社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



「顔認識・撮影を用いた勤怠管理ツールによる労働時間把握について」グレーゾーン解消制度における照会

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「勤怠管理ツールによる労働時間把握について」グレーゾーン解消制度における照会

「グレーゾーン解消制度」とは

産業競争力強化法に基づく制度で、事業に対する規制の適用の有無を、事業者が照会することができる制度です。
事業者が新事業活動を行うに先立ち、あらかじめ規制の適用の有無について、政府に照会し、その新事業活動に対する規制の適用の有無について、回答するものです。
なお、本制度における回答は、あくまで該当法令における取り扱いについてのみ判断したものであり、他の法令等における判断を示すものではありません。当然、司法機関の判断ではありません。

照会の内容

https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210625008/20210625008-1.pdf
労働安全衛生法及び同規則は、面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない旨を定めています。
本件は、顔認証による出退勤管理が「客観的な方法その他の適切な方法」に当たるかを照会したものです。
結論としては、「客観的な方法その他の適切な方法」に該当するとされており、近い将来、顔認証による勤怠管理が実現されるかも知れません。

1.確認の求めを行った年月日

令和3年5月25日

2.回答を行った年月日

令和3年6月25日

3.新事業活動に係る事業の概要

申請者は、労働者が始業・終業の際に通過する出入口等の場所に撮影機器を設置し、顔認識・撮影がなされた時刻を客観的な記録として用いる勤怠管理ツールを提供するサービスを検討している。
本サービスの具体的な手続きの流れは以下のとおりである。
① あらかじめ労働者の顔を撮影して本サービス上で登録し、労働者が始業・終業の際に通過する出入口等の場所に撮影機器を設置する。
② 管理者は、各労働者の予定始業時刻及び予定終業時刻(以下「予定時刻」という。)を、本サービス上に登録する。
③ 出勤日において、労働者ごとに、出勤・退勤の際に当該撮影機器の前を通過したときに、顔認識・撮影がなされ、その時刻(以下「撮影時刻」という。)が記録される。
④ 出勤日の翌日、各労働者に予定時刻及び撮影時刻が通知される。各労働者は、撮影時刻を始業時刻・終業時刻とすることでよいか確認し、確認した旨を管理者に通知する。
この時、撮影時刻が実態の始業時刻・終業時刻と異なる場合など、やむを得ない場合には、修正理由を付記した上で、各労働者本人が修正の申告をする。
⑤ 管理者が、予定時刻及び撮影時刻(又は上記④により修正申告された時刻)を確認し、撮影時刻(又は修正申告時刻)を承認する。これにより、承認した時刻が、各労働者の労働時間(始業時刻及び終業時刻)として確定する。
※ なお、上記においては、客観的な記録に基づくことを原則としつつ、自己申告制を併用しており、“労働者による自己申告”の性質があるため、労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握について、平成30年12月28日基発1228第16号(平成31年3月29日改正)の「第2 面接指導等(労働安全衛生法令関係)」の答12において掲げられている各種措置に準じた措置を、顧客が適切に講じていることを前提とする。

4.確認の求めの内容

顧客が、本サービスによって行う、その雇用する労働者の労働時間の把握が、労働安全衛生法に基づく「労働時間の状況」の把握方法として適切なものであることを確認したい。

5.確認の求めに対する回答の内容

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)第66条の8の3及び労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第52条の7の3第1項の規定により、事業者は、安衛法第66条の8第1項又は安衛法第66条の8の2第1項の規定による面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日付け基発1228第16号(平成31年3月29日改正)。以下「解釈通達」という。)において、「その他の適切な方法」としては、やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において、労働者の自己申告による把握が考えられるが、その場合には、事業者は、自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をするなどの措置を講じる必要があるとされている。
なお、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があり、この場合に該当するかは、当該労働者の働き方の実態や安衛法の趣旨を踏まえ、適切な方法を個別に判断することとされている。
ただし、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても、例えば、事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない。
また、タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合にもかかわらず、自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは、認められない。
本サービスは、客観的な記録を基礎としつつ、やむを得ない場合に限り、労働者が自らの労働時間の状況を自己申告するものであり、解釈通達に記載の所要の措置が講じられていることを前提とするものである。したがって、本サービスによって把握された労働時間の状況は、解釈通達に記載の内容を満たすものであり、安衛法の違反はない。