社会保険労務士川口正倫のブログ

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建設業等における時間外労働の上限規制の猶予のポイント

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建設業等における時間外労働の上限規制の猶予のポイント

令和2年4月1日から中小企業でも、時間外労働の上限規制が適用されますが、建設業等の一定の事業や自動車運転等の一定の業務については、令和6年4月1日までは適用が猶予されます。

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1.建設業

労働基準法施行規則69条1項により、次の事業は適用が猶予されます。

  • 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
  • 所属する企業の主たる事業が建設業である事業場の事業
  • 工作物の建設の事業に関連する警備の事業(当該事業において労働者に交通誘導警備の業務を行わせる場合に限る。)

ここで、注意すべきポイントが2つあります。

  • ① 建設業に類似する事業であっても、測量、地質調査、建設コンサル、建築設計などの技術サービス業の場合は適用の猶予はありません。
  • ② 建設とありますので、建設業を営む会社であれば、事務職での営業職でも職種に関係なく適用が猶予されます。

2.自動車運転の業務

労働基準法施行規則69条2項により、次の業務は適用が猶予されます。

  • ① 一般乗用旅客自動車運送事業の業務

⇒タクシーやハイヤーの業務

⇒運送会社のトラック等の運転の業務(*1

  • ③ 一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法第三条第一号イに規定する一般乗合旅客自動車運送事業をいう。)の業務

⇒路線バスの運転の業務

  • ④ 一般貸切旅客自動車運送事業(同号ロに規定する一般貸切旅客自動車運送事業をいう。)の業務

⇒貸切バスの運転の業務

  • ⑤ その他四輪以上の自動車の運転の業務

⇒事業にかかわらず四輪以上の自動車を運転する業務

ここで、注意すべきポイントが2つあります。

  • ① 業務とありますので、貨物自動車運送事業等の事業を営む会社であっても、運転手ではない事務職や営業職等には適用の猶予はありません。(令和2年4月1日以降を開始日とする36協定を提出する場合は、使用する書式を業務毎に分けて提出する必要があります。)
  • ② 貨物自動車運送事業等の事業を営む会社でなくても、物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっている者については、適用の猶予があります。判断基準は、厚生労働省のQ&Aによれば、次のとおりです。

車で営業活動をする営業職や労働契約上は運転手とされていても実態はその他の業務に従事する時間が多いような場合は、適用は猶予されません。

改正労働基準法に関するQ&A

「自動車の運転の業務」(労働基準法第140条及び則第69条第2項)に従事する者は、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省
告示第7号)第1条の自動車運転者と範囲を同じくするものです。すなわち、物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっている者が原則として該当します。(ただし、物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっていない者についても、実態として物品又は人を運搬するために自動車を運転する時間が現に労働時間の半分を超えており、かつ、当該業務に従事する時間が年間総労働時間の半分を超えることが見込まれる場合には、「自動車の運転に主として従事する者」として取り扱います。)
そのため、自動車の運転が労働契約上の主として従事する業務でない者、例えば、事業場外において物品等の販売や役務の提供、取引契約の締結・勧誘等を行うための手段として自動車を運転する者は原則として該当しません。
なお、労働契約上、主として自動車の運転に従事することとなっている者であっても、実態として、主として自動車の運転に従事することがなければ該当しません。

3.医師

労働基準法141条により、「医業に従事する医師」は適用が猶予されます。
改正労働基準法に関するQ&A
厚生労働省のQ&Aによると、「医業に従事する医師」とは、労働者として使用され、医行為を行う医師をいいます。なお、医行為とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為をいいます。
従って、医療機関に勤務していたとしても、医療事務や事務員はもとより、看護師、歯科技師や薬剤師等についても、適用は猶予されません。

4.鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

労働基準法142条により、「鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業」は適用が猶予されます。
事業とありますので、建設業と同様に、鹿児島県及び沖縄県で砂糖を製造する事業を営む会社であれば、事務職での営業職でも職種に関係なく適用が猶予されるかと思いますが、確定的なことはわかりません。所轄労働基準監督署にお問い合わせください。(適用が猶予された背景は、繁閑が激しい季節的業務で離島で行われているため、人材補確保がすぐには難しいといったことがあるようなので、鹿児島県及び沖縄県の工場単位かつ職種限定で適用が猶予されることも考えられます。)

5.新技術・新商品等の研究開発業務

労働基準法36条11項により、「新技術・新商品等の研究開発業務」は時間外労働の上限規制の適用が除外されます。
改正労働基準法に関するQ&A
厚生労働省のQ&Aによると、「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」は、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務をいい、既存の商品やサービスにとどまるものや、商品を専ら製造する業務などはここに含まれません。
なお、適用除外となった反面、改正労働安全衛生法により、新技術・新商品等の研究開発業務については、 1週間 当たり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対しては、医師の面接指導が罰則付きで義務付けられました。
事業者は、面接指導を行った医師の意見を勘案し、必要があるときには就業場所の変更や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置を講じる必要があります。


時間外労働の上限規制は、36協定とリンクしますのでこちらも併せてお読みください。
sr-memorandum.hatenablog.com

*1:厳密にいうと、貨物軽自動車運送事業が除かれます。貨物軽自動車運送事業とは、軽トラック・自動二輪によって行われる運送業ですが、四輪以上の軽トラックは⑤に該当するため、結局のところ、バイク便等の自動二輪による運送の業務は除かれます。