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派遣先にも男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法が適用されます

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派遣先にも男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法が適用されます

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/hakensaki.pdf

派遣先にも、男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)、育児・介護休業法(以下「育介法」といいます。)及び労働施策総合推進法(以下「労推法」といいます。)における以下の4点が適用され、自ら雇用する労働者と同様、派遣労働者に対しても事業主としての責任を負うことになっています。(労働者派遣法第47条の2、第47条の3及び第47条の4等によります。)

①妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
(均等法第9条第3項)

育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止
( 育介法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2)

③職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等
セクシュアルハラスメント(均等法第11条第1項・第2項、第11条の2第2項・第3項)
* 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(均等法第11条の3第1項・第2項、第11条の4第2項・第3項、育介法第25条、第25条の2第2項・第3項)
パワーハラスメント(労推法第30条の2第1項・第2項、第30条の3第2項・第3項)

④妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
(均等法第12条、第13条第1項)

さらに、労働者派遣法や「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(以下「派遣先指針」といいます。)により、派遣先が労働者派遣契約の締結に際し、派遣労働者の性別を特定する行為は禁止されています。もちろん職業安定法や均等法の趣旨からも、派遣労働者に対し性別を理由とする差別的取扱いを行ってはなりません。

1.派遣先に対する男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の適用

①妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(均等法第9条第3項)

 派遣先が、派遣労働者の妊娠・出産・産休取得など、厚生労働省令で定められている事由を理由として、不利益な取扱いをすることは禁止されています。

ポイント1 【厚生労働省令で定められている事由とは?】

(1) 妊娠したこと
(2) 出産したこと
(3) 産前休業を請求し、若しくは産前休業をしたこと又は産後の就業制限の規定により就業できず、若しくは産後休業をしたこと
(4) 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、又は当該措置を受けたこと
(5) 軽易な業務への転換を請求し、又は軽易な業務に転換したこと
(6) 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
(7) 事業場において変形労働時間制がとられる場合において1週間又は1日について法定労働時間を超える時間について労働しないことを請求したこと、時間外若しくは休日について労働しないことを請求したこと、深夜業をしないことを請求したこと又はこれらの労働をしなかったこと
(8) 育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと
(9) 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと、坑内業務に従事しない旨の申出若しくは就業制限の業務に従事しない旨の申出をしたこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
※ 「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいう。

ポイント2 【不利益な取扱いとは?】

(1) 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
例 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めたり、派遣労働者の派遣を拒むこと。
(2) 就業環境を害すること
例 業務に従事させない、専ら雑務に従事させること など
(3) 解雇すること
(4) 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
(5) あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
(6) 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
(7) 降格させること
(8) 不利益な自宅待機を命ずること
(9) 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
(10) 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
(11)不利益な配置の変更を行うこと

育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止(育介法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2)

派遣先にも、派遣労働者への育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止が義務付けられています。

ポイント1 【不利益取扱い禁止の対象となる制度とは?】

(育介法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2)
(1) 育児休業(育児のために原則として子が1歳になるまで取得できる休業)
(2) 介護休業(介護のために対象家族1人につき最大で3回まで分割して通算93日間取得できる休業)
(3) 子の看護休暇(子の看護のために年間5日間(子が2人以上の場合10日間)取得できる休暇)
(4) 介護休暇(介護のために年間5日間(対象家族が2人以上の場合10日間)取得できる休暇)
(5) 所定外労働の制限(育児又は介護のための残業免除)
(6) 時間外労働の制限(育児又は介護のため時間外労働を制限(1か月24時間、1年150時間以内))
(7) 深夜業の制限(育児又は介護のため深夜業を制限)
(8) 育児のための所定労働時間の短縮措置
(9) 介護のための所定労働時間の短縮等の措置
※下線の措置については、事前に就業規則にて措置が講じられていることが必要です。

ポイント2 【不利益な取扱いとは?】

(1) 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと
例 派遣労働者が派遣元に育児休業の取得を申し出た場合に、育児休業に入るまでは派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣中の派遣労働者育児休業の取得を申し出たことを理由に、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めること。労働者派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣中の派遣労働者が子の看護休暇を取得したことを理由に、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めること。
(2) 就業環境を害すること
例 業務に従事させない、専ら雑務に従事させること など
(3) 解雇すること
(4) 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
(5) あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
(6) 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
(7) 自宅待機を命ずること
(8) 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること
(9) 降格させること 
(10) 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
(11) 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
(12) 不利益な配置の変更を行うこと

妊娠・出産・育児休業等の申出等を理由とする不利益取扱い

均等法及び育介法の要件となっている「理由として」とは、妊娠・出産・育児休業等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指します。
妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」(※)不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解され、法違反となります。
※ 原則として、妊娠・出産・育児休業等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。
   ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又は、ある程度定期的になされる措置(人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後の最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。

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例外①
○ 業務上の必要性から不利益取扱いをせざるをえず、
○ 業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情が存在するとき
例外②
○ 労働者が当該取扱いに同意している場合で、
○ 有利な影響が不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

③職場におけるハラスメントを防止するための雇用管理上の措置等

セクシュアルハラスメント(均等法第11条第1項・第2項、第11条の2第2項・第3項)
・ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(均等法第11条の3第1項・第2項、第11条の4第2項・第3項、育介法第25条、第25条の2第2項・第3項)
パワーハラスメント(労推法第30条の2第1項・第2項、第30条の3第2項・第3項)

派遣先は、自ら雇用する労働者と同様、派遣労働者についても職場におけるセクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策及びパワーハラスメント対策として、雇用管理上及び指揮命令上必要な措置等を講じなければなりません。

事業主の責務(派遣先の責務)

・ ハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題(以下「ハラスメント問題」という。)に対する労働者の関心と理解を深めること。
・ 労働者が他の労働者(取引先等の他の事業主が雇用する労働者や求職者も含む)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮をすること。
・ 事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと。

事業主が講ずべき措置(派遣先の義務)

(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
① 職場におけるハラスメントの内容・職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
② 行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(2)相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制整備
③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
④ 相談窓口担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
また、ハラスメントの発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合でも、広く相談に対応すること。

(3)事後の迅速かつ適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
⑥事実確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
⑦事実確認ができた場合は、速やかに行為者に対する措置を適正に行うこと。
⑧再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)

(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
⑨相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
⑩ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
※ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、(1)から(4)までの措置のほか、以下の措置を講ずる必要があります。
・ (1)の①の際に、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動がハラスメントの発生の原因や背景となり得ることや、制度等の利用ができることも併せて周知・啓発すること。
・ 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。

相談等を理由とする不利益取扱いの禁止

派遣先は、派遣労働者が職場におけるハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する解雇その他不利益な取扱いを行ってはいけません。
なお、派遣先指針においても、派遣先が適切かつ迅速な処理を図るべき苦情には、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント及びパワーハラスメントが含まれる旨明記されています(派遣先指針第2の7(1))

④妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(均等法第12条、第13条第1項)

派遣先は、自ら雇用する労働者と同様、派遣労働者についても妊娠中及び出産後の健康管理に関する必要な措置を講じなければなりません。
(1) 妊産婦が保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保
(2)  妊産婦が保健指導又は健康診査に基づく主治医等の指導事項を守ることができるようにするために必要な措置
(例)時差通勤、休憩回数の増加、勤務時間の短縮、休業等

適切に措置を講じるため、派遣労働者についても「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用を促しましょう。

2.派遣労働者の性別を特定する行為の禁止

派遣労働者の性別を特定する行為は禁止されています。

労働者派遣法や派遣先指針においては、紹介予定派遣の場合を除き、派遣労働者を特定することを目的とする行為は禁止されています(労働者派遣法第26条第6項、派遣先指針第2の3)。派遣先が労働者派遣契約の締結に際し、「女性を(又は男性を)派遣すること」などと限定することも違反になりえます。
また、派遣先は、労働者派遣契約を締結するに当たって派遣労働者の性別を記載してはならないこととされています(派遣先指針第2の4(1))。
紹介予定派遣の場合は派遣労働者を特定することを目的とする行為を行うことができますが、均等法第5条及び第7条の趣旨に照らし、派遣労働者の性別を理由とした差別を行ってはならないこととされています(派遣先指針第2の18(4))。
なお、均等法第6条第1号で性別による差別的取扱いが禁止されている「配置」には、派遣元が労働者派遣契約に基づき労働者を派遣することも含まれます。したがって、派遣元が派遣先からの男女いずれか一方の性別を指定した労働者派遣の要請に応じることは、原則として均等法に違反するものです。

3.育児休業等を取得する派遣先の労働者の業務についての労働者派遣

以下の休業を取得する派遣先の労働者の業務についての労働者派遣については、派遣期間の制限(派遣先の事業所単位で原則3年、派遣労働者個人単位で3年)は適用されません(労働者派遣法第40条の2第1項、第40条の3)。

(1)産前産後休業
(2)育児休業・介護休業
(3)産前休業に先行し、又は産後休業・育児休業に後続する休業であって、母性保護又は子の養育をするためのもの
(4)介護休業に後続する休業であって、介護休業の対象家族を介護するためのもの