社会保険労務士川口正倫のブログ

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最低賃金の減額の特例許可制度の概要

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最低賃金の減額の特例許可制度のご案内

一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、特定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
昨年の暮れに、この最低賃金の減額の特例許可申請についてのパンフレットが新しくなりましたので、概要をご案内します。
なお、パンフレットや許可申請の書式はこちらのリンクをご確認ください。
最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領|厚生労働省

最低賃金の減額の特例制度の概要

次の4つの特例制度があります。

①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
②試の使用期間中の者
③基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者
④軽易な業務に従事する者
⑤断続的労働に従事する者

各制度の概要

①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者

(1)趣旨
精神又は身体の障害があることのみを理由に減額特例の許可を行うものではなく、それらの障害が原因で、就労しようとする業務を行う能力が著しく低い場合に限り許可されます。

(2)許可の基準
・精神又は身体の障害がある労働者であっても、当該労働者に従事させようとする業務の遂行に直接支障を与える障害があることが明白でない場合は許可されません。
・当該業務の遂行に直接支障を与える障害があることが明白な場合であっても、その支障の程度が著しい場合に限り許可されます。
(ここでいう「支障の程度が著しい場合」とは、当該労働者の労働能率の程度が当該労働者と同一又は類似の業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するものの労働能率の程度にも達しないものを意味します。)

(3)「精神又は身体の障害」の有無の判断
「精神の障害」としては、精神障害又は知的障害が、また、「身体の障害」としては身体障害者福祉法施行規則別表第5号(第5条関係)の「身体障害者障害程度等級表」に掲げられている障害を有する場合が許可の対象となり得ます。また、これらに該当しない「精神又は身体の障害」についても、障害の程度が前者と同等程度の障害であることが認められる場合であってそれが原因となって従事する業務に直接著しい支障を与えることが明白な場合は、許可の対象となることもあり、個々の実態に応じて判断されます。
なお、高齢労働者等にみられる加齢による心身の衰えについては、「精神又は身体の障害」には該当しません。

②試の使用期間中の者

(1)趣旨
本採用をするか否かの「試の使用期間中の者」は、その事業又は職業に必要な知識や技能等が十分とは言えず、他の労働者と比較して十分な労働成果が期待されないことから、減額特例の許可の対象とされています。
ただし、これらの者は、試験的な期間の終了後は当然に本採用へ移行して一般の労働者とほぼ同様の労務を提供することが予定されていることから、単に試の使用期間であるというだけで許可されるものではなく、「当該業種、職種等の実情に照らして必要と認められる期間」に限定して許可されます。

(2)許可の基準
・試の使用期間とは、当該期間中又は当該期間の後に本採用をするか否かの判断を行うための試験的な使用期間であって、労働協約就業規則又は労働契約において定められているものをいい、その名称の如何を問わず、実態によって判断されます。
・ 当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間に限定して許可され、その期間は最長6か月が限度とされています。

(3)「試の使用期間中の者」の判断
「試の使用期間中の者」とは、次のすべての要件を満たしている者をいいます。
・試の使用期間の後に本採用が予定されていること。すなわち、試の使用期間後にそのまま本採用に自動的に移行する場合もあれば、本採用の契約を新たに締結する場合もありえるが、試の使用期間のみが定まっていて当該期間の経過後の扱いがどうなるかが明確でないものは、試の使用期間ではないこと。
・試験的な使用期間であること。すなわち、試の使用期間中又はその満了後に、使用者が本採用するか否かを決定し、不適格の場合には解雇し得ることとなっている、いわば労働者の身分が不安定な時期であること。

(4)「当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間」の判断
「当該業種、職種等の実情に照らし必要と認められる期間」とは、次のいずれかの要件を満たす場合において、その実情に照らし必要と認められる期間で、最長6か月が限度とされています。
・当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること。
・当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者に比較して、試の使用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在するなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること。
なお、上記の「当該地域」とは、最低賃金の減額特例の許可を受けようとする最低賃金が設定されている地域のことであり、単に申請事業場周辺の限られた地域をいうものではないことに留意すること(例:東京都最低賃金が適用される地域においては、「当該地域」は「東京都」となること。)。

③基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者

(1)趣旨
職業能力開発促進法第24 条第1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であって厚生労働省令で定めるもの」(以下「認定職業訓練を受ける者」という。)は、その作業が訓練の一部であることから、必ずしも十分な労働成果が期待されず、一律に最低賃金額を適用すれば、訓練、ひいては雇用の機会を阻害するおそれがあることから、これを減額特例の許可の対象とされているものです。

(2) 認定職業訓練を受ける者の判断
職業能力開発促進法第24 条第1項の認定を受けて行われる職業訓練には、普通職業訓練及び高度職業訓練があり、これらの訓練課程を区分すると次の表のとおりです。
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そのうち、許可の対象となる訓練生である労働者は、職業能力開発促進法施行規則(昭和44 年労働省令第24 号)第9条に定める
① 普通課程の普通職業訓練
② 短期課程(職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させるためのものに限る)の普通職業訓練
③ 専門課程の高度職業訓練
を受ける者であって、「職業を転換するために当該職業訓練を受けるもの以外のもの」のみに限られています(則第3条第1項)。

・いわゆる見習工、養成工等として訓練を受けている者であっても、認定職業訓練を受ける者でなければ、許可の対象とはなりません。

④軽易な業務に従事する者

(1)趣旨
「軽易な業務に従事する」労働者とは、一般労働者の従事する業務と比較して特に軽易な業務に従事する者のことをいいます。このような労働者に一般労働者に適用される最低賃金額を適用することとすると、これらの労働者の雇用の機会が阻害され、かえって労働者に不利な結果を招くおそれがあることから、減額特例の許可の対象とされています。
したがって、業務それ自体が軽易である場合に、減額特例の許可を認めようとする趣旨ではありません。

(2)許可の基準
軽易な業務に従事する者として法第7条の許可申請の対象となる労働者は、その従事する業務の負担の程度が当該労働者と異なる業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度と比較してもなお軽易である者に限られます。
なお、常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者は、軽易な業務に従事する者に該当します。

(3)「軽易な業務に従事する者」について
ア 業務の進行や能率についてほとんど規制を受けない物の片付け、清掃等の本来の業務には一般的に属さない例外的なごく軽易な業務であって、かつ、当該事業場において従事する労働者数が極めて少数である業務に従事する労働者がこれに該当するものであること。
イ 特定最低賃金では、一定の「軽易な業務」を定め、当該業務に従事する者について当該特定最低賃金の適用を除外しているが、この場合の「軽易な業務」に従事する者と則第3条第2項の「軽易な業務に従事する者」とは同一のものではありません。
ウ当該業務が上記アの軽易な業務に該当する場合であって、次の(ア)から(オ)までに掲げるすべての項目に該当するときは許可の対象となり得ます。なお、これらの項目に該当するか否かについては、個々の事案の実情により総合的に判断するものとし、拡大解釈して適用されません。
(ア) 通常の労働者が本来業務として行う業務に専ら従事するものではないこと。
「本来業務」とは、例えば、縫製工場のミシン工、電機工場の組立工、小売店の販売員等であること。
(イ) 業務の内容が他の労働者に比べてごく軽易であること。
例えば、次に掲げる業務が該当すること。
a 倉庫、駐車場、事務所等における物品等の監視、電話受付、伝票受付等の業務
b 事務所内の植物の手入れ、家庭用電気掃除機又は簡単な用具を用いて行う清掃又は片付け等の業務
c 手工具による簡単な加工の業務
d aからcまでの業務を時間帯に応じ、又は気がついた都度、交互に行う業務
(ウ) 業務の進行及び能率について、ほとんど規制を受けていないこと。
(エ) 当該事業場に他に同種の労働者がほとんどいないこと。
(オ) 拘束時間が9時間以内であること。

エ 「常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者」の判断
「常態として身体又は精神の緊張の少ない監視の業務に従事する者」とは、労働基準法第41 条第3号に規定する「監視に従事する者」と同義とされています。ただし、当該軽易な業務と異なる業務に従事する労働者であって、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なものの当該負担の程度に対しても、なお、当該軽易な業務に従事する者の業務の負担の程度が下回るものである場合に、許可の対象となります。
つまり、監視の業務に従事する者が、労働基準法第41 条第3号に該当し、同法の労働時間等に関する規定の適用除外許可を受けていたとしても、法第7条の減額特例の許可を自動的に受けられるものではなく、許可申請に基づき調査を行った結果、許可の可否が判断されます。

⑤断続的労働に従事する者

(1)趣旨
「断続的労働に従事する者」とは、労働基準法第41条第3号に規定する「断続的労働に従事する者」と同意であり、常態として作業が間欠的に行われるもので、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行われ、また中断するというように繰り返されるもののことであり、労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ないものが該当します。
このような断続的労働は、実作業時間と手待ち時間とが繰り返されて一体として成り立っている労働形態であり、手待ち時間が多く実作業時間が少ない労働に従事する者について減額特例の許可を認めないこととすると、これらの労働者の雇用の機会が阻害され、かえって労働者に不利な結果を招くおそれがあることから、断続的労働を減額特例の許可の対象とされています。
なお、減額対象労働者の賃金を考えるに当たっては、労働者保護の観点及び実作業時間割合の異なる他の断続的労働に従事する者との公平性の観点から、実作業時間と手待ち時間の割合に応じて減額率を算定されます。

(2)「常態として作業が間欠的である」等の判断
・ 「常態として作業が間欠的である」とは、労働時間中の実作業時間と手待ち時間が交互に繰り返されることが常態であり、本来継続的に作業するものであるにもかかわらず、労働の途中に休憩時間、手待ち時間を何回も入れるなど人為的に断続的な労働形態を採用したものは該当しません。
したがって、労働時間中の実作業時間と手待ち時間が交互に繰り返されない場合又は人為的に断続的な労働形態を採用した場合は、許可されません。
・許可対象となる労働者は、断続的労働に従事しているだけではなく、「労働時間中においても手待ち時間が多く実作業時間が少ないもの」であることが必要であり、所定労働時間を基礎として、手待ち時間と実作業時間の折半の程度まで許可され得ます。