社会保険労務士川口正倫のブログ

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副業・兼業の促進に関するガイドライン(概要)令和2年9月改定

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副業・兼業の促進に関するガイドライン(概要)令和2年9月改定

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000665402.pdf

ガイドラインの目的

副業
・兼業を希望する者が年々増加傾向にある中、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について示す。

ガイドラインの構成

1.副業・兼業の現状

・副業・兼業を希望する者は、年々増加傾向にある。
・副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされている。
厚生労働省のモデル就業規則でも、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」とされている。

2.副業・兼業の促進の方向性

人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要。副業・兼業は、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もある。
・副業・兼業を希望する労働者については、その希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要である。
長時間労働にならないよう、以下の3~5に留意して行われることが必要である。

3.企業の対応

(1)基本的な考え方

・副業・兼業を進めるに当たっては、労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要である。
・使用者及び労働者は、①安全配慮義務、②秘密保持義務、③競業避止義務、④誠実義務に留意する必要がある。
就業規則において、原則として労働者は副業・兼業を行うことができること、例外的に上記①~④に支障がある場合には副業・兼業を禁止又は制限できることとしておくことが考えられる。

(2)労働時間管理

労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合には、労働基準法第38条第1項に基づき、以下により、労働時間を通算して管理することが必要である。


①労働時間の通算が必要となる場合
・労働者が事業主を異にする複数の事業場において「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合に、労働時間が通算される。
・事業主、委任、請負など労働時間規制が適用されない場合には、その時間は通算されない。
・法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)について、労働時間を通算して適用される。
・労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましい。

②副業・兼業の確認
・使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。
・使用者は、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。

③労働時間の通算
・副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者は、労働時間を通算して管理する必要がある。
・労働時間の通算は、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算することによって行う。
・副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分は後から契約した会社の時間外労働となる。
・副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と他社の所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となる。

④時間外労働の割増賃金の取扱い
・上記③の労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要がある。

⑤簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)
・上記③④のほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)によることができる。
・「管理モデル」では、副業・兼業の開始前に、A社(先契約)の法定外労働時間とB社(後契約)の労働時間について、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととする。
これにより、副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となる。
・「管理モデル」は、副業・兼業を行おうとする労働者に対してA社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者及び労働者を通じて使用者B(後契約)が応じることによって導入される。
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(3)健康管理

・使用者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等を実施しなければならない。
・使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、原則として他社との情報交換により、難しい場合には労働者からの申告により他社の労働時間を把握し、自社の労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当である。
・使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えること、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施することなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することが適当である。
・使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、実効ある健康確保措置を実施する観点から、他社との間で、労働の状況等の情報交換を行い、それに応じた健康確保措置の内容に関する協議を行うことが適当である。

4.労働者の対応

・労働者は、自社の副業・兼業に関するルールを確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要がある。
・労働者は、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、自ら業務量や進捗状況、時間や健康状態を管理する必要がある。
・他社の業務量、自らの健康の状況等について報告することは、企業による健康確保措置を実効あるものとする観点から有効である。

5.副業・兼業に関わるその他の制度

(1)労災保険の給付

・複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する。
・複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う。
・副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となる。

(2)雇用保険

・令和4年1月より、65歳以上の労働者本人の申出を起点として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始される。