社会保険労務士川口正倫のブログ

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高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)(令和3年2月26 日時点)

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高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)(令和3年2月26 日時点)

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000745472.pdf

1 高年齢者就業確保措置

(努力義務への対応として必要な内容)

① まずは67 歳までの継続雇用制度を導入するなど、高年齢者就業確保措置を段階的に講ずることは可能でしょうか。

⇒ 段階的に措置を講ずることも可能です。ただし、改正法で努力義務として求めているのは70 歳までの就業機会を確保する制度を講じることであるため、70 歳までの制度を導入することに努め続けていただくことが必要です。
なお、既に67 歳までの継続雇用制度を講じている場合についても同様です。

② 改正法は2021 年4月1日から施行ですが、その時点でいずれかの措置が取られていないと厚生労働大臣による指導の対象となるのでしょうか。あるいは、その時点から検討を始めれば指導の対象とはならないのでしょうか。

⇒ 高年齢者等職業安定対策基本方針において、厚生労働大臣の指導の考え方として、
⑴まずは、制度の内容を把握していない事業主や70 歳までの就業機会の確保について検討を開始していない事業主等に対して、制度の趣旨や内容の周知徹底を主眼とする啓発及び指導を行うこと、
⑵企業の労使間で合意され、実施又は計画されている高年齢者就業確保措置に関する好事例その他の情報の収集及びその効果的な提供に努めること、
⑶雇用時における業務と、内容及び働き方が同様の業務を創業支援等措置と称して行わせるなど、2020 年改正の趣旨に反する措置を講ずる事業主に対しては、措置の改善等のための指導等を行うこと
を記載しており、この考え方に基づいて指導等を行います。
改正法が施行される2021 年4月1日時点で、70 歳までの就業確保措置が講じられていることが望ましいですが、検討中や労使での協議中、検討開始といった状況も想定されます。労働局では、相談支援等を行っておりますので、ご活用いただきながら、措置の実施に向けた取り組みを進めてください。

③ 改正法においては、高年齢者就業確保措置は努力義務(「努めなければならない」)とされていますが、事業主が措置を講ずる努力(例えば、創業支援等措置について労使で協議はしているが、同意を得られていない場合)をしていれば、実際に措置を講じることができていなくても努力義務を満たしたこととなるのでしょうか。

⇒ 改正法では、高年齢者就業確保措置を講ずることによる70 歳までの就業機会の確保を努力義務としているため、措置を講じていない場合は努力義務を満たしていることにはなりません。また、創業支援等措置に関しては「過半数労働組合等の同意を得た措置を講ずること」を求めているため、過半数労働組合等の同意を得られていない創業支援等措置を講じる場合も、努力義務を満たしていることにはなりませんので、継続的に協議いただく必要があります。

④ 事業主が高年齢者就業確保措置を講じる場合において、就業条件など措置の内容に関して高年齢者と事業主の間で合意できず、高年齢者本人が措置を拒否した場合は努力義務を満たしていないことになるのですか。

⇒ 事業主が雇用の措置を講ずる場合、改正法で努力義務として求めているのは、希望する高年齢者が70 歳まで働ける制度の導入であって、事業主に対して個々の労働者の希望に合致した就業条件を提示することまでは求めていません。そのため、事業主が合理的な裁量の範囲での就業条件を提示していれば、労働者と事業主との間で就業条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が措置を拒否したとしても、努力義務を満たしていないものとはなりません。
また、事業主が創業支援等措置を講ずる場合、改正法第10 条の2第1項に基づき、創業支援等措置の内容等を記載した計画について過半数労働組合等の同意を得る必要があります。そのため、事業主が過半数労働組合等の同意を得たうえで、当該計画に示した内容通りの措置を講じていれば、個々の労働者と事業主の間で就業条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が措置を拒否したとしても、努力義務を満たしていないものとはなりません。
※ ③は、企業の人事制度を変更する段階において、過半数労働組合等の同意を得られない場合についてのものである一方、④は、人事制度変更後に就業条件等について個々の高年齢者が拒否した場合についてのものであり、異なる場面についての質問・回答になります。

65 歳以降70 歳までの就業確保措置を講じるにあたって、職種・雇用形態により、就業確保措置の内容を区別することはできますか。

改正法における5つの選択肢のうち、どの措置をどのような対象者に講じるかについては、労使間で十分に協議の上、個々の企業の実情に応じて定められることとされていますので、職種・雇用形態により就業確保措置の内容を区別することは可能です。なお、労使間の協議を踏まえて複数の措置を講ずる場合には、個々の高年齢者にいずれの措置を適用するかについて、個々の労働者の希望を聴取し、これを十分に尊重して決定するよう留意ください。

⑥ 65 歳以降70 歳までの就業確保措置を講じる際に、就業規則を変更する必要はあるのでしょうか。

⇒ 常時10 人以上の労働者を使用する使用者は、法定の事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないこととされており、また法定の事項について変更した場合についても同様とされています(労働基準法第89 条)。
定年の引き上げ、継続雇用制度の延長等の措置を講じる場合や、創業支援等措置に係る制度を社内で新たに設ける場合には、同条の「退職に関する事項(同条第3号)」等に該当するものとして、就業規則を作成、変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
なお、創業支援等措置を講じる場合には、就業規則の変更とは別に、創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。この計画については、ハローワークに届け出る必要はありません。

就業規則の記載例】

[例1] 定年を満70歳とする例
(定年等)
第49条 労働者の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

[例2] 定年を満65歳とし、その後希望者全員を継続雇用する例
(定年等)
第49条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2.前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満70歳までこれを継続雇用する。

[例3] 定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例(満65歳以降は対象者基準あり)

(定年等)
第49条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。
3 前項の規定に基づく継続雇用の満了後に、引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
(1)過去○年間の人事考課が○以上である者
(2)過去○年間の出勤率が○%以上である者
(3)過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者

[例4] 定年を満65歳とし、その後希望者の意向を踏まえて継続雇用または業務委託契約を締結する例(ともに対象者基準あり)
(定年等)
第49条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
(1)過去○年間の人事考課が○以上である者
(2)過去○年間の出勤率が○%以上である者
(3)過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者
3 第1項の規定にかかわらず、定年後に業務委託契約を締結することを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者のうち、次の各号に掲げる業務について、業務ごとに定める基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれと業務委託契約を継続的に締結する。なお、当該契約に基づく各業務内容等については、別途定める創業支援等措置の実施に関する計画に定めるところによるものとする。

(1)○○業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
ア 過去○年間の人事考課が○以上である者
イ 当該業務に必要な○○の資格を有している者
(2)△△業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
ア 過去○年間の人事考課が○以上である者
イ 定年前に当該業務に○年以上従事した経験及び当該業務を遂行する能力があ
るとして以下に該当する者
 ① ○○○○
 ② △△△△

【留意点】
ア 高年齢者就業確保措置を講じる際に制度の対象者を限定する場合、対象者基準の内容は、原則として労使に委ねられるものですが、事業主と過半数労働組合等との間で十分に協議した上で、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいです。ただし、労使間で十分に協議の上で定められたものであっても、事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反
するものは認められません。
イ 高年齢者就業確保措置のうち、70 歳まで継続的に業務委託契約又は社会貢献事業に従事できる契約を締結するにあたり、対象者基準を設ける場合は、当該者に事業主の指揮監督を受けることなく業務を適切に遂行する能力や資格、経験があること等、予定される業務に応じて具体的な基準を定めることが必要です。

⑦ 事業主が自社以外の会社や団体で高年齢者の就業を確保する場合(他社での継続雇用を行う場合やNPO法人で実施する社会貢献事業に高年齢者を従事させる場合等)において、解雇等により70 歳に達する前に高年齢者が就業を継続できなくなった場合、高年齢者が離職した後70 歳までの期間について、定年まで雇用した事業主が自社で再雇用等を行う必要があるのでしょうか。

⇒ 定年まで雇用した事業主が70 歳まで自社以外の会社や団体で働ける制度を定めている場合には、当該事業主は努力義務を満たしています。そのため、この場合において、就業先である自社以外の会社や団体からの解雇等により70 歳に達する前に就業を継続できなくなった高年齢者については、70 歳までの残りの期間について、定年まで雇用した事業主が改めて高年齢者就業確保措置を講じる必要はありません。


(高年齢者就業確保措置の対象者)

⑧ 当分の間、65 歳に達する労働者がいない場合でも、高年齢者就業確保措置を講じなければならないのでしょうか。

⇒ 高年齢者雇用確保措置と同様に、全ての企業に対して一律に適用される努力義務ですので、当分の間、65 歳以上の労働者が生じない企業も含めて、高年齢者就業確保措置を講じるよう努めることが必要です。


(高年齢者就業確保措置の実施者)

⑨ 定年まで雇用していた事業主に代わって特殊関係事業主や他の事業主が高年齢者就業確保措置を講ずる場合、どのような措置を講ずることが可能ですか。

⇒ 定年まで雇用していた事業主に代わり、特殊関係事業主や他の事業主が高年齢者就業確保措置を講ずる場合においても、高年齢者就業確保措置のどの措置を講じても構いません。ただし、改正法第10 条の2第1項に基づき、創業支援等措置は過半数労働組合等の同意を得た上で講ずることとされているため、ご指摘のような場合には、定年まで雇用していた事業主が、特殊関係事業主や他の事業主が講じる高年齢者就業確保措置について過半数労働組合等の同意を得た上で、当該措置の実施に関する計画を定年まで雇用していた事業主の従業員に周知する必要があります。


(運用・その他)

就業規則において、継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を解雇事由とは別に定めることはできますか。別に定めることが可能な場合、創業支援等措置については、どこで定めることができるのでしょうか。

⇒ 高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、「措置の対象者を限定する基準」として継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を解雇事由とは別に定めることは可能です。
継続雇用しない事由を定める場合は、常時10 人以上の労働者を雇用する事業主であれば、就業規則の記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなります。そのため、労働基準法第89 条に定めるところにより、就業規則に定める必要があります。
また、基準を設ける場合には過半数労働組合等の同意を得ることが望ましく、また、労使で協議の上設けた基準であっても、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものや公序良俗に反するものは認められません。
また、創業支援等措置における業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を定める場合には、省令第4条の5第2項第7号に定めるところにより、創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項である「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)」に盛り込む必要があります。(創業支援等措置の実施に関する計画は、事業主が雇用する労働者数にかかわらず、当該措置を講ずる全ての事業主が作成する必要があります。)

⑪ 事業主が、雇用する高年齢者に対して高年齢者就業確保措置を利用する希望があるかどうかを聴取するのは、65 歳の直前でなければならないのでしょうか。例えば、定年を60 歳に定める会社が65 歳まで特殊関係事業主で継続雇用を行い、65 歳から70 歳までNPO 法人で創業支援等措置を行う場合において、高年齢者の希望を聴取すべきタイミングはいつですか。

⇒ 改正法第10 条の2第1項では、「その雇用する高年齢者が希望するときは」とあるため、事業主は雇用している高年齢者が65 歳を迎えるまでに希望を聴取する必要がありますが、タイミングについては65 歳の直前でなくても構いません。
また、ご指摘の場合については、定年まで雇用した事業主が、60 歳定年前に高年齢者の希望を聴取していれば、法律上の努力義務としては特殊関係事業主で雇用された後においても希望を聴取することまでは求めていません。
ただし、改正法の趣旨を踏まえれば、可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識・経験・能力等に応じた業務内容及び就業条件とすることが必要であるため、特殊関係事業主に雇用された後に改めて高年齢者の希望を聴取し、適切な措置を講ずることが望ましいです。

⑫ 指針において、賃金・人事処遇制度について、「支払われる金銭については、制度を利用する高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、業務内容に応じた適切なものとなるよう努めること」、「職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲及び能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること」とありますが、70 歳までの就業機会を確保する上で、具体的にどのような点に留意したらよいのでしょうか。

⇒ 70 歳までの就業確保においては、労働者の希望に合致した労働条件までは求められていませんが、法の趣旨を踏まえた合理的な裁量の範囲内のものであることが必要と考えられます。
雇用の選択肢(定年の引き上げ・廃止、継続雇用制度)により70 歳までの就業確保を行う場合には、最低賃金や短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76 号)に基づく雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保など、労働関係法令の範囲内で賃金等を定める必要があります。
雇用によらない選択肢(創業支援等措置)により70 歳までの就業確保を行う場合には、創業支援等措置の実施に関する計画に「高年齢者に支払う金銭に関する事項」を定めた上で、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。また、「高年齢者に支払う金銭に関する事項」については、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとなるよう留意する必要があります。

(参考1)創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項
①高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
②高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
③高年齢者に支払う金銭に関する事項
④契約を締結する頻度に関する事項
⑤契約に係る納品に関する事項
⑥契約の変更に関する事項
⑦契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)
⑧諸経費の取扱いに関する事項
⑨安全及び衛生に関する事項
⑩災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑪社会貢献事業を実施する法人その他の団体に関する事項
⑫創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

(参考2)高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(抜粋)

第2 高年齢者就業確保措置の実施及び運用

3 創業支援等措置
⑵ 過半数労働組合等の合意に係る留意事項
ロ 実施計画に記載する事項については、次に掲げる点に留意すること。
② 高年齢者に支払う金銭については、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとすること。
また、支払期日や支払方法についても記載し、不当な減額や支払を遅延しないこと。

4 賃金・人事処遇制度の見直し
⑵ 高年齢者就業確保措置において支払われる金銭については、制度を利用する高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し業務内容に応じた適切なものとなるよう努めること。
⑸ 職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲及び能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること。


2.対象者基準

⑬ 対象者を限定する基準とはどのようなものなのですか。

⇒ 対象者を限定する基準の策定に当たっては、過半数労働組合等と事業主との間で十分に協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しており、その内容については、原則として労使に委ねられるものです。
ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に特定の高年齢者を措置の対象から除外しようとするなど高年齢者雇用安定法の趣旨や、他の労働関連法令に反する又は公序良俗に反するものは認められません。

【適切ではないと考えられる例】
『会社が必要と認めた者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)
『上司の推薦がある者に限る』(基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある)
『男性(女性)に限る』(男女差別に該当)
『組合活動に従事していない者』(不当労働行為に該当)

なお、対象者を限定する基準については、以下の点に留意して策定されたものが望ましいと考えられます。

ア 意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性)
労働者自ら基準に適合するか否かを一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して能力開発等を促すことができるような具体性を有するものであること。
イ 必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性)
企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。

3.65 歳以上継続雇用制度の導入

⑭ 65 歳以上継続雇用制度として、再雇用する制度を導入する場合、実際に再雇用する日について、定年退職日から1日の空白があってもいけないのでしょうか。

⇒ 改正法第10 条の2第1項では、「定年後又は継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後も引き続いて雇用する制度」を65 歳以上継続雇用制度と定義していますが、雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日又は継続雇用の終了日の翌日から雇用する制度となっていないことをもって、直ちに不適切であるとまではいえないと考えており、定年退職日から数日程度空白がある場合でも「65 歳以上継続雇用制度」として取り扱うことは差し支えありません。
ただし、定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、「65 歳以上継続雇用制度」といえない場合もあります。

⑮ 65 歳以上継続雇用制度による継続雇用先として認められる他の企業とはどのような企業ですか。例えば派遣会社も認められるのですか。

⇒ 改正法の趣旨が「希望する高年齢者が70 歳まで働ける環境の整備」であることを踏まえれば、いわゆる常用型派遣(労働者派遣事業者が常時雇用される労働者の中から労働者派遣を行うこと)のように、雇用が確保されているものは65 歳以上継続雇用制度認められますが、いわゆる登録型派遣(派遣労働を希望する者をあらかじめ登録しておき、労働者派遣をするに際し、当該登録されている者と期間の定めのある労
働契約を締結し、有期雇用派遣労働者として労働者派遣を行うこと)のように、高年齢者の継続的な雇用機会が確保されていると言えない場合には、65 歳以上継続雇用制度としては認められません。
したがって、65 歳以上継続雇用制度による継続雇用先としては、派遣会社であっても認められる場合があります。

⑯ 特殊関係事業主以外の他の事業主で継続雇用を行う場合は、他の事業主との間でどのような契約を結べばよいのですか。

⇒ 他の事業主により継続雇用を行う場合には、元の事業主と他の事業主との間で「65歳以上継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後等に他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件とされており、他の事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の従業員を継続雇用することとなります。事業主間の契約を締結する方式は自由ですが、紛争防止の観点から、書面によるも
のとすることが望ましいと考えられます。書面による場合、例えば、以下のような契約書が考えられます。

※契約書の例

65 歳以上継続雇用制度による就業確保に関する契約書(例)
65 歳以上継続雇用制度による就業確保に関する契約書(例1).docx - Google ドライブ



4.創業支援等措置の導入

(創業支援等措置全体について)

⑰ 創業支援等措置の契約については、1度に5年間分の契約を締結するのではなく、例えば1年分の契約を複数回繰り返し締結することにより、高年齢者の継続的な就業を確保することも可能でしょうか。その場合、どのような契約であれば「継続的に」と認められるのでしょうか。

⇒ 創業支援等措置の契約期間については、省令第4条の5第2項第2号及び第4号に定めるところにより、創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項である「契約に基づいて高年齢者が従事する業務の内容」及び「契約を締結する頻度に関する事項」に盛り込む必要があります。
1回あたりの契約内容・頻度については、個々の高年齢者の希望を踏まえつつ、個々の業務の内容・難易度や業務量等を考慮し、できるだけ過大又は過小にならないよう適切な業務量や頻度による契約を締結することに留意しつつ労使で合意をしていただくこととなりますが、改正法の趣旨が「希望する高年齢者が70 歳まで働ける環境の整備」であることを踏まえれば、年齢のみを理由として70 歳未満で契約を結ばないような制度は適当ではないと考えられます。
したがって、「継続的に」契約を締結していると認められる条件は、
ア 70 歳を下回る上限年齢が設定されていないこと、
イ 70 歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、能力や健康状態など年齢以外を理由として契約を更新しないことは認められます。)
であると考えられますが、個別の事例に応じて具体的に判断されることとなります。

⑱ 指針において、「雇用時における業務と、内容及び働き方が同様の業務を創業支援等措置と称して行わせることは、法の趣旨に反する」と記載されていますが、業務内容が雇用時と同様であることだけをもって、創業支援等措置として不適切と判断されるのでしょうか。

⇒ 業務内容が雇用時と同様であることだけをもって、創業支援等措置として法律の趣旨に反するものとはなりません。ただし、業務内容が雇用時と同様で、かつ、働き方(勤務時間・頻度、責任の程度等)も雇用時と同様である場合には、雇用の選択肢(定年の引き上げ・廃止、継続雇用制度)により70 歳までの就業確保を行うべきであり、雇用によらない選択肢(創業支援等措置)として行うことは法律の趣旨に反することとなります。

⑲ シルバー人材センターや社会貢献事業をあっせんする団体に高年齢者を登録することは、なぜ高年齢者就業確保措置として認められないのですか。

⇒ 創業支援等措置は、70 歳まで継続的に高年齢者が就業できるよう、業務内容や高年齢者に支払う金銭等を含めた事項について計画を作成し、過半数労働組合等の同意を得て導入する必要があります。
他方、シルバー人材センターやボランティア活動とのマッチングを行うボランティアセンター等への登録については、それをもって高年齢者の就業先が定まるものではないため、業務内容や支払われる金銭等、計画に記載すべき事項が確定できません。したがって、創業支援等措置の導入に必要な手続を履行することができないことから、高年齢者就業確保措置とは認められません。


業務委託契約について)

⑳ 継続的な業務委託とは、どの程度の頻度・分量を目安とすればよいですか。例えば月数回程度、年数回程度など、定期的に業務を委託する計画内容・契約内容であり、労使間の合意があれば認められますか。

業務委託契約等の頻度については、創業支援等措置の実施に関する計画に記載し、当該計画について労使合意を得る必要がありますが、業務委託等の頻度は労使間で十分に協議の上で、労使双方とも納得の上で定められたものであれば差しつかえありません。具体的な規定の方法としては、例えば創業支援等措置を利用して就業する高年齢者全体に対して企業として発注を行う頻度の総量を定めるほか、個々の高年
齢者に対して個別の発注を行う頻度を定める方法が考えられます。また、個々の高年齢者との契約に際しては、その希望を踏まえつつ、個々の業務内容・難易度や業務量等を考慮し、できるだけ過大又は過小にならないよう留意した上で、計画で定められた頻度から妥当な範囲で個々の高年齢者との契約の頻度が定められたものであれば差しつかえありません。

㉑ 創業支援等措置における業務委託については、グループ会社の業務を高年齢者に再委託することも認められますか。

⇒ 業務委託を実施する場合については、改正法第10 条の2第2項第1号において、事業主が高年齢者との間で、委託契約その他の契約を締結し当該契約に基づき、就業を確保することとしています。
このため、当該高年齢者を定年まで雇用していた事業主が業務委託等の契約の当事者となる必要があります。当該事業主がグループ会社を含めた他社から受注した業務の契約当事者であり、当該業務を高年齢者に再委託する場合であれば認められます。

㉒ 指針において、「成果物の受領に際しては、不当な修正、やり直しの要求又は受領拒否を行わないこと」と記載されているが、合理的な理由がある正当な修正、やり直しを求めることはできますか。

⇒ 高年齢者との契約で定められた成果物の基準に満たない場合に、当該基準を満たすための修正、やり直しを求めるなど、合理的な理由がある正当な修正、やり直しを求めることは可能です。

㉓ 創業支援等措置による働き方が、家内労働法に該当する働き方である場合、創業支援等措置についての手続きや留意事項と家内労働法の規定のいずれに従って実施すればよいですか。

⇒ 家内労働法は家内労働者の労働条件の最低基準を定めるものである一方、創業支援等措置に関する手続きや留意事項は、定年まで雇用されていた高年齢者に対する事業主による就業機会の確保について、事業主が講ずる措置の内容について示しているものです。創業支援等措置による働き方が、家内労働法に該当する働き方である場合には、創業支援等措置についての手続きや留意事項と家内労働法の規定のいずれも遵守して、働き方を定める必要があります。


(社会貢献事業について)

:㉔ 創業支援等措置における社会貢献事業としてどのようなものが考えられますか。

⇒ 社会貢献事業は不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことであり、該当するか否かについては、各企業において事業の性質や内容等を勘案して個別に判断いただくことになります。
その上で、社会貢献事業や当該事業における高年齢者の参画イメージとして考えられるものは、例えば
○ メーカーが自社商品を題材にした小学校への出前授業を行う事業において、定年等退職者が企画立案を行ったり、出張授業の講師を有償ボランティアとして務める
○ 希望する定年等退職者が会員となることができるNPO法人に、里山の維持・運営に関する事業を委託し、定年等退職者がそれらの事業に関する業務(植樹、ビジターセンターでのガイド等)に有償ボランティアとして携わる
といったものが想定されます。

㉕ 事業主が創業支援等措置として、他の事業主や団体が実施する社会貢献事業により高年齢者の就業機会を確保する場合、事業主は当該団体との間で、どのような契約を結ぶ必要がありますか。

⇒ 事業主が他の事業主や団体等が実施する社会貢献事業により、高年齢者の就業機会を確保する場合には、事業主と社会貢献事業を実施する事業主等との間で、「社会貢献事業を実施する事業主等が高年齢者に対して社会貢献事業に従事する機会を提供することを約する契約」を締結する必要があります。(指針第2の3⑴イ参考)契約を締結する方式は自由ですが、紛争防止の観点から、書面によるものとすることが望ましいと考えられます。書面による場合、例えば、以下のような契約書が考えられます。

創業支援等措置による就業確保に関する契約書(例)
創業支援等措置による就業確保に関する契約書(例).docx - Google ドライブ

㉖ 「事業主が委託・出資等する団体」が行う社会貢献事業に高年齢者が従事する場合、支払われる金銭や労働者性の判断基準について、団体はどのような点に留意すればよいのでしょうか。

⇒ ボランティア活動は、一般的には「自発的な意志に基づき他人や社会に貢献する行為」とされており、社会貢献事業の一つとして想定される有償ボランティアは、そのボランティア活動に対し、団体から交通費などの実費や謝金の支払を受けるものです。
ボランティア活動によって団体が高年齢者に支払う金銭については、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとすることが必要であり、高年齢者の就業の実態や生活の安定等に留意する必要があります。具体的な金銭の額については、計画作成時に過半数労働組合等の同意を得て定めることになります。
労働者性については、個別の事案ごとに次の判断基準に基づき、活動実態を総合的に勘案して判断することになります。その結果、団体と高年齢者との間の使用従属性が認められるなど、労働者性がある働き方である場合、創業支援等措置ではなく、雇用による措置として就業確保措置を行っていただく必要があります。

【労働者性の判断基準】
1・2を総合的に勘案することで、個別具体的に判断する。
1 使用従属性
(1) 指揮監督下の労働であるかどうか
 イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
 ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
 ハ 拘束性の有無
 ニ 代替性の有無
(2)報酬の労務対称性

2 労働者性の判断を補強する要素があるかどうか
(1) 事業者性の有無
 イ 機械、器具の負担関係
 ロ 報酬の額
(2)専属性の程度
(3)その他
社会貢献活動の設計に際しては、ボランティア活動が自発的な意志に基づく活動であるという趣旨に鑑みて、例えば、契約で定められた範囲のボランティア活動を具体的にいつ行うか等について、高年齢者に参加の諾否の自由がある等、労働者性が認められない方法で規定する必要があります。

㉗ 「事業主が委託、出資(資金提供)等する団体」について、事業主が雇用している社員の一定数が当該団体に加入し、会費を納めている場合は、事業主が出資等をしているといえますか。また、設立時のみ、設立に要する資金の援助を行った場合、出資等をしているといえますか。

⇒ 出資・委託等を行うのは高年齢者を定年まで雇用していた事業主である必要がありますので、個々の社員が会費を支払っている場合は対象とはなりません。事業主が直接的に会費を支払っている場合は出資等に含まれますが、その際には、当該会費が、社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金として充当されていることが求められます。
また、当該事業主による設立時のみの資金等の援助については、事業の運営に対する出資(寄付等を含む)や事務スペース又はデスク等の事務備品の提供が就業確保措置に係る社会貢献事業の円滑な実施の基礎になっていると当事者間で認識している場合は、出資等に含まれます。

5 創業支援等措置の労使合意

㉘ 事業主が創業支援等措置を講じる場合の労使合意は、事業場単位で得なければならないのですか。

過半数労働組合等との同意は、基本的には、事業所単位で行われることを想定しています。
ただし、
○ 企業単位で創業支援等措置を運用している
○ 各事業所の過半数労働組合等のすべてが内容に同意している(又は、すべてが労使協定の労側当事者として加わっている等)
場合まで、企業単位で労使協定を結ぶことを排除する趣旨ではありません。

㉙ 創業支援等措置の実施計画において、12 項目が列挙されていますが、労使合意していれば12 項目すべてを定めなくても良いのでしょうか。

⇒ 創業支援等措置について過半数労働組合等の同意を得る際には、原則として、実施計画に全ての記載事項を記載していただく必要があります。
ただし、下記⑪の事項は、業務委託契約を締結する措置を講ずる場合および自社が実施する社会貢献事業に従事する措置を講ずる場合には、記載する必要はありません。また、⑫の事項は、措置の対象者全員に適用される定めをしない場合には、記載する必要はありません。

(参考)創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項
 ➀高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
 ②高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
 ③高年齢者に支払う金銭に関する事項
 ④契約を締結する頻度に関する事項
 ⑤契約に係る納品に関する事項
 ⑥契約の変更に関する事項
 ⑦契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)
 ⑧諸経費の取扱いに関する事項
 ⑨安全及び衛生に関する事項
 ⑩災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
 ⑪社会貢献事業を実施する法人その他の団体に関する事項
 ⑫創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

㉚ 創業支援等措置の実施計画の中に、安全衛生等、災害等に関する項目がありますが、創業支援等措置において、具体的にはどのようなことを想定しているのでしょうか。

⇒ 同種の業務に労働者が従事する場合おける労働契約法に規定する安全配慮義務を初めとする労働関係法令による保護の内容も勘案しつつ、創業支援等措置を講ずる事業主において、委託業務の内容・性格等に応じた適切な配慮を行うことが想定されます。

業務委託契約において、事前に定めた基準を満たす成果物が納品されない場合でも、契約は継続しないといけないのでしょうか。

⇒ 創業支援等措置の実施に関する計画においては、「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)」を記載することとされています。計画で定めた事由に該当する場合には、契約を継続しないことができます。

㉜ 創業支援等措置の実施に関する計画について、自社にいない労働者(出向している労働者や特殊関係事業主に継続雇用されている労働者など)にも周知する必要があるのでしょうか。

⇒ 省令に規定されている方法(※)によって周知を行い、自社にいない労働者も計画の内容を確認できる場合には、周知を行っていることとなります。
事業所への掲示等(下記一又は三)により周知を行う場合、自社にいない労働者がより計画を確認しやすいよう、事業所への掲示等に加えて、自社にいない労働者に書面を交付することが望ましいです。

(※)高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則(抜粋)
第4条の5第3項 事業主は法第十条の二第一項ただし書の同意を得た第一項の計画を、次に掲げるいずれかの方法によつて、各事業所の労働者に周知するものとする。
 一 常時当該事業所の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
 二 書面を労働者に交付すること。
  ※労働者には、出向者等の自社にいない労働者を含む
 三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、当該事業所に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

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