社会保険労務士川口正倫のブログ

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健康保険と厚生年金の標準報酬月額が異なることがある!?

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健康保険と厚生年金の標準報酬月額が異なることがある!?

先日、今年の算定基礎届の提出により決定された標準報酬月額を給与計算ソフトに入力していたところ、健康保険と厚生年金の標準報酬月額が異なる方がいました。健康保険の標準報酬月額が680千円以上の方であれば当たり前の話ですが、健康保険200千円、厚生年金190千円となっているのです。
この会社が利用している給与計算ソフトが、健康保険と厚生年金の標準報酬月額を区別せずに入力するようになっていたため、一体どうすればいいのだろうと戸惑いながらPCの画面を目にすると「70歳」という年齢が目が入り安心しました。つまり、この従業員は70歳以上になっているため、厚生年金保険料を給与から控除する必要はなく、私が給与計算ソフトに入力すべきは健康保険の標準報酬月額200千円なのです。
この月の給与計算としてはこれで進めてよさそうですが、算定基礎届のデータを確認すると、4月~6月の報酬月額の平均に適用される標準報酬月額は200千円で間違いありません。それなら、厚生年金の方は年金機構の間違いなのかと思いながら、画面の右のほうに目をやると「1.70歳以上被用者算定」の欄にチェックが入っており、「算定基礎月 6月 7月」と記入されています。これで、この人の誕生日は5月なのか?、と思いながら生年月日の欄を見ると案の定5月になっていました。

この状況を、実際の画面を用いて説明するわけにも行かないので、紙の算定基礎届を用いて記載すると次のようになります。

f:id:sr-memorandum:20201004162210p:plain

この従業員のように、算定期間中に70歳に到達する場合は、健康保険と厚生年金で算定基礎月が異なることがあります。(算定基礎関係Q&A 令和2年版 参照)
具体的には、健康保険の算定基礎基礎月は4月から6月で通常の従業員と同じですが、厚生年金の算定基礎月は70歳に到達する日(誕生日の前日)が属する月から6月となります。
厚生年金の算定基礎月は分かりにくいので、詳細に記載すると次のようになります。

誕生日:4月1日~5月1日 ⇒ 4月~6月(算定基礎月は通常と同じ)
誕生日:5月2日~6月1日 ⇒ 5月~6月
誕生日:6月2日~7月1日 ⇒ 6月のみ


これで、健康保険と厚生年金の標準報酬月額が異なる理由ははっきりしました。
とはいえ、なぜわざわざこのような扱いをするのでしょうか?。こんな煩雑な処理を止めることが行政手続の簡素化に繋がるのではないかと、私などは思うところですが、一応の理由を考えてみました。

例に挙げている令和2年5月5日で70歳の誕生日を迎える方(以下「Aさん」とします)の場合、誕生日の前日である5月4日が厚生年金の資格喪失日となるので、その月の前月である4月までは厚生年金の保険料が発生します。逆にいえば、令和2年6月以降は厚生年金保険料は発生しません。それなら厚生年金の標準報酬月額を決定する必要もないのでは?、と思うところですが、これ以降もAさんが受給する在職老齢年金(老齢厚生年金)の一部又は全部の受給停止を判定するために必要となります。60歳から70歳の間も、標準報酬月額は在職老齢年金の受給停止の判定に利用されますが、あくまでも主たる目的は保険料の算定ですから、同じ標準報酬月額といっても意味が異なります。このあたりが、私が「一応の理由」と思うところです。
また、70歳到達と同時に給料が下がるということも多いので、70歳到達を基準に分けることがより公平になるのでしょう。なお、平成31年4月1日から、従業員が70歳に到達した場合の手続が原則不要とはなりましたが、70歳到達日の標準報酬月額が到達前後で1等級でも異なる場合については「70歳以上被用者該当届(70歳以上到達届)」の提出が義務付けられている理由も、ここにあるのだと思われます。

ところで、Aさんの標準報酬月額がもし200千円であったとしても、在籍老齢年金の受給停止に影響があった可能性は少なかったでしょう。仮に賞与が年間800千円であったとしても、標準報酬月額相当額は27万円弱。65歳以上の在職老齢年金の一部停止が開始する基準が、47万円ですので、Aさんの老齢厚生年金の基本月額が20万円以上であれば支給停止となりますが、そこまで高額の老齢厚生年金を受給している方はなかなかいません。(なお、老齢基礎年金や配偶者加給年金は基本月額に含まれません。)