社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【解雇】スマートグリッドホーム事件(東京地判令2.12.21)

スマートグリッドホーム事件(東京地判令2.12.21)

この会社を調べてみると、「スマートグリッドホーム株式会社被害者の会」があり、太陽光発電で詐欺まがいの悪徳商法していた会社のようです。
https://www.sg-higai.com/

事件の概要

本件は、太陽光発電設備の販売、管理等営むY社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、①Y社がXにした即時解雇(以下「本件解雇」という。)が解雇権の濫用に当たり違法であり、Y社在籍中にY社代表者から嫌がらせを受け、これらがXに対する不法行為に当たるとして、不法行為による損害賠償請求等を求めるとともに、②平成29 年9 月1 日から本件解雇の日である同月22 日までの賃金の一部が未払であるとして、雇用契約による賃金支払請求権に基づき未払賃金等、また、③雇用契約及び労働基準法20 条による即時解雇に伴う解雇予告手当支払請求権に基づいた支払等を求めた事案である。

(XとY社との間の雇用契約
X(昭和36 年生まれの男性)は、平成29 年8 月21 日、Y社との間で、下記の内容を含む雇用契約を締結した(以下「本件雇用契約」という。)。
ア 開始日平成29 年8 月21 日
イ 期間の定めなし
ウ 試用期間2 か月(平成29 年10 月20 日まで)
エ 就業場所東京都A 区B〇-〇-〇 C ビル〇F
オ 従事すべき業務内容経理財務を含む会社業務全般
カ  始業、終業時刻等始業時刻・午前9 時終業時刻・午後6 時休憩時間・60 分所定時間外労働の有無・有
キ 出勤日、休日1 か月22 日出勤とする。1 か月を30 日とし、業務にあわせて休みをとる(自己で調整する。)。
ク 基本賃金月給制で月額35 万円(基本給14 万円、時間外手当6 万円、単身・住宅手当2 万円、職手当10 万円、皆勤手当3 万円)皆勤手当は、遅刻・早退がない場合に支給する(1 か月内に3 回早退・遅刻があった場合は1/2 日の欠勤とみなし控除する。)。
ケ 賃金支払日毎月末日締め、翌月20 日支払(20 日が土日祭日の場合は翌日)退職時の賃金支払方法は、末日締め、翌月末日払で手渡し支払(月中での退職の場合は日割り計算払)(甲1、3、弁論の全趣旨)


2.双方の主張

争点1(不法行為に当たるか及び損害額)について

(Xの主張)
本件解雇及びY社代表者の言動は、Xに対する不法行為に当たり、これによる損害合計341 万円の損害賠償請求が認められる。

ア 本件解雇の不法行為該当性(本件解雇の意思表示の日及び内容を含む。)
(ア)本件解雇の意思表示及び内容Y社の代表者(代表取締役)であるE(以下「E」という。)は、平成29 年9 月22 日、Xを会議室に呼び出し、Xに対し、「おまえは気に食わん。1 か月分余計にやるからすぐにやめろ。」と言って本件解雇の意思表示をし、「今から出て行け。」と怒鳴り付け、Xは、荷物をまとめる暇なく退社せざるを得なかった。
なお、Xが、平成29 年9 月25 日にE から解雇予告を通知された事実はない。
(イ)本件解雇の違法性Y社が後記のとおり主張する「試用期間中または試用期間満了時までに、従業員として不適格と認められた場合」に当たるとする事実を否認する。
Xは、Y社に採用された直後から、Y社の経理・総務面での体制づくり及び人材確保に奔走したものであって、何ら解雇事由に当たる事実はない。この点、Xは、平成29 年8 月末ころ、E から経理業務や総務業務を統括するよう指示を受け経理ソフトの導入を支援したことは認めるが、Y社の決算業務を行うことを指示されておらず(そもそも決算期、決算書、Y社名義の銀行預金通帳の開示もない。)、平成29年9 月1 日以降、太陽光事業施工販売合同会社(以下「合同会社」ということがある。)の立ち上げに専念していたため、Y社の経理業務はE の判断に任せていた。Y社には、当時、弥生会計とソリマチの二つの会計ソフト(正確には、顧客管理を含む販売管理ソフト)があり、弥生会計にデータが不完全な状態で入力されたままであったところ、Xは、Y社の経理担当社員が弥生会計を使い慣れていないことを考慮してEにソリマチの採用を進言した。なお、Xは、合同会社について、平成28 年及び平成29 年の決算業務及び給与計算等を行った。また、Xは、太陽光発電設備の設置予定地について調査するよう指示されたが、翌日解雇された。
そして、Xは、合同会社社員の業務管理をするよう指示され、本社事務員、営業部員、F・G・H・I・J・K 等の施設のメンテナンス要員を採用するため毎日2~5 名の面接を行っており、多数の社員が採用後間もなく退職したり入社辞退したりしたのは、合同会社の仕事がなかったことに加えて、合同会社と関係のないE が指示を与えるなど指揮命令が混乱していたことなどが原因で、Xと関係ない。
加えて、Xは、Y社から合同会社の支店を設置する事務所用の建物を探すよう指示を受け、事務所物件を探して提案したが、いずれもE に却下された。さらに、Xは、平成29 年9 月20 日、E に対し、同月22 日午後に子の通う学校からの呼び出しに対応するため中座する旨及び同月26 日午後2 時に大臣秘書へ挨拶に行く旨を連絡し、E の了解を得ているところ、Xは平成29 年9 月22日朝、解雇されている。
また、Xは、過去(10 年以上前)に知人のため探偵事務所を届け出たことがあったものの、探偵としての業務経験がなく、Y社との本件雇用契約期間中に探偵業に関わった事実は一切ない。したがって、XがY社の従業員として不適格と認められる事実はない。
本件解雇は、具体的根拠なく行われたものであり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない不当解雇であり、更に解雇予告手当を支払うことなく通知された即時解雇であって、違法である。
そして、本件解雇に至る経緯及び解雇後の対応に照らすと、嫌がらせ行為及び違法な本件解雇についてのY社の故意過失があったことが明らかであるから、Y社は、Xに対し、不法行為に基づき、Xに生じた損害を賠償すべき責がある。

イ Y社代表者の言動E は、XがY社において誠実かつ真面目に勤務していたにもかかわらず、Xに対し、平成29 年9 月12 日ころから嫌がらせをするようになり、「俺の指示どおりにやれ。」、「おまえは社長室に入るな。」、「ここに座るな。あっちに行け。」、「書類に触るな。」などと言って仕事から排除し、「他の事務員に話すな。」などと他の社員とのやりとりも禁じた(これらのE の言動について以下「本件嫌がらせ行為」ということがある。)。
上記アにも照らし、本件嫌がらせ行為についてY社の故意過失があったことは明らかであり、本件嫌がらせ行為も不法行為に当たる。

ウ 損害額(合計341 万円)
(ア)慰謝料Xは、Y社による本件解雇及び本件嫌がらせ行為によって、社会的名誉が毀損されるとともに、多大な精神的苦痛を被った。かかる精神的苦痛を慰謝するに足りる損害賠償金の額は、少なくとも100 万円を下らない。
(イ)逸失利益Xは、本件解雇により得られるべき賃金を得られなくなった。Xは、本件解雇時56歳かつ身体障害程度等級4 級で、再就職が極めて困難であることに照らせば、少なくとも半年間分の賃金相当額210 万円(=月額35 万円×6 か月)が不当解雇による逸失利益として認められるべきである。
(ウ)弁護士費用弁護士費用は、上記(ア)の慰謝料及び上記(イ)の逸失利益の合計額310 万円の1 割の31 万円が適当である。


(Y社の出張)
本件解雇は有効であって違法ではなく、不法行為に当たるようなY社代表者の言動も存しないから、Xの請求を争う。

ア 本件解雇の不法行為該当性
(ア)解雇の意思表示及び内容
X主張の平成29 年9 月22 日の本件解雇の意思表示の事実を否認する。E は、同日、Xに対し、1 か月分の賃金を支払うので退職して欲しい旨退職勧奨をしたが、Xとの間で退職合意に至らなかった。E は、平成29 年9 月25 日、Xに対し、口頭で、平成29 年10 月25 日を退職日とする解雇予告通知をした。
(イ)解雇が違法でないことXは、平成29 年8 月末ころ、Y社から経理業務及び総務業務を統括すること、Y社及びその関連会社である合同会社経理ソフトを導入した上で決算業務を行うことを指示されていて、Y社の希望する経理ソフト(弥生会計)の導入が可能であると述べていたにもかかわらず、その導入作業の途中から別の経理ソフトに変更すべきであると述べて別の経理ソフトの導入作業を進めたが、その後、再び弥生会計を導入すると述べるなど対応を二転三転させて経理ソフト導入業務を完了させず、決算業務をしなかった。
また、Xは、Y社から、I 県、L 県、M 県、F 県等において太陽光発電設備の設置予定地の土地所有者との間で買い取り交渉をしたり太陽光発電設備設置済みの場所において同設備のメンテナンス管理業務をしたりしているY社関連会社(合同会社)の社員の業務管理をするよう指示されていたにもかかわらず、これらの業務を怠った。その結果、Y社関連会社(合同会社)の多数社員が退職することになってY社の業務を中断せざるを得なくなった。
さらに、Xは、Y社から、Y社関連会社(合同会社)の支店起ち上げ業務を行うよう指示されていたにもかかわらず、Xはその業務をしなかった。加えて、Xは、就業時間中、「議員との打合せがあるから。」、「子どもの学校の用事があるから。」などの理由でY社の許可なく職場を離れたり許可なく早退したりすることがあった。
また、Xは、本件雇用契約期間中、Y社に無断で「X 探'CCX偵事務所」を開いて探偵業をしていた。Y社は、上記の事実が「試用期間中または試用期間満了時までに、従業員として不適格と認められた場合」(就業規則20 条1 項8 号)に該当することを理由にXを解雇したのであり、不法行為法上違法でなく、Y社に損害賠償義務はない。

イ Y社代表者の言動X主張のE の言動を否認する。
E は、Xに対し、不法行為法上違法と評価される嫌がらせをしていない。

ウ 損害額否認する。
Xの再就職が困難である点については、Y社が発生させた損害ではなくY社が責任を負うべきではない。
また、Xの試用期間は平成29 年10 月20 日までであり、本採用の拒否について使用者に広い裁量があるため、解雇がなかったとしても、Xが同日以降勤務できていたとはいえない。したがって、Xに何らかの逸失利益が発生しているとしても、その範囲は相当狭いものである。

争点2 省略

争点3 解雇予告手当及び付加金の有無等〔未払賃金の遅延損害金を含む。〕)について

(Xの主張)

ア 解雇予告手当
本件解雇は平成29 年9 月22 日即日解雇であるから、Xには、平均賃金30 日分の解雇予告手当の請求権がある。Xの平均賃金は、算定事由が発生した日以前3 か月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額であるところ、解雇日前の賃金締切日は平成29 年8 月末であり、同月の21 日から31 日(11 日間)の賃金支払額は14 万5454円であり、1 日当たりの平均賃金は1 万3223 円09 銭(≒14 万5454 円/11 日)となる。解雇予告手当は、平均賃金の30 日分であるから、39 万6693 円(≒1 万3223 円09 銭×30 日)である。
この点、Y社は、解雇言渡しから1 か月の経過時点で解雇の効力が生じたといえることを理由に解雇予告手当の支払義務を負わない旨主張しているが、予告義務違反の解雇の効力について判断した後記Y社援用の最高裁判決は、解雇予告手当の支払義務について射程が及ぶものではなく、解雇の意思表示後労働者を就労せしめないで30 日を経過して雇用契約が終了した後においてはなお30 日分の平均賃金に相当するものを現実に支払わない場合に解雇予告手当の支払義務を負うと解すべきであり、本件は、平成29 年9 月22 日に解雇を通告された後でE から「今から出て行け。」などと言われて事務所を追い出され、同月26日にも事務所への入室を拒否され、以降、それまで頻繁に届いていた「LINE」上の指示も全く得られない状況となり、平成29 年10 月3 日には解除日を同年9 月27 日とする本件通知書が届いたことから、もはや使用者により「労働者を就労せしめない」状況であったことは明らかであり、Y社は、Xに対し、解雇予告手当の支払義務を負う。
万一、平成29 年9 月22 日の即時解雇が認められない場合であっても、同日の通告と入室拒否及び同月27 日付けの解除日の通知の事実によってXが労務提供を断念せざるを得なかったから、Y社は即時解雇の意思表示と誤解されるような予告義務違反の解雇を行ったといえ、解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を負うというべきである。

イ 付加金(解雇予告手当と同額)
Y社は、全く合理的でない理由により解雇予告手当の支払を拒んでおり、その違法の程度は大きく、解雇予告手当と同額の付加金の支払が命ぜられるべきである。

ウ 未払賃金の遅延損害金Y社は、何ら証拠を示さずにXの未払賃金支払請求を争っていて、賃金の支払い拒絶が、合理的かつやむを得ない事由に基づくものとも、合理的な理由がないとはいえない場合とも認められないから、年14.6 パーセントの割合による遅延損害金が認められるべきである。

(Y社の主張)

ア 解雇予告手当
Y社は、平成29 年9 月25 日、Xに対し、口頭で同年10 月25 日を退職日とする解雇予告通知をしているから、解雇予告手当の支払義務を負わない。
また、仮にXが主張する即時解雇と評価されたとしても、即時解雇のみに固執したものではないから、解雇言渡しから1 か月の経過時点で解雇の効力が生じたといえ(最二小判昭和35 年3 月11 日・民集14 巻3 号403 頁)、解雇予告手当の支払義務を負わない。

イ 付加金、遅延損害金
本件は、「合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること」(賃確法6 条2項、賃確法施行規則6 条4 号)に該当するため、年14.6 パーセントの割合による遅延損害金を規定した賃確法6 条1 項及び同法施行令1 条は適用されず、付加金も命じるべきではない。

3.判決の概要

認定事実

後掲各証拠(ただし、後記認定事実に反する部分を除く。また、原則として枝番号を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、前記前提事実を含め、次の各事実が認められる。

(1)Xの入社経緯
Xは、平成26 年12 月、右足膝下を切断して自営業を継続できず失職し、平成27 年1月に身体障害者手帳の交付を受け(4 級)、同年4 月に年金の支給が決定されたが、同年12 月ころまで経過観察としてリハビリ科等への通院をして年金のみで生活した後、ハローワークに職業あっせんを依頼した。
しかし、Xの年齢及び上記障害から応募しても面談すらしてもらえなかったり面談に至っても採用されなかったりすることが続いた末、平成29 年8 月21 日に本件雇用契約を締結するに至った。

(2)Xの就労
Xは、Y社に入社した直後、E から、「LINE」(スマートフォンにインストールするなどしてメッセージ交換をするアプリケーション。以下「LINE」という。)に登録することを指示され、以後、LINE を用いてE からの業務指示やXからの報告等に活用されることになり、同日から就労を開始した。Xは、平成29 年8 月末ころ、E から「経理総務の総括をして欲しい」との指示があったことから、以後、Y社の事務所内にある会計・総務関連の書類整理をするとともに、給与計算のためのデータ整理、給与計算ソフトへのデータ入力、面接及び採用等の業務を行った。
また、Xは、そのころ、E から、「合同会社を平成29 年9 月1 日から立ち上げて欲しい。」旨依頼され、平成29 年9 月1 日から、東京都A 区B〇丁目所在の合同会社事務所と同B〇丁目所在のY社事務所を往復するなどしてY社の業務と合同会社の業務を行った。E は、平成29 年9 月中旬ころより、Xに対し、執務場所を制限するなどXの労働を制限する言動をするようになった。なお、平成29 年9 月の1 日(金曜日)から21 日(木曜日)までのXの勤務日数は18日である。

(3)本件解雇
Xは、平成29 年9 月22 日(金曜日)、午前8 時41 分に出社したところ、午前9 時前ころ、E から、会議室に呼ばれた。E は、会議室に来たXに対し、「おまえは気に食わん。1 月分余計に放るからすぐにやめろ。」、「今から出て行け。」と言い、XはE から即時解雇を通告されたものと受け止めた。そのため、Xは、合同会社にあった私物(令和元年10月1 日にXがY社から受領)を取りに行くこともできないまま、午前9 時51 分に退社した。
E は、上記のとおり会議室でXに言った直後、同会議室の外にいたY社の従業員で法務担当のN(以下「N」という。)らに対し、「Xに1 か月分の予告手当を払って今日で辞めてもらう。」と言った。E は、平成29 年9 月25 日(月曜日)、N 及びY社の従業員・「O」(以下「O」という。)に対し、「Xには解約予告手当を払って辞めさせるのはもったいなくなったので、外部社員として働いてもらうから、話をしてくれ。」と指示したが、詳細な労働条件について説明しなかった。そこで、N 及びO は、Xに連絡して、同日の昼ころ、喫茶店において、Xと面会し、N がXに「外部社員として働いて欲しい。」と言うとXが「わかりました。」などと答えた。N は、同日午後3 時ころ、E から「Xに連絡して自分が外部社員の件について話をするから呼んでくれ。」と指示されたので、Xに連絡し、同日午後4 時ころにY社事務所に到着したXを応接室で待機させた。その後、N は、来客対応中のE から、「Xと一緒に近くのホテルのラウンジで待っていてくれ。」と指示され、同日午後6 時ころ、Xを連れてE の指定したラウンジに行った。その後、E は、同ラウンジに赴き、Xに対し、翌26 日の午前9 時までにY社事務所に来るように指示のみして、その場を立ち去った。
Xは、平成29 年9 月26 日、午前9 時前にY社事務所に赴いたが、事務室に入ることを許されないまま会議室で待機するなどした後、O から「E 社長が(Y社事務所の)近隣で事務所を探すようXに指示した」旨聞いたので、不動産屋をまわって複数の候補を抽出した後、午後4 時ころ、その結果をLINE でE 及びO に報告して退社したが、両名から返信等はなく、以後、業務の指示もなかった。E は、平成29 年9 月の25 日ないし29 日ころ、N に対し、「X)に解約予告通知をするから文面を作れ。」、「解除日は9 月27 日にしろ。」、「『職場放棄のため』を追加しろ。」などと指示し、N が同指示のとおりの文面を作成し、平成29 年9 月29 日、E がこれに押印して本件通知書を完成させると「すぐに投函しろ。」と指示した。N は、平成29 年9 月29 日が金曜日で遅い時間になっていたので、平成29 年10 月1 日(日曜日)に本件通知書を投函し、同月3 日ころ、これをXが受領した。

争点1(不法行為に当たるか及び損害額)について

(1)本件解雇の意思表示及び内容Xは、平成29 年9 月22 日、E が本件解雇の意思表示をした旨主張し、Y社は、退職勧奨をしたのみで解雇の意思表示をしていない旨反論している。
検討するに、Xは、E から会議室に呼ばれて「おまえは気に食わん。1 月分余計に放るからすぐにやめろ。」、「今から出て行け。」と言われた旨供述(本人尋問における供述のほか陳述書の記載を含む。以下同)しているところ、N も、前記1(3)のとおり、E が「Xに1 か月分の予告手当を払って今日で辞めてもらう。」と述べた、その3 日後、E から「Xには解約予告手当を払って辞めさせるのはもったいなくなったので、外部社員として働いてもらうから、話をしてくれ。」と指示された旨供述している。
N は、平成29 年9 月1 日からY社の法務担当として稼働し、翌月である10 月3 日にE から退職勧奨されて退職し、遅くとも平成30 年12 月20 日までに他の会社で稼働している者で、虚偽供述をするような格別の利害関係等もうかがえず、その供述内容はXのタイムカードの打刻、本件通知書の存在に加えてY社作成の給与明細表にも「9/21 退職」と記載があることを含め、関係証拠にも整合していることから、N の上記供述は信用することができ、同供述と整合するXの上記供述もまた信用することができる。
これに対し、E 作成の陳述書には平成29 年9 月22 日に「退職条件として1 か月分の賃金を支払うので退職して欲しい」旨述べたのみで即時解雇はしていない、Xから同意を得られなかったとの記載がある。しかしながら、上記陳述書の記載のとおり退職勧奨にすぎずXがY社従業員のままであったのであれば、Xが午前9 時51 分に退社したこと(前記1(3))、Xが合同会社にあった私物を持ち出せないまま令和元年10 月1 日に受領するに至っていることに整合しない。また、E は、代表者本人尋問において、Xが平成29 年9 月22 日に「合意で辞めたと思います。」と供述しているが、上記陳述書の記載から内容を変遷させたと評さざるを得ない上、Xが退職勧奨されて即時受け入れるという重い決断をするほどの事情が当時存したことも証拠上うかがえない。もとより信用できるN 及びXの上記各供述とも整合しないから、E の上記陳述書の記載及び代表者本人尋問における供述はいずれも信用できない。
そうすると、X及びN の各供述から、E が、平成29 年9 月22 日、Y社の会議室において、即時解雇する旨意思表示をした事実(本件解雇の意思表示をした事実)を認めることができる。

(2)本件解雇の違法性
Y社は、就業規則20 条1 項8 号が規定する「試用期間中または試用期間満了時までに、従業員として不適格と認められた場合」に当たる事実があると主張し、Xはこれを否認している。Y社の主張の骨子は、①指示された経理ソフト導入業務を完了させず決算業務をしなかった、②太陽光発電設備の設置予定地の買取交渉やY社関連会社(合同会社)社員の業務管理を指示されていたのに怠った、③Y社関連会社(合同会社)の支店起ち上げを指示されたのに怠った、④許可なく職場を離れたり早退したりした、⑤無断で探偵業をしていたというものと理解できるので、以下検討する。
Xは、上記①について、当初、一部データが弥生会計・弥生給与に入力されていたことから弥生会計・弥生給与を経理ソフトとして使用することをE に進言していたが、事務員が弥生会計・弥生給与を使用できず「ソリマチ会計18」・「ソリマチ給与計算18」なら使用できるということであったので事務員の使用可能なソフトへの変更をE に進言してE から文句を言われ、その後、E が用途の違うソフトに会計データ等を入力するよう事務員に指示していた、そもそも決算書、Y社名義の銀行預金の通帳も開示されていなかったと供述しており、その内容自体に不自然不合理な点はなく関係証拠との矛盾等も見当たらないところ、Y社はその主張を裏付ける的確な証拠を提出できていない。
また、Xは、Y社が主張する上記②及び③の業務懈怠の事実を否認して、E から指示された業務を行っていた旨供述するところ、E とXとの間のLINE のやりとりの証拠によれば、XがE からLINE で指示されて業務を遂行している状況をうかがうことができる一方、Y社が主張するようなXの業務懈怠を指摘する箇所は見当たらず、Y社はその主張事実を裏付ける的確な証拠を提出できていない。
さらに、Xは、Y社が主張する上記④の無断早退等について、E の了解を得ている旨反論するところ、LINE のやりとりの証拠によれば、Xが、平成29年9 月20 日(本件解雇の二日前)、E に対し、LINE で「9 月22 日午後1 時子供の学校からの呼び出しがあり、学校にいきます。9 月26 日午後2 時に国土交通省の石井大臣秘書に挨拶に行くことになりました。いずれも終わり次第戻ります。社長も国土交通省に行きますか?紹介します。」などと送信し、E が、翌21 日、「E 回答、了解です」と回答していること(Eは「了解」は仕方がないという意味である旨弁解するが了承するという意味と解するのが自然というべきである。)から、Xには早退等について上司であるE に相談して許可を得るなどの常識的な就労態度がうかがえるといえ、Xの上記反論に整合的な証拠があると評価でき、証拠によればXのタイムカードに手書きの部分があると認められるが、だからといって手書き部分が虚偽で許可なく早退したと評価することはできず、Y社はこれら評価を覆してその主張を裏付ける的確な証拠を提出できていない。
加えて、Xは、Y社が主張する上記⑤探偵業について本件雇用契約期間中に関わった事実が一切ない旨反論するところ、Y社は、その主張する根拠として、「X 探偵事務所 所長X」などと記載された名刺を証拠として提出するのみで、Xが本件雇用契約の期間中に探偵業に関わった事実を認めるに足りる証拠を提出できていない。
したがって、Y社が主張する「試用期間中または試用期間満了時までに、従業員として不適格と認められた場合」に当たる事実は、いずれも認められないから、本件解雇は、客観的に合理的な理由及び社会的相当性を欠くものであって、無効であったというべきである。そして、このような本件解雇の無効及び本件解雇に至る経緯等を踏まえると、本件解雇自体が権利濫用に該当する違法なものであり、不法行為に当たる。

(3)Y社代表者の言動
Xは、本件嫌がらせ行為があったとしてこれが不法行為に当たる旨主張するところ、E は、平成29 年9月中旬ころより、Xに対し、執務場所を制限するなどXの労働を制限する言動をしたと認められるが、平成29 年9 月22 日には即時解雇する意思表示をしていて、E の言動に関する期間が短期であることなどに照らすと、本件解雇について不法行為が成立することに加え、E の上記言動自体を独立の不法行為と評価するに足りる事実(故意・過失及び違法性に係る事実)を認めるに足りる証拠はないというべきである。
したがって、Y社代表者の言動は、不法行為に当たる本件解雇の経緯に止まり、それ自体は不法行為に当たらない。

(4)本件解雇の損害額
本件解雇は無効であるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Xは、平成29 年9 月22 日、Y社代表者であるE から本件解雇の意思表示をされて、その場で、本件雇用契約に基づくY社の指揮命令下で就労する意思を喪失したと認められる。本件解雇の意思表示を受けた3 日後である平成29 年9 月25 日ころ、Y社から外部社員として働く話を提示されて協議に応じる態度を示してE が消極的態度に転じたことにより契約締結に至らないままになった経過は、上記認定を左右するものではない。そうすると、本件雇用契約は、本件解雇及びその後のXの就労意思の喪失により終了したと認められ、これにより、XのY社に対する本件解雇翌日以降の賃金請求権も消滅し、Xは、本件解雇という不法行為によって本来得られたはずの賃金請求権を喪失したことになる。
そして、Xは、その年齢及び障害から、Y社に就職するまで就職活動で苦労してきたものであり、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件解雇後2 年以上にわたり再就職先を見付けることができなかった事実が認められるものの、Xの本件解雇(即時解雇)に至るまでのY社における就労期間は約1 か月で試用期間(2 か月)中であったこと、解雇予告手当に係る請求が別途認容されることなどの事情も踏まえると、本件解雇と相当因果関係のあるXの逸失利益は賃金(月35 万円)の3 か月分である105 万円の限度で認めるのが相当である。
また、上記で認めた逸失利益に加えて、慰謝料を別途認めるまでの事情はないというべきである。そして、本件解雇と相当因果関係のある弁護士費用は10 万円の限度で認めるのが相当である。したがって、本件解雇の損害額は、115 万円と認める。

(5)小括
よって、Y社は、Xに対し、上記115 万円及びこれに対する本件解雇の日である平成29 年9 月22 日から支払済みまで改正前民法所定の年5 パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。

争点2(省略)

争点3 解雇予告手当及び付加金の有無等について

(1)解雇予告手当
Y社は、Xに対し、平成29 年9 月22 日に即時解雇する意思表示をしていることから、平均賃金30 日分の解雇予告手当の支払義務を負う。この点、Y社は、即時解雇に固執しないとして解雇言渡しから1 か月の経過時点で解雇の効力が生じたから解雇予告手当の支払義務を負わないと主張している。
しかし、Y社は、Xに対し、平成22 年9 月22 日に即時解雇の意思を表示して直ちに退社させ、その後も、外部社員という形での提案をしたことはあっても、本件雇用契約に基づく労務の提供を受け入れる意思を表明した事実を認めるに足りる証拠は存しない。
この点、Y社はXに本件通知書を発送してXが平成29 年10 月3 日ころに受領しているが、本件通知書記載の「雇用契約解除日」は平成29 年9 月27 日であることから、Y社が本件雇用契約に基づく労務の提供を受け入れる意思を表明した文書と評価することは到底できない。
したがって、Y社の主張する上記時点で解雇の効力が生じたと解した場合、Xが労務を提供できないことについてY社の責めに帰すべき事由があったといえ、民法536 条2 項によりXは30 日分の賃金請求権を失わないことになるが、Y社は、本件訴訟の口頭弁論終結に至るまで、この賃金支払意思を示していない。そうすると、本件解雇の効力発生時期をいかに解するかにかかわらず、Y社がXの解雇予告手当支払請求を拒むことは許されないと解するのが相当というべきである。
そして、解雇予告手当の額について、本件は、雇入から3 か月に満たないで解雇となっていることから、労働基準法12 条6 項により、雇入後の期間の平均賃金を算出すべきことになるが、本件解雇直前の賃金締切日より計算すると一賃金算定期間(1 か月を下らない期間)に満たなくなる場合に当たるから、雇入日(平成29 年8 月21 日)から本件解雇の前日(平成29 年9 月21 日)まで全期間を算定すると解すべきであり、これを前提に計算すると、上記期間の総賃金が43 万1818 円(=8 月分14 万5454 円+9 月分〔21 日・木曜日まで〕28 万6364 円〔≒35 万円÷22 日の18 日分、1 円未満四捨五入〕)であり、上記期間の総日数が32 日であることから、平均賃金は1 万3494 円31 銭(1 銭未満切捨)となり、本件解雇における解雇予告期間は0 日であるから、解雇予告手当は40 万4829 円(≒1 万3494 円31 銭×30 日、1 円未満四捨五入)となる。
そうすると、Xの請求する解雇予告手当の額(39 万6693 円)は、40 万4829 円を超えないから、Xの解雇予告手当支払請求は、その請求額の限度で認容することができ、Y社は、Xに対し、上記39 万6693 円及びこれに対する本件解雇の日の翌日である平成29年9 月23 日から支払済みまで改正前民法所定の年5 パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。

(2)未払賃金の遅延損害金
Y社は、賃金残額(16 万8184 円)のうち1 万4927 円の未払を認めるに至ったものの弁済しないままとし、その余について債務の存在を争っている。そして、Y社の主張及び立証をみるに、Y社は合理的な理由をもって賃金残額に係る債務の存在を争っていると認めることはできない。
したがって、Y社のXに対する上記賃金残額支払債務について、賃確法6 条2 項を適用することはできず、Y社は、Xに対し、同条1 項に基づき、上記債務につき解雇月賃金の支払日(解雇翌月末日)の翌日である平成29 年11 月1 日から支払済みまで年14.6 パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。

(3)解雇予告手当に係る付加金
Y社が解雇予告手当の支払を拒み続ける合理的根拠がないこと仮に本件解雇の意思表示の日から30 日後まで雇用契約が継続したと仮定してみても民法536 条2 項により効力発生時までの賃金支払義務があるというべきところその賃金支払の意思も全く示していないことY社が即日解雇である本件解雇の意思表示をした後で同意思表示の内容と異なる本件通知書をX宛発送して本件通知書の記載内容をY社に有利に解して解雇予告手当の支払義務を争っていること、その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、解雇予告手当の認容額全額に相当する39 万6693 円の付加金の支払を命ずるのが相当である。
したがって、Y社は、Xに対し、上記39 万6693 円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3 パーセントの割合による遅延損害金の支払義務を負う。

4.解説

解雇予告手当を支払わずに行った解雇の効力について、最高裁判例細谷服装事件 最二小判昭和35.3.11民集14巻3号403頁)は、会社が即時解雇に固執している場合は無効、そうでない場合は、30日の解雇予告の期間が経過した日または定められた解雇予告手当を支払った日に解雇の効力が生じるという、いわゆる「相対的無効説」を取っています。
労働者の保護を欠くものとして批判が多い判例ですが、本件もこの見解に拠り、即時解雇に固執しているとして無効としています。
なお、労働基準法20条1項は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」としていますが、30日前に予告することの意義は、解雇日までの30日間の所定労働日は労務提供を受けて、その間の賃金を支払うことです。
従って、少なくとも労働者に労務提供をする意思があるのなら会社は受入れる必要があり、本件のように、職場から締め出したりすると即時解雇に固執していると受け取られます。
また、本件では、「雇用契約解除日」(解雇日)が平成29 年9 月27 日である文書を同年10月3日頃にY社はXに渡していますが、これでは9月27日から同年10月3日の労務提供が不可能なことが明らかなため、「本件雇用契約に基づく労務の提供を受け入れる意思を表明した文書と評価することは到底できない。」とされています。