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改正労働基準法等に関するQ&A(令和2年4月1日)

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改正労働基準法等に関するQ&A(令和2年4月1日)

1.賃金請求権の消滅時効の見直し関係

Q1-1 賃金請求権の消滅時効の起算点について、現行の取扱いから変更はあるのか。

(A)
○ 賃金請求権の消滅時効の起算点について、現行の取扱いから変更はありません。
○ 改正後の労基法第115 条では、賃金請求権の消滅時効の起算点が「これを行使することができる時」であることが明確化されますが、これは従来と同様、賃金支払期日が起算点であることを示しています。


Q1-2 労基法第115 条の規定の対象となる債権は何か。また、今般の改正により消滅時効期間が延長される債権は何か。

(A)
労基法第115 条の規定の対象となる債権は、以下のとおりです。
①賃金(退職手当を除く。)の請求権
…金品の返還(23 条。賃金の請求に限る。)、賃金の支払(24 条)、非常時払(25 条)、休業手当(26 条)、出来高払制の保障給(27 条)、時間外・休日労働等に対する割増賃金(37 条)、年次有給休暇中の賃金(39 条9項)、未成年者の賃金請求権(59 条)
②災害補償の請求権
…療養補償(75 条)、休業補償(76 条)、障害補償(77 条)、遺族補償(79 条)、葬祭料(80 条)、分割補償(82 条)
③その他の請求権
…帰郷旅費(15 条3項、64 条)、退職時の証明(22 条)、金品の返還(23 条。賃金を除く。)、年次有給休暇請求権(39 条)
④退職手当(24 条。労働協約又は就業規則によって予め支給条件が明確にされている場合)の請求権

○ 上記のうち、今般の改正により消滅時効期間が延長される債権は、①の賃金の請求権であり、②~④の請求権については、現行の消滅時効期間(②・③は2年、④は5年)が維持されます。


Q1-3 改正法の施行日以後、労基法第115 条に規定する賃金請求権の消滅時効期間は何年となるのか。

(A)
○ 改正法の施行日以後、賃金請求権の消滅時効期間は、現行の2年から5年に延長されます。ただし、経過措置として、当分の間は3年が適用されます。


Q1-4 今般の改正による新しい消滅時効期間は、いつの時点の賃金請求権に適用されるのか。

(A)
○ 新しい消滅時効期間は、改正法の施行期日(令和2年4月1日)以後に支払期日が到来する賃金の請求権に適用されます。


2.記録の保存期間の延長等関係

Q2-1 労基法第109 条の対象となる記録は具体的にどのようなものか。また、当該記録の保存期間は何年となるのか。

(A)
労基法第109 条の対象となる記録は、以下のとおりです。
①労働者名簿
②賃金台帳
③雇入れに関する書類
例:雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、履歴書、身元引受書等
④解雇に関する書類
例:解雇決定関係書類、解雇予告除外認定関係書類、予告手当または退職手当の領収書等
⑤災害補償に関する書類
例:診断書、補償の支払、領収関係書類等
⑥賃金に関する書類
例:賃金決定関係書類、昇給・減給関係書類等
⑦その他労働関係に関する重要な書類
例:出勤簿、タイムカード等の記録、労使協定の協定書、各種許認可書、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類(使用者自ら始業・終業時間を記録したもの、残業命令書及びその報告書並びに労働者が自ら労働時間を記録した報告書)、退職関係書類、休職・出向関係書類、事業内貯蓄金関係書類等
○ 改正法の施行日以後、上記の記録の保存期間は、現行の3年から5年に延長されます。ただし、経過措置として、当分の間は3年が適用されます。



Q2-2 労基法第109 条に規定する記録以外で、保存期間が延長されるものは何か。

(A)
○ 今般の改正では、Q2-1の記録に加え、労基則等に規定にされる以下の記録の保存期間についても、改正法の施行日以後、現行の3年から5年に延長されます。ただし、経過措置として、当分の間は3年が適用されます。

⑧時間外・休日労働協定における健康福祉確保措置の実施状況に関する記録(労基則第17 条第2項)
⑨専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の2第3項第2号)
⑩企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の3第3項第2号)
⑪企画業務型裁量労働制等に係る労使委員会の議事録(労基則第24 条の2の4第2項)
年次有給休暇管理簿(労基則第24 条の7)
高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(労基則第34 条の2第15 項第4号)
高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(労基則第34 条の2の3)
⑮労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第2条)
⑯労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第4条)


Q2-3 記録の保存期間の起算日の明確化の具体的な内容はどのようなものか。また、保存期間の起算日の明確化の対象となる記録は何か。

(A)
○ 改正前の労基則では、記録の保存期間の起算日について、当該記録の完結の日等であることが規定されています。
○ 改正省令では、記録の保存期間の起算日について、当該記録に係る賃金の支払期日が当該記録の完結の日等より遅い場合には、当該支払期日が起算日となることが明確化されます。
○ また、当該明確化の対象となる記録は、Q2-1及びQ2-2で掲げた記録のうち、以下のものとなります。

②賃金台帳
⑥賃金に関する書類
⑦その他労働関係に関する重要な書類
⑨専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の2第3項第2号)のうち労働時間の状況に関する記録
⑩企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の3第3項第2号)のうち労働時間の状況に関する記録
⑪企画業務型裁量労働制等に係る労使委員会の議事録(労基則第24 条の2の4第2項)
年次有給休暇管理簿(労基則第24 条の7)
高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(労基則第34 条の2第15 項第4号)のうち、同意及びその撤回、使用者との間の合意に基づき定められた職務の内容、労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額、健康管理時間の状況、休日確保措置の実施状況並びに選択的措置の実施状況に関する対象労働者ごとの記録
高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(労基則第34 条の2の3)
⑮労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第2条)
⑯労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第4条)

○ 例えば、事業主が就業規則等において、賃金計算期間を当月1日~末日、賃金支払期日を翌月10 日と定めているケースにおいては、タイムカード等、賃金計算に係る記録の保存期間は、翌月10 日から起算して3年の保存が必要となりますので、留意する必要があります。
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○ なお、改正省令の施行日は令和2年4月1日ですが、同年3月31 日以前にタイムカードが完結する等のケースについても、それに係る賃金支払期日
が改正省令の施行日以後である場合においては、当該賃金支払期日から起算して3年の記録保存が必要と考えられます。

3.付加金の請求期間の延長関係

Q3-1 付加金制度の対象となる違反とは何か。

(A)
○ 付加金制度の対象となるのは、以下の規定に係る違反です。
解雇予告手当労基法第20 条第1項)
②休業手当(労基法第26 条)
③割増賃金(労基法第37 条)
年次有給休暇中の賃金(労基法第39 条第9項)


Q3-2 改正法の施行日以後、労基法第114 条に規定する付加金の請求期間は
何年となるのか。

(A)
○ 改正法の施行日以後、付加金の請求期間は、現行の2年から5年に延長されます。ただし、経過措置として、当分の間は3年が適用されます。


Q3-3 今般の改正による新たな付加金の請求期間の適用について、改正法の施行日以後に違反があった時に該当するかは、具体的にどのように判断するのか。

(A)
○ 付加金の請求は、労基法第114 条に規定する「違反があった時」から2年以内にしなければならないこととされていますが、当該「違反があった時」は、Q3-1に掲げる①~④の手当等について、就業規則等で定められた支払期日に支払がなされなかった時を意味します。
○ したがって、改正法の施行日以後に違反があった時に該当するかは、当該支払期日に支払がなされなかったことが改正法の施行日以後か否かで判断することとなります。

4.その他

Q4-1 今般の改正による新たな賃金請求権の消滅時効期間や付加金の請求期間は、賃金支払期日や労基法第114 条に規定する「違反があった時」が
施行日前であった場合には適用されないのか。

(A)
○ 今般の改正による新たな賃金請求権の消滅時効期間や付加金の請求期間は、賃金支払期日や労基法第114 条に規定する「違反があった時」が施行日
前であった場合には適用されません。(これらを改正法の施行日以後に請求する場合であっても、改正前の消滅時効期間等が適用されることになります。)
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Q4-2 賃金関連記録の電子データ化を実施するに当たり、活用できる支援策はないか。

(A)
○ 「働き方改革推進支援助成金」は、生産性を高めながら労働時間の短縮や年次有給休暇の環境整備に向けて、上記労務管理用機器の導入や、外部専門家のコンサルティング等の取組みの一部を助成するものです。
○ 賃金関係記録の電子データ化や記録保存に向けて、労務管理用ソフトウェアや労務管理用機器等の導入や更新を行う場合には、本助成金の活用が可能です。
助成金の活用に当たって、ご不明な点やご質問がございましたら、企業の所在地を管轄する都道府県労働局雇用環境・均等部室にお問い合わせください。

(参考)労働時間短縮・年休促進支援コース
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html


(参考1)改正法による改正後の労働基準法
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

(付加金の支払)
第百十四条 裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は第三十九条第九項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から五年以内にしなければならない。

(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の
請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

附 則
第百四十三条 第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
② 第百十四条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「五年」とあるのは、「三年」とする。
③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求
権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

(参考2)改正法(労働基準法の一部を改正する法律)抄
附 則
(付加金の支払及び時効に関する経過措置)
第二条 この法律による改正後の労働基準法(以下この条において「新法」という。)第百十四条及び第百四十三条第二項の規定は、この法律の施行の日
(以下この条において「施行日」という。)以後に新法第百十四条に規定する違反がある場合における付加金の支払に係る請求について適用し、施行日前にこの法律による改正前の労働基準法第百十四条に規定する違反があった場合における付加金の支払に係る請求については、なお従前の例による。
2 新法第百十五条及び第百四十三条第三項の規定は、施行日以後に支払期日が到来する労働基準法の規定による賃金(退職手当を除く。以下この項において同じ。)の請求権の時効について適用し、施行日前に支払期日が到来した同法の規定による賃金の請求権の時効については、なお従前の例による。

(参考3)改正省令による改正後の労働基準法施行規則 抄
第五十六条 法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日
二 賃金台帳については、最後の記入をした日
三 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日
四 災害補償に関する書類については、災害補償を終わつた日
五 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日
② 前項の規定にかかわらず、賃金台帳又は賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存すべき期間の計算については、当該記録に係る賃金の支払期日が同項第二号又は第五号に掲げる日より遅い場合には、当該支払期日を起算日とする。
③ 前項の規定は、第二十四条の二の二第三項第二号イ及び第二十四条の二の三第三項第二号イに規定する労働者の労働時間の状況に関する労働者ごとの記録、第二十四条の二の四第二項(第三十四条の二の三において準用する場合を含む。)に規定する議事録、年次有給休暇管理簿並びに第三十四条の二第十五項第四号イからヘまでに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録について準用する。

(参考4)改正省令による改正後の労働時間等の設定の改善に関する法律施行
規則 抄
(労働時間等設定改善委員会の議事録の作成及び保存)
第二条 法第七条第二号の規定による議事録の作成及び保存については、事業主は、同条に規定する労働時間等設定改善委員会の開催の都度その議事録を作成して、これをその開催の日(当該委員会の決議が行われた会議の議事録にあっては、当該決議に係る書面の完結の日(労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)第五十六条第一項第五号に定める完結の日をいう。)(当該決議に係る賃金の支払期日が当該完結の日より遅い場合には、当該支払期日))から起算して五年間保存しなければならない。

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