社会保険労務士川口正倫のブログ

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採用通知後に採用を取り消した場合、解雇予告手当は必要か(昭27.5.27基監発15号)

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採用通知後に採用を取り消した場合、解雇予告手当は必要か(昭27.5.27基監発15号)


綿紡産業の操短措置等に伴い新規学校卒業者の求職者に対し、求人者が採用通知をした後その採用を取り消している事例が多数発生しているが、左の各号のそれぞれの場合における労働基準法第20条適用の有無とその理由はどうなのか?

(一)採用通知(内定通知を含む)をした後本人の赴任(出社を含む。以下同じ)前にその採用を取り消したすべての場合。
(二) 客観的に雇用契約締結の日を明かにしていないが、赴任の日を指定してある採用通知をした後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。

(注) この場合の採用通知の例
 貴殿を採用致しました。(又は採用することに決定しました。) ついては4月1日に赴任して下さい。

(三) 客観的に見て、雇用契約締結日も明かでなく、又赴任の日も未定の採用通知をした後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。

(注) この場合の採用通知の例
 貴殿を採用致しました。(又は採用することに決定しました。)赴任の日につきましては追て御通知致します。

(四) 雇用契約締結の日を明かにしている採用通知をした後その日以後本人の赴任前にその採用を取り消した場合。
  (注) この場合の採用通知の例
   3月20日附をもって当社職員として発令(又は採用決定)されました。ついては御都合次第御赴任願います。

(五) 採用通知を受けた者が赴任したが実際には1日も働いていない間に採用を取り消した場合。


(答)
労働契約は労働者が労務の提供をなし、使用者がこれに対して報酬を支払うことにつき合意が成立することによって有効となるものと解され、労働者が当該契約に基き現実に労務の提供をするまでは労働契約は有効に成立しないものではない。
従って会社の採用通知が労働契約締結についての労働者の申込に対して労働契約を完成せしめる使用者の承諾の意思表示としてなされたものであれば、会社の採用通知によって労働契約は有効に成立し事後における会社の採用取消通知は有効に成立した労働契約解除の通知であると解されるので、この場合には労働基準法第20条が適用される。
又会社の採用通知が労働契約締結についての承諾の意思表示ではなく、労働契約締結の予約であれば、その意思表示によっては未だ労働契約そのものは有効に成立せず、従って事後における会社の採用取消通知は労働契約そのものの解除ではないから、この場合には、労働基準法第20条の適用はない。
従って設例の場合、会社の採用通知が労働契約そのものを完成せしめる使用者の承諾の意思表示であるか又は労働契約締結の予約であるかは、具体的な個々の事情、特に採用通知の文言、当該会社の労働協約就業規則等の採用手続に関する定め、及び従来の取扱慣例による採用通知の意味等について綜合的に判断して決定されるべきものであるが、なお一応次の如く解される。

(一) 採用通知が何等の条件を附することなくなされた場合(赴任又は出社について特段の指示なき場合又は内定通知の場合)には、一般には労働契約締結の予約と認められる要素が強いと思われるが、なお従来の慣例その他を勘案して決定されるべきものである。

(二) 採用通知に赴任の日が指定されている場合には、一般にはその採用通知が発せられた日に労働契約は成立したと認められる要素が強いものと思われるが、なお、従来の慣例その他を勘案して決定されるべきものである。

(三) 採用通知に赴任又は出社の日が特定されていない場合については(一)に同じ。

(四) 雇用契約締結の日を明示して採用通知がなされた場合は、一般には労働契約はその日に有効に成立しているものと解されるから、その日以後における採用取消通知は本人の赴任前(現実に就労するまでの期間)であっても解雇の意思表示であると解され、従って労働基準法第20条の適用がある。

(五) 採用通知その他によって雇用契約締結の日が明示されているか、赴任又は出社の日が特定されているか又はそのような定めが全くなされていないかにより、夫々前記(四)、(二)、又は(一)によるべきものと解される。

(解雇の予告)
労働基準法第20条
1.使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2.前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3.前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。