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令和元年台風第15 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A

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令和元年台風第15 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A

令和元年台風15 号により被害を受けられた事業場においては、事業活動への影響が生じており、被災地以外に所在する事業場においても、鉄道や道路等の途絶から原材料、製品等の流通に支障が生じることも懸念されている状況にあります。
このため、賃金等の労働者の労働条件について使用者が守らなければならない事項等を定めた労働基準法の一般的な考え方などについてQ&Aを取りまとめることとしました。

なお、労働基準法上の義務については、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案すべきものですので、具体的な御相談など詳細については、お近くの労働局又は各労働基準監督署にお問い合わせください。

1.台風の影響に伴う休業に関する取扱いについて

質問1-1 
今回の被災により、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場合にどのようなことに心がければよいのでしょうか。

回答1-1
今回の被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切であるとともに、休業を余儀なくされた場合の支援策も活用し、労働者の保護を図るようお願いいたします。
支援策としては、災害時における雇用保険制度の特別措置
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134526_00001.html)や雇用調整助成金
https://www.mhlw.go.jp/content/000534926.pdf )があります。詳しくは、最寄りの都道府県労働局またはハローワークにお問い合わせください。

雇用保険の特別措置の内容
災害救助法の適用地域内に所在地を置く事業所が、災害により事業を休止・廃止したために、一時的に離職した方については、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、雇用保険の基本手当を受給できます。(※)
※受給要件(雇用保険の被保険者期間が6 か月以上など)を満たす方が対象となります。また、この特別措置を受けた方については、再度離職した際の雇用保険の基本手当の給付日数等に影響する場合があります。


質問1-2
従来、労働契約や労働協約就業規則、労使慣行に基づき、使用者の責に帰すべき休業のみならず、天災地変等の不可抗力による休業について休業中の時間についての賃金、手当等を支払うこととしている企業が、今般の台風に伴う休業について、休業中の時間についての賃金、手当等を支払わないとすることは、適法なのでしょうか。

回答1-2
労働契約や労働協約就業規則、労使慣行に基づき、使用者の責めに帰すべき休業や天変地変等の不可抗力による休業中に従来支払われてきた賃金、手当等を、今般の台風に伴う休業について支払わないとすることは、労働条件の不利益変更に該当します。
このため、労働者との合意など、労働契約や労働協約就業規則等のそれぞれについての適法な変更手続をとらずに、賃金、手当等の取扱いを変更する(支払わないこととする)ことはできません。
なお、企業側の都合で休業させた場合には、労働者に休業手当を支払う必要があります。これについて質問1-4・回答1-4及び質問1-5・回答1-5において、最低労働条件として労働基準法第26条に基づく休業手当に係る取扱いを示していますが、これは上記で述べている労働契約や労働協約就業規則、労使慣行に基づく賃金、手当等の取扱いを示したものではありませんので、ご留意ください。


質問1-3
今回の台風のために、休業しようと思います。この休業に伴い、休業についての手当を支払う場合、雇用調整助成金を受給することはできますか。実施した休業が労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するか否かでその扱いは異なるのですか。

回答1-3
雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化その他の「経済上の理由」により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を対象に休業等を実施したうえ、休業手当等の支払いを行うことにより、雇用の維持を図る事業主に対し、休業手当等の一部を助成するものです。
事故または災害により施設等が被害を受けたことは「経済上の理由」とはならず、雇用調整助成金の支給対象とはなりませんが、自然災害の長期化や復旧までに長時間を要する場合等には、交通手段の途絶等により原材料の入手、製品の出荷が困難であることや、事業所等が損壊し修理業者の手配や修理部品の調達が困難となったこと等を理由とし、事業活動の縮小が行われた場合は、「経済上の理由」に該当し雇用調整助成金の対象となる可能性がありますので、最寄りの労働局またはハローワークにお問い合わせください。
助成金は、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由による休業に該当するか否かによって、その扱いが異なることはありません。


質問1-4
今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。

回答1-4
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。なお、質問1-2・回答1-2 及び質問1-3・回答1-3 もご覧ください。


質問1-5
今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。

回答1-5
今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合には、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。ただし、休業について、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考え
られます。なお、質問1-2・回答1-2及び質問1-3・回答1-3もご覧ください。



2.派遣労働者の雇用管理について

質問2-1
派遣先の事業場が台風の影響で休業しましたが、派遣先事業主が直接雇用する労働者を休業させたことについては、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、同条に基づく休業手当の支払が不要とされました。このような場合、派遣元事業主と派遣労働者との関係においても、休業手当を支払う必要がないこととなるのでしょうか。

回答2-1
派遣中の労働者の休業手当について、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかどうかの判断は、派遣元の使用者についてなされます。派遣先の事業場が、天災事変等の不可抗力によって操業できないため、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で就業させることができない場合であっても、それが「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないとは必ずしもいえず、派遣元の使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかが判断されます。
なお、派遣先事業主が直接雇用する労働者に対する休業手当の支払の場合も含め、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるかどうかの考え方は、質問1-4・回答1-4 及び質問1-5・回答1-5をご覧ください。
また、今回の台風に伴う「経済上の理由」により事業活動の縮小を余儀なくされた派遣元事業主が、派遣労働者を休業させ、休業手当の支払いをする場合には、雇用調整助成金の対象となる場合がありますので、質問1-3・回答1-3をご覧いただくとともに、最寄りの労働局またはハローワークにご相談ください。

※派遣元の使用者は、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」に基づき、派遣先と連携して新たな就業機会の確保を行うことや、新たな就業機会の確保ができない場合でも、休業等を行い、派遣労働者の雇用の維持を図ることとされています。
「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」については、以下のURLをご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/hakenhourei.html


質問2-2
派遣先の被災等により、派遣先での業務ができなくなったことや、派遣先と派遣元の労働者派遣契約が中途解除されたことにより、派遣元が派遣労働者を即時に解雇することは許されるのでしょうか。

回答2-2
まず、「派遣元と派遣先との間の労働者派遣契約」と「派遣元と派遣労働者との間の労働契約」とは別であることに留意する必要があります。派遣元と派遣労働者との間の労働契約は、契約期間の定めのない労働契約である場合(無期労働契約)と契約期間の定めのある労働契約である場合(有期労働契約)があります。
有期労働契約の解雇については、労働契約法第17条第1項において、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定されていることを踏まえ、適切に対応されることが望まれます。
派遣元の使用者は、派遣先での業務ができなくなり、派遣先との間の労働者派遣契約が中途解除された場合でも、そのことが直ちに労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」に該当するものではないことに注意してください。
また、派遣元の使用者は、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」に基づき、派遣先と連携して新たな就業機会の確保を行うことや、新たな就業機会の確保ができない場合でも、休業等を行い、派遣労働者の雇用の維持を図ることとされています。

※「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」については、以下のURLをご覧ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/hakenhourei.html



3.労働基準法第24条(賃金の支払)について

質問3-1
今回の台風で、①事業場の倒壊、②資金繰りの悪化、③金融機関の機能停止等が生じた場合、労働基準法第24条の賃金の支払義務が免除されることはあるでしょうか。

回答3-1
労働基準法第24条においては、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています。
ご質問については、労働基準法には、天災事変などの理由による賃金支払義務の免除に関する規定はありません。


質問3-2
会社が台風等により損壊し、事業活動ができません。これまで働いた分の賃金を支払ってもらうことはできるのでしょうか。また、失業給付は受けることができるのでしょうか。

回答3-2
労働基準法第24条においては、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています。既に働いた分の賃金は、当然に支払われなければなりません。可能であれば、会社の経営者などに連絡をとり、支払を求めることをお勧めします。
なお、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金の支払の見込みがないなど、一定の要件を満たす場合には、国が事業主に代わって未払賃金を立替払する「未払賃金立替払制度」を利用することができます。詳しくは、最寄りの労働基準監督署にご相談ください。
また、失業給付が受けられる場合がありますので、失業給付の具体的な手続方法等については、お近くのハローワークにご相談ください。


質問3-3
被災地への義援金を社内で募る場合、募金額を各労働者から聞いて取りまとめ、賃金から控除することは問題ないでしょうか。

回答3-3
賃金からの控除については、労働基準法第24条においては、賃金の全額を直接労働者に支払うことが原則とされていますが、その例外として、

- ①法令に別段の定めがある場合

  • ②事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定がある場合

に限り、賃金から一部の金額を控除することが認められています。
上記②の労使協定により控除できるのは、社宅や寮の費用など、労働者が当然に支払うべきことが明らかなものとされています。労働者が自主的に募金に応じる場合は、一般的にはその労働者が当然に支払うべきことが明らかなものと考えられるため、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定を締結し、その労働者の賃金から募金額を控除することは可能です。
なお、②の労使協定があったとしても、募金に応じる意思がない労働者の賃金から義援金として一律に控除することは認められず、労働基準法違反となりますので注意が必要です。



4.労働基準法第25条(非常時払)について

質問4-1
労働基準法第25条の「災害」には、今回の台風による災害も含まれるでしょうか。

回答4-1
労働基準法第25条では、労働者が、出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合は、賃金支払期日前であっても、使用者は、既に行われた労働に対する賃金を支払わなければならないと定められています。
ここでいう「疾病」、「災害」には、業務上の疾病や負傷のみならず、業務外のいわゆる私傷病に加えて、洪水等の自然災害の場合も含まれると解されています。
このため、労働基準法第25条の「災害」には今回の台風による災害も含まれると考えられます。


質問4-2
労働者又はその家族が被災し、又は居住地区が避難地域に指定される等により、住居の変更を余儀なくされる場合の費用は、労働基準法第25条の「非常の場合の費用」に該当するでしょうか。

回答4-2
ご質問にあるような費用は、災害によるものとして、労働基準法第2
条の「非常の場合の費用」に該当すると考えられます。



5.労働基準法第32条の4(1年単位の変形労働時間制)について

質問5-1
今回の台風による水害等により、事業場又は関連事業場が被害を受け、当初の予定どおり1年単位の変形労働時間制を実施できなくなった場合、労使協定を労使で合意解約し、締結し直すことは可能でしょうか。また、1年単位の変形労働時間制を採用している事業場において休日の振替はどのような場合に認められるのでしょうか。

回答5-1
労働基準法第32条の4においては、労使協定において、1年以内の変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、1週に1回の休日が確保される等の条件を満たした上で、労働日及び労働時間を具体的に特定した場合、特定の週及び日に1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて労働させることができるとされています。
今回の台風による水害等により、事業場又は関連事業場が被害を受け、1年単位の変形労働時間制を採用している事業場において、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが困難となる場合が想定されます。1年単位の変形労働時間制は、対象期間中の業務の繁閑に計画的に対応するために対象期間を単位として適用されるものであるので、労使の合意によって対象期間の途中でその適用を中止することはできないと解されています。しかしながら、今回の台風による被害は相当程度に及んでおり、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが企業の経営上著しく不適当と認められる場合には、労使でよく話し合
った上で、1年単位の変形労働時間制の労使協定について、労使で合意解約をする、あるいは協定中の破棄条項に従って解約し、改めて協定し直すことも可能と考えられます。
ただし、この場合であっても、解約までの期間を平均し、1週40時間を超えて労働させた時間について割増賃金を支払うなど協定の解約が労働者にとって不利になることのないよう留意が必要です。
また、1 年単位の変形労働時間制を採用した場合において、労働日を特定した時点では予期しなかった事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行わなければならなくなることも考えられます。そのような場合の休日の振替は、以下のとおりとしていただくことが必要です。

- 就業規則に、休日を振り替えることができる旨の規定を設け、休日の振替の前にあらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えるものであること。

  • 対象期間のうち、特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間として労使協定で定める期間をいう。)以外の期間においては、連続労働日数が6 日以内となること。
  • 特定期間においては1 週間に1 日の休日が確保できる範囲内であること。

6.労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について

質問6-1
今回の台風により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が協力要請に基づき作業を行う場合に、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるときは、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

回答6-1
労働基準法第32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届けていただくことが必要です。
災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。
なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。
ご質問については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の台風による被害が相当程度のものであり、一般に早期のライフラインの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101104-1.pdf
なお、災害発生から相当程度の期間が経過し、臨時の必要がない場合に時間外・休日労働をさせるときは、36協定を締結し、届出をしていただくこととなります。



7 労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)について

質問7-1
台風直後には十分な企業活動ができなかったことを受けて、現在、業務量が増加し、36協定で定めた延長時間を超えることになりそうですが、どのように対応すればよいでしょうか。

回答7-1
労働基準法に定める労働時間の原則は、1日8時間、1週40時間とされていますが、労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出た場合は、協定で定める範囲内で1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて、労働させることも可能です。
36協定を締結し、届け出ている場合であっても、36協定で定める範囲を超える時間外労働をさせることはできないので、36協定で定める範囲外の時間外労働を可能とするには新たに36協定を締結し直し、届け出ることが必要です。ただし、36協定で延長できる労働時間については、労働基準法が定める上限を超えることができないこととされるとともに、36協定の内容は、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」に適合したものとするようにしなければならないとされています。(※1)
なお、中小企業は上限規制の適用が1年間猶予されていますが、36協定で延長できる労働時間の限度及び36協定の内容を「限度基準告示」に適合したものとするようにしなければなりません。(※2)

(※1)時間外労働の上限規制について
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
(※2)限度基準告示について
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-4.html

また、時間外・休日労働はあくまで必要の限度において認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101104-1.pdf



8 労働基準法第39条(年次有給休暇)について

質問8-1
今回の台風による影響を受けて、会社から年次有給休暇を取得するよう命じられました。どうすればよいのでしょうか。

回答8-1
労働基準法第39条第1項では、使用者は一定期間継続して勤務した労働者に対して、年次有給休暇を与えなければならないと定められています。
この年次有給休暇については、使用者は、労働者が請求する時季に与えなければならないと定められており(同条第5項本文)、使用者に命じられて取得するものではありません。
なお、労働基準法においては、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は他の時季に年次有給休暇を与えることができる(同項ただし書)こととされ、また、年次有給休暇のうち5日を超える分については、労使協定により計画的に与えることができる(同条第6項)とされています。ただし、これらは年次有給休暇について使用者が一方的に労働者にその取得を命じることができることを定めたものではありません。


質問8-2
今回の台風に伴う災害復旧の業務等のため、労働者から請求のあった日に、年次有給休暇を与えることが困難な場合にはどのようにすればよいでしょうか。

回答8-2
年次有給休暇については、使用者は、労働者が請求する時季に与えなければならないと定められています(労働基準法第39条第5項本文)。
ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は他の時期に年次有給休暇を与えることができると定められています(同項ただし書)。
したがって、今回の台風に伴う災害復旧の業務等への対応を行うに当たって、労働者が請求する時季に年次有給休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる状況にある場合には、他の時期に与えることができます。
事業の正常な運営を妨げる状況であるか否かについては、労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきであると考えられ、台風後の事業を取り巻く状況も踏まえて個別に判断されます。



9 その他

質問9-1
飲食店を経営していますが、台風により店舗の被災はなかったものの、来客数が激減し、売上げが大幅に下がっています。このため、従業員の賃金を引き下げようと考えていますが、問題はありますか。

回答9-1
労働契約や労働協約就業規則、労使慣行に基づき従来支払われていた賃金、手当等を引き下げることは、労働条件の不利益変更に該当します。
このため、労働者との合意など、賃金について定めている労働契約や労働協約就業規則等のそれぞれについての適法な変更ルールによらずに、賃金の引下げなどをすることはできません。
すなわち、賃金引下げなどの労働条件の変更は労働者と使用者の個別の合意があればできますが、就業規則の変更により賃金の引下げを行う場合には、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況等に照らして合理的であること、また、変更後の就業規則を労働者に周知させることが必要です(労働契約法第8条、第9条、第10条)。また、労働基準法では、就業規則の変更の際には、労働者の代表等の意見を聴くこととともに、労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条、第90条)。

(参考)労働契約法について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/keiyaku.html

なお、個別の事案につきましては、都道府県労働局及び各労働基準監督署内に設置されている総合労働相談コーナーにおいて、民事上の労働問題に関する相談・情報提供等を行っておりますので、必要に応じてご活用ください。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html


質問9-2
今回の台風の被害により労働者が出勤できなかった場合、出勤しなかった日の賃金の支払は必要でしょうか。

回答9-2
労働契約や労働協約就業規則等に労働者が出勤できなかった場合の賃金の支払について定めがある場合は、それに従う必要があります。
また、例えば、会社で有給の特別な休暇制度を設けている場合には、その制度を活用することなども考えられます。
このような定めがない場合でも、労働者の賃金の取扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労働者の不利益をできる限り回避するように努力することが大切です。


質問9-3
労働者の熱中症対策として事業者はどのようなことを行えばよいでしょうか。

回答9-3
作業中の熱中症を予防するため、暑さや作業に応じた十分な休憩の確保、作業者の体調のきめ細かな確認、水分と塩分の摂取などを徹底してください。
また、熱中症の症状が現れた場合には、涼しい場所で体を冷やし、水分と塩分を摂取させます。症状が軽くない場合には速やかに医師の診察を受けさせてください。

(参考)STOP!熱中症クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116133.html