社会保険労務士川口正倫のブログ

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【懲戒解雇】社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地判令3.5.21労経速2459号26頁)

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社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地判令3.5.21労経速2459号26頁)

1.事件の概要

Y社は、リハビリセンターであるQ1(以下「本センター」という。)を運営する社会福祉法人である。Y1は、Y社及び同法人を含むZグループの社会福祉法人Q2の理事長であり、Y2は、Q2の設置運営するQ4病院の院長であり、Y1の娘である。✕は、平成20年4月1日にY社に採用され、それ以降本件センターのセンター長の地位にあった者である。
本件センターには、平成29年11月1日当時76名が勤務していたが、同30年3月から4月までの短期間に11名が退職した(以下「本件大量退職」という。)。
同年4月23日、本件センター職員を自称する者から、本件大量退職の原因が✕にある等の内容の匿名の投書(以下「本件投書」という。)があったことから、Y1は、Y2を中心として、ヒアリング等の内部調査を行わせた。かかる調査の結果を踏まえ、同年5月24日、Y1は、✕が施設管理者として不適任であると判断し、✕に対し、配置転換や自主退職を提案したが、✕はこれを断った。
そこで、Y1は、同年5月28日のY社の理事会において✕の解任議案を提案したが、同理事会において第三者委員会の意見が必要である等の意見が出されたことから、弁護士など3名による第三者委員会を設置し(以下「本件第三者委員会」という。)、同委員会において、✕によるパワーハラスメントの有無等について調査が行われた。
その結果、同委員会から、平成30年8月31日付け調査報告(以下「本件調査報告書」という。)が提出された。同報告書は、✕には複数のY社職員に対するパワーハラスメント行為が存在し、また、本件センターの管理者として組織の問題把握能力及び改善能力が不足していると考えられることから、施設管理者としての適性には相当問題があると結論付けた。
本件調査報告書の結果を踏まえ、平成30年9月25日、Y社は、✕に対し、✕が行ったパワーハラスメント行為を理由として懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。
✕は、本件懲戒解雇が違法なものであるとして、Y社に対して、地位確認及び解雇日以降の未払賃金等の支払い等を求めて提訴したのが本件である。

なお、Y社の就業規則には、次のような規定があった。

ア 13条(遵守事項)職員は、次の事項を守らなければならない。
①ないし④ 省略
⑤ Y社の名誉又は信用を傷つける行為をしないこと
⑥ないし⑧ 省略

イ 40条(懲戒の種類)Y社は、職員が次条のいずれかに該当する場合は、その事由に応じ次の区分により懲戒を行う。
①ないし③ 省略
④ 懲戒解雇 即時に解雇する

ウ 41条(懲戒事由)
1項 省略
2項 職員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇する。ただし、情状により減給又は出勤停止とすることがある。
①ないし③ 省略
④ 故意又や重大な過失によりY社に重大な損害を与えたとき
⑤ 素行不良で著しくY社内の秩序又は風紀を乱したとき
⑥ 省略
⑦ 13条に違反する重大な行為があったとき
⑧ その他この規則に違反し、又は前各号に準ずる重大な行為があったとき

また、Y社は、平成30年9月25日付け解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という。)にて、✕に対し、✕が行ったパワーハラスメント行為が、本件就業規則上の懲戒解雇事由に該当するとして、懲戒解雇するとの意思表示(本件懲戒解雇)をした。本件解雇通知書には、解雇理由として「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」との記載があり、根拠規定として本件就業規則第41条2項④及び⑦、参考として同規則第13条⑤が記載されていた。

2.判決の概要

※他に争点がありましたが、本件懲戒解雇の有効性についてのみ記載します。

(1)懲戒解雇事由の存在
ア 使用者が労働者に対し行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであるため、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないというべきである( 山口観光事件(最高裁判所第一小法廷 平成8年9月26日判決) )。
イ Y社は、本件解雇通知書において、解雇理由として、「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」とし、単にパワーハラスメント行為と記載するのではなく、本件第三者委員会からの報告によるものとの限定を付しており、また、懲戒の根拠規定として、本件就業規則41条2項②、⑦を明示している。この記載を合理的に解釈すれば、Y社は、本件第三者委員会が本件調査報告書上パワーハラスメントに該当すると認定・評価した✕の言動、すなわち本件主張整理表記載の事実のうち、P6(B)、P7(C)、P8(E)及びP9(F)に対する言動並びに本件調査報告書に記載されているKなる人物に対する言動が、本件就業規則41条2項④、⑦に該当すると判断して、本件懲戒解雇を行ったものと認められる。他方、本件第三者委員会が本件調査報告書上パワーハラスメントに該当すると認定しなかった本件主張整理表記載の(中略)言動については、本件懲戒解雇までにY社がその存在を認識していたものであるが、これらの言動については、いずれもY社において懲戒解雇事由に該当する非違行為であると認識していたとしても、当罰性が乏しいと判断して、懲戒解雇事由として記載しなかったものと解するのが相当であって、これらについて、上記特段の事情があるとも認められない。Y社らの主張のうち、上記認定判断に反する部分は採用できない。

ウ 以上を踏まえ、本件第三者委員会がパワーハラスメントとして認定した、本件主張整理表記載の言動のうち、P6(B)、P7(C)、P8(E)及びP9(F)に対して行った言動について、就業規則41条2項④、⑦の該当性を検討する。

(ア)番号2-1について
【Y社らの主張する事実】
P6は、平成22年頃、✕の許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行った。P6が一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨を伝えると、✕は、「なんでそもそも始めたのか」「なぜそんな子にパンの実習をやっているのか」と詰問した。P6が「では、どうしたらいいんですか」と聞くと、「それは自分で考えなさい」と言い、夜勤明けに立位で30分間も責められて、目の前が暗くなり、机に座り込んだ。

平成22年頃、P6が、✕の許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行い、一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨✕に伝えたところ、✕が当該施設利用者に対して実習を行うこととした理由等を尋ねたこと、これに対してP6がとるべき対応を聞いたところ、✕が自ら考えるよう告げたことは当事者間に争いがない。

Y社は、Y2がP10同席のものでP6から聞き取ったとする内容が記載された書面にP6が署名をした文書(以下「P6報告書」という。)を提出し、同書面中には、番号2-1に関するY社の主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、P6報告書の番号2-1に関する記載内容には、当該対応があった時期を特定する記載はない一方で会話の内容等は相応に詳細であるところ、聞き取りが行われた平成30年時点で既に8年が経過している事実について詳細な聞き取りが可能であった理由が何ら明らかでなく、また、その記載内容からすれば、当該対応の前提となる事実関係に関する客観的な資料(少なくとも施設利用者に関して本件センターが作成した文書、当該実習に関して作成された決済関係の資料等)が存在するはずであるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。本件調査報告書中の番号2-1に関する記載も、P6報告書同様、客観資料に基づく裏付けがない。そうするとこれらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討する。まず、✕は、職員が入所者の支援に行き詰った時には、原点回帰して思考を整理するための質問を行ったり、自ら考えることを促したりする旨主張し、✕本人はこれに沿う供述をしているところ、本件センターが、障害があっても自分らしい生活を送ることができるよう、適切な支援を提供し、利用者を主体として、自立と自律を柱とする各々の目標に向けた能力獲得のためのトレーニングを実施すること等を理念、特徴としており、施設利用者それぞれの障害や個性に応じたサービスの提供を謳っていることからすれば、✕が主張する上記方針は、本件センターの理念等と整合するといえ、✕がそのような対応をすること自体は通常の業務指示と評価することができる。そして、P6が行った実習は✕の許可を得ていたものではあるものの、一定の問題が生じていたというのであるから、当該問題に対する対応を含め、実習の目的等を確認することや、改善方法等をP6に考えさせることは通常の業務の範疇のやりとりと解される。その他に、✕の言動がP6に対するパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる具体的な経緯や事情の存在は認められない。
したがって、番号2-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。
※Y社が主張に対する客観的な証拠を示せなかったため、✕が主張する内容と一致する範囲内でパワハラに当たるかどうかが判断されます。そのため、Y社の一方的な主張である「詰問した」「夜勤明けに立位で30分間も責められて、目の前が暗くなり、机に座り込んだ。」という部分は判断から除外されます。

(イ)番号2-2について
【Y社らの主張する事実】
P6は、平成23年12月頃、施設の利用者の離設を防ぐため、✕の許可を受けて30分ごとの訪室を実施していたが、それでも離設があった。✕に相談すると、そんなことで所在確認になっていると思うのかと叱責され、事務所にスタッフがいる間は出口のカーテンを開けて見守りをしてはどうかと希望しても「事務所は仕事が終わっているのだから、カーテンを閉めます」と応じなかった。✕を許可を得てやっても、良くない結果となると職員の責任にされるため、どうしたら良いのかという気持ちになる。

平成23年12月頃、施設利用者の離設を防ぐため、✕の許可を受けて30分ごとの訪室を実施していたが、それでも離設があったため、P6が✕に相談したこと、P6が、事務所にスタッフがいる間は出口のカーテンを開けて見守りをする方法を提案したが、✕が「事務所は仕事が終わっているのだから、カーテンを閉めます」と応じなかったことは当事者間に争いがない。
P6報告書及び本件調査報告書には、番号2-2のY社の主張に沿う内容の記載がある。しかしながら、これらの証拠の番号2-2に関する記述には、裏付けとなる客観証拠の不存在等、上記(ア)と同様の問題があるから、その信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社の主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討するに、番号2-2のやりとりは、施設利用者に対する対応に関する通常の業務上の対応といえるものであり、また、P6の提案を✕が採用しなかったことについても、業務遂行の過程において提案内容が採用されないことは日常的に生じる事象であって、本件において上記各対応がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる事情の存在が認められないことからすれば、番号2-2の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。
※✕が管理者として、不適格なことを示す事実ですが、パワハラが問題となるような事実ではないと思います。

(ウ)番号2-3について
【Y社らの主張する事実】
平成24年3月頃、P6が夜勤明けに利用者のことで✕に報告すると「今日中に本人と会って、今後どうするのか報告に来なさい。勤務はしょうがないね。」と言われた。P6が利用者と1時間話をし、その結果を✕に報告すると「なんでまだおるが」と言い、残業扱いをさせなかった。

P6報告書及び本件調査報告書には、番号2-3に関するY社の主張に沿う記載がある。しかしながら、これらの証拠の番号2-3に関する記述には、時期を特定する記載がないこと、P6の勤務状況や当該利用者に関して作成された資料等の客観証拠が存在するはずであるがそれらによる裏付けがされていないことといった上記(ア)と同様の問題があり、その信用性は、限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
したがって、番号2-3の言動が存在するとは認定できず、これがパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(エ)番号3-1について
【Y社らの主張する事実】
P7は、平成26年11月15日に早朝出勤する約束をしていたが、体調のため約束を守れなかった。✕は、P7の出勤後、「あなたのせいで関係者を待たせるなんて、考えられない。」等々、P7を午前中いっぱい叱責した。

✕がP7に平成26年11月15日の早出出勤を依頼したが、P7が遅刻をしたこと、このことについて✕がP7を叱責したことは当事者間に争いがない。
Y社は、P14がP7から聞き取り調査を行った結果であるする内容が記載された書面にP14が署名した文書(以下「P14報告書」という。)を提出し、同書面中には、番号3-1に関するY社の主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、P14報告書は、そもそも伝聞内容を記載したものであるから類型的に信用性が高いとはいえない上、その記載内容も時期や状況等の具体的な記載が不足する抽象的なものにとどまっている。また、P14報告書や本件調査報告書には、P7が精神疾患に罹患した旨の記載やP7の勤務状況に関する記載が存在するところ、これらについては、医療記録やP7の勤務に関する資料等の客観的な資料に基づく裏付けが可能であるが、そのような客観資料による裏付けが可能であるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。そうすると、これらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討するに、遅刻をした職員に対して注意し、再発防止に努めることは、管理職として当然に求められる指導であって、本件において、上記対応がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる事情の存在が認められないことからすれば、番号3-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(オ)番号3-2ないし3-4について
【Y社らの主張する事実】
✕は、平成25年12月頃、P7に対し、「どうしてこんな簡単なことができないの。誰でもできる仕事なの、だめな子ね」と人格否定ともいえる叱責を行った。
✕は、平成26年3月頃、P7に対し、「看護学生の方がまだ仕事ができる。あんたは仕事ができなくてだめだから、今年も秘書をしないさい。相談支援部には行かせられない。」と人格否定の言い方をされた。

P14報告書及び本件調査報告書には、番号3-2ないし3-4に関するY社の主張に沿う記載がある。しかしながら、P14報告書及び本件調査報告書の番号3-2ないし3-4に関する記載についても、上記(エ)同様の問題があり、その信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
したがって、番号3-2ないし3-4の各言動が存在するとは認定できず、これがパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(カ)番号5について
【Y社らの主張する事実】
P8は、平成28年5月頃、理学療養士の業務に加え、サービス管理責任者、行事・地域ふれあい・食の委員会の委員長に任命されたが、多忙であったため、委員長の辞任を申し出た。しかし、✕は、「時間内でできないの。超勤ありきで考えていない。こんなんだったら、出せるわけないでしょう。」と超勤申請を拒否された。そのため、実際の帰宅時間は、早くて20時、遅い時は日をまたぐこともあったが、超勤申請はできなかった。

a P8が平成28年5月頃、サービス管理責任者、行事・地域ふれあい・食の委員会(以下「行事等委員会」という。)委員長に任命されたこと、P8が委員長職の辞任を申し入れたこと、✕がP8の辞任を認めなかったことは当事者間に争いがなく、証拠及び弁論の全趣旨によれば、P8が、平成28年度の1年間、幹部会での決定に基づき、行政等委員会の委員長を務めたこと、上記辞任申し入れ以外にP8が行事等委員長の委員長の解任を申し入れたことはないこと、事前の調整等を行えば、委員会に関する業務を業務時間内に行うことは可能であったこと、P8が午後5時に行事等委員会を開催するために超過勤務申請をしたところ、なるべく勤務時間内に行うようにといった趣旨の発言をしたこと、Y社では、超過勤務を行う場合には事前申請を行うルールとされていたところ、事前申請をしたにもかかわらず超過勤務が許可されなかったこともあったこと、P8が自らの超過勤務の状況の改善に向けた申し入れ等を使用者側に行ったことはないことの各事実が認められる。
b Y社は、P8の業務が多忙を極めていたにもかかわらず、✕が超過勤務を許可せず、申請をさせなかった旨を主張し、これに沿った内容が記載された書面にP8が署名押印した報告書や、本件第三者委員会の作成した本件調査報告書を提出し、証人P8はこれに沿う証言をする。しかしながら、使用者であるY社には労働者であるP8の労働実態を把握し、勤怠管理を適切に行う責務があるから(労働基準法108条、109条参照)、Y社においてP8の労働実態を示す客観的な資料を提供することが可能であるにもかかわらず、Y社作成の資料はもとより、P8が当時作成した労働実態を推認させる客観証拠する提出していないことからすれば、上記各証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによって、上記aの認定を超えて、Y社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。そうすると、この点に関するY社の主張は採用できない。
C そこで、上記aの事実を前提として、✕の言動がパワーハラスメントに該当するかを検討すると、まず、P8が行事等委員会の委員長に就任したのは幹部会の決定に基づくものであるから、P8が✕に対して辞任を申し入れたとしても、✕の権限において辞任を認めることはできないものと解され、✕がP8の辞任を認めなかったことは、パワーハラスメントに該当しない。また、Y社においてルールどおり事前申請をしたにもかかわらず超過勤務が認められないかったことがあったことは認められるものの、いかなる事情のもとで不許可とされたものであるかが明らかでないから、不許可とされたことのみをもって直ちにこれがパワーハラスメントに該当すると評価することはできず、P8の超過勤務申請に対する✕の言動は、部下職員に対し安易な超過申請をしないよう注意するものであり、管理職の立場にあった✕が行う必要のある指導といえるし、P8において超過勤務の改善を使用者側に要望したことがないことを考慮すると、その他に✕の上記言動がパワーハラスメントに該当することを認めるに足りる事情の存在が認められない本件においては、P8の超過勤務申請に対する✕の言動をパワーハラスメントと認めることはできない。

(キ)番号6について
平成29年8月頃、新人職員研修が終わり、相談員スタッフがセンター長室で、朝のミーティングを行った際、P9がまだ決まった業務がなかったため、「自分の本日の予定がないから、上司に確認し、仕事を見つけてそこに行く」と発言したところ、✕は、みんなの前で、「給料泥棒だね」と言われ、精神的に傷つけられた。

平成29年8月頃にP9にミーティングにおいて「今日の予定がない」との趣旨の発言をしたことは当事者間に争いがない。
Y社らは、✕がP9に対して「給料泥棒だね」と言った旨主張し、これに沿う証拠を提出するのに対し、✕はY社の主張を否認し、P15リーダーに対し「先に予定を決めて、ここで報告しないとあかん。」と発言した旨主張する。複数の職員が集まったミーティングの場での発言であることからすれば、✕が主張する発言であった可能性を否定できないところ、「P9氏によるリハビリテーリングセンターセンター長への記述詳細」と題する書面の記載では✕の発言の前後の文脈や経緯が必ずしも明らかではなく、これのみでは✕の上記主張を排斥できないものと言わざるを得ず、また、本件調査報告書が認定の根拠とした本件投書の記載に一致する人物がいないというのであり、その記載内容も具体的な根拠が示されない抽象的なものにとどまるのであって、本件投書の体裁を踏まえると、その記載内容に信用性はないものと言わざるを得ず、本件投書の記載と「P9氏によるリハビリテーリングセンターセンター長への記述詳細」と題する書面の記載が整合することは、同書面の記載内容の信用性を高めるものとはいえない。このことに、Y社がP9を証人として申請せず、同人に対する反対尋問が行われていないことを併せ考慮すると、Y社が主張する事実について、合理的疑を容れない程度の立証がされたものと判断することはできない。
以上からすると、✕がP9に対してパワーハラスメントを行ったと認定することはできない。

エ 上記アないしウのとおり、本件懲戒解雇において懲戒事由とされた言動(本件主張整理表記載のP6、P7、P8及びP9に対する言動)は、そもそもそのような事実が認められないか、認められるとしても懲戒事由に該当するとはいえないものである。

(2)以上のとおり、本件懲戒解雇には懲戒解雇事由が存在しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。

3.解説

懲戒解雇のやり方があまりにもお粗末な事例です。
「具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであるため、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないというべきである」と冒頭で述べられているように、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為を使用者が後から知ったとしても、懲戒理由に追加することは原則としてできません。
この論法は、 山口観光事件(最高裁判所第一小法廷 平成8年9月26日判決) により判例として確立したものですが、実務的には、懲戒解雇を通知書する書面を作成する場合、その書面に記載しなかった懲戒事由を後になって主張できないことを意味します。

Y社の就業規則には、次のような懲戒事由が記載されていました。

41条(懲戒事由)
1項 省略
2項 職員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇する。ただし、情状により減給又は出勤停止とすることがある。
①ないし③ 省略
④ 故意又や重大な過失によりY社に重大な損害を与えたとき
⑤ 素行不良で著しくY社内の秩序又は風紀を乱したとき
⑥ 省略
⑦ 13条に違反する重大な行為があったとき
⑧ その他この規則に違反し、又は前各号に準ずる重大な行為があったとき

通常、パワハラを理由とするのであれば⑤がまず該当すると考えそうなものですが、本件においてY社が作成した解雇通知書は④と⑦を理由としました。
後になって見落としに気付いたのか、裁判に際しては④、⑤、⑦及び⑧を理由として主張していますが、裁判所は冒頭の論法により、懲戒解雇理由を④と⑦のみに限定し、⑤と⑧は排除しました。
後から追加するくらいなら、解雇通知書を作成する際に理由を慎重に洗い出して記載すべきです。

さらに、この解雇通知書にはもう1つ残念な部分があります。
「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」と、わざわざ「社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。」と限定して記載した点です。
これは、Y社は「第三者委員会からの報告による」パワハラ行為以外に非違行為を認識していなかったことを自白しているようなもので、第三者委員会からの報告以外のパワハラがあっても、Y社は主張することができません。
(「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為が下記に該当するため。」と記載していれば、第三者委員会からの報告以外のパワハラが後から判明した場合でも、それにより本件大量退職が発生し、Y社に重大な損害を与えたと認定されれば懲戒解雇理由として認められる可能性はあります。)

このように懲戒解雇に際しては、理由を後から追加することができないので、懲戒解雇を言い渡す前に理由を慎重に洗い出す必要があります。ケースによっては、一定期間の自宅待機を命じ、対象者の業務や素行等を調査したうえで懲戒解雇とすることもあります。
一方で、具体的な理由について本人から求められれば説明する必要がありますが、非違行為を具体的に限定して通知書に記載する必要はありません。

なお、解雇通知書を作成する際には、⑧のような包括的な事由は必ず理由として記載します。これにより、前各号に直接該当しなかったとしても、準ずるようなことがあった場合は⑧を理由に懲戒解雇が認められることもあるからです。