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外国人技能実習生の実習実施者に対する平成31年・令和元年の監督指導、送検等の状況

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外国人技能実習生の実習実施者に対する平成31年・令和元年の監督指導、送検等の状況

厚生労働省から、全国の労働局や労働基準監督署が、平成31年・令和元年に外国人技能実習生(以下「技能実習生」)の実習実施者(技能実習生が在籍している事業場。)に対して行った監督指導や送検等の状況について公表されました。

平成31年・令和元年の監督指導・送検の概要

■ 労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場(実習実施者)のうち6,796事業場(71.9%)。

■ 主な違反事項は、(1)労働時間(21.5%)、(2)使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)、(3)割増賃金の支払(16.3%)の順に多かった。

■ 重大・悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは34件。

監督指導の状況

全国の労働基準監督機関において 、 実習実施者に対して9,455件の監督指導 実施 し、その71.9%に当たる6,796件 で労働基準関係法令違反が認められました。
<注>違反は実習実施者に認められたもの 、 日本人労働者に関する違反も含まれています。

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詳細はこちらのリンクをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13980.html


以下、事例を抜粋します。

監督指導の事例

事例1 36協定の上限を超えた違法な時間外・休日労働の解消や医師による面接指導の実施等を指導

(概要)
・自動車部品を製造する事業場において、技能実習生を含む9名の労働者に対して、36協定※で定めた上限時間を超えて、月100時間を超える違法な時間外労働(最長者は月115時間)を行わせていた。(※時間外・休日労働に関する協定のこと。以下同じ。)
・月80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対し、医師による面接指導を実施することとしていたが、全労働者について実施していなかった。
技能実習生に金属のアーク溶接等の粉じん作業を日常的に行わせていたが、①粉じん作業の上限時間である1日2時間を超えて時間外労働を行わせていた、②防じんマスクを使用させていなかった、③じん肺健康診断を実施していなかった。

(指導内容)
1.36協定の上限時間を超えた違法な時間外労働を行わせていたため是正勧告した。また、過重労働による健康障害防止対策として時間外・休日労働時間の削減を併せて指導した。

【指導事項】
労働基準法32条違反(労働時間)、時間外・休日労働の削減

2.月80時間を超える時間外・休日労働を行わせた場合は、医師による面接指導の速やかな実施に努めるよう指導した。

【指導事項】
医師による面接指導の実施

3.粉じん作業に関して、①時間外労働を労働基準法の上限(1日2時間)以下とすること、②作業時には防じんマスクを使用させること及び③じん肺健康診断を実施することについて是正勧告した。

【指導事項】
労働基準法第36条第6項第1号違反(有害業務)、労働安全衛生法第22条第1号・粉じん障害防止規則第27条第1項違反(呼吸用保護具の使用)、じん肺法第8条第1項第1号違反(じん肺健康診断)

(指導の結果)
・ 違法な時間外・休日労働を解消するとともに、①労働時間の実績を日々確認し、長時間労働となる可能性を早期に把握した上で時間外・休日労働の抑制を図る、②取引先に対して、余裕を持った納期設定について協力を要請する等の対策により、長時間労働を削減した。
・ 時間外・休日労働が月80時間を超えた技能実習生については、母国語で医師による面接指導を実施した。
・ ①粉じん作業については、工場内の作業を見直して、1日の時間外労働を2時間以内とした。②防じんマスクの着用を徹底するよう指導し、管理者によるパトロールの際のチェック項目とした。③じん肺健康診断を実施し、未実施者を出さないよう、チェックリストによる受診状況の管理体制を確立した。

事例2 情報に基づいて夜間の内偵を実施し、賃金不払残業の是正を指導

(概要)
・縫製業の事業場について、賃金不払残業に係る情報に基づき、10日間にわたって夜間内偵を実施し、連日午後9時頃まで作業場の照明が点灯している状況を確認した。
・後日、立入調査を実施したところ、記録上は、時間外労働や割増賃金についても法違反は認められず、事業主は記録以上の時間外労働の存在を否定した。このため、内偵により確認した事実を事業主に示して追及したところ、終業時刻後に行わせている製品の手直し作業の労働時間を把握せず、割増賃金も支払っていない事実を認めた。
技能実習生からヒアリングしたところ、過去2年間にわたって同様の状況であったことを確認した。

(指導内容)
1.不払となっていた割増賃金について支払うよう是正勧告した。

【指導事項】
労働基準法第37条第1項違反(割増賃金の支払)

2.「労働時間適正把握ガイドライン※」に基づいて、労働時間を適正に把握するよう指導した。(※「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」のこと。)

【指導事項】
労働時間の適正把握

(指導事項)
技能実習生全員(11名)に対して、不払となっていた割増賃金(過去2年分)総額約60万円が支払われた。
・労働時間は、自己申告の日報からタイムカードによる方式に改め、客観的に労働時間を把握することとなった。

事例3 労働災害の発生を端緒に監督指導を実施し、再発防止対策を指導

(概要)
・水産食料品製造業の事業場において、技能実習生が作動中のスライサーに詰まった材料を取り除くため、材料投入口に右手を入れたところ、刃部に接触し指を骨折する労働災害が発生した。
・スライサーを停止させて材料を取り除くべきであったが、作業手順書が作成されておらず、技能実習生に対する作業の安全に関する教育も行われていなかった。

(指導内容)
1.機械の掃除や調整を行う際は、当該機械の運転を停止するよう是正勧告した。

【指導事項】
労働安全衛生法第20条第1号・労働安全衛生規則第107条(掃除等の場合の運転停止等)

2.作業手順書を作成し、技能実習生に作業の安全に関する教育をするよう指導した。

【指導事項】
作業手順の周知

(指導の結果)
技能実習生の母国語による作業手順書を作成して安全教育を実施するとともに、当該スライサーの材料投入口に日本語と母国語で表記した注意喚起のシールを貼付する等により、掃除や調整を行う際の機械の運転停止を徹底した。


申告の事例

事例

(概要)
・縫製業の事業場について、技能実習生から「割増賃金の支払が不足している」、「定期賃金の一部が支払われていない」との申告がなされた。
・調査を実施したところ、労働時間は自己申告制で把握されていたものの、8名の技能実習生について、月80時間を超える時間外労働に対する割増賃金が時間額450~600円で支払われ、深夜労働及び休日労働に対する割増賃金は全く支払われていない、また、定期賃金の一部を「帰国時に支払う」としていた結果、所定支払日に支払われた賃金が最低賃金を下回る状況が認められた。

(指導内容)
1.法定の割増率(時間外労働及び深夜労働は25%、休日労働は35%)以上で割増賃金を計算し、不足額を支払うよう是正勧告した。

【指導事項】
労働基準法第37条第1項・第4項違反(割増賃金の支払)

2.不払となっている定期賃金を支払うよう是正勧告した。

【指導事項】
最低賃金法第4条第1項違反(最低賃金額以上の支払)

(指導の結果)
技能実習生8名に対して、不払となっていた割増賃金(過去2年分)及び定期賃金の不足額、総額約780万円が支払われた。


送検の事例

事例1

外国人技能実習機構との合同監督を端緒に捜査に着手し、割増賃金の不払等の疑いで送検

(捜査の経過)
・金属製品製造業の事業場について、技能実習計画にない業務を無給で行わせている疑いがあったため、外国人技能実習機構と合同で立入調査を実施。技能実習生3名に対して、始業時刻前に、技能実習計画にない小売店の清掃等の業務を行わせ、その労働時間に対する賃金を支払っていない疑いが認められた。
・捜査の結果、①始業時刻前に小売店の清掃等を行わせた時間(時間外労働)について、技能実習生3名に対して、およそ1年間にわたって割増賃金(総額約26万円)を支払っていないこと、②終業時刻後に36協定の上限時間を超える時間外労働(最長で月約77時間)を行わせるとともに、技能実習生について実際よりも短い虚偽の労働時間記録を作成し、時間外労働を隠蔽していたことが明らかとなった。

(被疑事実)
実習実施者(法人)及び事業主について

1.割増賃金の一部を支払わなかったこと。

【違反条文】
労働基準法第37条第1項(割増賃金の支払)

2.36協定の上限を超えて、時間外労働を行わせたこと。

【違反条文】
労働基準法32条第1項・第2項(労働時間)

3.実際の時間外労働時間数、深夜労働時間数、割増賃金額を賃金台帳に記入しなかったこと。

【違反条文】
労働基準法第108条(賃金台帳)

事例2 申告を端緒に捜査に着手し、賃金不払、虚偽報告等の疑いで事業主を逮捕・送検

(捜査の経過)
・縫製業の事業場(個人経営)について、技能実習生の申立や、関係者から提出された事業主の発言を録音したデータから、①基本給が時間額換算450円であり最低賃金を下回っていること、②時間外労働に対する賃金が法定の割増率(25%)を下回る時間額500円であることが疑われた。
・事業主に対して、実際の賃金支払状況を報告するよう命令したところ、事業主から虚偽の賃金台帳が提出され、賃金不払はない旨の報告がなされたため、捜索・差押を実施するなど捜査を進めたところ、実際の賃金支払状況を記載した帳簿を発見し、上記①及び②の事実が客観的に明らかとなった。
・しかし、事業主は依然として「賃金不払はない」との供述を続けたことから、罪証隠滅のおそれがあると判断し、事業主を逮捕した上で送検した。

(被疑事実)
事業主について

1.最低賃金額以上の賃金及び法定の割増賃金を支払っていなかったこと。

【違反条文】
最低賃金法第4条第1項(最低賃金額以上の支払)、労働基準法第37条第1項・第4項(割増賃金の支払)

2.36協定の上限を超えて、時間外労働を行わせたこと。

【違反条文】
労働基準法32条第1項・第2項(労働時間)

3.労働基準監督署長の報告命令に対し、虚偽の報告をしたこと。

【違反条文】
労働基準法第120 条第5号(虚偽報告)

事例3 足場の組立て等作業主任者を選任せず足場の解体作業を行わせたことにより送検

(捜査の経過)
・住宅の外壁改修工事において、高さ3.8メートルの足場上で足場の解体作業を行っていた技能実習生が地面に墜落し、死亡する労働災害が発生した。
・捜査の結果、足場の解体作業を行うに際し、足場の組立て等作業主任者が選任されておらず、安全に作業が進行しているかの監視がなされていなかったことが明らかとなった。

(被疑事実)
・実習 実施者 法人 及び事業主について
高さ5メートル以上の足場の解体作業を行わせるに当たり、 足場の組立て等作業主任者を選任していなかったこと。

【違反条文】
労働安全衛生法第14条作業主任者

その他

技能実習生の労働条件の確保を図るため、労働基準監督機関では、出入国管理機関・外国人技能実習機構との間で、その監督等の結果を相互に通報しており、労働基準監督機関から出入国管理機関・外国人技能実習機構へ通報した件数は417件、出入国管理機関・外国人技能実習機構から労働基準監督機関へ通報された件数2,501件だそうです。
送検の事例の下線部は、私が考える、悪質であると判断された理由です。事例1は、単に賃金不払いであっただけではなく、技能実習の目的と関係ない業務をさせています。技能実習制度は、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することが目的ですので、本人の同意があったのかどうはわかりませんが、技能実習に関連の無い業務をさせたことが悪質と判断されたものと思われます。また、事例2は、虚偽の報告を行っている点が悪質であると判断されたもので、正しい報告をしていれば送検までにはならなかったと思われます。これは、技能実習生を対象とした調査や監督指導に限ったことではありませんが、法令違反をしていたとしても調査や指導自体を妨害するような行為は悪質と判断されます。(詳細はこちらを参照 労働基準監督署による調査の概要 - 社会保険労務士川口正倫のブログ)なお、「労働基準監督官行動規範」にもあるように、法令違反が発覚した場合であっても、まずはアドバイスや指導がなされますので、事業主が自主的に改善して解決するケースがほとんどです。
事例3は、労災事故が発生したことに伴うもので、事例1や事例2とは性質が異なります。事故が発生しなければ、「足場の組立て等作業主任者を選任していなかった。」ことだけで送検されるようなことにはならなかったでしょうが、死者が出るような重大な労災事故となると、ちょっとした違反でも送検されることがあります。もし、不幸にも被災者が死亡もしくは重体となっていたら、上記の監督指導の事例・事例3でも送検となったでしょう。なお、このようなケースでは、業務上過失致死や業務上過失傷害といった刑法に基づいた、警察による捜査も行われます。