社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】福原学園(九州女子短期大学)事件(最一小判平28.12.1労判1156号5頁)

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福原学園九州女子短期大学)事件(最一小判平28.12.1労判1156号5頁)

参照法条  : 労働契約法6条、労働契約法18条
裁判年月日 : 2016年12月1日
裁判所名  : 最高裁第一小法廷
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成27年(受)589号

1.事件の概要

Xは、学校法人Yとの間で有期労働契約(以下、本件労働契約)を締結し、Yの運営するA短期大学の教員として勤務していた。学校法人Yは、労働契約開始後1年でXを雇止めとした。
これに対して、Xは、Y社に、労働契約上の地位の確認等を求めて提訴した。係争中に、学校法人Yは、更新限度期間が3年とされていることを理由に予備的雇止め(以下、本件雇止め)を行った。
第一審は、当初の雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないとしXの請求を認容した。第二審は、採用当初の3年の契約期間に対する学校法人Yの認識や契約職員の更新の実態等に照らせば、上記3年は試用期間であり、特段の事情のない限り、無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるものというべきであるとし、本件労働契約は無期労働契約に移行したものと認めるのが相当であるとしてXの請求を認容したため、学校法人Yが上告したのが本件である。

労働契約の期間:平成23年4月1日から平成24年3月31日
当初雇止め:平成24年3月31日で終了(平成24年3月19日通知)
本件雇止め:平成26年3月31日で終了(平成26年1月22日通知)
就業規則の規定
・契約職員とは、一事業年度内で雇用期間を定め、学校法人Yの就業規則28条に定める労働時間で雇用される者のうち、別に定めるところによる契約書により労働契約の期間を定めて雇用される者をいう。
・契約職員の雇用期間は、当該事業年度の範囲内とする。雇用期間は、契約職員が希望し、かつ、当該雇用期間を更新することが必要と認められる場合は、3年を限度に更新することがある。この場合において、契約職員は在職中の勤務成績が良好であることを要するものとする。
・契約職員(助手及び幼稚園教諭を除く。)のうち、勤務成績を考慮し、学校法人Yがその者の任用を必要と認め、かつ、当該者が希望した場合は、契約期間が満了するときに、期間の定めのない職種に異動することができるものとする。

2.判決の要旨

本件労働契約は、期間1年の有期労働契約として締結されたものであるところ、その内容となる本件規程には、契約期間の更新限度が3年であり、その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、これを希望する契約職員の勤務成績を考慮して学校法人Yが必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり、Xもこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる。
上記のような本件労働契約の定めに加え、Xが大学の教員として学校法人Yに雇用された者であり、大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや、学校法人Yの運営する三つの大学において、3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたことに照らせば、本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは、Xの勤務成績を考慮して行う学校法人Yの判断に委ねられているものというべきであり、本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない。そして、平成24年3月31日に当初の雇止めをしたことは、学校法人Yが本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかである。
また、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について定める労働契約法18条の要件をXが満たしていないことも明らかであり、他に、本件事実関係の下において、本件労働契約が期間の定めのないものとなったと解すべき事情を見いだすことはできない。
以上によれば、本件労働契約は、平成26年4月1日から期間の定めのないものとなったとはいえず、同年3月31日をもって終了したというべきである。

3.櫻井龍子の補足意見

私は法廷意見に賛同するが、近年、有期労働契約の雇止めや無期労働契約への転換をめぐって、有期契約労働者の増加、有期労働契約濫用の規制を目的とした労働契約法の改正という情勢の変化を背景に種々議論が生じているところであるので、若干の補足意見を付記しておきたい。

① まず、本件は、法廷意見に述べるとおり、有期労働契約の更新及び無期労働契約への転換の可能性、その場合の判断基準等が、当事者間の個別契約の内容となる本件規程に明記され、一方、Xも契約締結の際、契約内容を明確に理解し、了解していたと思われ、雇止めの措置はその基準等に照らし特段不合理な点はなかったと判断できる事案であったといえる。
本件においては、無期労働契約を締結する前に3年を上限とする1年更新の有期労働契約期間を設けるという雇用形態が採られているところ、Xが講師として勤務していたのは大学の新設学科であり、同学科において学生獲得の将来見通しが必ずしも明確ではなかったとうかがわれることや、教員という仕事の性格上、その能力、資質等の判定にはある程度長期間が必要であることを考慮すると、このような雇用形態を採用することには一定の合理性が認められるが、どのような業種、業態、職種についても正社員採用の際にこのような雇用形態が合理性を有するといえるかについては、議論の余地のあるところではなかろうか。
この点は、我が国の法制が有期労働契約についていわゆる入口規制を行っていないこと、労働市場の柔軟性が一定範囲で必要であることが認識されていることを踏まえても、労働基準法14条や労働契約法18条の趣旨・目的等を考慮し、また有期契約労働者(とりわけ若年層)の増加が社会全体に及ぼしている種々の影響、それに対応する政策の方向性に照らしてみると、今後発生する紛争解決に当たって十分考慮されるべき問題ではないかと思われる。

② さらに、原審の判断についても一言触れておきたい。
原審の判断を、仮に、判例が積み重ねてきたいわゆる雇止め法理、あるいは労働契約法19条2号の判断枠組みを借用して判断したものととらえることができるとしても、雇止め法理は、有期労働契約の更新の場合に適用されるものとして形成、確立されてきたものであり、本件のような有期労働契約から無期労働契約への転換の場合を想定して確立されてきたものではないことに原審が十分留意して判断したのか疑問である。
すなわち、原審は無期労働契約に移行するとのXの期待に客観的合理性が認められる旨の判断をしているが、有期労働契約が引き続き更新されるであろうという期待と、無期労働契約に転換するであろうという期待とを同列に論ずることができないことは明らかであり、合理性の判断基準にはおのずから大きな差異があるべきといわなければならない。無期労働契約への転換は、いわば正社員採用の一種という性格を持つものであるから、本件のように有期労働契約が試用期間的に先行している場合にあっても、なお使用者側に一定範囲の裁量が留保されているものと解される。そのことを踏まえて期待の合理性の判断が行われなければならない。
もとより、このような場合の期待の合理性は、日立メディコ事件をはじめこれまでの裁判例に明らかなとおり、労働者の主観的期待を基準に考えるのではなく、客観的にみて法的保護に値する期待であるといえるか否かを、様々な事情を踏まえて総合的に判断すべきものであるということを念のため付け加えておきたい。
以上の考え方に照らすと、仮に原審の判断枠組みに沿って考えるとしても、本件は無期労働契約転換についての期待に客観的合理性があったと認めることができる事案とはいえず、雇止めは有効と判断すべきこととなろう。