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副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について(令2.9.1基発0901第3号)

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副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について(令2.9.1基発0901第3号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000673995.pdf


労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第38条第1項において「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定され、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む(昭和23年5月14日付け基発第769号)とされている。
今般、労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合における法第38条第1項の解釈及び運用について下記のとおり示すので、了知の上、取扱いに遺漏なきを期されたい。
なお、改定後の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日付け基発0901第4号別添も、併せて参照されたい。

第1 法第38条第1項の規定による労働時間の通算が必要となる場合

1 労働時間が通算される場合

労働者が、事業主を異にする複数の事業場において、「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合に、法第38条第1項の規定により、それらの複数の事業場における労働時間が通算されること。
なお、次のいずれかに該当する場合は、その時間は通算されないこと。
ア 法が適用されない場合
  例)フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等
イ 法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(法第41条及び第41条の2)
   農業・畜産業・養蚕業・水産業管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度

2 労働時間が通算して適用される規定

法定労働時間(法第32条・第40条)について、その適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間が通算されること。
時間外労働(法第36条)のうち、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(同条第6項第2号及び第3号)については、労働者個人の実労働時間に着目し、当該個人を使用する使用者を規制するものであり、その適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間が通算されること。
時間外労働の上限規制(法第36条第3項から第5項まで及び第6項(第2号及び第3号に係る部分に限る。))が適用除外(同条第11項)又は適用猶予(法第139条第2項、第140条第2項、第141条第4項又は第142条)される業務・事業についても、法定労働時間(法第32条・第40条)についてはその適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間が通算されること。

3 通算されない規定

時間外労働(法第36条)のうち、法第36条第1項の協定(以下「36協定」という。)により延長できる時間の限度時間(同条第4項)、36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(同条第5項)については、個々の事業場における36協定の内容を規制するものであり、それぞれの事業場における延長時間を定めることとなること。
また、36協定において定める延長時間が事業場ごとの時間で定められていることから、それぞれの事業場における時間外労働が36協定に定めた延長時間の範囲内であるか否かについては、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とは通算されないこと。
休憩(法第34条)、休日(法第35条)、年次有給休暇(法第39条)については、労働時間に関する規定ではなく、その適用において自らの事業場における労働時間及び他の使用者の事業場における労働時間は通算されないこと。

第2 副業・兼業の確認

使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認すること。
その方法としては、就業規則、労働契約等に副業・兼業に関する届出制を定め、既に雇い入れている労働者が新たに副業・兼業を開始する場合の届出や、新たに労働者を雇い入れる際の労働者からの副業・兼業についての届出に基づくこと等が考えられること。
使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましいこと。

第3 労働時間の通算

1 基本的事項

(1)労働時間を通算管理する使用者

副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者(第1の1において労働時間が通算されない場合として掲げられている業務等に係るものを除く。)は、法第38条第1項の規定により、それぞれ、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があること。

(2)通算される労働時間

法第38条第1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行うこと。
労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りること(第4の1において同じ。)。

(3)基礎となる労働時間制度

法第38条第1項の規定による労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間制度を基に、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間と通算することによって行うこと。
週の労働時間の起算日又は月の労働時間の起算日が、自らの事業場と他の使用者の事業場とで異なる場合についても、自らの事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した各期間における労働時間を通算すること。

(4)通算して時間外労働となる部分

自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となること。

2 副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)

自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間とを通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における36協定で定めるところによって行うこととなること。

3 副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)

2の所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となること。
各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とする必要があること。
各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む。)によって、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件(法第36条第6項第2号及び第3号)を遵守するよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要があること。

4 その他

労働者が事業主を異にする3以上の事業場で労働する場合についても、上記に示したところにより、副業・兼業の確認、副業・兼業開始前の所定労働時間の通算、副業・兼業開始後の所定外労働時間の通算を行うこと。


第4 時間外労働の割増賃金の取扱い

1 割増賃金の支払義務

各々の使用者は、自らの事業場における労働時間制度を基に、他の使用者の事業場における所定労働時間・所定外労働時間についての労働者からの申告等により、
・まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
・次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、
それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金(法第37条第1項)を支払う必要があること。

2 割増賃金率

時間外労働の割増賃金の率は、自らの事業場における就業規則等で定められた率(2割5分以上の率。ただし、所定外労働の発生順によって所定外労働時間を通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自ら労働させた時間については、5割以上の率。)となること(法第37条第1項)。


第5 簡便な労働時間管理の方法

1 趣旨

副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方については上記のとおりであるが、例えば、副業・兼業の日数が多い場合や、自らの事業場及び他の使用者の事業場の双方において所定外労働がある場合等においては、労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴うことが考えられる。
このため、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方について、上記によることのほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(以下「管理モデル」という。)として、以下の方法によることが考えられること。

2 管理モデルの枠組み

管理モデルは、副業・兼業の開始前に、当該副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(以下「使用者A」という。)の事業場における法定外労働時間と時間的に後から労働契約を締結した使用者(以下「使用者B」という。)の事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることとするものであること。また、使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととするものであること。
これにより、使用者A及び使用者Bは、副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく法を遵守することが可能となるものであること。

3 管理モデルの実施

(1)導入手順

管理モデルについては、一般的には、副業・兼業を行おうとする労働者に対して使用者Aが管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者及び労働者を通じて使用者Bがこれに応じることによって導入されることが想定されること。

(2)労働時間の上限の設定

使用者Aの事業場における1か月の法定外労働時間と使用者Bの事業場における1か月の労働時間とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定すること。
月の労働時間の起算日が、使用者Aの事業場と使用者Bの事業場とで異なる場合には、各々の使用者は、各々の事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した1か月における労働時間の上限をそれぞれ設定することとして差し支えないこと。

(3)時間外労働の割増賃金の取扱い

使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払うこと。
使用者Aが、法定外労働時間に加え、所定外労働時間についても割増賃金を支払うこととしている場合には、使用者Aは、自らの事業場における所定外労働時間の労働について割増賃金を支払うこととなること。
時間外労働の割増賃金の率は、自らの事業場における就業規則等で定められた率(2割5分以上の率。ただし、使用者Aの事業場における法定外労働時間の上限に使用者Bの事業場における労働時間を通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自らの事業場において労働させた時間については、5割以上の率。)とすること。

4 その他

(1)管理モデルの導入の際の労働時間の上限の設定において、使用者Aの事業場における1か月の法定外労働時間と使用者Bの事業場における1か月の労働時間とを合計した時間数を80時間を超えるものとした場合には、翌月以降において複数月平均80時間未満となるように労働時間の上限の設定を調整する必要が生じ得る。
このため、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、法に定める最低労働条件が遵守されやすくするという管理モデルの趣旨に鑑み、そのような労働時間を調整する必要が生じないように、各々の使用者と労働者との合意により労働時間の上限を設定することが望ましいこと。

(2)管理モデルの導入後に、使用者Aにおいて導入時に設定した労働時間の上限を変更する必要が生じた場合には、あらかじめ労働者を通じて使用者Bに通知し、必要に応じて使用者Bにおいて設定した労働時間の上限を変更し、これを変更することは可能であること。なお、変更を円滑に行うことができるよう、あらかじめ、変更があり得る旨を留保しておくことが望ましいこと。

(3)労働者が事業主を異にする3以上の事業場で労働する場合についても、使用者Aの事業場における法定外労働時間、使用者Bの事業場における労働時間、更に時間的に後から労働契約を締結した使用者C等の事業場における労働時間について、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させ、使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者B及び使用者C等は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払うことにより、管理モデルの導入が可能であること。

(4)管理モデルを導入した使用者が、あらかじめ設定した労働時間の範囲を逸脱して労働させたことによって、時間外労働の上限規制を超える等の法に抵触した状態が発生した場合には、当該逸脱して労働させた使用者が、労働時間通算に関する法違反を問われ得ることとなること。