長は✕ら2名が解雇の対象となったのはミーティングの場で、高速バスを運転することについて挙手しなかったためであると説明した。
令和2年3月25日、✕は、Y社より、同月31日付で解雇する旨の解雇予告通知書を受領した。同書面には、解雇理由として「コロナウイルス被害の拡大により業務縮小の為」と記載されていた。同月31日付で解雇又は雇止めとなったのは✕を含めて4名であり、さらに同年6月末で1名が自主退職した。
Y社は、令和2年7月2日、高速バス事業を開始するため、高速バスの運転手2名を新たに雇い入れて同日時点でY社の従業員数は17名となったが、その後も観光バス事業についてはほとんど受注がなく、観光バス運転手4名は原則として自宅待機となっている。

2.判決の概要

Y社は、新型コロナウイルス感染症拡大によって、令和2年2月中旬以降、貸切バスの運行事業が全くできなくなり、同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと、同年3月の売上は約399万円、同年4月の売上は約89万円であったこと、従業員の社会保険料の負担は月額150万円を超えていたこと、令和2年3月当時、雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると、その後、高速バス事業のために運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても、Y社において人員削減の必要性があったことは一応認められる。
しかしながら、Y社は、令和2年3月17日のミーティングにおいて、人員削減の必要性に言及したものの、人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず、本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。
また、✕が解雇の対象に選ばれたのは、高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされているところ、Y社は、上記ミーティングにおいて、高速バス事業を開始することを告知し、運転手らに協力を求めたものの、高速バスによる事業計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、高速バスを運転するか否かの意向確認は突然であって、観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると、当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切無いものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い。
そうすると、本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効といわざるを得ない。