社会保険労務士川口正倫のブログ

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日本郵便(東京)事件(最判小一令2.10.15引用元裁判所HP)

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日本郵便(東京)事件(最判小一令2.10.15引用元裁判所HP)

1.事件の概要

本件は、郵便事業を営むY社と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務している時給制契約社員であるXらが、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)とXらとの間で、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期休暇及び冬期休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)等に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をする事案である。

2.判決の要旨

年末年始手当と病気休暇について

1.原審は、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員であるXらに対してこれを支給しないという労働条件の相違及び私傷病による病気休暇として、上記正社員に対しては有給休暇を与えるものとする一方で、上記時給制契約社員であるX2に対しては無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違について、いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。所論は、原審のこの判断には同条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。

2.(1) 年末年始勤務手当について
Y社における年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると、郵便の業務を担当する正社員と時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(2) 病気休暇について
ア 有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載 日本郵便(佐賀)事件)。

イ Y社において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、Y社においては、時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、正社員と時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

3.以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、いずれも正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。なお、その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定において排除された。

夏期冬期休暇について

1.原審は、郵便の業務を担当する正社員に対しては夏期冬期休暇を与える一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してはこれを与えないという労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たり、Y社が上記相違を設けていたことにつき過失があるとした上で、要旨次のとおり判断し、Xらの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求を棄却した。
Xらが無給の休暇を取得したこと、夏期冬期休暇が与えられていればこれを取得し賃金が支給されたであろうこととの事実の主張立証はない。したがって、Xらに夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえない。

2.しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

Y社における夏期冬期休暇は、有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ、郵便の業務を担当する時給制契約社員であるXらは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。当該時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは、上記損害の有無の判断を左右するものではない。
したがって、郵便の業務を担当する時給制契約社員であるXらについて、無給の休暇を取得したなどの事実の主張立証がないとして、夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえないとした原審の判断には、不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

3.以上によれば、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうちXらの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。なお、その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定において排除された。

結論

以上のとおりであるから、原判決中、Xらの夏期冬期休暇に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、損害額について更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すとともに、Y社の上告及びXらのその余の上告を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。