社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【同一労働同一賃金】日本郵便逓送事件(大阪地判平14.5.22労判830号22頁)

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日本郵便逓送事件(大阪地判平14.5.22労判830号22頁)

1.事件の概要

Xらは、郵便局間の郵便物の運送及び郵便ポストなどからの収集業務等を行うY社において、大型運転手として、3か月の雇用期間を定める期間臨時社員として雇用され、4年ないし8年間、雇用契約が更新され続けてきた。Xらの業務内容は、正社員である本務者と基本的には同じであるにもかかわらず、賃金については、日給月給制であり、月給制の本務者と比べて、年収で7割程度、平均賃金日額では6割程度にとどまっていた。そこで、Xらが、この格差は同一労働同一賃金の原則に違反し、公序良俗に反するとして、Y社に賃金格差相当額の損害賠償の支払いを求めて提訴したのが本件である。

2.判決の概要

Xらが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたい。すなわち、賃金など労働者の労働条件については、労働基準法などによる規制があるものの、これらの法規に反しない限りは、当事者間の合意によって定まるものである。我が国の多くの企業においては、賃金は、年功序列による賃金体系を基本として、企業によってその内容は異なるものの、学歴、年齢、勤続年数、職能資格、業務内容、責任、成果、扶養家族等々の様々な要素により定められてきた。労働の価値が同一か否かは、職種が異なる場合はもちろん、同様の職種においても、雇用形態が異なれば、これを客観的に判断することは困難であるうえ、賃金が労働の対価であるといっても、必ずしも一定の賃金支払期間だけの労働の量に応じてこれが支払われるものではなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、勤労意欲を期待する企業側の思惑などが考慮され、純粋に労働の価値のみによって決定されるものではない。このように、長期雇用制度の下では、労働者に対する将来の期待を含めて年功型賃金体系がとられてきたのであり、年功によって賃金の増加が保障される一方でそれに相応しい資質の向上が期待され、かつ、将来の管理者的立場に立つことも期待されるとともに、他方で、これに対応した服務や責任が求められ、研鑚努力も要求され、配転、降級、降格等の負担も負うことになる。これに対して、期間雇用労働者の賃金は、それが原則的には短期的な需要に基づくものであるから、そのときどきの労働市場の相場によって定まるという傾向をもち、将来に対する期待がないから、一般に年功的考慮はされず、賃金制度には、長期雇用の労働者と差違が設けられるのが通常である。そこで、長期雇用労働者と短期雇用労働者とでは、雇用形態が異なり、かつ賃金制度も異なることになるが、これを必ずしも不合理ということはできない。
労働基準法3条及び4条も、雇用形態の差違に基づく賃金格差までを否定する趣旨ではないと解される。
これらから、Xらが主張する同一労働同一賃金の原則が一般的な法規範として存在しているとはいいがたいのであって、一般に、期間雇用の臨時従業員について、これを正社員と異なる賃金体系によって雇用することは、正社員と同様の労働を求める場合であっても、契約の自由の範疇であり、何ら違法ではないといわなければならない。
Xらは、仮に、同一労働同一賃金の原則に未だ公序性が認められないとしても、憲法14条、労働基準法3条、4条の公序性に基づけば、同一企業内において同一労働に従事している労働者らは、賃金について平等に取り扱われる利益があり、これは法的に保護される利益であると主張する。
しかしながら、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約の自由の範疇の問題であって、これを憲法14条、労働基準法3条、4条違反ということはできない。

3.解説

同様のケースで争われた丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁)とは異なり、雇用形態が異なる場合に賃金格差が生じても、これは契約の自由の範疇の問題であるとして、公序良俗違反を否定した。
労働契約法20条の施行前であったため、現在であれば(あるいは、令和2年4月1日以降も)、格差が不合理であるかどうかが争点となるところであるが、当時は、待遇格差の公序良俗違反性が争われていた。令和2年4月1日から大企業に適用される(中小企業は令和3年4月1日から適用)「同一(価値)労働同一賃金」は、「正社員と有期雇用労働者」「正社員とパートタイム労働者」「正社員と派遣労働者」の3点であり、それ以外はその範疇ではないが、この3点に該当しなくても(例えば、日本人労働者と外国人労働者の格差や職種限定正社員と総合職正社員の格差等)、賃金格差が使用者に許された裁量の範囲を逸脱する場合は、公序良俗違反となる可能性はある。