社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【有給休暇】日本エイ・ティー・エム事件(東京地判令2.2.19労経速第2420号23頁)

日本エイ・ティー・エム事件(東京地判令2.2.19労経速第2420号23頁)

1.事件の概要

Xは、平成28年7月、Y社に契約社員として雇用され、Y社のオペレーションサービス事業本部に配属され、コールセンター(以下「本件事業場」という。)において、キャッシュカード、通帳等の紛失盗難届の電話受け付け等の業務を担当していた。
平成28年11月頃、Xは、東京労働局長に対し、Y社の上長から扇風機を自席に置いて使用することを認められなくなった問題について、助言・指導を申し出て、Y社は、東京労働局から指導を受け、本件事業場の従業員に対し、扇風機の使用方法についてアンケートを実施した(以下「本件アンケート」という。)。本件アンケートの実施後、本件事業場における扇風機の取扱いについて変更はなかった。
平成29年3月下旬、Xは、上長から、仮の評価として評価シートを手渡され、契約満了を検討する結果となったことを告げられた。
平成29年3月下旬、Xは、上長から、評価は変えないが、同年4月1日から8月8日までの4か月だけ契約を更新するので改善するように告げられ、契約社員雇用契約書を交付された。これについて、Xは、交付された同契約書に署名押印してY社に提出することはなかった。
平成29年3月末頃、Xは、Z2センター長に対し、同年4月8日から同月30日まで休みたい旨を伝え、この点について了承された。Xは、同月30日までの間について、11日間の有給休暇を申請した後、同月7日、職場移転のため、入館証の返還を求めたZ2センター長との間で改めてXの評価についてやりとりをした。
Xは、平成29年4月8日以降、出勤しておらず、同月30日、Y社を退職した。
その後、Xが、Y社に対し、年次有給休暇を取得した際に支払われるべき賃金に未払いがある旨主張して、雇用契約に基づく賃金支払請求として、合計9万円余の支払等を求めて提訴したのが本件である。

【XとY社の雇用契約の概要】

・契約期間
期間の定あり(平成28年7月1日から平成29年3月31日まで)

・勤務日及び休日
勤務時は原則週5日とし、前月15日までに翌月の勤務日を本人に通知する。休日は原則週2日とする。

・賃金
時給(税込):1442円

時間外手当:1時間当たりの単価=時給×1.3(1日当たり7時間45分を超えて勤務した場合)

深夜勤務手当:1時間に対する手当=時給×1.3(午後10時から午前5時まで勤務した場合)

シフト勤務手当:900円/1回(12:00~14:59の間に勤務し、7時間45分以上の勤務実績がある場合)

日曜・祝日勤務手当:2800円/1回(フルタイム勤務の基準を満たし、7時間45分以上の勤務実績がある場合)

年末年始手当:
12/30、12/31 2500円
1/1、1/2、1/3 7500円
1/4 2500円

・賃金の支払 毎月4日締め、当月20日支払

・契約更新について
契約を更新する場合がある。また、更新後労働条件が変更される場合がある。
契約の更新は次により判断する。
 契約満了時の業務量
 契約社員の評価(勤務成績、態度・業務遂行能力)
 従事している業務の進捗状況
 その他

・Y社は、Xに対し、平成29年3月30日、上記雇用契約を更新するため、契約期間を平成29年4月1日から同月8日まで、賃金を時給1442円、勤務場所を東京代1AOCとする雇用契約書及び契約期間を同月9日から同年8月8日まで、賃金を時給1500円、勤務場所を三軒茶屋とする契約書を、いずれもY社が記名押印の上、交付した。

就業規則の有給休暇の取扱い】
Y社の契約社員就業規則第34条は、有給休暇の取扱いについて、「年次休暇または、その他の有給休暇を取得した日は、通常勤務したものとみなす。この場合の賃金は、時給に雇用契約で定める最長の勤務時間を乗じたものとする。(シフトに係る手当及び深夜勤務手当は含まない)」と規定している。

2.双方の主張

※本裁判例では、Y社の対応がXを退職に追い込んだ不法行為となるかも争点となりましたが、ここでは年次有給休暇を取得した場合に支払われるべき「通常の労働日の賃金」に、シフト勤務手当、日曜・祝日勤務手当、時間外手当及び深夜割増手当が含まれるのか、という点に争点を限定します。

【Xの主張】
(ア)Xは、別紙「未払月日」欄記載の日に有給休暇を取得したところ、Y社は、別紙「時間外労働時間・手当」欄記載の①シフト勤務手当、②日曜・祝日勤務手当、③時間外手当及び④深夜手当の支払いをしていないから、Xに対し、未払賃金として合計9万円952円を支払う義務がある。
(イ)就業規則に「シフトに係る手当及び深夜割増手当は含まない」旨の定めがあるとしても、当該規定が労働基準法に反する場合、当該規定は無効である。
労働基準法(以下「労基法」という。)39条7項の定める「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」の解釈が問題となるが、Xが請求する未払賃金は、所定労働時間に勤務した場合に支払われるべき賃金相当額であり、所定労働時間外の労働に対して支払われる賃金は含まれていない。「臨時に支払われた賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの、及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、非常に稀に発生するもの」(昭和22年9月13日基発17号)をいうとされており、シフト手当といった雇用契約書や就業規則に定められた手当はこれに該当しない。
また、年次有給休暇を抑制するような、年次有給休暇を取得したことを理由とした賃金の減額その他不利益な取扱いは許されないが、Y社の主張によれば、年次有給休暇を取得した方が得られる賃金が少なくなることにより、年次有給休暇の取得を抑制する効果を有するから、このような取扱いは違法であり許されない。


【Y社の主張】
年次有給休暇を取得した日について、シフト勤務手当、日曜・祝日勤務手当、時間外手当及び深夜割増手当が未払いであるとのXの主張は失当である。
(ア)労基法39条7項の「通常の賃金」については、労基法施行規則25条1項1号において、「時間によって定められた賃金については、その金額にその日の所定労働時間数を乗じた金額」と規定されており、また、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金には臨時に支払われた賃金、割増賃金の如く所定時間外の労働に対して支払われる賃金等は算入されないものであること」(昭和27年9月20日基発675号、平成22年5月18日基発0518第1号)との通達がある。労基法37条4項は、「使用者が、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と、実際に深夜労働した場合に割増賃金を支給すべき旨を規定しているが、年次有給休暇を取得した場合には実際に深夜労働しているわけではないため、深夜割増賃金の支給は不要であることは文言上明らかである。
これらの解釈に基づき、Y社は、契約社員就業規則第34条において、年次有給休暇を取得した場合には「通常勤務したものとみなす」と規定し、本給部分を支給してきた。年次有給休暇取得日の賃金について、深夜(夜間)割増し、シフト勤務手当を支給しないことは勤務条件にも明記されている。

3.判決の概要

Y社の契約社員就業規則34条は、、「年次休暇または、その他の有給休暇を取得した日は、通常勤務したものとみなす。この場合の賃金は、時給に雇用契約で定める最長の勤務時間を乗じたものとする。(シフトに係る手当及び深夜勤務手当は含まない)」と定めているところ、これは、年次有給休暇を取得した場合の賃金として、労基法39条7項の「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」を支払う旨定めているものと解される。
※当たり前のことですが、就業規則の字句も、労働基準法に基づき解釈されます。就業規則労基法に日常的に接することが多い人は、就業規則に書かれた言葉の意味をほとんど無意識に労働基準法に基づき解釈するでしょうが、そうでない人にとっては全く違う意味に捉えられることがあります。私なら、「通常の賃金」と言われれば「所定労働時間」というキーワードが瞬時に頭に浮かびますが、一般的な人であれば、残業代を含めた賃金を想像するかも知れません。

そして、Xの賃金は時間制であるところ、Y社は、Xに対し、年次有給休暇を取得した場合の賃金として、労基法施行規則25条1項1号の定めるとおり、所定労働時間である8時間分の時給を支払ったことが認められる。
Xは、シフト勤務手当、日曜・祝日勤務手当、時間外手当及び深夜手当が未払いである旨主張するところ、労基法39条7項の「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」に、所定労働時間である8時間分の時給の他に、シフト勤務手当、日曜・祝日勤務手当、時間外手当及び深夜手当が含まれるか否かについて検討する。

① シフト勤務手当
シフト勤務手当は、午前12時00分から午後2時59分の間に出勤し、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり900円が支払われるものであることが認められる。そして、Xの労働時間についての勤務条件は、始業時刻が午後1時50分、終業時刻が午後10時50分、休憩時間が1時間であり、1日の所定労働時間は8時間であることが認められるから、Xが出勤し、所定労働時間勤務した場合には、必ずシフト勤務手当の900円が支払われるといえる。
そうすると、シフト勤務手当は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金に当たると解するのが相当であるから、契約社員就業規則34条が、年次有給休暇を取得した場合の賃金について、シフトに係る手当は含まない旨規定している部分は労基法に反し、XとY社との間の労働契約の内容を規律する効力を有しないと解される。
したがって、Y社は、Xが年次有給休暇を取得した場合、Xに対し、シフト勤務手当を支払わなければならないところ、シフト勤務手当は「日によって定められた賃金」(労基法施行規則25条1項2号)に当たると解されるから、その額は年次有給休暇1日当たり900円である。

② 日曜・祝日勤務手当
日曜・祝日勤務手当は、7時間45分以上の勤務実績がある場合に、1回当たり2800円が支払われるものであることが認められる。これは、日曜日及び祝日への出勤に対し一定額の補償をするとともに、日曜日及び祝日に出勤する労働者を確保する趣旨であると解されるところ、日曜・祝日という特定の日に出勤した実績があって初めて支給されるものであるといえる。日曜・祝日に年次有給休暇を取得した場合、当該休日に出勤した事実はないのであるから、日曜・祝日勤務手当は、その際に支払われる通常の賃金には当たらないと解される。
したがって、Xが、日曜・祝日に年次有給休暇を取得した場合であっても、Y社は、Xに対し、日曜・祝日勤務手当を支払う義務はない。

③ 時間外手当・深夜手当
Y社においては、7時間45分以上勤務した場合、時間外手当として1時間当たりの単価を時給×1.3とし、午後10時から午前5時までの間に勤務した場合に深夜手当として1時間当たりの単価を時給×1.3として支払うとされていることが認められるところ、時間外労働及び深夜労働に対して割増賃金を支払う趣旨は、時間外労働が通常の労働時間に付加された特別の労働であり、深夜労働も時間帯の点で負担を伴う労働であることから、それらの負担に対する一定額の補償をすることにあると解される。年次有給休暇を取得した場合、実際にはそのような負担は発生していないことからすれば、年次有給休暇を取得した場合に、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金としては、割増賃金は含まれず、所定労働時間分の基本賃金が支払われれば足りると解される。
したがって、Y社は、Xに対し、Xが年次有給休暇を取得した場合の賃金として、7時間45分を超える午後10時35分から午後10時50分までの15分の時間外手当(時給×0.3×15分)及び午後10時から午後10時50分までの50分に対する深夜手当(時給×0.3×50分)を支払う義務を負わない。

以上によれば、Xは、Y社に対し、別紙「時間外労働時間・手当」欄記載の①シフト勤務手当の合計額2万3400円(900円×26回)の支払を請求することができる。


※「シフト勤務手当」の趣旨が明らかにされていませんが、午前12時00分から午後2時59分という時間帯から想像すると、オペレーターが交代で昼休憩に入り、業務が過密になることの補償ではないかと思います。そうすると、②日曜・祝日勤務手当と同じ論法で、実際に業務が過密になるという負担が発生していないことから、支払い義務が無いという結論になった可能性が高いです。そう考えると、Y社としては、「シフト勤務手当」を支給する趣旨を契約社員就業規則に明記しておけば、シフト勤務手当の支払いを免れたかも知れません。