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「シフト制」労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項

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「シフト制」労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項

「シフト制」とは

この留意事項での「シフト制」とは、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態を指します。ただし、三交替勤務のような、年や月などの一定期間における労働日数や労働時間数は決まっていて、就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態は除きます。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870906.pdf

1.シフト制労働契約の締結に当たっての留意事項

(1)労働条件の明示

労働契約の締結時には、労働者に対して以下の労働条件を明示しなければなりません(労基法第15条第1項、労基則第5条)。

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明示しなければならない労働条件

特にシフト制労働契約では、以下の点に留意しましょう。

「始業・終業時刻」
労働契約の締結時点で、すでに始業と終業の時刻が確定している日については、労働条件通知書などに単に「シフトによる」と記載するだけでは不足であり、労働日ごとの始業・終業時刻を明記するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等を併せて労働者に交付する必要があります。

「休日」
具体的な曜日等が確定していない場合でも、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明記する必要があります。

(2)シフト制労働契約で定めることが考えられる事項

前頁の明示事項に加えて、トラブルを防止する観点から、シフト制労働契約では、シフトの作成・変更・設定などについても労使で話し合って以下のようなルールを定めておくことが考えられます(作成・変更のルールは、就業規則等で一律に定めることも考えられます)。

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シフト制労働契約

(3)就業規則の作成

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、「始業及び終業の時刻」や「休日」に関する事項などについて、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法第89条第1号等)。

2.シフト制労働者を就労させる際の注意点

(1)労働時間、休憩

・労働時間の上限は原則1日8時間、1週40時間であり、この上限を超えて働かせるには36協定が必要です(労基法32条、第36条)。
・1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、勤務時間の途中で与えなければなりません(労基法第34条第1項)。

(2)年次有給休暇

・所定労働日数、労働時間数に応じて、労働者には法定の日数の年次有給休暇が発生します(労基法第39条第3項、労基則第24条の3)。使用者は、原則として労働者の請求する時季に年次有給休暇を取得させなければなりません(労基法第39条第5項)。「シフトの調整をして働く日を決めたのだから、その日に年休は使わせない」といった取扱いは認められません。

(3)休業手当

・シフト制労働者を、使用者の責に帰すべき事由で休業させた場合は、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要です(労基法第26条)。
※なお、使用者自身の故意、過失等により労働者を休業させることになった場合は、賃金の全額を支払う必要があります(民法第536条第2項)。

(4)安全、健康確保

労働安全衛生法に基づく安全衛生教育(安衛法第59条)や健康診断の実施(安衛法第66条)などの義務は、シフト制労働者に対しても同様に適用されます。

3.シフト制労働者の解雇や雇止め

(1)解雇

・シフト制労働者と「期間の定めがある労働契約」(有期労働契約)を締結している場合、期間中はやむを得ない事由がなければ解雇できません。また、期間の定めがない場合でも、客観的に合理的な理由等がなければ解雇できません(労契法第17条第1項、第16条)。
・なお、解雇する場合、①30日以上前の予告、②解雇予告手当の支払い(平均賃金の30日分以上)のどちらかが必要です(労基法第20条第1項)。

(2)雇止め

・一定の場合には、雇止め(労働者からの有期労働契約の更新等の申込みを使用者が拒否すること)ができなくなります(労契法第19条)。
・契約が3回以上更新されているか、労働者が雇入れ日から1年を超えて継続勤務している場合、雇止めには契約満了日の30日前の予告が必要です(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条)。

4.その他(募集・採用、待遇、保険関係など)

(1)募集

・労働者を募集する際には、業務内容・賃金・労働時間等の労働条件を明示することが必要です(職業安定法第5条の3第1項、第2項)。なお、募集時に示した労働条件を、労働契約締結までに変更する場合、変更内容の明示が必要です(職業安定法第5条の3第3項)。

(2)均衡待遇

・シフト制労働者がパートタイム労働者や有期労働契約の労働者である場合には、通勤手当の支給やシフト減に伴う手当の支払いなどで、正社員と比べて不合理な待遇にしないよう留意してください(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
※その際、正社員の待遇を労使合意なく引き下げることは望ましくないことに留意してください。

(3)社会保険・労働保険

・シフト制労働者も労災保険の適用、給付の対象です。また労働時間などの要件を満たせば、雇用保険や健康保険・厚生年金保険の被保険者にもなります。

(参考)
いわゆる「シフト制」により就労する労働者の適切な雇用管理を行うための留意点
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870905.pdf